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一人の朝

「眞葵君や……」
「ん?」
「君にまで言われるとは思ってなかったよ……」
「咲羅にも突っ込まれたわけね、綾芽は」
「うん――そうなのよ……」
「まぁ……当たり前だな」
当たり前??――酷いよ、不良街道に片足突っ込んでる君にそんな事言われたくなかったよ!
「お~い……戻って来~い」
「え?……あぁ――で、何?」
「何?じゃないよ……掃除、どうすんの?」
「咲羅と午前中に行ってやりますよ……」
「俺は?」
「へ?」
「俺はどうすりゃいい?掃除」
「あぁ……考えてなかったわ」
「あのさぁ……酷くないデスカ?」
「仕方ないじゃん!こっちだって掃除なんか知らなかったんだから!!」
逆ギレ開始の綾芽さん。知らなかったとはいえ、友達二人から突っ込まれるとは露ほども思ってなかったのだから、仕方がない。
「あ~!もう分かった。俺は昼前に綾芽の家行って、叔父さんの手伝いするよ。それで問題ないだろ?」
「もう!だから眞葵って大好きっ」
「はいはい……じゃ、切るぞ」
無情にも、突っ込みもせずに流され、電話は一方的に切られてしまった。突っ込まれないと寂しいものです。そんな寂しさに浸りながら、綾芽は残っている荷物を確認した。服は片付いている。食器類も数セット買って貰って、段ボールに入っている。家電は明後日の夕方には届く手筈になっている。
「あとは――寝具類位か」
必要最低限の物は準備が出来ていた。もともとそんなに自分の物が無いから、自分でも驚くほど早く片づいていた。何不自由ない生活をさせて貰っていたが、綾芽は遠慮して自分から『欲しい』とは口にしなかった。その結果がコレだ。

「じゃ、叔父さん荷物は男友達が手伝いに来るから、あとはよろしくお願いします」
叔父夫婦に挨拶をし、綾芽は家を後にした。これであの『嫌な思い』から逃れられる。
マンションに向かう途中の道で、咲羅に会った。手ぶらな綾芽を見て、不思議そうな咲羅。
「綾芽……掃除に必要な物、どうしたの?」
鞄一つ持っていない綾芽に、呆れながら咲羅が問う。ポカ~ンとしている綾芽に対して、咲羅は諦めた。何を言っても無駄だろう。
「はいはい、忘れてきたのね。じゃあ、そこのスーパーしか開いてないみたいだからそこで買いましょう」
「ごめんなさい……」
「いいよ。綾芽のそういうトコにはもう慣れたから」
いいよ、と言いながらも言葉にトゲがありますよ……確実に怒ってらっしゃいます。咲羅さんを怒らせてはいけません。怖いですから、本当に――。

スーパーで雑巾や箒などの掃除に必要な物を一式買い揃え、マンションへ向かった。鍵を開ける時、心の底からここが新しい生活の場になると思うと嬉しくてたまらなかった。
「良かったね、綾芽」
嬉しさのあまり立ち尽くしていると、後ろから咲羅の優しい声がかけられた。綾芽が肩身の狭い思いをしていることを知っているからこそ、咲羅も今回の事が嬉しいのだ。
「有難う、咲羅」
「さ、掃除しちゃおう?」
「そだね!」
二人で他愛もない会話をしながら掃除を済ませていった。6畳の1K、それが綾芽の新しい生活の場として動き始めた。掃除を終わらせて、道具を片づけていると、チャイムが鳴った。
「は~い?」
ドアを開けると、眞葵がダンボールを足下に置いて立っていた。
「あれ?叔父さんは??」
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