真紅と漆黒
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「でしょ?シエルが来るから、物置から引っ張り出しといたの。さっ休憩休憩!」
マダム・レッドは言うなり、テーブルにあった書類を払い除けてチェスセットを置いた。
「あ」
「グレルはお茶淹れて頂戴!」
マイペースに進むマダム・レッドに、シエルは呆れて溜息しか出なかった。
暫く待っていると、グレルがお茶を持って戻ってきた。
「夜ですので……ローズヒップのハーブティーをご用意しました」
そのお茶を一口呑んだだけで止めるマダム・レッドとシエル。
「塩……?」
「まずーい!!なんでハーブティーがしょっぱいのよ!!あんたそれでも執事なの!?やり直しッ」
「これでも執事ですウウウ!!スイマセエエン!」
お茶を淹れなおしに走り去ったグレルを見送り、立ち上がっていたマダム・レッドは椅子に腰掛けた。
「ったく……ホントあんたんトコの執事は有能っていうか働き者っていうか……」
「別に?それ程でもない」
「あんだけ有能なら、子爵邸の調査にしても全部セバスチャンに任せておけばいいのに」
「《あれ》は僕の《力》。そして《手足》だ。セバスチャンは言うなれば《駒》に過ぎない。その《駒》を動かすのは《騎手(ぼく)》でなくてはならないし、《自動で動く駒》で相手に勝ったとして、それは《ぼく》の功績になりはしないだろう」
シエルは言葉を紡ぎながらもチェスという名のゲームに手は抜かない。
「いつでも命令を出すのは主(ぼく)で、命令がない限り動かないよう躾けてある。だがセバスチャンがこの《駒》と違うのは……全てのマスに一手で動ける《駒(ナイト)》と言ったところか。こんな風に」
言いながら、シエルはマダム・レッドの駒を一つ倒す。
「あっ。そんなの反則じゃないの」
「そうだ。それが《ゲーム(チェス)》ならな。だがこの世界はルールに従わなくては勝てないチェスの様には出来ていない。必ず反則をする騎手も、裏切る駒も出て来る。そういうものと対等にゲームをしようと思ったら、僕も反則をしなくては勝てないだろう?僕らの生きる英国(チェスボード)の上では油断をすればすぐに、終わり(チェックメイト)だ」
雨は勢いを止めることなく降り続けている。
ゲームを続けるシエルとマダム・レッドの会話に耳を研ぎ澄ませながらも、ナマエは自身の仕事をこなしていく。
「……セバスチャン」
「なんですか?」
長身の彼の燕尾服の裾をツンッと引っ張りながら話しかけるナマエ。
振り向いた彼の顔は些か不機嫌そうだった。
「書けない・読めない・どうしよう!?」
「はい?」
まるで世界の終わりだとでも言わんばかりに、大きく項垂れるナマエ。
「貴女、話せる様になっても読み書きは出来ないんですか?」
「ブロック体でなおかつ英和辞典があれば大丈夫……なハズなんだけど……筆記体は読みづらいし、もともと話せる様になるなんて思ってなかったんだよ……」
「はぁ……仕方がありませんね。辞典は劉様に取り寄せて貰うとして、この《事件》が終わったら私が教えて差し上げますよ。手とり足とり、ね」
耳元で怪しく囁くセバスチャンに、ナマエはしかめっ面になった。
「おや……随分と嫌そうですね?」
「うん、い・や」
即答するナマエの反応に、セバスチャンは苦笑するしかなかった。
「……あんたには……裏社会の番犬以外にも生きていく道があったはずだわ。きっと姉さん……あんたの母さんもそう望んでたハズ。それなのに裏社会に戻って来たのはやっぱり……殺された姉さん達の仇を討とうとしているからなの?」
「……」
マダム・レッドの言葉にシエルが反応した。
「きっとそんな事姉さん達も……私やリジーだって望んでないわ」
「僕は、仇を討とうと思ったことなど一度もない。仇を討ったとして死人が蘇るわけでも、ましてや喜ぶわけでもない。仇討ちだ弔い合戦だと綺麗事を言ったとしても、それは所詮生き残った人間のエゴに他ならないし、ようは気晴らしだろう?……僕は先代達のためにファントムハイヴに戻って来た訳じゃない。僕のためだ。ファントムハイヴを裏切り穢した人間に、僕と同じ屈辱を……痛みを味わわせてやりたいだけだ。チェックメイト」
