小さく溜息を吐くと、視線をフェイタンへと向けた。
「ねぇ」
「なんね？」
「いきなり攻撃してくるって事は、その命要らないって事だよね？」
「何言うてるか？」
フェイタンがナマエを睨みつけると、その頬を一筋の血が流れた。
「何……したね？」
その傷を触るフェイタンの背後にある壁には、１本の苦無が刺さっていた。
「ほォ……フェイタンが避けれなかったか」
団長が感心していると、フェイタンは仕込み刀を構える。
「許さないよ」
「それはこっちの台詞だね。女相手に背後から攻撃を仕掛けるような下衆、許すとでも思ってるの？」
明らかな敵意をフェイタンに向け、ナマエは兜割りを突きつける。
「その辺にしておけ」
「……団長、何故止めるね？！」
威圧感を隠すこと無く、団長はフェイタンを見つめた。
ナマエはそんな空気を敢えて読まずに、フェイタンを睨みつけていた。
「その女の実力は今のでよく判っただろう？これ以上はお互いに無駄な体力を使うだけだ」
淡々と言葉を紡ぐ団長を見ると、フェイタンはその武器を仕舞った。
フェイタンが背を向けると、ナマエはその背に向けて吐き捨てる様に言葉を放った。
「……逃げるの？おチビさん」
「何とでも言うが良いね」
「ナマエ♠」
「何？」
「キミもその辺にしときなよ♣」
諫める様に言うヒソカの言葉に、ナマエは小さく息を吐くとフェイタンに向かって投げつけた苦無を回収し、所定の場所に収めた。
「ナマエ、フェイタン相手に引けを取らないその力は認める。しかし、お前の【能力】はそんなモノじゃないんだろう？」
有無を言わせぬ気迫を纏い、団長はナマエを見つめた。
そんな団長から視線を外さずに、ナマエはただ頷いてみせた。
「【能力】を教えるつもりはない。私は何があっても、ヒソカとの“約束”を優先する」
「ふむ……」
自身の顎に手を添えて、団長は何かを考えだした。

暫くの間、静寂がその空間を支配していた。
「……いいだろう」
「ちょっ！？団長？？」
静寂を破ったクロロの言葉に、マチは驚きの声を上げた。
「その代わり……パク」
「……オーケイ。何を訊く？」
「ナマエが“何者”か、だ」
団長に指示され、パクと呼ばれた長身の女がナマエに近づく。
特に身構えることなく、ナマエは自身よりも背の高い彼女を見据えた。
「今から訊く事に、正直に答えて」
「いいけど……」
ナマエの肩に手を置き、パクはその瞳を見据えた。
「あたしはパクノダ。貴女の名前は？」
「ナマエ」
「ナマエ、貴女は“何者”なの？」
「さぁ？自分でも解ってるのは、ヒソカに気に入られて付き合ってる女ってだけ」
「……嘘はいけないわね」
「嘘？」
疑問符を浮かべながら、ナマエはパクノダを見つめ返した。
「貴女……普通の人間じゃないわね？」
「どういう……意味？」
敵意を滲ませながら、ナマエはパクノダを見遣る。
「貴女のご両親、元気にしてる？」
「元気……だけど」
「あら……【人間】じゃないのね」
「あぁ……そういう“意味”では普通じゃないかもね」
どこか納得したかの様に呟くナマエを見て、団長は疑問を口にした。
「どういう“意味”だ？説明しろ、パク」
「このコの両親、【人間】じゃないわ」
「「「は？！」」」
パクノダの言葉に、その場にいたヒソカ以外の旅団員は皆声を出してナマエに注目した。
「【魔獣】よ、このコを育てたのは」
「マジかよ？！」
毛皮を身にまとった大柄な男が、ナマエを歓喜の目で見つめる。
「本当よ、ウボォー」
「パクが“視た”んだ。嘘ではないだろう」
団長が舐める様にナマエを見つめると、ヒソカがそこに割って入る。
「団長、質問するのは良いけど……あまりナマエを見つめないでくれないかい？」
「くくくっ。嫉妬か？」
「そうだよ♦」
「男の嫉妬は醜いぞ、ヒソカ。で、ナマエの正体はそれだけか？パク」
「……貴女の“秘密”は、何？」
「“秘密”？」
「そう、“秘密”よ」