兄妹編【全5話】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
趙雲が自室で朝の鍛錬の為に着替えを済ませていると、向かいの部屋から○の悲鳴のような声が響いてきた。
「えーっ! 明日帰るの!?」
趙雲が紐を締めながら○の部屋を覗き込むと、そこには荷物をまとめ始めている荘の姿があった。
あれだけ「早く村に帰れ」と追い立てていた○だが、いざ本当に帰るとなると、隠しきれない寂しさが浮かんでいる。
「そんなに急がなくてもいいじゃない。それに、小蘭さんと離れ離れに…」
「だから帰るのだ。あの女子の勢いには、戦場の伏兵よりも肝を冷やす」
あれから毎日の様に誘いに来る小蘭から逃げ出そうというのだ。
今日と明日は仕事で会えないと言われたらしく、逃げるのは今だという事らしい。
「小蘭さんの何が不満なの?子龍様も憧れてた美人なのに」
○がそんな話を振ると、部屋の入り口から低い声が飛んできた。
「おい。またその様なことを……」
「だって本当の事です。あんなに綺麗な人、兄さんには勿体ない位なのに」
荘は「ふん」と背中を向けたまま動かない。
「とにかく、明日帰る! これ以上ここにいては、あの女子に包囲されるだけだ」
頑なに荷物をまとめる荘。
しかしここで、趙雲が言い出しにくそうに視線を逸らした。
「しかし、荘殿。非常に申し上げにくいのだが……」
「なんだ」
「……その、小蘭殿に、貴殿の村の正確な場所を……伝えてしまいまして」
その瞬間、荘はゆっくり立ち上がり趙雲を振り返る。
「今なんと?」
「いや、あまりに熱心に尋ねられたもので……断りきれず……。小蘭は次の商隊の進路を貴殿の故郷に向けると言っていました」
「なんだと!!あれほど教えるなと念を押したではないか!どうしてそうも女子相手だと言いなりになる!敵に居場所を教えるなど!」
「彼女は敵ではありませんし…」
○はただニコニコして間に入った。
「いいじゃなーい。兄さん、後継者のことをずっと気にしてたんだから。長兄の兄さんの子供ならちょうどいいって。小蘭さんとの子供なら、小蘭さんに似て可愛くて…兄さんに似てゴツい子が生まれるわよ~やった、安泰!」
ポンポン、と他人事の様に肩を叩く○。
「安泰なわけがあるか!」
「安泰よー。兄さんは奥手なんだから、あれくらい勢いのある奥さんがいた方がいいってば」
「…○、あまり兄君をからかうものでは…」
後ろから裏切者が諫めるのを聞いて、荘はブンブン首を振った。
「俺は帰るからな!明日帰る!」
趙雲は内心で謝りながらも、厳格な荘が愛嬌たっぷりの小蘭に振り回され、やがて○が言うような「可愛くてゴツい子供」に囲まれる未来――それは案外、悪くない光景のような気がしていた。
「そうだ、他の兄さん達にもよろしくね。私の旦那様の話もしておいて」
○が当然のように重ねたその言葉に、趙雲は思わず「○!」と声を荒らげて叱る。
つい先日、祭で大喧嘩をした堅物の前で口にするには、あまりに大胆な発言だったからだ。
しかし、怒鳴るかと思った荘は意外にも静かに腕組みをして趙雲をじっと見つめた。
「……まぁ、いい。貴殿が我が家に来た時には、家族として迎え入れよう。戦に疲れ、休みたくなれば来ればいい」
その声は、趙雲がこの数日間で浴びせられてきた圧力や牽制とは明らかに違う。
その言葉を聞いた瞬間、趙雲は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
両親も兄弟も亡くし故郷を離れ、戦場から戦場へと渡り歩いてきた趙雲にとって、「家族」という存在はとうの昔に失われたものだった。
孤独を厭う性格ではないと思っていたが、この数年○といて何かが変わっていた。
さらに荘と意地を張り合い、まるで本当の身内のように騒がしく過ごした時間は、彼にとって何物にも代えがたい安らぎとなっていた事に気付く。
(……ああ。私は、楽しかったのだな)
うるさい、騒がしいと思っていたあの時間が、今は心地よい。
「……身に余るお言葉、痛み入ります」
趙雲は深く頭を下げた。
それはいつもの礼儀作法ではなく、心からの感謝が滲み出た仕草だった。
荘は恐ろしく、そしてどこまでも厳格な男だ。
だがその厳格さの根底には不器用なまでに深い家族への愛がある。
それを知った趙雲は、○の真っ直ぐで献身的な気質も、こうした兄たちの守りの中で育まれたものなのだろうと、静かな納得を覚えていた。
*****
翌朝、清々しい朝の空気の中に荘は立っていた。
荘が馬に跨り、その大きな背中が遠ざかっていく。
隣で○は、ついさっきまで明るく振る舞っていたものの、今は少し寂しそうにその後ろ姿をじっと見つめていた。
趙雲の脳裏には、今朝、宿舎を出る直前に荘が残した言葉が響いていた。
「○。お前は趙子龍と共にいる事を選んだ。それは平穏を捨て、戦に出るという道だ。……もしかすると、これが今生の別れになるやもしれん。達者でな」
「趙子龍。○を守る必要などない。貴殿の本懐は戦働きだ。○がついてこられぬなら、迷わず置いていってくれ」
荘には、○を人質にして趙雲の牙を鈍らせたくないという、武人としての深い理解があった。
「○」
趙雲は、沈黙して背中を見送る○の隣で静かに声をかけた。
○は少し目元を拭く素振りをしたが、すぐに振り返っていつもの顔でいる。
