序章 ハジマリの刻:涼(リョウ)
ウザイ……表面上だけの付き合い。信用できる人間(ヤツ)なんて、一人もいない。今は側にいても、いつ裏切られるか判ったものじゃない。所詮は、騙し合いの世の中だ――
その日も、俺はいつもと変わらないメンバーで酒を飲んでいた。
「チョット涼ぉ~、聞いてるのぉ~?」
毎日同じことの繰り返し。変化なんて何一つ無い。クソツマラナイ生活。
「聞いてるよ……」
今は俺に媚を売っているコイツも、そのうち俺を裏切る。
「俺に何を期待している!?」
「え……?涼、アタシなんか気に触ること言ったぁ??」
全てが気に食わない。俺はその場を去るべく、早々に席をたった。
「チョッ、チョット待ってよぉ~!どこに行くのよぉ?」
「お前には関係ない……ついて来るな!!」
外は生憎の雨だった。しかも、雷まで鳴っている。これはすぐに止みそうもない。
「今日はいつになく機嫌が悪そうだな」
不意に後ろから声をかけられた。
「アンタには関係ないだろ、冬夜(トウヤ)」
「おいおい、つれないね~。俺とお前の仲じゃないか」
どんな仲だって言うんだよ……
「ま、いいや。もう帰るんだろう?」
「あぁ……」
「俺も今から帰るから、ついでに送ってってやるよ。この雨の中、歩いて帰るわけにはいかないだろ?」
「別に……歩いて帰れるさ」
「チェッ……可愛くねぇの」
「俺はアンタに可愛いって思われたいなんて思ってねぇよ……」
「はいはい、わかってますよ」
そう言いながら、冬夜は俺の腕を掴み駐車場へ引っ張っていった。
「痛ぇな!そんなに強く引っ張るなよ!!」
「こうでもしないと、涼はお兄さんの言うこと聞かないでしょ?」
「誰がお兄さんだよ!」
「あはは、ジョークだよ」
「ったく……」
冬夜は俺より5歳年上で、遊び人風の外見とは正反対で面倒見の良い、話のわかる兄貴分だ。
俺もなんだかんだ言って、冬夜のことは一番頼りにしている。が、信用はいまだに出来なかった。
冬夜は車を運転しながら、少しドライブをしようと言った。豪雨の中、時々稲光が光る。
「お前さぁ、まだ治ってないの?アレ――」
「あ?……何のことだよ??」
「図星――みたいだな」
「いいだろ、別に」
「良くないよ。皆を信用しろとは言わないから、少しは信用できる友達を作りなよ?」
「……」
「余計なお節介だろうけどさ、自分一人で全てを解決できると思うなよ」
「どういう意味だよ?」
「……そのまんまさ」
相変わらず、冬夜は喰えないヤツだ。自分のことはあまり話そうとしない。俺も同じだから、お互い様だ。
「人生、いつ何が起こるかわからないだろ?お前一人じゃ解決できないことが、世の中には沢山あるって事だよ」
「冬夜にでもか?」
「あぁ。俺だって、一人じゃ何もできない無力な人間なんだよ……」
どこか寂しそうな眼をした冬夜。
冬夜には出来ないことはないと思っていた俺にとっては、この一言には愕然とするしかなかった。
「俺だって、完全に信用してる人間なんていないさ。けどな、そんなんじゃ信頼関係なんて築けないだろ?涼にも信頼関係がどんなに必要なものか、そのうちわかる日が来るさ」
「ふ~ん……そんなもんなのか?」
「あぁ、世の中そんなもんさ」
それからは、俺はただボ~ッと窓の外を眺めていた。信頼関係なんて必要ないだろうと思いながら――
ドライブも終盤、そろそろ帰ろうとしている時、静寂を破るかのように俺の携帯が鳴った。どうせ、さっきまで一緒に飲んでた奴等の誰かだろうと思いながら、俺は携帯を見た。どうやら電話ではなく、メールのようだった。が、開いてみると、それはまったく覚えのないアドレスからのメールだった。しかも、とんでもなくフザケタ内容だったのだ。
「涼、どうした?」
「どっかの馬鹿が随分とフザケタモノを送ってきたんだよ……」
「へぇ~。涼に喧嘩売る物好きがまだいたんだな」
「あぁ……『警告 今から1週間以内に、あなたの身近な人を殺します。これは私とあなたで行うゲームです。私が勝つか、あなたが勝つかのね……早く私を見つけ出さないと、あなたの身近な人が次々死んでいきますよ?それでは、健闘を祈ります(笑)』だとさ」
