「結論から申し上げますと、時間が掛かるかもしれませんが9割方今までと変わらない動きが出来る様になると思いますよ」
「それは本当かい？」
「ええ。本人の努力次第ですけどね。軽い麻痺感覚は残るかもしれませんが、生活には支障がない範囲ですよ」
「だから言ったでしょ？心配ないって。先生、ご無理を言って申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げたナマエは、ヒソカを促し診察室を後にした。
支払いを済ませたヒソカは、ナマエを連れて病院を出た。
ナマエはヒソカに手伝って貰いながらも、自力で歩く事を止めなかった。
「そんなにムリしなくても……♣」
「無理？どこがさ。先生も言ってたでしょ？私の努力次第だって」
そう言うと、ナマエはにこやかに笑って見せた。

ヒソカが取ったホテルの部屋に戻ると、ナマエは【白夜】に事の経緯を説明した。
「何故我を頼らなかった？我を頼っておれば、お主の犠牲は最小限に食い止められたハズぞ？」
「自分の【力】を過信してる訳じゃない。だけどさ……」
「『だけど』何じゃ？申してみよ」
「【白夜】の力だと、彼女を送り届けるだけでしょ？私は送って欲しくなかった。留まらせるには、どうしても【黄龍】の力に縋るしかなかったんだ」
視線を逸らさず、真っ直ぐに【白夜】を見るナマエ。その目をジッと見つめると、【白夜】は深く息を吐き出した。
「……あい解った。しかし解せぬ所がある」
「何？」
「何故そうまでパクノダとかいう女に肩入れした？」
「それはボクも気になるな♦」
今まで黙って会話を聴いていたヒソカが、いきなり間に入ってきた。
「そうだなぁ……似てたからかもしれない」
「似ていた？」
「そう。ヒソカと出逢う前の私と今のパクノダさん、どこか似てたんだ」
「我はその女を知らぬ故、これ以上追求のしようが無いが……あまりくだらぬ理由で己を追い込むでない」
「追い込む、か……そうかもね。私は自分を追い込んで、自己満足したかっただけかもしれない」
眉根を下げてそう言ういながら、ナマエは自分の行動に納得していた。
「私はただ自分を認めて欲しいだけ。それにウボォーさんとパクノダさんを利用しただけなのかもね」
「認めて欲しい？誰にだい？」
「この【世界】に、かな」

それからナマエは感覚の乏しくなった右脚をどうか動かそうと躍起になっていた。通常なら数ヶ月掛けて行うリハビリを、その気力と体力を持って数日で熟していく。
「そんなに頑張ってたら、後でキツいよ♦」
「大丈夫。そんなヤワな身体じゃないから。それに、昔から傷の治りが異様に早かったし」
何でも無いように言うナマエの言葉に、ヒソカは耳を疑った。
「昔から……かい？」
「うん。昔【杜樹（トキ）】にヤられた傷も、この間の傷も、普通の人なら年単位の時間が必要みたいなんだけど……私の場合は数日で治ったからね。だから今回も大丈夫」
そういうナマエは、本当に何でも無いと思わせるようにリハビリを続けた。

それから数週間経った頃、ナマエは本当に手助け無しで歩けるようになっていた。
「キミの回復力、本当に人間離れしているんだね♣」
「だから言ったでしょ？なんともないって」
まるで当たり前の様に言ってのけるナマエを目の当たりにして、ヒソカは心中穏やかではいられなかった。
自分の回復力に自信があるからこそ、ナマエは無鉄砲なのかもしれない。そんな思いが思考を駆け巡った。
眉を寄せているヒソカに対し、ナマエは『大丈夫だから』と笑って見せる。その笑顔に安堵を覚える事も出来ず、ヒソカは何も言わずにナマエを抱き寄せた。