「……」
「大地よ……風よ…………この者に――新たな生命の息吹を！！」
ナマエが【空の境界（リアルワールド）】を発動すると、心臓を鎖で貫かれたはずのウボォーの身体が僅かに動いた。
「なっ……！？」
「ガハッ……何……だ？何が…………起こった？？」
「ウボォーさん、だっけ？少し黙ってて」
「何……だと！？」
「黙れと言ったのが……聞こえなかったか？」
一気に殺気を放つナマエのオーラ量に、ウボォーは圧倒された。
「チッ……」
「さて、と。クラピカ君」
ナマエはウボォーから視線をクラピカへと移し、続けた。
「クラピカ君が何をしようとしているのかなんて私は知らない。だけどさ」
「……何だ？」
「無益な殺生をしようとしているんだったら、見逃せないな」
「なっ……？！」
冷めた眼で自身を見遣るナマエを見て、クラピカは背筋に冷たいモノが流れる感覚を覚えた。
「クラピカ君に殺しは似合わないよ」
「そんな理由で……私を止められると思っているのか！？」
「いーや、思ってない。だから――力ずくで止めようと思う」
「なっ……」
クラピカが何かを言おうとしたその瞬間、ナマエの放った苦無がクラピカの頬を掠めた。
「言葉で言っても理解出来ない相手には、力で持って制する。それしか私は方法を知らない」
『そんな生き方しか知らないから』と悲しそうに呟いたナマエは、クラピカの戸惑った顔を一瞬だけ見つめると兜割りを手に構えた。
「今のクラピカ君には何を言っても届かない。心に響かない。だから――ごめんね」
言い切るよりも早く、ナマエは地を蹴りクラピカの腕を兜割りで薙ぎ払う。
兜割りがクラピカの腕に接触した瞬間、ボキリと鈍い音が辺りに響いた。
「ぐっ……」
「痛いよね……でもさ、ウボォーさんはもっと痛かったと思うんだ。身体だけじゃなく、心も」
背後に回ったナマエは、そのままクラピカの背を蹴り上げる。
「……ガハッ」
「確かに旅団のしている事は、世間一般的には褒められた事じゃない。けどね、世の中にはそういう生き方でしか自分の【存在】を認めさせる方法がない人達もいるの。私も――その内の1人なんだ」
地に臥しているクラピカを無機質な瞳で見下ろしながら、ナマエは続ける。
「解って欲しいとは思ってない。だけど、認めて欲しい」
静寂の中、自分に近づいて来る足音だけが耳に残る。
「私達という【存在】を――ただ認めて欲しい。それだけなんだ」
クラピカが最後に目にしたのは、悲しそうに兜割りを自身に向けて振り下ろすナマエの姿だった。

「いいのかよ、殺さなくて」
「殺すなんて、一言も言ってないでしょ？」
「……報復、されるぜ？」
背後に倒れ臥しているクラピカに視線を向けると、ナマエはそのままウボォーの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「なッ……なんだよ？！」
「報復が怖かったらこんな事やってない――違う？」
「……違わねェけどよ」
「私は私なりの覚悟でクラピカ君を打ちのめした。しかも、一方的にね」
「あ、あぁ……」
「貴方を守るためじゃない。クラピカ君を護る為にやったの。そこだけは誤解しないで」
無表情になったナマエを見て、ウボォーは一歩後退った。
「……意味解かんねェぜ」
「理解して貰わなくて結構。そんな事より、クラピカ君の目が覚める前にさっさとどっかに消えて。と言うか、ヨークシンから出てって」
「は？！何言ってんだよ、お前？？」
心底訳が解らないといった表情で、ウボォーはナマエを見つめた。
「ヨークシンにいる限り、クラピカ君は貴方を追い続ける。それがクラピカ君の覚悟だから。ウボォーさんに出てって貰うのが一番手っ取り早いの」
有無を言わせぬナマエの気迫に、ウボォーはたじろいだ。
「ナマエ♣あまりイジメちゃ可哀想だよ♦」
「ヒソカ！？てめェ……」
突然現れたヒソカの姿を目視すると、ウボォーは今にも殴りかからんばかりの勢いを見せた。
「ウボォーさん」
「……なんだよ？」