奇劇
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「うわああああ」
その言葉と光景に、ドールは膝をつき涙した。
「……ッ。……るさねえ。ゆ、るさねえ。許さねえ。許さねェ」
ドールは怒りを露わにし、シエルを睨みつけた。
「許さねェ、スマイルウウウ」
鞄に忍ばせていたナイフを握りしめ、ドールはシエルに向かって突進した。
「セバスチャン」
「鵺」
「だんな様」
列車に乗り込もうとした時、小さな声がシエルに向かって放たれた。
「オレンジはいかがですか?1ペニーです」
一瞬声の主である少女を見やるシエル。
「買ってやれ」
「ありがとうございます!あなたの旅路に神の祝福がありますように」
セバスチャンが少女からオレンジを受け取り、代金を支払う。
それを見届けることなく、シエルは列車へと乗り込んでいた。
「急でしたので三等席がとれず、私達も同席となり申し訳ありません」
「別に構わん」
出発した列車の一等席で、シエルは何を考えているのか分からない顔で窓の外を眺めていた。
ナマエ達は一言も発せずに黙って座っていたが、暫く経った時にセバスチャンが口を開いた。
「……ひとつ、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ」
オレンジを手に取り皮を剥きながら、セバスチャンはシエルを見ることなく言葉を紡いだ。
「何故彼らの育った貧困院(ワークハウス)へ?」
その質問に、シエルは目を見開いてから答えた。
「パトロンがいなくなったんだ。それで貧困院(ワークハウス)が運営できるはずがない。新しいパトロンが必要だ。バートン伯あたりなら寄付に嫌な顔もしないだろうし、紹介してもいい」
「同情ですか?」
「後始末までが僕(ファントムハイヴ)の仕事だ。裏社会の勝手な事情で、表社会の人間が犠牲になる必要はない」
「では何故あの子供達を?」
綺麗に剥かれたオレンジを差し出しながら、腑に落ちないといった声音でセバスチャンは訊いた。
「――《ああいう》子供を昔たくさん見たことがある。ああなってしまっては、もう元には戻れない……それなら――」
「いっそ死んでしまった方が幸せだと?傲慢ですね」
「ハッ。傲慢でない人間などいるのか?」
「クス。私はお会いした事はありませんが」
「脆弱な人間……まして子供があの状況から立ち上がるのにどれだけの力が必要だと思う?僕はあの時、たまたま悪魔(お前)を喚び出せたから立ち上がる力を手に入れられただけだ。ケルヴィン邸(あの場所)に悪魔はお前しかいなかった。その悪魔は僕のものだ。僕は傲慢だ――だけど、無責任に誰かを救えると豪語できる程じゃない」
「さようでございますか」
オレンジを食べきり、言い切ったシエルの言葉にセバスチャンは納得した。
やがて目的地の最寄り駅へと到着した3人は列車を降りた。
「レンボーン貧困院(ワークハウス)?」
「そこまで乗せて頂けませんか?」
「通り道だからかまわねっけどよ、お貴族様があげなトコに何の用ね?」
「雑事がございまして」
いつもの様ににこやかな顔で、話していた農夫にお金を握らせたセバスチャン。
それに気付いた農夫はそれ以上追求することを止め、シエルを荷台に乗せてゆっくりと荷馬車を動かした。
その速度は歩いているナマエとセバスチャンに合わせてゆっくりとしたものだった。
どの位歩いただろうか。駅からかなり歩いた所で、向かい側から楽しそうに歌いながら歩いてくる2人の子供とすれ違った。
何となしにそれを眺めていると、馬車が音を立てて止まった。
「たしかこの丘の上だぁ」
「ありがとうございます、おじさん」
貧困院(ワークハウス)の近くまでシエルを乗せてくれた農夫にナマエは礼を言い、シエルを荷馬車から降ろすと彼を先頭に歩き出した。
草を踏みしめながら丘を登っていくと、ちょうど登り終えたところで一陣の風が吹いた。
