不意打ちみたいなものだった(ビッグボディ×フェニックス)
ビッグボディとフェニックスは、どちらもかつてキン肉星王位争奪戦に参戦した。しかし初戦で敗退し、生命の危機に瀕していたビッグボディと、決勝戦まで勝ちのこり、キン肉スグルと命のやり取りまでしたフェニックスでは、その記憶についてかなりの開きがある。ビッグボディが事態を見届けるべく表舞台に復帰した時にはもはやすべてが終わっていた。
そのせいか彼はずいぶん前から当時の記録映像を観たがっていた。ちょうど今夜は超人に関するドキュメンタリーがテレビで放送されていて、二人はその番組を観ることにした。
日本で超人といえばやはりキン肉マン。いきおい番組では彼にまつわるエピソードが続き、予想どおり集大成として王位争奪戦にフォーカスがあてられた。しかし、彼らにとって忘れられない知性チーム対強力チームの試合は数カットの画像と対戦結果のみでアッサリと流されてしまった。
それでもその数十秒はビッグボディの記憶を刺激するにはじゅうぶんだった。フェニックスは自分を命の瀬戸際まで追いつめた男なのだと、あらためて意識するともに、あの時の無力感が心の片すみをチクリと刺した。フェニックスにとってもあの頃の自分を見るのは、過去の愚行を再確認させられているようだった。後悔しているわけではないし、弁明する気持ちもないが、なんともいわく言い難い気分だ。そんな二人が手を携えて神と戦い、今では互いを誰にも代えがたい存在だと感じている。
運命の妙を感じずにはいられない。
番組の内容は決勝戦へとすすんだ。その部分はやはり多少なりとも時間が割かれていて、印象的な当時の記録映像がいくつもながれた。
そして。
「フフフ…そちは口づけは初めてとみえるな」
――どうせ出るだろう。フェニックスがそう思っていたらやはり出た。初めて見る映像だったが、相手が王位継承候補者の婚約者ということで、おそらく当時の放映には「待った」がかかったのだろう。それにしてもずい分とクローズアップして撮っていたものだ。こんなどうでもいい場面よりもっと撮るべきものがあっただろうに。あれは星を統べる王の位を賭けた戦いだったのだ。
「なあ、フェニックス」
「何だ?」
「お前はこの時……初めてじゃなかったのか?」
問いかけのまえのエアポケットみたいな沈黙になにが込められているのか、フェニックスには珍しく判断がつきかねた。
「お前はどうだったんだ?ビッグボディ」
「え?」
「オレとのキスはお前にとって初めてではなかったのか?」
我ながら意地の悪い聞き方だとフェニックスは思った。二人がそういう関係になったのはあの映像よりずっとあとのことだった。
おまけに質問を質問で返すのは、都合が悪くなったときの彼のクセだ。だけど根が善良なビッグボディははなから真面目に答えようとする。
「うーん。何ていうか……ファーストキスは……オフクロだった。オレは小さいころオフクロが大好きだったらしくて『大きくなったら母ちゃんと結婚する』とか言って結婚式の真似事までしたらしい。それでその時に、まあ」
その答えは確信なのか韜晦なのか、またしてもフェニックスには判断がつきかねた。インテリジェンスモンスターを標ぼうしているにも関わらずといったところだが、そういうことを本気で信じていそうなのがこの男なのだ。
「それはノーカウントだ、ビッグボディ。行為の意味するところを正しく理解せず為されたものは範疇にはいらない」
「そうなのか!?よかった!初めてがオフクロなんてカッコ悪いからな」
「そんなことは当たり前だろう……で、改めて聞くがオレが初めてだったのか?」
とたんにビッグボディの目が泳いだ。何度か口を開こうとしては閉じ、最後にため息のように告白した。
「すまん、違う。でもオレからしたんじゃない、不意打ちみたいなもんだったんだ……もしかしてこれもノーカンにならないか?」
「お前がそう思ってるならそれは有効だ。べつにオレも気にしない。ただし」
フェニックスはビッグボディのマスクを半ばまでせり上げ、自らも口元をあらわにした。
「今後お前とキスをする相手はオレだけ、そしてオレが最後だ」
言葉を聞いたビッグボディはフェニックスの身体に腕をまわし、自ら相手の唇を迎えにいった。
テレビ番組はそろそろ終わりにさしかかっていたが、二人はとうにそのことを忘れていた。おまけにそのあとむかえた情熱的な夜のせいで、フェニックスにとってビビンバとのキスが初めてだったのかどうか、とうとうビッグボディは聞くことを忘れてしまったのだった。
