明らかにシエルの服装を見てベタな演技をする男。
あまりにもベタな展開に、セバスチャンだけでなくナマエも溜息を吐いた。
「誰か来てくれッ」
「大丈夫か！？」
「どうした！」
「こりゃひでえ！！」
路地裏からぞくぞくと男達が出てくる。
「おや」
ズラッと集まる、どう見ても柄の良くない男達。
「こんなトコ（イーストエンド）にしちゃあヤケに身なりがいいお坊ちゃんだな。貴族か？」
シエルの上着を引っ張りながら言葉を発する男の手を、彼は無言で払った。
「ぶつかられた慰謝料もらわないとな！！身ぐるみ一式とその女置いてきな！！」
「……」
「これはまたベタなチンピラに捕まりましたね、坊っちゃん。如何しますか？」
「どうもしない。早く片付けろ」
「御意」
「仰せのままに」
セバスチャンとナマエはシエルから下された命に従おうと体勢を整え始める。
「それになぁ、ここいらの仲間（インド人）は皆貴族（おまえら）に恨みがあんだよ。俺達を英国（こんなとこ）まで連れて来たクセにモノみたいに捨てやがって！お前ら英国人は全員身勝手だ！！」
「そうだ！」
「そうだ！！」
「そうだ！！」
「お前らのせいで俺達はこんなドブ鼠みたいなみじめな暮らしをするハメになった」
「そうだ！」
「そうだ！」
「そうだ！」
「お前達が俺達の国を土足で荒らしたんだ！」
「そうだ！」
「お前達も略奪される屈辱を味わえ！」
「味わえ！」
「そうだ！」
「そうだ！！」
「そんなことより、お前達に尋ねたいことがある」
「そうだ！！」
「そうだ！まずは尋ねたいことがある！！」
「そうだ！！」
「そうだ！！」
「役立ったら褒美に美味いものを食わせてやろう」
「そうだ！！」
「そうだ、ウマイものだ！！！」
「魚がいい！！」
「そうだ！！」
「ちょうど腹ペコだったんだ！！」
「いつもだけど」
「「「って、違ーうッ！！！」」」
「騒々しいぞお前ら。人捜しをしているんだが、こういうインド人を見かけなかったか？」
人垣からの奥から現れ、いきなり空気を変えた肌の浅黒い少年。
しかし、その空気は長く続かなかった。
「んだァ！？テメエ邪魔すんじゃねえよ」
「テメエとは無礼な。俺が声をかけてやってるんだぞ……ん？なんだ？お前ら決闘でもしているのか？」
「オイ無視してんじゃ――」
少年は人垣の向こうにいるシエル達を見て顔色を変えた。
「執事（カーンサマー）を連れている……お前、英国貴族か」
「おいっ」
「だったらなんだ」
不機嫌そうにシエルは少年に向かって返答した。
「ならばこの戦、我が同胞に加勢しよう。アグニ！」
「はい」
「奴らを倒せ！」
「御意のままに（ジョー・アーギャー）。この神に授かりし右手……主のために振るいましょう」
アグニと呼ばれた青年は、目を見開くと力強く一歩踏み出した。
アグニの攻撃をセバスチャンが左腕で受け止める。
「な……うわっ！？」
シエルを抱き抱え、二撃目を躱すセバスチャン。