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雨が降る

笑顔で答えるが、冬夜からの返答がない。
不思議に思っていると、ふいに「ジュース・珈琲・紅茶、どれがいい?」と返ってきた。メニューとにらめっこをしていて、それで返答がなかったという事なんだろう。
「じゃあ……紅茶で」
「OK。ミルク?レモン?」
「ストレートでいいよ」
「了解っ」
冬夜は私から注文を聞くと、ウェイトレスを呼び飲み物を注文していた。
「しっかし……遅いな~」
ウェイトレスがいなくなると、冬夜は呆れたように呟いていた。
「私に紹介したいとかいう人?」
「そっ。俺らの三つ下で、この前絡まれてるの助けたら懐かれちまってよ」
嫌そうな顔をしているんだろうけど、その声はとても嬉しそうな響きだった。
「じゃあ……相手はまだ中学生なんだね」
「お~、しかもなかなか肝が座ってるんだよ」
「へぇ~……」
どんな人間が来るのか想像していたら、さっきのウェイトレスが注文した物を運んできた。冬夜はそれをテーブルに置かせ、ウェイトレスを下がらせていた。
「閑那、6時にグラスあるからな?ストローもさしといた」
言いながら、目の前の時計の針・6時の場所にグラスを置き直してくれた。そんな優しさが彼にはあるのだ。
「有り難う」
「気にするな、ダチなんだからよ」
そんな会話をしていた時、誰かが小走りで店に入ってきて立ち止まる足音がした。
「冬夜、彼じゃない?」
そう言い、冬夜に入り口の方を向かせた。
「あっ!」
声の主は、冬夜に気づいたのか、こちらに早足で向かってきた。
「遅かったな、柚琉(ユズル)」
「ごめん、急に役員会やる事になっちゃって……」
どうやら、足音の主は冬夜が私に紹介したいと言っていた人物で間違いないらしい。
「閑那」
「ん?」
冬夜に右手を引っ張られ、何事かと思いきや――
「貴方が閑那さんですね?初めまして、僕は――」
「コウダ ユズル君、でいいのかな?」
 柚琉という少年と握手をした瞬間、脳裏に彼の名前が浮かび出た。彼は心臓をバクバク鳴らしながらも、答えてくれた。
「えっ?あ、はい、そうです」
「コイツな、変わったヤツだけど悪いヤツじゃない。そうだろ?閑那」
「それは……私の事?それともコウダ君?」
少し意地悪げに言ってみたが、冬夜は即答だった。
「両方、だな」
「……誉めてるの?」
「さぁな?」
「ちょっと、酷いよ冬夜!」
クスクスと笑う私達を見て、コウダ君はムキになっている様だった。
「まぁまぁ、とにかく座れや」
立ったままだったコウダ君を、冬夜は宥めて座らせた。
さて――彼:コウダ君は私をどう思っているのであろう……。
名乗る前に名前を言い当ててしまったから、気味悪がるか面白がるか――どっちにしても、あまりいい気分ではないな。
「そういや……俺閑那に柚琉の名前教えたっけ?」
しばらく談笑をしていると、思い出したかの様に冬夜に聞かれた。
「いや……聞いてないね」
「へ……?僕はてっきり冬夜から聞いてるもんだと――」
「お前、そーゆー才能もあったわけ?」
コレが私が『普通』じゃないと感じる所以の一つなのだ。
触れると、その人の過去が見える。いつからこんなチカラがあるのかは分からないが、知らぬ間に身に付いていた。
「あったりするんだよね、これが」
「って事は――」
「ん?」
「いや……何でもないわ」
冬夜は何か気まずい雰囲気になっていたが、ソレは柚琉の一言で吹き飛ばされた。
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