過去
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うん……」
高宮に開放され、院長室を出た所で陵刀が名前を待ち構えていた。
「院長、何だって?」
心配そうにこちらを見てくる陵刀に、名前は一瞬だけ視線を向けるとそのまま横を通り過ぎて行こうとした。
「待ちなよ」
陵刀の横を素通りしようとした名前だったが、その腕を掴まれた事でそれは叶わなかった。
「……離して」
「院長に何を言われたのかは知らないけど――……少しは僕を頼ってよ」
「…………それは無理」
「どうして?僕じゃ頼りない?」
「そういう問題じゃ……」
「“そういう問題”だよ、僕にとっては」
いつにも増して真剣な表情で、陵刀は名前を見つめた。
そんな陵刀の行動に、名前は成す術もなく力なく項垂れた。
「……分かったよ。ちゃんと話す。だから――この手を離して」
「本当に話してくれる?」
「うん、話す。じゃないと、陵刀先生は納得してくれないんでしょ?」
「そうだね。話して貰わないと納得出来ないかな」
「じゃあ、医局に行こうか。ここじゃ誰に聞かれるか分からないし」
名前はそう言うと陵刀に背を向けて歩き出した。
陵刀も自分から遠ざかって行く名前の背中を見つめ、その後をゆっくりと追いかけた。
医局に着くなり、名前は陵刀が入ってきた事を確認すると扉のカギを掛けた。
「随分と慎重だね」
「そりゃあね……あんまり人には聞かれたくないし」
そう言いながら、名前は室内にあるソファーに身を沈めた。
「さて……何から話そうか…………」
「院長に言われた事、教えてくれないかな?」
「院長に、ね……大したことじゃないよ。幸せになれ、それだけ」
「幸せに?どうしてまた急に……」
「急じゃないよ、院長にとっては」
「どういう意味かな?」
「院長とウチは古い付き合いでね。親代わりみたいなモンなんだ」
「親代わり?」
「そう、親代わり。ウチは両親が離婚しててさ……その時近所に住んでた院長が父親みたいな存在だった。今でも父親みたく思ってる。だからこそ、院長の誘いに乗って此処に来たんだ」
懐かしそうに目を細めながら、名前は昔話をし始めた。
「そうだなぁ……院長との付き合いはかれこれ15年位にはなるのかな?」
高宮と名前が出会ったのは、名前がまだ10代の頃だった。
その時の名前は、まだ自分自身が障害を抱えているという認識もなく、所謂普通の生活を送っていた。
しかし、当時の恋人と共依存になっている事を認識出来ず、ある日突然起こる恋人のDVとハネムーン期の繰り返しを普通の事だと思っていた。
そんな日常を送っていると、やはり心は病んでいくばかりなのは明白だった。
名前の異常にいち早く気付いたのは、親ではなく高宮だった。
彼は力づくで名前を恋人と別れさせた。その事に対し、名前は一時とはいえ高宮を恨んでいた。何故自分から恋人を引き離したのか?それを理解出来る様になったのは、自分の病気を認識してからだった。
恋人と別れさせられた名前は、突然攻撃の対象を自分にしだした。実家にいる時は隠れて、一人暮らしをするようになってからは衝動的に自身を傷付けていた。それが名前を病院へ行かせるキッカケになった。
それまでは半袖等を着ていた名前が、急に真夏でも長袖を着ている事を訝しんだ高宮が、強引にその腕を見たのだ。
その事で、名前が自身を傷付けているという事が高宮にバレてしまった。
そこからの高宮の行動は実に速かった。親にバレたくないという名前の意向を汲んで、医療費を肩代わりして名前を通院させた。
最初は嫌々通院していた名前だが、次第に自身の置かれている状況を把握しだした。
高宮に開放され、院長室を出た所で陵刀が名前を待ち構えていた。
「院長、何だって?」
心配そうにこちらを見てくる陵刀に、名前は一瞬だけ視線を向けるとそのまま横を通り過ぎて行こうとした。
「待ちなよ」
陵刀の横を素通りしようとした名前だったが、その腕を掴まれた事でそれは叶わなかった。
「……離して」
「院長に何を言われたのかは知らないけど――……少しは僕を頼ってよ」
「…………それは無理」
「どうして?僕じゃ頼りない?」
「そういう問題じゃ……」
「“そういう問題”だよ、僕にとっては」
いつにも増して真剣な表情で、陵刀は名前を見つめた。
そんな陵刀の行動に、名前は成す術もなく力なく項垂れた。
「……分かったよ。ちゃんと話す。だから――この手を離して」
「本当に話してくれる?」
「うん、話す。じゃないと、陵刀先生は納得してくれないんでしょ?」
「そうだね。話して貰わないと納得出来ないかな」
「じゃあ、医局に行こうか。ここじゃ誰に聞かれるか分からないし」
名前はそう言うと陵刀に背を向けて歩き出した。
陵刀も自分から遠ざかって行く名前の背中を見つめ、その後をゆっくりと追いかけた。
医局に着くなり、名前は陵刀が入ってきた事を確認すると扉のカギを掛けた。
「随分と慎重だね」
「そりゃあね……あんまり人には聞かれたくないし」
そう言いながら、名前は室内にあるソファーに身を沈めた。
「さて……何から話そうか…………」
「院長に言われた事、教えてくれないかな?」
「院長に、ね……大したことじゃないよ。幸せになれ、それだけ」
「幸せに?どうしてまた急に……」
「急じゃないよ、院長にとっては」
「どういう意味かな?」
「院長とウチは古い付き合いでね。親代わりみたいなモンなんだ」
「親代わり?」
「そう、親代わり。ウチは両親が離婚しててさ……その時近所に住んでた院長が父親みたいな存在だった。今でも父親みたく思ってる。だからこそ、院長の誘いに乗って此処に来たんだ」
懐かしそうに目を細めながら、名前は昔話をし始めた。
「そうだなぁ……院長との付き合いはかれこれ15年位にはなるのかな?」
高宮と名前が出会ったのは、名前がまだ10代の頃だった。
その時の名前は、まだ自分自身が障害を抱えているという認識もなく、所謂普通の生活を送っていた。
しかし、当時の恋人と共依存になっている事を認識出来ず、ある日突然起こる恋人のDVとハネムーン期の繰り返しを普通の事だと思っていた。
そんな日常を送っていると、やはり心は病んでいくばかりなのは明白だった。
名前の異常にいち早く気付いたのは、親ではなく高宮だった。
彼は力づくで名前を恋人と別れさせた。その事に対し、名前は一時とはいえ高宮を恨んでいた。何故自分から恋人を引き離したのか?それを理解出来る様になったのは、自分の病気を認識してからだった。
恋人と別れさせられた名前は、突然攻撃の対象を自分にしだした。実家にいる時は隠れて、一人暮らしをするようになってからは衝動的に自身を傷付けていた。それが名前を病院へ行かせるキッカケになった。
それまでは半袖等を着ていた名前が、急に真夏でも長袖を着ている事を訝しんだ高宮が、強引にその腕を見たのだ。
その事で、名前が自身を傷付けているという事が高宮にバレてしまった。
そこからの高宮の行動は実に速かった。親にバレたくないという名前の意向を汲んで、医療費を肩代わりして名前を通院させた。
最初は嫌々通院していた名前だが、次第に自身の置かれている状況を把握しだした。