「身体だけの関係みたいで嫌なの！一般的な節度を守ってよ……」
「そう……そんな事で不安になってたのか。ボクはキミが愛おしいから抱きたくなる。一般的なっていうのがどんな事なのかボクには理解出来ないけど、ボクは身を持って愛するしか方法が思いつかないんだ。決してキミの身体目当てで付き合ってる訳じゃないし、キミ以外は目に入らない。それでも不安かい？」
いつにも増して真剣な表情でヒソカは言った。その言葉に嘘は無いのだろう事は、ナマエにも解っている。それでも、ナマエの不安は拭い切れなかった。
「ヒソカの言葉は信じたい。けど、今のままの状態だったら、必ずいつかは亀裂が生じるよ？」
「そんなに心配しなくても大丈夫。そんな亀裂なんて、ボクが生じさせる訳ないだろう？だから、ナマエはそんな事心配せずにただボクに愛されてればいい」
ヒソカは囁く様にそれだけ言うと、ナマエの身体を抱き寄せた。

ある日、ヒソカは突然1人で外出すると言い出した。
「何か必要な物でもあるの？」
「ちょっと野暮用でね♣あぁ、でも1時間位で帰ってくるよ♠」
「そう。ならいいや。いってらっしゃい」
「行ってきます♥」
ヒソカが部屋を出て行って直ぐ、ナマエは【十六夜】を喚び出した。
「悪いけど、ヒソカの後を尾けてくれるかな？な～んか怪しいんだよね」
窓から入ってきた1羽の小型の鷲に向かって、ナマエは1人ゴチた。
【十六夜】と呼ばれた鷲は首を傾げながらも、小さく鳴くと窓の外へと飛び立っていった。

【十六夜】を見送ったナマエは、普段通りに家事を行い始めた。
家事と言っても、洗濯と食事の準備位しかやる事はない。
ものの30分程度でやるべき事を終えたナマエは、窓の外を眺めていた。
すると遠くから1羽の鳥の影が近づいてきた。
その影の主が判別出来る距離になった時、ナマエは【白夜（ビャクヤ）】を喚び出していた。
「何用ぞ？ナマエ」
「【白夜】、【十六夜】の言ってる事を通訳して」
「あい判った」
【十六夜】はナマエの腕に留まると、【白夜】に向かってしきりに鳴いた。
「ふむ……若造は何やらナマエの知っている童を尾けている様じゃな」
「私の知っている子供？」
「うむ。ハンター試験の時に、【十六夜】で遊んだ黒髪の童だと言っておる」
「黒髪の子供……ゴン君！？」
「【十六夜】が見たのは、物陰からその童の様子を探っている若造の姿だと言っておる」
「……分かった。ありがとう【白夜】、【十六夜】。もう戻っていいよ」
それぞれに礼を言うと、【白夜】と【十六夜】は一瞬でその場から姿を消した。
「何を企んでるの？ヒソカ……」
ナマエの呟きは誰に聞こえるでもなく、空に消えた。

「そろそろ此処を出ようと思うんだ♠」
徐ろに言うヒソカに、ナマエはピクリと肩を震わせた。
「いきなりだね」
「うん♦この街、飽きちゃったし♣」
ナマエには『飽きた』というヒソカの言動は、裏がある様に思えてならなかった。
「……『飽きた』んじゃないでしょ？」
確かめる様に小声で呟いたナマエを、ヒソカは不思議そうに見つめた。
「私に隠し事はしないで」
泣きそうな表情で、ナマエはヒソカに言った。
そんなナマエの顔を見て、ヒソカは深く息を吐いていた。
「ごめんよ♣隠し事をしているつもりは無いんだ♦ただ、ボクの悪巧みにキミを巻き込みたくないだけなんだ♠」
ナマエを宥める様に言いながら、ヒソカは彼女の出方を伺った。
「…………」
「ナマエ？」
無言で俯いたナマエを、ヒソカはただ心配そうに見つめるしか出来ない。