「何でそこまで付きまとってくるわけ？」
最初は“獲物”として認識していたナマエにそう言われ、クロロは少しだけ考えて答えた。
「好きだって言ったろ？それに、ナマエが他の男に取られたんじゃ堪ったもんじゃないからね」
青年然りといった風情のクロロは、そう言いながらナマエに手を伸ばした。
あと僅かでナマエに触れられる。そんな距離になったところで邪魔が入った。
「ナマエにむやみやたらに触れるな」
「……狼男か。邪魔するなよ」
「おやおや、お嬢様の奪い合いですかァ？楽しそうですねェ……ワタシもまぜて貰いましょうかねェ」
カゲロウがクロロを止めていると、それを見たハヤテが面白可笑しそうに笑いながら輪に加わろうとした。
「ハァ……3人とも止めろ。後始末が面倒くさい」
ナマエは溜息を隠すことなく漏らすと、頭を掻きながら言い放った。
「面倒事を起こす気なら追い出すぞ、クロロ」
「それは勘弁願いたいね」
「カゲロウもこんな事でいちいち目くじら立てなくていいから」
「しかしッ――」
「いいから！」
「……分かった」
「ハヤテも茶化すんじゃない。お前が入ると、余計拗れて収集がつかなくなる」
「ハイハイ。お嬢様の仰せのままに」
3人に釘を刺すと、ナマエはクロロに興味がなくなったと言わんばかりにその場を去った。

それからナマエはテリトリー内にあるお気に入りの場所へと足を運んでいた。
誰にも邪魔をされずに、思考に耽るにはもってこいの場所でもあったからだ。
小川のせせらぎを遠くに感じながら、ナマエは考えた。
何が良くて自分に好意を寄せるモノが増えてくるのか。
イルミは思考が読めない。ハヤテは意味不明である。一番の謎はクロロだった。
【能力】に魅かれて近づいてきたのだと思っていたが、最近はどうも違う感じがする。
遥か昔に忘れたはずの感情を思い出させるような、そんな雰囲気を感じていた。
「やっぱりココにいた」
「……なに？なんか用があるなら、ミヤビに言って」
「ナマエと一緒にいたいから来たんだけど……駄目だったかな？」
「……邪魔しないならいいけど」
「邪魔って？」
「考え事の邪魔。しないって約束できる？」
「あぁ、そういう意味の邪魔か。しないよ。オレもこの場所が気に入っているし、ボーッとしたい気分だしね」
その会話を最後に、ナマエはクロロの存在を無視するかのように遠くを眺めながら思考に耽っていた。

気づいた時には辺りは綺麗な夕焼け空に変わっており、若干だが肌寒く感じてきた。
「あ、戻ってきたみたいだね」
「は？」
「やっと思考に耽るのが終わったねって意味」
「あぁ……そういう意味ね。いったん考え出したら、しばらく思考回路が持ってかれるから」
「ククッ」
「何がおかしいのさ？」
「いや、オレと似てるなって思っただけだよ」
「……嫌だな、そんな共通点」
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか。結構傷ついたよ、今の言葉」
思考の読めない表情をしながら、クロロは笑いながら立ち上がった。
「さ、そろそろ戻ろうか。あんまり遅いとあのメイドに怒られるし」
「……ミヤビの小言は聞きたくないから、それだけは賛成」
伸ばされたクロロの手を無意識に取りながら、ナマエは立ち上がり歩き出した。
「たまにはこういう時間も悪くないね」
「ん？何か言った？」
「何でもないよ」
クロロの呟きはナマエの耳に届かず、そのまま空へと吸い込まれていった。