真紅と漆黒
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「……後悔してるのかい?」
一陣の風が吹いた後、アンダーテイカーはシエルに聞いた。
「してない。切り裂きジャックはもういない。ヴィクトリア女王の憂いは晴れたのだから」
「女王(ヴィクトリア)か。気に入らないなァ~。自分は高みの見物ばかりで、辛いことや汚いことはぜ~んぶ伯爵に押しつける」
「これは我が一族の背負う業だ。この指輪と共に代々受け継がれてきた」
「その指輪はまるで首輪のようだねぇ。業という鎖で君を女王に繋いでいる」
「その首輪をこの首にはめると決めたのは僕だ」
アンダーテイカーへ振り向きながらシエルが言うと、アンダーテイカーはシエルのネクタイをグイッと引っ張った。
「!」
「小生はいつか君がその首輪で首を吊ってしまわないように祈ってるよ。そんなのはつまらないからね。また何かあったらいつでも店においで」
シエルのネクタイから漸く手を放し離れていくアンダーテイカー。
「ゴホッ」
「伯爵と執事君達ならいつでも歓迎するよ。ヒッヒッ……」
日が暮れるまでその墓石の前に佇んでいる主を黙って見守っていたが、さすがに冷えてきた。
セバスチャンは主に上着を覆い掛けると言葉を紡いだ。
「――お優しいのですね」
「何度も言わせるな。僕は優しくなど――」
「お優しいですよ。でなければ……“弱虫”ですかね?」
「っ!」
セバスチャンの言葉に、シエルは勢い良く振り向いた。
「貴様……」
「クスッ……何故《撃たなかった》のです?“肉親さえ見殺しに”?嘘は感心しませんね。あの晩、貴方は銃を隠し持たれていた。撃とうと思えば彼女を撃てたはずです。けれど貴方はためらった。私達が促しても、貴方は銃をとらなかった。何故です?マダムを自分の手で殺すのが怖かった?誰とも知れない女は殺せても、やはりお身内は殺せないとでも?」
「……お前の仕事だからだ。お前が死んでも僕を守ると思ったから撃たなかった」
「……!」
「悪魔(おまえ)と僕の契約は“僕が目的を果たすまで僕の力となり”“僕を殺さず護り抜くこと”。僕があそこで死んでしまっては契約違反だ。契約(めいれい)に従うことが悪魔の美学だと言うのなら、お前は死んでも僕を助けに来るはずだ。おまえには“信念”や“忠誠”などありはしないだろう?あるのは“美学”のみ。ならば《己の美学のために》お前は僕を守る。だから僕がわざわざ手を下さずとも、黙っていればお前がマダムを殺してた。違うのか?」
「では何故……止められたのです?マダムは表の世界を裏の力で穢した。ならばしかるべき場所に出て裁かれるのが道理」
「ヤードのメンツを立ててやるのも僕の役目だからな」
宵闇が迫ってきており、鳥が羽ばたく音が静寂を突き破るかのように響いていた。
「……僕を殺そうとしたマダムの目には迷いがあった。マダムには僕(シエル)を……肉親を殺すことはできない。そう思ったんだ。一瞬でも迷えば命取りになる。チェスと一緒だ。彼女は迷い、次の一手を見失った。それだけのこと。だから僕は迷わない」
シエルの言葉に、セバスチャンはゾクリとした。
「……そうでなくてはね……いつでも王(あなた)は駒を上手に使い生き残ればいいのです。騎士(わたし)も女王(マダム)も利用して。その玉座の下に駒の亡骸が積み上がろうと、王が倒れればこの《ゲーム》は終わりなのだから決して倒れてはいけない」
「僕は立ち止まらない。踏み出した一歩に後悔もしない。だから……命令だ。騎士(おまえ)だけは僕を裏切るな。僕の傍をはなれるな……絶対に!」
「――イエス、マイロード」
「お前もだ、ナマエ」
黙って事の成り行きを見ていたナマエは、小さな主の不意の呼びかけに笑顔を浮かべた。
「仰せのままに、我が主」
「――それと……さっきのは感謝する」
「さっきの……でございますか??」
「教会での花、お前の仕業だろう?ナマエ」
「……バレてましたか」
「セバスチャンがあんなマネするとは思えないからな」
そのままツカツカとナマエに近づいたシエルは言葉を続けた。
「お前の《力》が僕には必要だ。これからも裏切らず、傍にいろ」
「仰せのままに」
