ナマエはそのまま起き上がり、部屋に備え付けのシャワーを浴びた。
シャワーから戻ると、イルミはベッドの上でうつらうつらとしていた。
「まだ眠い？」
髪を拭きながら訊ねるナマエに、イルミは軽く頭を振った。
「大丈夫。もう起きた」
「そ。イルミも浴びてきたら？目がすっきり覚めるよ」
「うん。そうする」
ベッドから這い出るようにしてイルミはシャワールームへと移動し、数分後には戻ってきた。
「目は覚めた？」
「うん」
『目が覚めた』とは言いつつも、イルミは寝ぼけ眼だ。
コンコンというノック音に返事を返し扉を開けるとと、ゴトーが礼儀正しくお辞儀をし控えていた。
「お早う御座います、ナマエ様。イルミ様はお目覚めですか？」
「お早う御座います、ゴトーさん。イルミなら、ついさっき起きた所ですよ」
「左様で御座いますか。お食事の用意が整っておりますが、いかが致しますか？」
「ちょっと待ってて下さいね」
ナマエはイルミに朝食をどうするのか訊ねた。
『食べる』との返答がイルミから返ってきた為、ゴトーのその旨を伝える。
「では、食堂にてお待ち致しております」
そういうと、ゴトーは一礼して去っていった。イルミは朝食を『食べる』と言いつつも、まだ眠そうな顔をしている。付き合うようになったこの数ヶ月で、イルミの表情には微かに感情が出てくる様になっていた。
「眠いなら、ご飯持って来て貰うか後で食べるかにしない？」
「大丈夫」
欠伸と伸びをしながらイルミはナマエの元へと歩いてきた。
「ちゃんと眠れた？」
「うん。おかげさまで」
「オレはあんまり眠れなかった」
『ふあ～』っと大きな欠伸を再度し、イルミはナマエに抱きついた。
「朝から甘えただね。どうしたの？」
「ん。ナマエ補給中」
「意味不明」
イルミは時々行動も言動も意味不明になるとナマエは思っている。しかし、イルミはイルミで愛情表現として行っているのに気付いて貰えていない状態。
苦笑したナマエがイルミの背をポンポンと優しく叩き、離れるように促した。
促された事で仕方がなしに離れたイルミだが、今度はナマエの手を握った。
「行くよ」
「え？ちょっ……」
そのままナマエの手を引っ張って、イルミは食堂へと向かった。
食堂のドアの前には執事が1人待機しており、イルミの姿を見るなり恭しく礼をしてドアを開けた。
「あら、遅かったわね。イルミ」
「これでも早起きした方なんだけど」
無機質なイルミの声に、食堂に集まっていたシルバ達は笑った。
「確かに、お前にしては【早起き】だな」
「ナマエちゃんのおかげかしら」
『若いっていいわね～』と上品に笑いながらキキョウは言った。何処をどう取ればそうなるのかは理解出来ない。キキョウになんと返せばいいのか思考を巡らせていると、イルミから『母さんの言う事は気にしなくていいから』と言われた。
朝の挨拶も済ませ、昨日と同じ席に着く。
イルミによると、メニューこそ他の人と同じだが使われている【毒物】が個人個人違うらしい。
「ナマエはまだ始めたばかりだから、カルトよりも弱い【毒】だよ」
カルトがこれよりも強い【毒】入りの飲食物を平気な顔で平らげている様に驚愕した。
「ま、慣れれば強い【毒】に変えていくから」
イルミはそう告げると黙々と目の前の料理を片付けていった。

部屋に戻り携帯を見ると、ジンからのメールが着ていた。依頼したい【仕事】があるらしい。『詳細は電話で』とあった為、イルミに断りを入れてジンに電話する。
「もしもし、ジン？」
『おっ、ナマエ待ってたぞ！何かあったのか？！』
「ごめん、携帯放置して寝ちゃってた」
『そうか。まぁ、無事ならそれで良い』
豪快な笑い声を響かせながら、ジンは依頼内容を話し始めた。