「そうだ!兄も帰った事ですし、あのお茶碗でお茶を飲みませんか?」
そう言って笑った。
「えーっ! 明日帰るの!?」
趙雲が紐を締めながら○の部屋を覗き込むと、そこには荷物をまとめ始めている荘の姿があった。
あれだけ「早く村に帰れ」と追い立てていた○だが、いざ本当に帰るとなると、隠しきれない寂しさが浮かんでいる。
「そんなに急がなくてもいいじゃない。それに、小蘭さんと離れ離れに…」
「だから帰るのだ。あの女子の勢いには、戦場の伏兵よりも肝を冷やす」
あれから毎日の様に誘いに来る小蘭から逃げ出そうというのだ。
今日と明日は仕事で会えないと言われたらしく、逃げるのは今だという事らしい。
「小蘭さんの何が不満なの?子龍様も憧れてた美人なのに」
○がそんな話を振ると、部屋の入り口から低い声が飛んできた。
「おい。またその様なことを……」
「だって本当の事です。あんなに綺麗な人、兄さんには勿体ない位なのに」
荘は「ふん」と背中を向けたまま動かない。
「とにかく、明日帰る! これ以上ここにいては、あの女子に包囲されるだけだ」
頑なに荷物をまとめる荘。
しかしここで、趙雲が言い出しにくそうに視線を逸らした。
「しかし、荘殿。非常に申し上げにくいのだが……」
「なんだ」
「……その、小蘭殿に、貴殿の村の正確な場所を……伝えてしまいまして」
その瞬間、荘はゆっくり立ち上がり趙雲を振り返る。
「今なんと?」
「いや、あまりに熱心に尋ねられたもので……断りきれず……。小蘭は次の商隊の進路を貴殿の故郷に向けると言っていました」
「なんだと!!あれほど教えるなと念を押したではないか!どうしてそうも女子相手だと言いなりになる!敵に居場所を教えるなど!」
「彼女は敵ではありませんし…」
○はただニコニコして間に入った。
「いいじゃなーい。兄さん、後継者のことをずっと気にしてたんだから。長兄の兄さんの子供ならちょうどいいって。小蘭さんとの子供なら、小蘭さんに似て可愛くて…兄さんに似てゴツい子が生まれるわよ~やった、安泰!」
ポンポン、と他人事の様に肩を叩く○。
「安泰なわけがあるか!」
「安泰よー。兄さんは奥手なんだから、あれくらい勢いのある奥さんがいた方がいいってば」
「…○、あまり兄君をからかうものでは…」
後ろから裏切者が諫めるのを聞いて、荘はブンブン首を振った。
「俺は帰るからな!明日帰る!」
趙雲は内心で謝りながらも、厳格な荘が愛嬌たっぷりの小蘭に振り回され、やがて○が言うような「可愛くてゴツい子供」に囲まれる未来――それは案外、悪くない光景のような気がしていた。
「そうだ、他の兄さん達にもよろしくね。私の旦那様の話もしておいて」
○が当然のように重ねたその言葉に、趙雲は思わず「○!」と声を荒らげて叱る。
つい先日、祭で大喧嘩をした堅物の前で口にするには、あまりに大胆な発言だったからだ。
しかし、怒鳴るかと思った荘は意外にも静かに腕組みをして趙雲をじっと見つめた。
「……まぁ、いい。貴殿が我が家に来た時には、家族として迎え入れよう。戦に疲れ、休みたくなれば来ればいい」
その声は、趙雲がこの数日間で浴びせられてきた圧力や牽制とは明らかに違う。
その言葉を聞いた瞬間、趙雲は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
両親も兄弟も亡くし故郷を離れ、戦場から戦場へと渡り歩いてきた趙雲にとって、「家族」という存在はとうの昔に失われたものだった。
孤独を厭う性格ではないと思っていたが、この数年○といて何かが変わっていた。
さらに荘と意地を張り合い、まるで本当の身内のように騒がしく過ごした時間は、彼にとって何物にも代えがたい安らぎとなっていた事に気付く。
(……ああ。私は、楽しかったのだな)
うるさい、騒がしいと思っていたあの時間が、今は心地よい。
「……身に余るお言葉、痛み入ります」
趙雲は深く頭を下げた。
それはいつもの礼儀作法ではなく、心からの感謝が滲み出た仕草だった。
荘は恐ろしく、そしてどこまでも厳格な男だ。
だがその厳格さの根底には不器用なまでに深い家族への愛がある。
それを知った趙雲は、○の真っ直ぐで献身的な気質も、こうした兄たちの守りの中で育まれたものなのだろうと、静かな納得を覚えていた。
*****
翌朝、清々しい朝の空気の中に荘は立っていた。
荘が馬に跨り、その大きな背中が遠ざかっていく。
隣で○は、ついさっきまで明るく振る舞っていたものの、今は少し寂しそうにその後ろ姿をじっと見つめていた。
趙雲の脳裏には、今朝、宿舎を出る直前に荘が残した言葉が響いていた。
「○。お前は趙子龍と共にいる事を選んだ。それは平穏を捨て、戦に出るという道だ。……もしかすると、これが今生の別れになるやもしれん。達者でな」
「趙子龍。○を守る必要などない。貴殿の本懐は戦働きだ。○がついてこられぬなら、迷わず置いていってくれ」
荘には、○を人質にして趙雲の牙を鈍らせたくないという、武人としての深い理解があった。
「○」
趙雲は、沈黙して背中を見送る○の隣で静かに声をかけた。
○は少し目元を拭く素振りをしたが、すぐに振り返っていつもの顔でいる。
「そうだ!兄も帰った事ですし、あのお茶碗でお茶を飲みませんか?」
そう言って笑った。