「お前、マジで【奪還】して来たのか？」
「【奪還】してきたからジンに会いに来たんじゃない」
依頼品に相違ないかマジマジと見つめながら確認し、間違いがないと確信すると満面の笑みを浮かべるジン。
「やっぱお前に依頼して正解だったわ」
「でしょ？相手にイラついたけど、品物はきちんと奪還できて良かったよ」
「お前をイラつかせた相手って……」
「幻影旅団」
「はぁ？！」
「旅団の団長には本っ当にイラついた。ってか、現在進行形でイラついてる」
「……何やからしたんだ？」
ジンが小声でイルミに状況説明を求めている。
「クロロ…旅団の団長がナマエをスカウトしたんだって」
「何だと！？いくらウチの娘が優秀だからって、盗賊集団に仲間入りさせる訳にはいかん！！」
いきなり大声で叫び出すジンを見て、ナマエはポカンとした。
「ナマエ！」
「な……何？」
「お前も電脳ページの極秘会員にするからな！これ以上お前の情報を、幻影旅団にくれてやる訳にはいかん！！」
言うが早いか、ジンは携帯でどこかに電話し、終わった頃にはナマエの情報はアクセス不可になっていた。
「ジンの影響力って……時々怖い」
呟くナマエに、イルミは『そう？』とだけ返した。

幻影旅団の一件で意気投合したイルミとジンは、何故か今酒を酌み交わしている。
「幻影旅団が絡んだ依頼だったら、仲介しなかったんだよ！オレは」
「オレも旅団絡みは止めたんだけどね」
「いやいや、お２人さん……不可抗力という物をだね……」
「「今後は絶対禁止」！！」
「……ハイ」
「ナマエ、本当に解ってるの？」
イルミがその大きな瞳を若干細めながらこちらを見つめてくる。
「解ってるって。そんなに心配しなくても、あんな胸糞悪くなるバトルはもうしたくないよ」
苦笑しながら答えるナマエに、イルミは更に目を細めた。
「ならいいけど――破ったら、【お仕置き】だからね」
「ハイハイ」
ナマエの返答に何処か納得していないイルミだが、深追いせずに話を切り上げた。
そんなイルミに感謝しつつも、ナマエはこれから起こる事に思考を巡らせていた。
クラピカと旅団の戦闘を何とか食い止めなければ……いや、食い止めなくてもいい。無駄死さえ出さなければそれでいい。いけ好かない連中だが、旅団が抗争を起こせばいくらマフィアとは言え無駄な死人が出るだけだ。それだけはなんとか食い止めたい。
ナマエが一人思考に耽っている最中、イルミとジンはまだ酒を酌み交わしていた。

「ナマエのどこがそんなに気に入ったんだ？」
ジンの言葉に、イルミは暫し考え込んだ。どこが気に入ったのか？それはイルミにも漠然としか解らない。
「さぁ？気づいたらナマエが気に入ってた。今まで色んな女を婚約者として連れて来られたけど、ナマエみたいに惹かれたのは初めてだから、解らないのが正直な気持ちだなぁ」
「解らないのに執着しているのか？」
「うん」
互いにグラスへ酒を注ぎながら、言葉を交わす2人。ナマエはそんな事も知らずにただただ思考に耽っている。
「俺が言うのもなんだが、ナマエは人を惹きつける。自分の行動がどんな影響力を持っているかすら、ナマエは理解していない」
真剣な面持ちで言葉を紡ぐジンに、イルミは黙って耳を傾けている。
「あいつは何も解っていない。自分の力がどんな影響を周りに与えているのか……【ソレ】はお前が一番よく解ってるはずだ」
イルミの漆黒の瞳を見据えて、ジンは空になったグラスを地面へと置いた。
「あいつが自分の身を危険に晒してまで、【何か】を成し遂げようとしている事は理解しているつもりだ。だが、義理とはいえ父親としてナマエの悲しむ顔は見たくない。それは解ってくれるな？」