シエルの手を取り、ナマエはその場に膝をついた。
これで切り裂きジャック事件は終焉を迎えた。
一陣の風が吹いた後、アンダーテイカーはシエルに聞いた。
「してない。切り裂きジャックはもういない。ヴィクトリア女王の憂いは晴れたのだから」
「女王(ヴィクトリア)か。気に入らないなァ~。自分は高みの見物ばかりで、辛いことや汚いことはぜ~んぶ伯爵に押しつける」
「これは我が一族の背負う業だ。この指輪と共に代々受け継がれてきた」
「その指輪はまるで首輪のようだねぇ。業という鎖で君を女王に繋いでいる」
「その首輪をこの首にはめると決めたのは僕だ」
アンダーテイカーへ振り向きながらシエルが言うと、アンダーテイカーはシエルのネクタイをグイッと引っ張った。
「!」
「小生はいつか君がその首輪で首を吊ってしまわないように祈ってるよ。そんなのはつまらないからね。また何かあったらいつでも店においで」
シエルのネクタイから漸く手を放し離れていくアンダーテイカー。
「ゴホッ」
「伯爵と執事君達ならいつでも歓迎するよ。ヒッヒッ……」
日が暮れるまでその墓石の前に佇んでいる主を黙って見守っていたが、さすがに冷えてきた。
セバスチャンは主に上着を覆い掛けると言葉を紡いだ。
「――お優しいのですね」
「何度も言わせるな。僕は優しくなど――」
「お優しいですよ。でなければ……“弱虫”ですかね?」
「っ!」
セバスチャンの言葉に、シエルは勢い良く振り向いた。
「貴様……」
「クスッ……何故《撃たなかった》のです?“肉親さえ見殺しに”?嘘は感心しませんね。あの晩、貴方は銃を隠し持たれていた。撃とうと思えば彼女を撃てたはずです。けれど貴方はためらった。私達が促しても、貴方は銃をとらなかった。何故です?マダムを自分の手で殺すのが怖かった?誰とも知れない女は殺せても、やはりお身内は殺せないとでも?」
「……お前の仕事だからだ。お前が死んでも僕を守ると思ったから撃たなかった」
「……!」
「悪魔(おまえ)と僕の契約は“僕が目的を果たすまで僕の力となり”“僕を殺さず護り抜くこと”。僕があそこで死んでしまっては契約違反だ。契約(めいれい)に従うことが悪魔の美学だと言うのなら、お前は死んでも僕を助けに来るはずだ。おまえには“信念”や“忠誠”などありはしないだろう?あるのは“美学”のみ。ならば《己の美学のために》お前は僕を守る。だから僕がわざわざ手を下さずとも、黙っていればお前がマダムを殺してた。違うのか?」
「では何故……止められたのです?マダムは表の世界を裏の力で穢した。ならばしかるべき場所に出て裁かれるのが道理」
「ヤードのメンツを立ててやるのも僕の役目だからな」
宵闇が迫ってきており、鳥が羽ばたく音が静寂を突き破るかのように響いていた。
「……僕を殺そうとしたマダムの目には迷いがあった。マダムには僕(シエル)を……肉親を殺すことはできない。そう思ったんだ。一瞬でも迷えば命取りになる。チェスと一緒だ。彼女は迷い、次の一手を見失った。それだけのこと。だから僕は迷わない」
シエルの言葉に、セバスチャンはゾクリとした。
「……そうでなくてはね……いつでも王(あなた)は駒を上手に使い生き残ればいいのです。騎士(わたし)も女王(マダム)も利用して。その玉座の下に駒の亡骸が積み上がろうと、王が倒れればこの《ゲーム》は終わりなのだから決して倒れてはいけない」
「僕は立ち止まらない。踏み出した一歩に後悔もしない。だから……命令だ。騎士(おまえ)だけは僕を裏切るな。僕の傍をはなれるな……絶対に!」
「――イエス、マイロード」
「お前もだ、ナマエ」
黙って事の成り行きを見ていたナマエは、小さな主の不意の呼びかけに笑顔を浮かべた。
「仰せのままに、我が主」
「――それと……さっきのは感謝する」
「さっきの……でございますか??」
「教会での花、お前の仕業だろう?ナマエ」
「……バレてましたか」
「セバスチャンがあんなマネするとは思えないからな」
そのままツカツカとナマエに近づいたシエルは言葉を続けた。
「お前の《力》が僕には必要だ。これからも裏切らず、傍にいろ」
「仰せのままに」
シエルの手を取り、ナマエはその場に膝をついた。
これで切り裂きジャック事件は終焉を迎えた。