縁日(ビッグボディ×フェニックス)

「なあ、近くで縁日をやっていたぞ」
宵の口に帰宅したビッグボディはフェニックスにそう告げた。
帰りしなに通りがかった神社の境内がたいそう賑やかになっていて、屋台もたくさん出ていたからひやかしに行こうとビッグボディが提案すると、フェニックスは「まあ、かまわないが」と了承した。ビッグボディは渋るでもなく喜ぶでもない彼の背を押して、神社に足を運んだ。

縁日はまさに今がたけなわで、参道の両脇には屋台がズラリと並び、裸電球の照明が煌々とあたりを照らしだしている。たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、ワタアメにリンゴ飴、ベビーカステラにかき氷。雑多な食べ物のにおいとかまびすしい電源バッテリーのモーター音が否が応でも雰囲気を盛り上げる。
人並み外れて大きくピンクの肌をしたビッグボディは見た目どおりにこんな陽気な場所が大好きだ。
「いいなぁ、このにぎやかな感じ!」
「まずは、腹ごしらえしよう。フェニックスは何がいい?」
「オレは、何でも」
「そんなこと言うなよ、お前は何が好きなんだ?」
日々の生活がよりよいものになるよう神に願う祭礼はもちろんキン肉星にもあった。
「こういう所へ来たことがないんだ、あまり。子供の頃はゆとりがなかったから」
フェニックスはここではないどこかを眺めるような遠い目をして言った。
「それじゃ、今夜は食べまくって遊び倒そう!」
ビッグボディは彼を元気づけようとその肩を軽く叩いた。

まずはタコ焼きを一皿買って二人で手を伸ばす。竹串にささったタコ焼きはビッグボディにかかると小さな菓子粒のようだ。彼はフェイスシールドの部分だけを外してそれを口に運んだ。またたく間に平らげ、同じく焼きそばも分け合ってあっさり腹におさめた。それからイカ焼きを一本ずつ買って、食べながら境内をそぞろ歩く。
「ちょっと行儀が悪いが、これも祭りの楽しみだからな」
「店のなかで食べるのとは、感じが違うな」
「だろ!気に入ったか?」
「ああ、悪くない」
言葉通りまんざらでもなさそうなフェニックスの笑顔にビッグボディの胸に嬉しさがこみ上げる。哀しいまでに知性に忠実な、彼のひたむきさが好きだ。だけどたまには肩の力を抜いて、こんな風に笑ってみせてほしい。
それから二人は金魚すくいをした。ほとんど経験がないにも関わらず、フェニックスは次から次へと金魚をすくい上げた。驚くビッグボディに彼はポイの構造や材質、水の抵抗、そして金魚の行動を観察すれば自ずと分かるだろうと、サラリと答えてみせた。
すくい終わると二匹だけ受けとり、残りは水槽に返した。白地に赤の混ざったコメットと赤一色の琉金だった。

フェニックスは型抜きも知らないと言うので、ひよこの図案を選んで、二人で並んでやってみた。ビッグボディが大きな図体でしゃがみ込んで、四角くて小さい塊を針でチマチマ突いているの姿は周囲のほほ笑みをさそった。フェニックスは持ち前の集中力で地道に型を削っていったが、いよいよ完成というところで、パキ、とあっけなく割れてしまった。ビッグボディはそれよりしばらく前(正しく言えば始まってすぐ)に型を割ってしまっていた。
納得いかない、そんなふうにフェニックスはひよこになるはずだった残骸をためつすがめつした。灯りに透かし、目を近づけ、やがて彼は店の男に言った。
「おい、これは最初からビビが入っているだろう。不良品だ」
――やっちまった。
ビッグボディはそのセリフを聞いて思わず頭をかかえた。
こういう遊びに不慣れなフェニックスは暗黙の了解というものを全く理解していなかった。
公衆の面前でクレームをつけられた香具師は「何を言いがかりを」といきり立った。
ビッグボディは香具師に謝罪し、フェニックスの肩を抱いて慌てて人混みに紛れこんだ。フェニックスの手にぶら下がった金魚の入った水袋がチャポチャポ音をたてていた。

「……あのなぁ。人前であんなこと言っちゃダメだ」
「しかし事実だろう」
フェニックスはたしなめられてもケロリとしている。
「そうだとしても、あんな風に言ったら、商売に差し障る。アイツの面子も丸つぶれだろう?それにあれは雰囲気を楽しむもんだ」
「……なるほど」
「ヒヤッとしたよ。ああいうタイプは血の気多いからな」
腐っても超人、人間一人に遅れを取ることはけしてないが、当たり所悪く相手に怪我をさせたら大変なことになってしまう。
「悪かった」
ビッグボディは珍しい、と思った。フェニックスが素直に謝罪を口にするとは。
「まあいいさ!小さいことは気にするな」

二人は境内をあとにして帰路についた。歩幅の広いビッグボディはいつもフェニックスの歩幅に合わせて歩く。
「お前にも、知らないことがあるんだな」
フェニックスはビッグボディの言葉にきょとんとした表情を浮かべた。
「当たり前だろう、オレは神じゃない……それよりビッグボディ、お前マスクにソースがついてるぞ」
「え、ホントか?」
「とってやる。かがんでみろ」
フェニックスはビッグボディのマスクについたソースを親指でぬぐい取り、ペロリとなめながら若草色の目を細めて笑った。

fin
(初出:2024.08.19 Pixiv)
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