トンッとシエルが駒を置くと、マダム・レッドは諦めた。
マダム・レッドは言うなり、テーブルにあった書類を払い除けてチェスセットを置いた。
「あ」
「グレルはお茶淹れて頂戴!」
マイペースに進むマダム・レッドに、シエルは呆れて溜息しか出なかった。
暫く待っていると、グレルがお茶を持って戻ってきた。
「夜ですので……ローズヒップのハーブティーをご用意しました」
そのお茶を一口呑んだだけで止めるマダム・レッドとシエル。
「塩……?」
「まずーい!!なんでハーブティーがしょっぱいのよ!!あんたそれでも執事なの!?やり直しッ」
「これでも執事ですウウウ!!スイマセエエン!」
お茶を淹れなおしに走り去ったグレルを見送り、立ち上がっていたマダム・レッドは椅子に腰掛けた。
「ったく……ホントあんたんトコの執事は有能っていうか働き者っていうか……」
「別に?それ程でもない」
「あんだけ有能なら、子爵邸の調査にしても全部セバスチャンに任せておけばいいのに」
「《あれ》は僕の《力》。そして《手足》だ。セバスチャンは言うなれば《駒》に過ぎない。その《駒》を動かすのは《騎手(ぼく)》でなくてはならないし、《自動で動く駒》で相手に勝ったとして、それは《ぼく》の功績になりはしないだろう」
シエルは言葉を紡ぎながらもチェスという名のゲームに手は抜かない。
「いつでも命令を出すのは主(ぼく)で、命令がない限り動かないよう躾けてある。だがセバスチャンがこの《駒》と違うのは……全てのマスに一手で動ける《駒(ナイト)》と言ったところか。こんな風に」
言いながら、シエルはマダム・レッドの駒を一つ倒す。
「あっ。そんなの反則じゃないの」
「そうだ。それが《ゲーム(チェス)》ならな。だがこの世界はルールに従わなくては勝てないチェスの様には出来ていない。必ず反則をする騎手も、裏切る駒も出て来る。そういうものと対等にゲームをしようと思ったら、僕も反則をしなくては勝てないだろう?僕らの生きる英国(チェスボード)の上では油断をすればすぐに、終わり(チェックメイト)だ」
雨は勢いを止めることなく降り続けている。
ゲームを続けるシエルとマダム・レッドの会話に耳を研ぎ澄ませながらも、ナマエは自身の仕事をこなしていく。
「……セバスチャン」
「なんですか?」
長身の彼の燕尾服の裾をツンッと引っ張りながら話しかけるナマエ。
振り向いた彼の顔は些か不機嫌そうだった。
「書けない・読めない・どうしよう!?」
「はい?」
まるで世界の終わりだとでも言わんばかりに、大きく項垂れるナマエ。
「貴女、話せる様になっても読み書きは出来ないんですか?」
「ブロック体でなおかつ英和辞典があれば大丈夫……なハズなんだけど……筆記体は読みづらいし、もともと話せる様になるなんて思ってなかったんだよ……」
「はぁ……仕方がありませんね。辞典は劉様に取り寄せて貰うとして、この《事件》が終わったら私が教えて差し上げますよ。手とり足とり、ね」
耳元で怪しく囁くセバスチャンに、ナマエはしかめっ面になった。
「おや……随分と嫌そうですね?」
「うん、い・や」
即答するナマエの反応に、セバスチャンは苦笑するしかなかった。
「……あんたには……裏社会の番犬以外にも生きていく道があったはずだわ。きっと姉さん……あんたの母さんもそう望んでたハズ。それなのに裏社会に戻って来たのはやっぱり……殺された姉さん達の仇を討とうとしているからなの?」
「……」
マダム・レッドの言葉にシエルが反応した。
「きっとそんな事姉さん達も……私やリジーだって望んでないわ」
「僕は、仇を討とうと思ったことなど一度もない。仇を討ったとして死人が蘇るわけでも、ましてや喜ぶわけでもない。仇討ちだ弔い合戦だと綺麗事を言ったとしても、それは所詮生き残った人間のエゴに他ならないし、ようは気晴らしだろう?……僕は先代達のためにファントムハイヴに戻って来た訳じゃない。僕のためだ。ファントムハイヴを裏切り穢した人間に、僕と同じ屈辱を……痛みを味わわせてやりたいだけだ。チェックメイト」
トンッとシエルが駒を置くと、マダム・レッドは諦めた。