ヒーロー(ビッグボディ×フェニックス)

「……もしかしてオレって世間に悪行超人だと思われてるのか?」
ある日外出先から帰ってきたビッグボディは思いつめたような表情でフェニックスにたずねた。心なしか顔色も悪く、いつものピンクからこころもち青みピンクになっている。
「どうした、藪から棒に」
珍しい、とフェニックスは思った。たいていの事では動じないこの男が。さし当たってひと息つけるよう、彼に熱いコーヒーを淹れてやることにした。
しばしの後、ビッグボディは熱いコーヒーが注がれたカップを手に、その日あった出来事を話し出した。
「オレが街を歩いてたら目の前で子供が転んだんだ。おこしてやろうとしたら『あっちいけ、悪行超人!』って言われて……。『オレは悪行じゃない』って教えようとしたら、怖がって泣くんだ、コレが」
「なんだ、そんなことか」
困っている誰かを放っておけないところが実に彼らしい。自分ならどこかに親がいるだろうから、と手をだすかも怪しいところだ。
「けどな、小さい子供に悪者扱いされるってのは精神にくる。おまけに泣きながら石をぶつけられた」
「圧迫感があるからな、お前は」
圧迫感、どころではない。子供の目線なら象とかヒグマとか、そんな感覚だろう。フェニックスにはその言動が何に起因するものかおおよそ察しがついた。子供の親の認識が王位争奪戦の頃のままなのだろう。しかし悪行と残虐は厳密には異なるし、運命の五王子はその後、六鎗客、超神と立て続けに起きた超人(及び人類)の危機にアイドル超人らと共に立ち向かった。そのことを多くの人間も認識している。ただ、彼らはあくまでもキン肉星出身の超人で地球出身ではないし、先の二つの大戦もいたずらに人間社会の混乱を招くことのないよう、報道はトーンをおさえた形で行われていた。そのため、超人格闘技に関心のない者にとっては馴染みが薄く、王位の頃の認識が改まっていない人間がいてもそれは致し方ない。
フェニックスは自身の推論をそんなふうにビッグボディに話した。
彼は「なるほど」と一応納得したが、数日経ってもどこか気落ちした様子で、フェニックスは一計を案じることにした。

彼はまず宇宙超人委員会にコンタクトを取ることにした。フェニックスからのビデオ通話はたちまち委員長であるハラボテ・マッスルに取りつがれた。不遜を承知で言えば、これくらいの対応が普通なのだ。
真っ黒な画面のまましばらく待つと、とつぜん画面が切り替わり、モニターのなかにハラボテ・マッスルの角ばった顔が写し出された。
「やあ、久しぶりだな、フェニックス」
「久しぶりだな委員長。変わりはないか」
「相変わらずだ、忙しいばかりで。それにしても君が私に連絡してくるとは珍しい」
「忙しいのは人望のある証拠だろう。委員長の名声は今でも地球に届いているぞ」
「大げさだな、君は」
フェニックスの賞賛にハラボテはまんざらでもないらしい。彼は人よりも虚栄心が強く、まれに腹持ちならないこともあるが、その分扱いやすい。これなら交渉は上手くいくだろうとフェニックスは目算を立てた。
「実は委員長の伝手を頼って頼みたいことがあるんだが――」
ハラボテとの通話を終えたフェニックスがビッグボディの姿を探すと、リビングでぼんやりとテレビを眺めていた。
「おい、来週の日曜日は空いててただろう?」
「ああ」
「オレに一日つき合え」
「出かけるのか?」
「そんなところだ」
たんなるデートとも違うような気がしたが、それ以上は黙して語らず、その日になれば分かるだろう、とビッグボディは考えるのをやめた。
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