ずっと前から(ビッグボディ×フェニックス)

「月が綺麗だ」というフレーズが、告白の意味を持つことをビッグボディが知ったのは、つけっぱなしにしていたテレビのバラエティ番組によるものだった。ゲスト出演していた女性アイドルもそのことを知らなかったらしく、由来を聞いて「そんなロマンチックな告白されたら、つき合っちゃうかも」などとはしゃいでいる。ビッグボディはある決心をした。

それからしばらくたったある日の夜、フェニックスとビッグボディは川沿いの土手を二人で歩いていた。雲ひとつない青黒い夜空に、くり抜いたようにぽっかりと黄色い満月が浮かんでいる。
今しかない、とビッグボディは心をきめた。
「月が、きれいだな」
その言葉をきいたとたんフェニックスは歩みを止め、丈高いビッグボディをふり仰いだ。
「……お前にそんな小賢しいセリフは似合わん」
一応、意図は伝わったらしい。
「に、似合わないか?」
フェニックスは肩をすくめると、木で鼻をくくったように笑った。
「どこでそんなセリフを覚えたのやら。回りくどいことをせず、言いたいことはふつうに言え」
仕方ない。
モガモガと口ごもったあと、ビッグボディは「あ、愛してる」とつぶやいた。まるでその巨躯のなかには、もうこれっぽっちも勇気など残っていない、とでもいうように。
フェニックスは「知っている」とだけ言って、再び歩きだした。
一世一代の試みが無駄になってしまい、ビッグボディはショボンと肩を落としてあとに続いた。
いくらも歩かないうちに、フェニックスは彼に背中を向けたまま、小さな声で言った。
「月は前から出ていただろう」
「……え?」
――確かにそうだった。フェニックスはごくたまに「月がキレイだな」とつぶやいていた。
寒夜にも、春宵にも、短夜にも、そして秋夜にも。
ビッグボディは腰をかがめて相手の手をにぎり、指を絡また。
二人はそうして手と手を握りあったまま、しばらく歩き続けた。

fin
(初出:2024.08.14 pixiv)
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