一瞬呆気にとられたソーマだが、シエルの言葉に一気にその表情を緩めた。
「そうだな……アグニと二人でロンドンに行き、タウンハウスを管理してもらおうか。《難しい仕事》だ。誰にでも頼めることじゃない。できるか？」
「やるっ！！！任せておけ！！」
やる気満々になったソーマを見て、シエルは溜息を零しつつ眠気が限界まできていた。
「人使いがお上手な事で、シエル」
「……何か言ったか？」
「いや、何も」
ニヤニヤ笑うナマエに若干苛立ちながらも、シエルは寝室へと歩を進めた。

「見事に晴れて良かったですね、坊っちゃん。絶好の《サーカス》日和じゃないですか」
両手にトランクを持ちながら玄関から出てきたセバスチャン。
その前をナマエを伴ってシエルは外階段を降りていく。
「今日からまたしばらく坊っちゃんと私達は仕事でロンドンに滞在します」
「坊っちゃん！お気をつけてくだせえ！」
「行ってらっしゃ～い！」
「お早いお帰りを～」
使用人達に見送られながら馬車に乗り込もうとしたシエルだが、不意に振り返って彼等を見据えた。
「……お前達、僕が留守の間家を頼むぞ」
「「「イエス、マイロード！！」」」

――さぁ、奇劇の開幕だ