真夜中の太陽(キン肉マンスーパー・フェニックス)
とつぜん、おだやかな空気を断ち切るように、執務室のドアが乱暴に三度たたかれ「フェニックスー!おるか!?」とドアの向こうから声が響いた。勝手知ったるその声に、フェニックスとアタルは目を見合わせた。
「……スグルはいつも、あんなふうなのか?」
「まあ、だいたいは」
主の応答を待たずしてドアは開き、キン肉星第58代大王・キン肉スグルが姿を現した。
「今夜もどうせ遅くまで仕事してるだろうと思っての、牛丼の差し入れじゃい!」
部屋へと歩み入ったスグルは、何やら手さげ型の四角い容器を片手に下げていて、銀色の取っ手が照明の光を反射してキラリとかがやいた。それとともに醤油と砂糖を煮からめた、なんとも食欲をそそる匂いが辺りに立ちこめる。
「――明日は式典なのに、まだ起きているのか?スグル」
「何じゃ、兄さん来ていたのか!?」
フェニックスの他に兄の姿をみとめて、スグルはパッと顔をかがやかせた。
「ああ、おまえのところへ行く前にフェニックスに伝えることがあってな。それから顔を出そうと思っていた。遅くなって悪かった」
「いいや、約束どおり来てくれて嬉しいぞ!もしかして、ニンジャも来ているのか?」
アタルは素知らぬ顔でかぶりをふり「残念だがニンジャはちょうど遠方の任務に出ているんだ。『即位十年の慶び、祝い申し奉る。末永きご安泰を』。そう、言付かってきた」と答えた。まさかスグル本人を狙った未遂テロの実行犯を尋問中だとは、毛ほども悟らせない。みごとなポーカーフェイスだった。
「そうか。会えないのは残念だが、その気持ちが嬉しいわい。それにしても、兄さんもニンジャも、相変わらず忙しくしているんだな。くれぐれも無理はせんでくれ」
「ああ、ありがとう」
「大王よ、それを言うなら、深夜に臣下の部屋までわざわざ差し入れにやって来るおまえもだろう?」
目前に控えた式典の当事者にも関わらず、自分のことより他人の心配ばかりしているスグルにむかって、フェニックスは揶揄するように言った。
「こら、フェニックス。二人のときはスグルでよいと何度言ったら分かるんだ。それから、おまえも毎晩こんな遅くまで根を詰めていてはいかん。なにしろ心臓の病だってあるのだし」
「いつも言ってるだろう、それはあのときにすっかり治ったと」
「心配なんだ、おまえは黙ってなんでも背負いこんでしまうし」
フェニックスの身を案じたスグルの真剣なまなざしと声音に、いつもは鉄面皮さながらに、心情を面に現さないフェニックスも、クシャリと一瞬だけ表情を崩し、あえかな柔らかさをのぞかせた。
「ありがとう、だい――スグル」
かつて、偽りの王子のなかにあった病の種は、スグルのフェイスフラッシュによってこの世に甦ったあと、なぜかきれいに無くなっていた。
あの瞬間、スグルはフェニックスにマッスルスパークをかけることで、彼の身体がどうなるかおそらく理解していた。しかし分かっていてなお、スグルは奥技をかけた。それなしではフェニックスはすべての執着を捨て去ることができず、また、彼はあらたに産まれ変わるべきなのだという確信が、スグルのなかにはあった。
まさにその確信が、フェニックスのなかから病魔を取り除いたのだろう。
そして、フェニックスはいつもそのことを思い出すと、スグルの腕に抱かれて仰ぎ見た、あの日の太陽の眩しさが脳裏によみがえるのだった。
ただ相手をのみ思いやる、まるで幼子のような無邪気なやりとりに、アタルは首をかしげて二人を見比べながら「相変わらず仲がいいことだ」とつぶやき、次いでフェニックスにチラリと目を向けた。フェニックスはその視線のなかに、かすかに異質な光をみとめた。おそらく嫉妬――あるいはそんな類の。それはアンタッチャブルでの任務のために離れて過ごすアタルと、陰に陽にスグルの側で彼を支えるフェニックスとの差に対するものだろう。
ふと、スグルは重大なことを思い出したように声をあげた。
