「ほぅ……ますます気に入ったよ、お嬢さん」
「その【お嬢さん】っての止めて貰えませんかね？」
「では、何と呼べというのだ？」
「【ナマエ】。それが私の名前です」
「そうか。ならばナマエ、今回の【依頼】――しっかりと果たしてくれよ？」
「仰せのままに」

【十老頭】と別れ、宿泊しているホテルへと帰り着くなり、ナマエはベッドへ倒れこんだ。
（さすがは【十老頭】……威圧感が半端無かったなぁ）
小さく溜息を漏らしながら、胸ポケットに入れっぱなしにしていた携帯の電源を入れる。
すると、【十老頭】との会談中に受信出来なかったメールがどんどんと受信し始めた。
【奪還屋】のメールだけを選別し、オークションが終わってから受けられる物だけを残していく。
その作業が終わると、今度は個人的なメールに目を通し始める。
「ん？ヒソカから……？」
［今夜蜘蛛が動く♥］
たったそれだけの短いメールだった。
「やっぱ関わらなきゃダメだよなぁ……クラピカに無駄な殺しさせたくないし」
それほど広くない室内で、思考を巡らせる。まずは旅団との接触が必要か？しかし、接触したら間違いなくクロロと絡む事になる。またスカウトされるのか……そう思うと頭が痛くなる。知らず知らずのうちに声に出ているナマエ。そんな空気を破るかの如く、聞き覚えのある声が室内に響いた。
「やァ♣久しぶり♥」
「……なんでここにいるわけ？」
声のした方へと視線を向けるナマエ。そこには数ヶ月ぶりに会う男の姿があった。
「なんでって、ボクはここで【仕事】があるから♦」
相変わらず表情を変えずに、ヒソカはナマエに近づく。
「ナマエこそ、こんな所で何してるの？」
「【仕事】。協会直々のご指名でね……」
「ふ～ん……♠」
二人の間に沈黙が流れた。
ヒソカが入ってきた窓からは、風が流れ込んでくる。その風に、ナマエの髪が靡いていた。

「大事な【仕事】中にわざわざ会いに来るなんて、どういう風の吹き回し？」
先に沈黙を破ったのはナマエだった。
「ナマエに釘を刺しておこうと思ってね♣」
「……そう。でも、例えヒソカが相手でもこの【仕事】を投げ出すつもりはないよ」
威嚇するかのように、ヒソカを睨みつけながらナマエは続けた。
「こちとらイルミの【お仕置き】覚悟で、この【依頼】を受けたんだ。それなりの覚悟は出来てる」
「そんなに睨まないでおくれよ♠別に邪魔しようと思ってるわけじゃないんだから♥」
「じゃあ、何だっての？どうせこの【依頼】はクロロが絡んでるんだから、止めに来たんじゃないの？」
目線をヒソカから外さず、なおも続けるナマエ。そんなナマエを見て、ヒソカは若干表情を崩した。
「無茶な事はするなって言いに来ただけ♦ナマエにも会いたかったし♥」
威嚇し続けるナマエの頬に触れながら、ヒソカは思った。自分の想像以上に、思考をナマエに支配されている。ナマエの影響力がそうさせているのかもしれない。危険だと思った。ナマエと関わっているうちに、仕舞い込んでいた感情が漏れだしてきている。どこかで今の自分を否定しながらも、今の状態が心地良いと感じる自身がいる。
「で、結局何をしに来たわけ？」
訝しげに言うナマエに、ヒソカはニヤリと笑った。
そんなヒソカの手を払いのけ、距離を取るナマエ。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか♣さすがにボクでも傷つくよ♠」
「嘘ばっかり。どうせ面白がってるんでしょ？これから起こる事を」
「どういう意味だい？」
「クロロと決闘する為には、手段を選ばないんでしょ？なら、私の邪魔をしないで」
「邪魔をしに来たんじゃない♦情報提供に来ただけさ♥」