「本当に、良く恨みかったり喧嘩売られたりするなぁ、涼は」
周りが勝手に逆恨みしたり喧嘩売ってきてるだけだ。俺は何もしていない。迷惑な話だ。
「涼の身近な人間だから、俺も殺される可能性があるって事なんだろうね」
「冬夜を殺そうなんて、かなりの馬鹿だな……」
「そうきたか!」
「笑ってる場合かよ……裏じゃ有名な冬夜さんよ?」
「有名なのは俺じゃなく、相方の方だよ。あいつのハッキング能力は一流だからな」
いつの間にか雨は弱まっていた。そして、ようやく俺の部屋があるマンションが見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
「あぁ、助かったよ」
一応、礼だけは言っておく。実際、冬夜のおかげで濡れネズミにはならなくて済んだからな。
「なぁ、あのメールさ、一応柚琉(ユズル)に聞いてみるよ。だから、送信者のアドレスメモらせてくんない?」
「んなこと、しなくていい。柚琉に迷惑かかる」
柚琉というのは、冬夜の相方だ。
「柚琉もお前のことを本当の弟のように思ってるんだ。万が一お前が悲しむようなことがあったら――」
「うっせ~な!もうほっといてくれよ!!」
車のドアを思い切り閉めて、俺は足早に自分の部屋へと向かった。後ろからは冬夜が何かを叫んでいる声が聞こえたが、雨音に邪魔をされ聞き取れなかった。
マンションの中へ入ると、外からは冬夜の車が遠のいていく音が聞こえた。
なんで――なんで誰も俺をほおっておいてくれないんだ……!?
部屋のドアを開けると、暗闇に何かが蠢いた。
「誰だ!」
俺はとっさに叫んだ。
「ヤダ、1週間会わなかっただけでもう忘れたの?」
聞き覚えのある声が、暗闇の中から聞こえてきた。
「その声は……閑那(カンナ)か??」
閑那は、数ヶ月前に街で知り合った自称占い師の男だ。十年位前に事故で両目の視力を失って以来、通常では信じられないようなモノがミエルようになったらしい。
そのせいかは知らないが、なぜかおネエ言葉で話している。
「よかった~、忘れられてたらどうしようかと思ってたのよ?」
最近になって、ようやくこの言葉遣いにも慣れてきた。最初の頃は、聞いただけで鳥肌がたったものだ……
その日も、俺はいつもと変わらないメンバーで酒を飲んでいた。
「チョット涼ぉ~、聞いてるのぉ~?」
毎日同じことの繰り返し。変化なんて何一つ無い。クソツマラナイ生活。
「聞いてるよ……」
今は俺に媚を売っているコイツも、そのうち俺を裏切る。
「俺に何を期待している!?」
「え……?涼、アタシなんか気に触ること言ったぁ??」
全てが気に食わない。俺はその場を去るべく、早々に席をたった。
「チョッ、チョット待ってよぉ~!どこに行くのよぉ?」
「お前には関係ない……ついて来るな!!」
外は生憎の雨だった。しかも、雷まで鳴っている。これはすぐに止みそうもない。
「今日はいつになく機嫌が悪そうだな」
不意に後ろから声をかけられた。
「アンタには関係ないだろ、冬夜(トウヤ)」
「おいおい、つれないね~。俺とお前の仲じゃないか」
どんな仲だって言うんだよ……
「ま、いいや。もう帰るんだろう?」
「あぁ……」
「俺も今から帰るから、ついでに送ってってやるよ。この雨の中、歩いて帰るわけにはいかないだろ?」
「別に……歩いて帰れるさ」
「チェッ……可愛くねぇの」
「俺はアンタに可愛いって思われたいなんて思ってねぇよ……」
「はいはい、わかってますよ」
そう言いながら、冬夜は俺の腕を掴み駐車場へ引っ張っていった。
「痛ぇな!そんなに強く引っ張るなよ!!」
「こうでもしないと、涼はお兄さんの言うこと聞かないでしょ?」
「誰がお兄さんだよ!」
「あはは、ジョークだよ」
「ったく……」
冬夜は俺より5歳年上で、遊び人風の外見とは正反対で面倒見の良い、話のわかる兄貴分だ。
俺もなんだかんだ言って、冬夜のことは一番頼りにしている。が、信用はいまだに出来なかった。
冬夜は車を運転しながら、少しドライブをしようと言った。豪雨の中、時々稲光が光る。
「お前さぁ、まだ治ってないの?アレ――」
「あ?……何のことだよ??」
「図星――みたいだな」
「いいだろ、別に」
