第二章 試練の刻
「ちょっと!!綾芽、貴女一体何をしたのよ!?」
風で舞い上がった木の葉のお陰で、向こうからはこちらの存在が確認出来ない様だ。
「今のうちに……逃げないと――」
綾芽は相手に気づかれないように林へと逃げ込み、見つからないように高い木の上に登った。
「眞葵と遊んでたのが、こういう所で役に立つとわなぁ~……やっぱり、持つべきものは友だね、うん」
大人の背丈の数倍はあるであろう高さから、綾芽は下の様子を伺うことにした。
昔、誰かに聞いた事がある。『かくれんぼなんかをした時、鬼が探すのは自分の目線よりも下だけだ』と。
そんな記憶に頼り、こうして高い所に隠れているのだ。
「それにしても――なんで咲羅と眞葵が、お母さんとおじさんになったんだろ……う~ん――」
考えても仕方がないか~……と木に凭れ掛かって一休みしながら、綾芽は自分の記憶を整理し始めた。
お母さんとおじさん、あの2人の外見や仕草・声はまったく同じだった。ただ――雰囲気がどことなく違っていた。
「なんだろう……この感じ」
自分の記憶があやふや?そんなハズは――
「絶対に無い――と言える?」
不意に、どこからか女の声が投げかけられた。
慌てて体勢を立て直し、声の主を探す。
「クスクス……そんな所には居ないわよ?」
辺りを見回しても、自分より高い所も低い所も見たが、人影なんてなかった。
「私はココよ」
その声と共に風が下から上へと吹き、その風につられる様に綾芽も自分の真上を見上げた。
「やっと気づいてくれたわね」
「あ……貴女……は?」
「見ての通り、『貴女』よ?」
そこに居た女の外見は、『現実世界の綾芽』と瓜二つだった。
「まぁ、正確には貴女のもう一つの顔――とでも言うのかしら?」
そう言いながら、女は綾芽の側に降り立った。女は綾芽の目線に合うようにしゃがみ、話しかけた。
「こうして話をするのは初めてね。初めまして、綾芽。私は――」
女はそこまで言うと、いきなり口に指を当て声を出さずに静かにしろ、と合図した。
気がつくと、辺りは騒がしくなっていた。
お母さんとおじさんが来たようだ。下からは綾芽を呼ぶ、怒りに満ちた声が聞こえてくる。
「とりあえず、場所を移しましょう」
女はそう言うと、スーッと風に乗るような感じで隣の木へと移動した。そこで振り返り、綾芽に向かって話しかけた。
「ココは危険よ。とりあえず、安全な場所まで行きましょう?幸い、向こうはまだ私達に気づいていないわ」
「でも……」
足下を見て、綾芽は竦んでしまった。
綾芽には女のような移動は出来ない。かといって、ここから跳び移れる距離でもない。もし落ちてしまったら――
女の言っている事も、イマイチ理解出来なかった。それでも、他に頼る当てがない。
しかし、女がいつお母さんやおじさんになるかなんて判ったもんじゃない。
「私は貴女を決して裏切ったりしないわ。いいえ、裏切るなんて『不可能』なのよ」
「え……?」
「さぁ、判ったら早く来なさい。気付かれない保証なんてどこにも無いのよ?」
下がさっきよりも騒がしくなっている。
「どうやら――見逃してくれる気は無いみたいよ。さぁ、早くこっちへ」
「そんな事言われても……どうしたらいいのか判んないよ!!」
「頭で考えるんじゃないの。もっと――自分を信じなさい!」
自分を信じる?どっかで聞いたような――
「さぁ、ココには貴女にしか通れない道があるわ!早く!!」
「自分を信じ……る……」
綾芽は目を固く瞑り、自分は大丈夫だと言い聞かせながら、一歩、また一歩と木々の間へと足を踏み出した。
「そう……その調子よ……大丈夫、貴女には目には見えないたくさんの仲間がついているんだから」
「私……ちゃんと歩けてるの??」
「大丈夫よ。そのまま――私の声のする方へいらっしゃい」
ヨタヨタと、ゆっくりだが確実に女の方へ近づいている綾芽。
とその時、下にいる二人に見つかったのか、突然大きな声が林中に響き渡った。