「そういえば二人分しか牛丼を持ってこなかった!兄さんの分も急いで用意してくるから、ちょっと待っててくれ」
つねに自分の分が勘定にはいっているところは牛丼愛好会会長のゆえんか。
「いや、食事は済ませてきた」
あわてて部屋を出ていこうとする弟を制し、アタルはフェニックスにいとまを告げた。
「フェニックス、オレはそろそろ失礼する。スグルよ、残りの用を済ませたらおまえの部屋に行くから、ゆっくり食事をして戻ってくればいい」
「分かった、兄さん。またあとでな」
「ソルジャー、また明日」
「ああ」
アタルはマントを羽織ると訪れたときと同じく足早に姿を消した。
部屋には静寂がもどり、二人は短い沈黙のあと、顔を見合わせた。
「さて、冷めないうちに食べるとしようか!」
「そうだな」
フェニックスがあらたに緑茶を淹れてくると、スグルは牛丼を応接テーブルに並べ、とたんに香ばしい香りが部屋いっぱいに広がった。ソファに落ちついた二人は、食前のあいさつのあとでそれぞれ箸を手にとり、丼のふたをあけた。ふっくらと炊かれた米飯のうえには煮込んだ細切れの牛肉とタマネギがどっさり盛られ、表面から湯気をたてている。その脇にそえられた鮮やかな紅ショウガが、見るものの食欲をそそる。ツユを少なめにしてあるのが、昔からスグルの好みだ。
温かい牛丼を口に運んだ瞬間、フェニックスはその滋味が身体中に染みわたるように感じ、夜の早い時間に食事を摂ったきりで、いかに自分が空腹だったかということに、ようやく気がついた。飢えにつき動かされてそのまま勢いよく箸をはこび、食べすすめる合間に熱い茶を流しこむ。スグルもまた同じ有様で、おそらく彼もこの時間まで式典の準備に追われていたのだろう。
二人の器はあっという間に空になった。
腹がくちくなったところで人心地ついたのか、スグルは緑茶をすすり「こうしていると、何だかいまだに地球にいるような気がするな」と思い返すようにつぶやいた。
王位争奪戦後に祝勝会と称して皆がキン肉ハウスに集い、そろって牛丼をかき込んだあの日の記憶は、フェニックスにとってもいまだ鮮やかだった。
しかし、過去をなつかしむスグルの口元には、幾つもの飯粒がついていた。
「おい、口のまわりに飯がついてるぞ」
フェニックスの指摘にスグルはあわててそれをとり除き、「腹がへって、ついがっついてしまった」と照れくさそうに笑った。
「いつまで経ってもおまえは子供じみたところが抜けんな」
「まったく、返す言葉もないわい」
いつしか二人の間には、和やかな空気が流れていた。
「のうフェニックス。あれから本当に、長い歳月が過ぎたな」
「ああ、そうだな」
「こんな夜だから話すが、わたしがキン肉星の大王になることが決まったあと、ミートが地球に残ることになったろう?わたしはあのとき反対したんだ。大王になってもミートはずっと側にいて、わたしを支えてくれるんだと当たり前のように思っていたからの。それでも『地球の未来のために』なんて言われたら、もう反対できん。しぶしぶだが、最後は納得するしかなかった」
侍従兼セコンドとして、地球にいるあいだずっとスグルを支え続けたアレクサンドリア・ミートは、いまキン肉星にいない。スグルが不在となった地球で、未来の平和のために冷凍睡眠装置のなかで、独り眠り続けている。
「だけど――」スグルは言葉をとめて、泣き笑うような、いわく言い難い表情でフェニックスを見つめた。
「だけど、ミートがいなくても、ちゃんとおまえがそばに居てずっと支えてくれた。わたしがここまでやってこられたのは、そのお陰だ。だから、あらためて――ありがとう」
スグルはそう言うとフェニックスにむかって深々と頭をさげた。しかし、フェニックスはとびきり苦い薬を飲みくだすように顔をしかめてそれを制した。
「やめろ、スグル。国の王が、そんなふうに人に頭をさげてはいけない。それは国民への不敬だ」
「そうかのう?」
「そうだ。王というものはもっと毅然としているべきだ」