「良くないよ。皆を信用しろとは言わないから、少しは信用できる友達を作りなよ?」
「……」
「余計なお節介だろうけどさ、自分一人で全てを解決できると思うなよ」
「どういう意味だよ?」
「……そのまんまさ」
相変わらず、冬夜は喰えないヤツだ。自分のことはあまり話そうとしない。俺も同じだから、お互い様だ。
「人生、いつ何が起こるかわからないだろ?お前一人じゃ解決できないことが、世の中には沢山あるって事だよ」
「冬夜にでもか?」
「あぁ。俺だって、一人じゃ何もできない無力な人間なんだよ……」
どこか寂しそうな眼をした冬夜。
冬夜には出来ないことはないと思っていた俺にとっては、この一言には愕然とするしかなかった。
「俺だって、完全に信用してる人間なんていないさ。けどな、そんなんじゃ信頼関係なんて築けないだろ?涼にも信頼関係がどんなに必要なものか、そのうちわかる日が来るさ」
「ふ~ん……そんなもんなのか?」
「あぁ、世の中そんなもんさ」
それからは、俺はただボ~ッと窓の外を眺めていた。信頼関係なんて必要ないだろうと思いながら――
ドライブも終盤、そろそろ帰ろうとしている時、静寂を破るかのように俺の携帯が鳴った。どうせ、さっきまで一緒に飲んでた奴等の誰かだろうと思いながら、俺は携帯を見た。どうやら電話ではなく、メールのようだった。が、開いてみると、それはまったく覚えのないアドレスからのメールだった。しかも、とんでもなくフザケタ内容だったのだ。
「涼、どうした?」
「どっかの馬鹿が随分とフザケタモノを送ってきたんだよ……」
「へぇ~。涼に喧嘩売る物好きがまだいたんだな」
「あぁ……『警告 今から1週間以内に、あなたの身近な人を殺します。これは私とあなたで行うゲームです。私が勝つか、あなたが勝つかのね……早く私を見つけ出さないと、あなたの身近な人が次々死んでいきますよ?それでは、健闘を祈ります(笑)』だとさ」
「本当に、良く恨みかったり喧嘩売られたりするなぁ、涼は」
周りが勝手に逆恨みしたり喧嘩売ってきてるだけだ。俺は何もしていない。迷惑な話だ。
「涼の身近な人間だから、俺も殺される可能性があるって事なんだろうね」
「冬夜を殺そうなんて、かなりの馬鹿だな……」
「そうきたか!」
「笑ってる場合かよ……裏じゃ有名な冬夜さんよ?」
「有名なのは俺じゃなく、相方の方だよ。あいつのハッキング能力は一流だからな」
いつの間にか雨は弱まっていた。そして、ようやく俺の部屋があるマンションが見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
「あぁ、助かったよ」
一応、礼だけは言っておく。実際、冬夜のおかげで濡れネズミにはならなくて済んだからな。
「なぁ、あのメールさ、一応柚琉(ユズル)に聞いてみるよ。だから、送信者のアドレスメモらせてくんない?」
「んなこと、しなくていい。柚琉に迷惑かかる」
柚琉というのは、冬夜の相方だ。
「柚琉もお前のことを本当の弟のように思ってるんだ。万が一お前が悲しむようなことがあったら――」
「うっせ~な!もうほっといてくれよ!!」
車のドアを思い切り閉めて、俺は足早に自分の部屋へと向かった。後ろからは冬夜が何かを叫んでいる声が聞こえたが、雨音に邪魔をされ聞き取れなかった。
マンションの中へ入ると、外からは冬夜の車が遠のいていく音が聞こえた。
なんで――なんで誰も俺をほおっておいてくれないんだ……!?
部屋のドアを開けると、暗闇に何かが蠢いた。
「誰だ!」
俺はとっさに叫んだ。
「ヤダ、1週間会わなかっただけでもう忘れたの?」
聞き覚えのある声が、暗闇の中から聞こえてきた。
「その声は……閑那(カンナ)か??」
閑那は、数ヶ月前に街で知り合った自称占い師の男だ。十年位前に事故で両目の視力を失って以来、通常では信じられないようなモノがミエルようになったらしい。
そのせいかは知らないが、なぜかおネエ言葉で話している。
「よかった~、忘れられてたらどうしようかと思ってたのよ?」
最近になって、ようやくこの言葉遣いにも慣れてきた。最初の頃は、聞いただけで鳥肌がたったものだ……