「久しいな。元気にしていたか？」
「はい」
「お前がここに来るのは……何年振りだ？」
「2～3年振り位ですね」
「もうそんなに経つのか……どうりで見違える程オーラ量が増している訳だ」
ナマエに近づくと、シルバと呼んだ男は大きな手でナマエの頭を撫でた。
「今回はどの位居れそうだ？」
「フェンリルの怪我が治ったら、直ぐにでも立つつもりです」
「そうか……さっきゴトーから聞いたが、随分手酷くヤられたらしいな」
「えぇ……私はフェンリルを傷つけた奴等を許さない」
「“あの”フェンリルをあそこまで怪我させるとはな。相手はどんな奴だ？」
「クロロ・ルシルフルという男の仲間達です」
「……幻影旅団か」
シルバは眉をピクリと動かし反応した。
「シルバ小父様、知ってるんですか？！」
「知ってるも何も……有名な賞金首だぞ」
「アイツ等が……」
「お前が望むなら、オレ達も手を貸すが？」
「いえ……売られた喧嘩は自分達で始末します」
「そうか――くれぐれも死ぬ様な無茶だけはするなよ」
「……解ってます」
「ならいい」
「まァ！パパだけナマエちゃんと仲良くするなんて！！」
シルバの言葉に決意を新たにしていると、キキョウが割って入って来た。
「煩いぞ、キキョウ」
「せっかく“娘”が帰ってきたのよ！？それなのに独り占めされて黙ってられますか！！」
「コイツはゾルディックには嫁がない。それは大分前に決まった事だろ。お前もいい加減諦めろ」
「お嫁に来なくても、ナマエちゃんは私達の“娘”同然なのよ？！」
「キーキー喚くな。そろそろ仕事の時間だ。行くぞ、キキョウ」
シルバはキキョウを半ば無理矢理連れてその場を後にした。
それと入れ違いで、ゴトーが1人の男を連れて歩いて来た。
「旦那様達とお話されていらっしゃったようですね」
「ゴトーさん……そちらがお医者さん？」
「えぇ。早くフェンリル様のお怪我を治療させましょう」

「これは手酷くヤられておりますな」
「彼は……フェンリルは助かる？」
「まぁ、“人間”なら死んでもおかしくない状態ですが……ご安心なされ。“精霊”じゃからこの程度で死ぬ事はまずあり得ませぬよ」
「良かったぁ……」
医師の言葉に、ナマエは安堵からその場にへたり込んだ。
「しかし、傷口がきちんと塞がるまでは絶対安静じゃな。いくら“人間”と比べて丈夫でも、これだけ出血が酷いのじゃ。無理に動くと何らかの障害が残らんとは言えないからの」
「大丈夫です。ここに居る間は安静にさせます。彼に死なれたら困りますから……」
眉根を下げながら言うナマエに、イルミは僅かに心が揺らいだ。

やがてフェンリルの手当を終えた医師とゴトーが部屋から去ると、ナマエはフェンリルが眠っているベッドの端に腰を掛けて彼の頬を撫でた。
「無理させてごめんね……」
時折顔を顰めるが、決して目を覚ますことのないフェンリルを見ながらナマエは涙を堪えていた。
「ナマエってさ」
「ん？」
「何でそこまで彼に依存してるの？」
「依存……してるのかなぁ？」
「してるよ。少なくとも、オレにはそう見える」
「そっか……まぁ、同じ“境遇”だからかもね」
「そんな理由でオレを振ったの？」
「は？」
「昔言ったよね？オレと結婚してって」
「あぁ、そんな事もあったね……でも、フェンリルが理由じゃないよ？」
「じゃあ、何で？」
「私とイルミとじゃ価値観が違いすぎるから、ってのが理由かな。それに、イルミは私を“針”で操ってまで一生を共にしたいと思ってないでしょ？」
「うん」
「だからイルミとは結婚出来ないの。イルミの事は好きだけど、それは異性としてじゃない。こんな言い方したら嫌がられるだろうけど、“友達”として好きなんだ」
「オレ、“友達”は要らないんだけど」
「知ってる。だから嫌がられるって言ったの」
クスクスと笑いながら言うナマエに、イルミはやはり手放したくないという想いに駆られた。