「フェニックス、頭のいいおまえがそう言うのだから、たぶん本当はそうするべきなんだろう。だけどな、わたしはわたしなりのやり方で国やキン肉族を愛していきたいんじゃ。もしもそれが普通のやり方と違っていたとしても、わたしの真心がちゃんと伝わるならそれでいいと思う」
たいていの場合は従順に指摘を受け入れるスグルが、めずらしく自論を呈したことにフェニックスは少々驚きを感じた。
「もちろん最終的にはおまえが決めることだ。そう思うなら、それでいい」
「ありがとう、フェニックス。そのなかにはな、もちろんおまえも入っている。改めて、わたしの気持ちはちゃんと伝わったか?」
なにかと型破りなスグルだが、なかでもこんな部分が通俗的な王のイメージと決定的に異なっていた。彼は高みに座してさえ、場違いなほどの明るさで誰をも照らし、温める。
まるで真夜中の太陽みたいに。
うそ偽りのない純粋な敬愛を真正面から突きつけられて、まるで愛の告白でも受けたかのように、フェニックスは顔面を朱にそめた。
「つ、伝わった……充分伝わった」
「そうか、それならよかった」
かつては表舞台から身を引くことも考えたフェニックスだったが、こうして長い年月、スグルと共に歩み続けた結果、類まれなる己の知性を国政に役立てることもまた贖罪であると、ついに悟った。それはけして自惚れなどではなく、厳然たる事実だった。人は誰しも果たすべき使命を持ってこの世に産まれてくる。 そして、それを然るべく果たしたとき、初めて自己受容の境地に至る。
「明日の式典、いいものになるといいな」
「そうじゃな、今からパーティのご馳走が待ちどおしいわい」
「おまえときたら……」
二人は真夜中には場違いなほどの明るさで笑い声をあげた。
しみじみとした幸福感が、さざ波のように心に打ちよせる。
フェニックスは思った。彼 となら、きっとどこまでも歩いていける。もしもそれがどんなに暗い道行きであったとしても。
だってきっと足元は、いつだって温かく明るく照らし出されているのだろうから。
fin
(書き下ろし 2024.11.29 Friday)
「……スグルはいつも、あんなふうなのか?」
「まあ、だいたいは」
主の応答を待たずしてドアは開き、キン肉星第58代大王・キン肉スグルが姿を現した。
「今夜もどうせ遅くまで仕事してるだろうと思っての、牛丼の差し入れじゃい!」
部屋へと歩み入ったスグルは、何やら手さげ型の四角い容器を片手に下げていて、銀色の取っ手が照明の光を反射してキラリとかがやいた。それとともに醤油と砂糖を煮からめた、なんとも食欲をそそる匂いが辺りに立ちこめる。
「――明日は式典なのに、まだ起きているのか?スグル」
「何じゃ、兄さん来ていたのか!?」
フェニックスの他に兄の姿をみとめて、スグルはパッと顔をかがやかせた。
「ああ、おまえのところへ行く前にフェニックスに伝えることがあってな。それから顔を出そうと思っていた。遅くなって悪かった」
「いいや、約束どおり来てくれて嬉しいぞ!もしかして、ニンジャも来ているのか?」
アタルは素知らぬ顔でかぶりをふり「残念だがニンジャはちょうど遠方の任務に出ているんだ。『即位十年の慶び、祝い申し奉る。末永きご安泰を』。そう、言付かってきた」と答えた。まさかスグル本人を狙った未遂テロの実行犯を尋問中だとは、毛ほども悟らせない。みごとなポーカーフェイスだった。
「そうか。会えないのは残念だが、その気持ちが嬉しいわい。それにしても、兄さんもニンジャも、相変わらず忙しくしているんだな。くれぐれも無理はせんでくれ」
「ああ、ありがとう」
「大王よ、それを言うなら、深夜に臣下の部屋までわざわざ差し入れにやって来るおまえもだろう?」
目前に控えた式典の当事者にも関わらず、自分のことより他人の心配ばかりしているスグルにむかって、フェニックスは揶揄するように言った。
「こら、フェニックス。二人のときはスグルでよいと何度言ったら分かるんだ。それから、おまえも毎晩こんな遅くまで根を詰めていてはいかん。なにしろ心臓の病だってあるのだし」