その風に一瞬目を閉じたシエルだったが、風が収まって目にした光景に驚愕した。
その言葉と光景に、ドールは膝をつき涙した。
「……ッ。……るさねえ。ゆ、るさねえ。許さねえ。許さねェ」
ドールは怒りを露わにし、シエルを睨みつけた。
「許さねェ、スマイルウウウ」
鞄に忍ばせていたナイフを握りしめ、ドールはシエルに向かって突進した。
「セバスチャン」
「鵺」
「だんな様」
列車に乗り込もうとした時、小さな声がシエルに向かって放たれた。
「オレンジはいかがですか?1ペニーです」
一瞬声の主である少女を見やるシエル。
「買ってやれ」
「ありがとうございます!あなたの旅路に神の祝福がありますように」
セバスチャンが少女からオレンジを受け取り、代金を支払う。
それを見届けることなく、シエルは列車へと乗り込んでいた。
「急でしたので三等席がとれず、私達も同席となり申し訳ありません」
「別に構わん」
出発した列車の一等席で、シエルは何を考えているのか分からない顔で窓の外を眺めていた。
ナマエ達は一言も発せずに黙って座っていたが、暫く経った時にセバスチャンが口を開いた。
「……ひとつ、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ」
オレンジを手に取り皮を剥きながら、セバスチャンはシエルを見ることなく言葉を紡いだ。
「何故彼らの育った貧困院(ワークハウス)へ?」
その質問に、シエルは目を見開いてから答えた。
「パトロンがいなくなったんだ。それで貧困院(ワークハウス)が運営できるはずがない。新しいパトロンが必要だ。バートン伯あたりなら寄付に嫌な顔もしないだろうし、紹介してもいい」
「同情ですか?」
「後始末までが僕(ファントムハイヴ)の仕事だ。裏社会の勝手な事情で、表社会の人間が犠牲になる必要はない」
「では何故あの子供達を?」
綺麗に剥かれたオレンジを差し出しながら、腑に落ちないといった声音でセバスチャンは訊いた。
「――《ああいう》子供を昔たくさん見たことがある。ああなってしまっては、もう元には戻れない……それなら――」
「いっそ死んでしまった方が幸せだと?傲慢ですね」
「ハッ。傲慢でない人間などいるのか?」
「クス。私はお会いした事はありませんが」
「脆弱な人間……まして子供があの状況から立ち上がるのにどれだけの力が必要だと思う?僕はあの時、たまたま悪魔(お前)を喚び出せたから立ち上がる力を手に入れられただけだ。ケルヴィン邸(あの場所)に悪魔はお前しかいなかった。その悪魔は僕のものだ。僕は傲慢だ――だけど、無責任に誰かを救えると豪語できる程じゃない」
「さようでございますか」
オレンジを食べきり、言い切ったシエルの言葉にセバスチャンは納得した。
やがて目的地の最寄り駅へと到着した3人は列車を降りた。
「レンボーン貧困院(ワークハウス)?」
「そこまで乗せて頂けませんか?」
「通り道だからかまわねっけどよ、お貴族様があげなトコに何の用ね?」
「雑事がございまして」
いつもの様ににこやかな顔で、話していた農夫にお金を握らせたセバスチャン。
それに気付いた農夫はそれ以上追求することを止め、シエルを荷台に乗せてゆっくりと荷馬車を動かした。
その速度は歩いているナマエとセバスチャンに合わせてゆっくりとしたものだった。
どの位歩いただろうか。駅からかなり歩いた所で、向かい側から楽しそうに歌いながら歩いてくる2人の子供とすれ違った。
何となしにそれを眺めていると、馬車が音を立てて止まった。
「たしかこの丘の上だぁ」
「ありがとうございます、おじさん」
貧困院(ワークハウス)の近くまでシエルを乗せてくれた農夫にナマエは礼を言い、シエルを荷馬車から降ろすと彼を先頭に歩き出した。
草を踏みしめながら丘を登っていくと、ちょうど登り終えたところで一陣の風が吹いた。
その風に一瞬目を閉じたシエルだったが、風が収まって目にした光景に驚愕した。