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「坊っちゃん、何かご用でしょうか?」
「何とかしろ」
大層不機嫌そうに告げる主人に、セバスチャンは疑問符を浮かべた。
「何を……でございましょうか?」
「ナマエだ」
「ナマエさん?」
「あの“ゲーム”以来、様子がおかしい」
「まぁ、確かに減らず口を叩かなくはなりましたが……」
「面白くない」
眉を顰めて主は続けた。
「それに調子が狂う。何とかしろ。これは《命令》だ!」
やれやれ、と頭を振ってセバスチャンは部屋を後にした。向かうはナマエの私室。
(坊っちゃんへの講義もありませんし……いるとしても私室くらいでしょうしね)
カツカツと靴音を響かせながら、広い屋敷内を迷う事無く歩くセバスチャン。
数分歩いた所で目的地へと到着した。
コンコンとノックするも、部屋の主からの返答はない。
「失礼しますよ、ナマエさん」
部屋の主が中にいる事は気配で分っている。それでも一応はレディの部屋。無断で入るわけにもいかないため、声をかけてからドアを開いた。
部屋の中に身体を滑り込ませると、簡素なベッドの上で膝を抱えて蹲っている彼女の姿があった。
「何があったのです?坊っちゃんも大層ご心配されてますよ?」
「……らないで」
「え?」
「近寄らないで!」
ナマエの声に歩みを止めたセバスチャンは、少し困った様に声をかけた。
「それは……私が《悪魔》だからですか?」
「……違う」
「では何故です?他の使用人達も皆、貴女の事を心配しているんですよ?」
「……怖いの」
「怖い?」
「皆を……傷付けるんじゃないかって思うと……怖いの……」
漸く顔を上げたナマエの瞳は薄っすらと濡れており、その周りは赤くなっていた。
「ずっと泣いていらしたんですか?」
「そうだよ……私は《化け物》だから――」
言葉を続けようとするナマエの唇に、いつの間にか近づいて来ていたセバスチャンの指が当てられた。
「《化け物》なのは《貴女》じゃない。《貴女》の《影》に棲まう《モノ》です。此処にいる使用人は皆、それぞれ辛い過去をお持ちです。ですが、それを乗り越え坊っちゃんに誠心誠意お仕えしております。たかが《化け物》を扱えたからといって、ソレが何だというのです?《貴女》は《貴女》に変わりないでしょう?」
その言葉にナマエは腫れ上がった目を見開いた。
「私は《悪魔》ですが嘘は申しません。ですから――そんな顔をしないで下さい」
ツイッと指でナマエの顔を持ち上げると、ほんの数センチの距離でセバスチャンは言葉を紡いだ。
「貴女にはこんな“些細な事”で泣いて欲しくはありません。何故でしょう……私は貴女に笑顔でいて欲しいと思ってしまいます――こんな感情、初めてです」
至近距離で苦笑する《悪魔》の言葉に、ナマエはキョトンとした後にクスクスと笑った。
「嗚呼……漸く笑って頂けましたね。私は貴女のそんな顔が好きなのです」
そう言いながら尚も距離を縮めてくる《悪魔》は、彼女の耳元で囁いた。
「貴女の事を、本気で手に入れたくなりました……どうぞご覚悟なさって下さいね?」
それだけ言うとスッと身体を離し、《悪魔》ことセバスチャンは綺麗な笑みを浮かべた。
そんな彼に向かい、ナマエは涙を拭うと挑発的な笑みでセバスチャンを見つめた。
「こう見えてシエル様以上に負けず嫌いなんだよね、私。そうそう簡単に手に入ると思わないことだね」
「それでこそ面白みがあります。簡単に手に入るのであれば興味など湧かないモノですよ?」
満足気に笑うと、セバスチャンはナマエに背を向け歩き出した。
「そうそう……」
「?」
「私の事は今後、“セバスチャン”とお呼び下さい。私も“ナマエ”とお呼び致しますので」
ドアを閉める直前、セバスチャンは振り返りながらナマエにウィンクした。
「ふ……はははっ。してやられたわ――あんな《悪魔》に諭されるなんて。そう、《私》は《私》なんだ……」