「いつも言ってるだろう、それはあのときにすっかり治ったと」
「心配なんだ、おまえは黙ってなんでも背負いこんでしまうし」
フェニックスの身を案じたスグルの真剣なまなざしと声音に、いつもは鉄面皮さながらに、心情を面に現さないフェニックスも、クシャリと一瞬だけ表情を崩し、あえかな柔らかさをのぞかせた。
「ありがとう、だい――スグル」
かつて、偽りの王子のなかにあった病の種は、スグルのフェイスフラッシュによってこの世に甦ったあと、なぜかきれいに無くなっていた。
あの瞬間、スグルはフェニックスにマッスルスパークをかけることで、彼の身体がどうなるかおそらく理解していた。しかし分かっていてなお、スグルは奥技をかけた。それなしではフェニックスはすべての執着を捨て去ることができず、また、彼はあらたに産まれ変わるべきなのだという確信が、スグルのなかにはあった。
まさにその確信が、フェニックスのなかから病魔を取り除いたのだろう。
そして、フェニックスはいつもそのことを思い出すと、スグルの腕に抱かれて仰ぎ見た、あの日の太陽の眩しさが脳裏によみがえるのだった。
ただ相手をのみ思いやる、まるで幼子のような無邪気なやりとりに、アタルは首をかしげて二人を見比べながら「相変わらず仲がいいことだ」とつぶやき、次いでフェニックスにチラリと目を向けた。フェニックスはその視線のなかに、かすかに異質な光をみとめた。おそらく嫉妬――あるいはそんな類の。それはアンタッチャブルでの任務のために離れて過ごすアタルと、陰に陽にスグルの側で彼を支えるフェニックスとの差に対するものだろう。
ふと、スグルは重大なことを思い出したように声をあげた。
「そういえば二人分しか牛丼を持ってこなかった!兄さんの分も急いで用意してくるから、ちょっと待っててくれ」
つねに自分の分が勘定にはいっているところは牛丼愛好会会長のゆえんか。
「いや、食事は済ませてきた」
あわてて部屋を出ていこうとする弟を制し、アタルはフェニックスにいとまを告げた。
「フェニックス、オレはそろそろ失礼する。スグルよ、残りの用を済ませたらおまえの部屋に行くから、ゆっくり食事をして戻ってくればいい」
「分かった、兄さん。またあとでな」
「ソルジャー、また明日」
「ああ」
アタルはマントを羽織ると訪れたときと同じく足早に姿を消した。
部屋には静寂がもどり、二人は短い沈黙のあと、顔を見合わせた。
「さて、冷めないうちに食べるとしようか!」
「そうだな」
フェニックスがあらたに緑茶を淹れてくると、スグルは牛丼を応接テーブルに並べ、とたんに香ばしい香りが部屋いっぱいに広がった。ソファに落ちついた二人は、食前のあいさつのあとでそれぞれ箸を手にとり、丼のふたをあけた。ふっくらと炊かれた米飯のうえには煮込んだ細切れの牛肉とタマネギがどっさり盛られ、表面から湯気をたてている。その脇にそえられた鮮やかな紅ショウガが、見るものの食欲をそそる。ツユを少なめにしてあるのが、昔からスグルの好みだ。
温かい牛丼を口に運んだ瞬間、フェニックスはその滋味が身体中に染みわたるように感じ、夜の早い時間に食事を摂ったきりで、いかに自分が空腹だったかということに、ようやく気がついた。飢えにつき動かされてそのまま勢いよく箸をはこび、食べすすめる合間に熱い茶を流しこむ。スグルもまた同じ有様で、おそらく彼もこの時間まで式典の準備に追われていたのだろう。
二人の器はあっという間に空になった。
腹がくちくなったところで人心地ついたのか、スグルは緑茶をすすり「こうしていると、何だかいまだに地球にいるような気がするな」と思い返すようにつぶやいた。
王位争奪戦後に祝勝会と称して皆がキン肉ハウスに集い、そろって牛丼をかき込んだあの日の記憶は、フェニックスにとってもいまだ鮮やかだった。
しかし、過去をなつかしむスグルの口元には、幾つもの飯粒がついていた。
「おい、口のまわりに飯がついてるぞ」