風で舞い上がった木の葉のお陰で、向こうからはこちらの存在が確認出来ない様だ。
「今のうちに……逃げないと――」
綾芽は相手に気づかれないように林へと逃げ込み、見つからないように高い木の上に登った。
「眞葵と遊んでたのが、こういう所で役に立つとわなぁ~……やっぱり、持つべきものは友だね、うん」
大人の背丈の数倍はあるであろう高さから、綾芽は下の様子を伺うことにした。
昔、誰かに聞いた事がある。『かくれんぼなんかをした時、鬼が探すのは自分の目線よりも下だけだ』と。
そんな記憶に頼り、こうして高い所に隠れているのだ。
「それにしても――なんで咲羅と眞葵が、お母さんとおじさんになったんだろ……う~ん――」
考えても仕方がないか~……と木に凭れ掛かって一休みしながら、綾芽は自分の記憶を整理し始めた。
お母さんとおじさん、あの2人の外見や仕草・声はまったく同じだった。ただ――雰囲気がどことなく違っていた。
「なんだろう……この感じ」
自分の記憶があやふや?そんなハズは――
「絶対に無い――と言える?」
不意に、どこからか女の声が投げかけられた。
慌てて体勢を立て直し、声の主を探す。
「クスクス……そんな所には居ないわよ?」
辺りを見回しても、自分より高い所も低い所も見たが、人影なんてなかった。
「私はココよ」
その声と共に風が下から上へと吹き、その風につられる様に綾芽も自分の真上を見上げた。
「やっと気づいてくれたわね」
「あ……貴女……は?」
「見ての通り、『貴女』よ?」
そこに居た女の外見は、『現実世界の綾芽』と瓜二つだった。
「まぁ、正確には貴女のもう一つの顔――とでも言うのかしら?」
そう言いながら、女は綾芽の側に降り立った。女は綾芽の目線に合うようにしゃがみ、話しかけた。
「こうして話をするのは初めてね。初めまして、綾芽。私は――」
女はそこまで言うと、いきなり口に指を当て声を出さずに静かにしろ、と合図した。
気がつくと、辺りは騒がしくなっていた。
お母さんとおじさんが来たようだ。下からは綾芽を呼ぶ、怒りに満ちた声が聞こえてくる。
「とりあえず、場所を移しましょう」
女はそう言うと、スーッと風に乗るような感じで隣の木へと移動した。そこで振り返り、綾芽に向かって話しかけた。
「ココは危険よ。とりあえず、安全な場所まで行きましょう?幸い、向こうはまだ私達に気づいていないわ」
「でも……」
足下を見て、綾芽は竦んでしまった。
綾芽には女のような移動は出来ない。かといって、ここから跳び移れる距離でもない。もし落ちてしまったら――
女の言っている事も、イマイチ理解出来なかった。それでも、他に頼る当てがない。
しかし、女がいつお母さんやおじさんになるかなんて判ったもんじゃない。
「私は貴女を決して裏切ったりしないわ。いいえ、裏切るなんて『不可能』なのよ」
「え……?」
「さぁ、判ったら早く来なさい。気付かれない保証なんてどこにも無いのよ?」
下がさっきよりも騒がしくなっている。
「どうやら――見逃してくれる気は無いみたいよ。さぁ、早くこっちへ」
「そんな事言われても……どうしたらいいのか判んないよ!!」
「頭で考えるんじゃないの。もっと――自分を信じなさい!」
自分を信じる?どっかで聞いたような――
「さぁ、ココには貴女にしか通れない道があるわ!早く!!」
「自分を信じ……る……」
綾芽は目を固く瞑り、自分は大丈夫だと言い聞かせながら、一歩、また一歩と木々の間へと足を踏み出した。
「そう……その調子よ……大丈夫、貴女には目には見えないたくさんの仲間がついているんだから」
「私……ちゃんと歩けてるの??」
「大丈夫よ。そのまま――私の声のする方へいらっしゃい」
ヨタヨタと、ゆっくりだが確実に女の方へ近づいている綾芽。
とその時、下にいる二人に見つかったのか、突然大きな声が林中に響き渡った。