ギュッと拳を握りしめ、ナマエは部屋を出た。
「何とかしろ」
大層不機嫌そうに告げる主人に、セバスチャンは疑問符を浮かべた。
「何を……でございましょうか?」
「ナマエだ」
「ナマエさん?」
「あの“ゲーム”以来、様子がおかしい」
「まぁ、確かに減らず口を叩かなくはなりましたが……」
「面白くない」
眉を顰めて主は続けた。
「それに調子が狂う。何とかしろ。これは《命令》だ!」
やれやれ、と頭を振ってセバスチャンは部屋を後にした。向かうはナマエの私室。
(坊っちゃんへの講義もありませんし……いるとしても私室くらいでしょうしね)
カツカツと靴音を響かせながら、広い屋敷内を迷う事無く歩くセバスチャン。
数分歩いた所で目的地へと到着した。
コンコンとノックするも、部屋の主からの返答はない。
「失礼しますよ、ナマエさん」
部屋の主が中にいる事は気配で分っている。それでも一応はレディの部屋。無断で入るわけにもいかないため、声をかけてからドアを開いた。
部屋の中に身体を滑り込ませると、簡素なベッドの上で膝を抱えて蹲っている彼女の姿があった。
「何があったのです?坊っちゃんも大層ご心配されてますよ?」
「……らないで」
「え?」
「近寄らないで!」
ナマエの声に歩みを止めたセバスチャンは、少し困った様に声をかけた。
「それは……私が《悪魔》だからですか?」
「……違う」
「では何故です?他の使用人達も皆、貴女の事を心配しているんですよ?」
「……怖いの」
「怖い?」
「皆を……傷付けるんじゃないかって思うと……怖いの……」
漸く顔を上げたナマエの瞳は薄っすらと濡れており、その周りは赤くなっていた。
「ずっと泣いていらしたんですか?」
「そうだよ……私は《化け物》だから――」
言葉を続けようとするナマエの唇に、いつの間にか近づいて来ていたセバスチャンの指が当てられた。
「《化け物》なのは《貴女》じゃない。《貴女》の《影》に棲まう《モノ》です。此処にいる使用人は皆、それぞれ辛い過去をお持ちです。ですが、それを乗り越え坊っちゃんに誠心誠意お仕えしております。たかが《化け物》を扱えたからといって、ソレが何だというのです?《貴女》は《貴女》に変わりないでしょう?」
その言葉にナマエは腫れ上がった目を見開いた。
「私は《悪魔》ですが嘘は申しません。ですから――そんな顔をしないで下さい」
ツイッと指でナマエの顔を持ち上げると、ほんの数センチの距離でセバスチャンは言葉を紡いだ。
「貴女にはこんな“些細な事”で泣いて欲しくはありません。何故でしょう……私は貴女に笑顔でいて欲しいと思ってしまいます――こんな感情、初めてです」
至近距離で苦笑する《悪魔》の言葉に、ナマエはキョトンとした後にクスクスと笑った。
「嗚呼……漸く笑って頂けましたね。私は貴女のそんな顔が好きなのです」
そう言いながら尚も距離を縮めてくる《悪魔》は、彼女の耳元で囁いた。
「貴女の事を、本気で手に入れたくなりました……どうぞご覚悟なさって下さいね?」
それだけ言うとスッと身体を離し、《悪魔》ことセバスチャンは綺麗な笑みを浮かべた。
そんな彼に向かい、ナマエは涙を拭うと挑発的な笑みでセバスチャンを見つめた。
「こう見えてシエル様以上に負けず嫌いなんだよね、私。そうそう簡単に手に入ると思わないことだね」
「それでこそ面白みがあります。簡単に手に入るのであれば興味など湧かないモノですよ?」
満足気に笑うと、セバスチャンはナマエに背を向け歩き出した。
「そうそう……」
「?」
「私の事は今後、“セバスチャン”とお呼び下さい。私も“ナマエ”とお呼び致しますので」
ドアを閉める直前、セバスチャンは振り返りながらナマエにウィンクした。
「ふ……はははっ。してやられたわ――あんな《悪魔》に諭されるなんて。そう、《私》は《私》なんだ……」
ギュッと拳を握りしめ、ナマエは部屋を出た。