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おばあちゃん

僕のおばあちゃんには、実に不思議な力がある。僕が初めてその事を知ったのは、とても幼い頃だった。

あれは、もうすぐお盆だという時期だったと思う。僕の家族は、おばあちゃんの家に遊びに来ていた。おばあちゃんの家は鍵をかけておらず、この辺ではそれが普通だと教えられた。そんな事にも慣れてきたあの日、いつものようにおばあちゃんの部屋へと駆け込んだ。
「おばあちゃん!」
「あらあら……ここはアナタの家じゃないって言ったのに、また来たの?」
「お……ばあちゃん??」
僕がおばあちゃんの部屋の戸を開けた時、おばあちゃんは部屋の隅にしゃがんで、柱に向かって話しかけていた。
「おばあちゃん!僕だよ!!」
必死で呼びかけていた。なのに、おばあちゃんは振り向いてもくれなかった。
「あの子は駄目よ?あの子はまだこちらにいるべきなの。解るでしょう?アナタは、自分のいるべき所に早く行きなさい」
怖かった。おばあちゃんが話している相手、それが僕をジッと見ていた。姿は見えない。ただ――ただ二つの目だけが宙に浮き、僕を見ていたのだ。恐怖のあまり、声も出ないまま大粒の涙を零しながら、家族の所へと逃げた。母は何があったのかを訊こうとはせずに、ただ抱きしめてくれた。何も心配しなくてもいい、ただそれだけを繰り返し囁いていた。

それから数年経った今、おばあちゃんはまだあの人を説得している。死期を間違え、帰るべき家を失ったあの人を、説得し続けている……。
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