翌朝、本当にヒソカはナマエを連れてクロロに会うため飛行船場へと来ていた。
「来たのはいいけど……クロロさんの居場所、判ってるの？」
眠い目を擦りながら、ナマエはヒソカに訊いた。
「もちろん♥」
いつもの胡散臭い笑みを浮かべながら、ヒソカはナマエの手を取り、私用船へと乗り込む。
「G・Iを探して貰っている間に、クロロとは連絡を取っていたんだ♠ボクはもう団員じゃないからね♦ギブ・アンド・テイクの関係になったのさ♥」
「……で、やっぱりクロロさんとの決闘が報酬なわけね？」
「うん♥」
嬉しそうに言うヒソカに対し、ナマエは呆れ返っていた。

「それにしても……♣」
飛び立った私用船の中で寛いでいると、徐ろにヒソカはナマエをマジマジと見た。
「何？」
「こんな短期間で、本当に回復させちゃったんだね♦」
今のナマエは日常生活に支障がないまでに、右脚を回復させていた。
「言ったでしょ？昔から回復が早いって」
「確かに言ってたけど……♣驚きだよ♠」
何故か呆れた様に言うヒソカに対し、当たり前の事だと言わんばかりにナマエは告げた。
「こんな身体じゃなかったら、【魔物退治】なんてやってないし。それに……」
「それに、なんだい？」
「ヒソカと出逢う事もなかったと思うよ」
どこか悲しげにナマエは呟いた。そんなナマエを、ヒソカは何も言わずにただ抱き締める。
「……ヒソカの音がする」
抱き締められたまま、ナマエはヒソカの鼓動を大人しく聴いていた。
「懐かしいなぁ。ハンター試験でもあったよね、こういう事」
壊れ物でも扱う様に、優しくナマエの髪を梳くヒソカ。ナマエはヒソカの行動を嫌がるでもなく、好きな様にさせていた。
「そんなに時間経ってないハズなのに、もう何年も昔の事みたいに懐かしい」
『懐かしい』と呟くナマエは、その瞳を細めていた。
それからしばらくヒソカに抱き締められていたナマエだが、不意にヒソカから離れようとした。
「……どうしたんだい？」
「安心したら、眠くなってきちゃった」
「そう♦なら、寝室へ行こうか♠」
ナマエを抱き上げ、ヒソカは私用船にある寝室へと向かって歩き出した。
寝室へ着くなり、ヒソカは優しくナマエをベッドの上へと寝かせる。
「ボクが隣にいるから、安心して眠ればいい♠」
ナマエに布団を掛けてやり、その隣で横になったヒソカ。優しく髪を梳いているその表情は、ナマエに向けた慈愛で満ちていた。

ナマエが深い眠りに入った事を確認すると、ヒソカは静かにベッドを抜けだしていた。
ベッドから離れると徐ろに携帯を取り出し、どこかへ電話を掛け始める。
「うん♦ボク以外にキミに電話を掛ける相手いないだろ？」
声を潜めながら、ヒソカは続けた。
「今はまだ、あの町にいるのかい？……そう、分かった♣」
ナマエを起こさない様に、あくまでも小声で通話を続けるヒソカ。
「ナマエかい？今は気持ちよさそうに眠っているよ♥…………もちろん連れて来ているさ♠ボクがナマエを置いて来るワケがないだろう？」
クツリと喉奥で笑うと、ヒソカはナマエに視線を移した。
「言っておくけど、ナマエは渡さないよ♣例えボクが死ぬ様な事があってもね♦」
漸く通話を終えた頃には、ヒソカは自然と溜息を零していた。
携帯をベッド脇のサイドテーブルに置くと、またナマエの横に潜り込み、今度こそナマエと同様に深い眠りへと入っていった。

私用船に乗って空の旅を続けること数日。小さな町の飛行船場へと私用船は着陸した。
「この町にクロロさんがいるの？」
「うん♠さ、日が暮れる前にクロロの所へ行くよ♣」
ナマエを促し、ヒソカはG・Iの入ったゲーム機を持って私用船を降りた。
空港を出たヒソカは、ナマエの手を引いて迷う事無く駐車場へと歩く。
「向こうじゃないの？」
駅の方向を指差すナマエを見て、ヒソカは小さく笑った。
「クロロがいる場所は距離があるから、車の方がいいんだ♦」
「ふーん……」