フェニックスの指摘にスグルはあわててそれをとり除き、「腹がへって、ついがっついてしまった」と照れくさそうに笑った。
「いつまで経ってもおまえは子供じみたところが抜けんな」
「まったく、返す言葉もないわい」
いつしか二人の間には、和やかな空気が流れていた。
「のうフェニックス。あれから本当に、長い歳月が過ぎたな」
「ああ、そうだな」
「こんな夜だから話すが、わたしがキン肉星の大王になることが決まったあと、ミートが地球に残ることになったろう?わたしはあのとき反対したんだ。大王になってもミートはずっと側にいて、わたしを支えてくれるんだと当たり前のように思っていたからの。それでも『地球の未来のために』なんて言われたら、もう反対できん。しぶしぶだが、最後は納得するしかなかった」
侍従兼セコンドとして、地球にいるあいだずっとスグルを支え続けたアレクサンドリア・ミートは、いまキン肉星にいない。スグルが不在となった地球で、未来の平和のために冷凍睡眠装置のなかで、独り眠り続けている。
「だけど――」スグルは言葉をとめて、泣き笑うような、いわく言い難い表情でフェニックスを見つめた。
「だけど、ミートがいなくても、ちゃんとおまえがそばに居てずっと支えてくれた。わたしがここまでやってこられたのは、そのお陰だ。だから、あらためて――ありがとう」
スグルはそう言うとフェニックスにむかって深々と頭をさげた。しかし、フェニックスはとびきり苦い薬を飲みくだすように顔をしかめてそれを制した。
「やめろ、スグル。国の王が、そんなふうに人に頭をさげてはいけない。それは国民への不敬だ」
「そうかのう?」
「そうだ。王というものはもっと毅然としているべきだ」
「フェニックス、頭のいいおまえがそう言うのだから、たぶん本当はそうするべきなんだろう。だけどな、わたしはわたしなりのやり方で国やキン肉族を愛していきたいんじゃ。もしもそれが普通のやり方と違っていたとしても、わたしの真心がちゃんと伝わるならそれでいいと思う」
たいていの場合は従順に指摘を受け入れるスグルが、めずらしく自論を呈したことにフェニックスは少々驚きを感じた。
「もちろん最終的にはおまえが決めることだ。そう思うなら、それでいい」
「ありがとう、フェニックス。そのなかにはな、もちろんおまえも入っている。改めて、わたしの気持ちはちゃんと伝わったか?」
なにかと型破りなスグルだが、なかでもこんな部分が通俗的な王のイメージと決定的に異なっていた。彼は高みに座してさえ、場違いなほどの明るさで誰をも照らし、温める。
まるで真夜中の太陽みたいに。
うそ偽りのない純粋な敬愛を真正面から突きつけられて、まるで愛の告白でも受けたかのように、フェニックスは顔面を朱にそめた。
「つ、伝わった……充分伝わった」
「そうか、それならよかった」
かつては表舞台から身を引くことも考えたフェニックスだったが、こうして長い年月、スグルと共に歩み続けた結果、類まれなる己の知性を国政に役立てることもまた贖罪であると、ついに悟った。それはけして自惚れなどではなく、厳然たる事実だった。人は誰しも果たすべき使命を持ってこの世に産まれてくる。 そして、それを然るべく果たしたとき、初めて自己受容の境地に至る。
「明日の式典、いいものになるといいな」
「そうじゃな、今からパーティのご馳走が待ちどおしいわい」
「おまえときたら……」
二人は真夜中には場違いなほどの明るさで笑い声をあげた。
しみじみとした幸福感が、さざ波のように心に打ちよせる。
フェニックスは思った。
だってきっと足元は、いつだって温かく明るく照らし出されているのだろうから。
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(書き下ろし 2024.11.29 Friday)
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