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第二章 試練の刻

「え……あっ初めまして、綾芽(アヤメ)です。よろしくお願いします」
「凛香(リンカ)で~す。よろしくね?楓(カエデ)さん!」
2人が自己紹介しても、涼(リョウ)は素知らぬ顔をしていらる。
そんな涼を見て、閑那(カンナ)は代わりに楓に紹介した。
「この子は涼よ、楓ちゃん。ごめんなさいね、愛想の無い子で……」
「悪かったな、愛想が無くてよ……」
涼は吸いかけの煙草をもみ消すと、楓に問うた。
「おい、チカラを――“課す”と言ったな?」
「そうだよ。“課す”の」
「“貸す”んじゃなくて、ですか??」
「私はずっと貴女達と行動する気は無いからね。今回は閑那の頼みだから来ただけ。貴女達がチカラを手に入れるまでの、期間限定講師みたいなものかな?」
楓の言葉の意味をいまいち理解出来ない3人。そんな3人を見て、楓は閑那に訊いた。
「閑那、私の事――説明してないの??」
「簡単な説明はしてあるわ」
「簡単?どんな?」
「涼と綾芽ちゃんにチカラを与えてくれる人だっていう風に説明したわよ?それ以上は貴女とのセイヤクがあるから言ってないわ」
楓は溜め息を吐き、説明を始めた。
「チカラを与えるのは私じゃないよ。私は貴女達2人がチカラを手に入れられる場所に導くだけ。手に入れられるかどうかは、貴女達次第よ?そこだけは頭に入れといてね?」
「……はい」
「で、何処に連れて行く気だ?」
「そうね……簡単に言うと、ココとは時間の流れが違うセカイってとこかな」
「は?」
「どういう事ですか??」
「そのまんまよ。まぁ、凛香とかいう子と違って、自らチカラを手に入れようとするんだから、かなり厳しいわよ?」
「厳しい……か――望むところだな」
「どういう厳しさかは、人によって異なるから詳しくは言えないけど……相当な覚悟がなきゃ無理ね」
「例えば――どんな事があるんですか?」
「まぁ、その人にとって一番嫌な事が起こるってしか言えないわね。どんな事が起こっても、私は責任取れないし。最後まで自分を信じられなかったら負け。こっちのセカイには一生戻って来れないよ」
「戻ってこれなかったら……どうなりますか?」
「全ての人達からその人に関しての記憶が消えるわ。存在自体が無くなってしまう――最初からいなかった事になるし、その人は闇に飲み込まれたまま苦しみ続けるわね」
「そう……ですか……」
綾芽は考え込んでしまった。どんな事が起こるのか、それに自分は果たして耐えられるのか……
「よく考えるといいわ。私は貴女達に強要しようなんて思ってないから。けど、時間には限りがあるんだからね?」
「俺はやるぜ……お前はどうする?逃げるか?」
涼は馬鹿にしたような笑みで綾芽に訊いた。
「やります。そこまで馬鹿にされて引き下がりたくないから」
「そう……じゃあ、行きましょうか」
楓が後ろを向くと、空間が一部だけ歪んでいた。ちょうど、ドア一枚分位の大きさだった。
「アタシも行く!」
凛香が楓に向かって大きな声で言った。しかし、楓は振り返る事もなく凛香に言った。
「貴女は必要ないわ。ココに残って、閑那と一緒に二人が無事に帰って来れる様に祈ってなさい」
凛香に有無を言わせぬ気迫でそう言うと、綾芽と涼に向かって確かめるかの様に聞いた。
「二度とこのセカイに戻って来れないかも知れないけど――いいわね?」
「あぁ……」
「私には護りたい人達がいます……行かなきゃその人達を護れない――だから、私は引き下がるわけにはいかないんです!」
「そう……なら門番として、二人の通行を許可します」
「綾芽ちゃん!涼!2人とも……ちゃんと戻って来なさいよ!?」
「わ~ってるよ……」
「はい!」
「頑張ってね!?綾芽さん、涼」
「お前……今何て言った?」
「頑張ってね、だけど?」
「その後だよ!」
「涼」
「年上を呼び捨てにするか?!」
「いいじゃん、オッサンよかマシでしょ?」
「ったく――勝手にしろ……」
「行ってきます、閑那さん、凛香さん」
「行ってらっしゃい、綾芽ちゃん、涼」
「急ぎなさい。時間は限られてるのよ」
楓にそう言われ、涼・綾芽の順で歪んだ空間に吸い込まれていった。
「楓ちゃん、2人の事をよろしくね?」
「分かってるよ。ちゃんと送り届けるわ」
楓が歪んだ空間に吸い込まれると、そこにはさっきと同じ輪郭のはっきりとした空間だけが残った。
「閑那……二人とも――ちゃんと戻ってくるよね??」
「大丈夫よ。待ちましょう――2人を信じて……」
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