fin
(初出:2024.09.04 pixiv)
そのせいか彼はずいぶん前から当時の記録映像を観たがっていた。ちょうど今夜は超人に関するドキュメンタリーがテレビで放送されていて、二人はその番組を観ることにした。
日本で超人といえばやはりキン肉マン。いきおい番組では彼にまつわるエピソードが続き、予想どおり集大成として王位争奪戦にフォーカスがあてられた。しかし、彼らにとって忘れられない知性チーム対強力チームの試合は数カットの画像と対戦結果のみでアッサリと流されてしまった。
それでもその数十秒はビッグボディの記憶を刺激するにはじゅうぶんだった。フェニックスは自分を命の瀬戸際まで追いつめた男なのだと、あらためて意識するともに、あの時の無力感が心の片すみをチクリと刺した。フェニックスにとってもあの頃の自分を見るのは、過去の愚行を再確認させられているようだった。後悔しているわけではないし、弁明する気持ちもないが、なんともいわく言い難い気分だ。そんな二人が手を携えて神と戦い、今では互いを誰にも代えがたい存在だと感じている。
運命の妙を感じずにはいられない。
番組の内容は決勝戦へとすすんだ。その部分はやはり多少なりとも時間が割かれていて、印象的な当時の記録映像がいくつもながれた。
そして。
「フフフ…そちは口づけは初めてとみえるな」
――どうせ出るだろう。フェニックスがそう思っていたらやはり出た。初めて見る映像だったが、相手が王位継承候補者の婚約者ということで、おそらく当時の放映には「待った」がかかったのだろう。それにしてもずい分とクローズアップして撮っていたものだ。こんなどうでもいい場面よりもっと撮るべきものがあっただろうに。あれは星を統べる王の位を賭けた戦いだったのだ。
「なあ、フェニックス」
「何だ?」
「お前はこの時……初めてじゃなかったのか?」
問いかけのまえのエアポケットみたいな沈黙になにが込められているのか、フェニックスには珍しく判断がつきかねた。
「お前はどうだったんだ?ビッグボディ」
「え?」
「オレとのキスはお前にとって初めてではなかったのか?」
我ながら意地の悪い聞き方だとフェニックスは思った。二人がそういう関係になったのはあの映像よりずっとあとのことだった。
おまけに質問を質問で返すのは、都合が悪くなったときの彼のクセだ。だけど根が善良なビッグボディははなから真面目に答えようとする。
「うーん。何ていうか……ファーストキスは……オフクロだった。オレは小さいころオフクロが大好きだったらしくて『大きくなったら母ちゃんと結婚する』とか言って結婚式の真似事までしたらしい。それでその時に、まあ」
その答えは確信なのか韜晦なのか、またしてもフェニックスには判断がつきかねた。インテリジェンスモンスターを標ぼうしているにも関わらずといったところだが、そういうことを本気で信じていそうなのがこの男なのだ。
「それはノーカウントだ、ビッグボディ。行為の意味するところを正しく理解せず為されたものは範疇にはいらない」
「そうなのか!?よかった!初めてがオフクロなんてカッコ悪いからな」
「そんなことは当たり前だろう……で、改めて聞くがオレが初めてだったのか?」
とたんにビッグボディの目が泳いだ。何度か口を開こうとしては閉じ、最後にため息のように告白した。
「すまん、違う。でもオレからしたんじゃない、不意打ちみたいなもんだったんだ……もしかしてこれもノーカンにならないか?」
「お前がそう思ってるならそれは有効だ。べつにオレも気にしない。ただし」
フェニックスはビッグボディのマスクを半ばまでせり上げ、自らも口元をあらわにした。
「今後お前とキスをする相手はオレだけ、そしてオレが最後だ」
言葉を聞いたビッグボディはフェニックスの身体に腕をまわし、自ら相手の唇を迎えにいった。
テレビ番組はそろそろ終わりにさしかかっていたが、二人はとうにそのことを忘れていた。おまけにそのあとむかえた情熱的な夜のせいで、フェニックスにとってビビンバとのキスが初めてだったのかどうか、とうとうビッグボディは聞くことを忘れてしまったのだった。
fin
(初出:2024.09.04 pixiv)
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