兄妹編【全5話】
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○は兄と城下町を歩いていた。
あと数日で帰る兄は、ここでいくつか薬の類を買って帰りたいらしい。
「う~ん…こんなの、あるかなぁ。結構この辺りでも珍しいって聞いたけど……」
○は荘の隣を歩きながら、きょろきょろと店を覗き込んでいた。
すると突然腕を掴まれた。
驚いてそちらを見ると、荘が通りの向こうを睨みつけている。
「あれを見ろ」
と言われてそちらを見ると、人混みの中で一際目立つ二人がいた。
平服姿の趙雲と、○の記憶にあったよりもさらに美しくなった小蘭だった。
小蘭が尋常でなく目立っている。
「あの女だ、俺が見たのは」
「私が兄さんと買い物に出てる間に、子龍様ったら何やってるのよ!」
○は小声ながらも激しく動揺し声を荒げる。
小蘭は親しげに趙雲の腕に触れ、花が咲くような美しさで微笑みかけていた。
二人の周囲だけ浮いている様にすら見える。
対する趙雲は、困ったような…それでいて無下にもできないような様子で、いつもの優柔不断な顔を見せている。
「―――子龍様!」
怒りが収まらんと言わんばかりに○が近づくと、趙雲がビクッと肩を震わせた。
小蘭は「まあっ」と目を見開く。
○は恨みがましく睨みながら趙雲の前に立つ。
「……子龍様。こんなところで、また懲りもせず逢瀬ですか…」
「お、落ち着いてくれ。誤解だ。実は兄君を呼びに行こうとしていた所で…」
「兄さんを?」
○が不思議そうに首を傾げたその時、小蘭が○の後ろの大男を見つめた。
聞くところによると、以前、荘に助けられてからと言うもの、彼の事が忘れられないのだという。
巡回をしている趙雲なら、彼を見かけていないだろうかと相談していたのだそうだ。
事実を知った荘は固まった。
大きな体を縮こまらせて視線を泳がせている。
「……なんだ。あんなにタジタジになって」
「兄さんは女性が苦手なんです。嫌いじゃないんですけど、慣れてなさ過ぎて耐性がないんです。だからいつまで経っても浮いた話がなくて」
「なるほど、それは……意外な弱点だな」
自分にはあんなに厳格な態度を崩さない男が、一人の女性を前にして蛇に睨まれた蛙のように硬直している姿を見て、なんだか親近感が沸いた。
「あ、そうだ。小蘭さんは商隊を率いていらっしゃるんですよね」
○は名案を思いついたように、瞳を輝かせて声をかけた。
「実は兄が、ずっと欲しがっているものがあるらしくて。ただ、成都でもなかなかお目にかかれない珍しいものなので、ずっと見つけられずにいたんです……。小蘭さん、お心当たりはありませんか?」
そう言って走り書きの木札を見せた。
小蘭はそれを確認すると、「私が探し出して見せます!」と意気込んで、兄の腕を取ると雑踏に消えて行った。
「おぉ…これはもしかすると、恋の予感!」
楽しそうにそう言った○だが、女性に押しきられがちの趙雲は去り際の荘の困った顔が気になる。
「あんなに助けを求めていたが、連れていかれても本当によかったのか?」
「いいんですよ!それにどうせ私だと、兄さんが探していたものは見つけられそうになかったので。…それにしても、兄さんの見た目を気に入った方なんて初めて見ました。あんなに強面なのに」
そう言った○はニコニコしながら趙雲にくっつく。
「それより子龍様、折角ですから一緒に歩きませんか?」
趙雲は「こんな所でくっつくな」と注意する事を忘れないが、軽く息をついた。
「まあ…たまには悪くない。どうせ今日も非番だ」
その言葉に、○は自分から言い出したくせにポカンとする。
「なんか…子龍様が優しい…アヤシイ」
○はジッと趙雲を見た。
小蘭とコソコソ会っていた時、○を気遣う振りをして部屋に押し込まれていた記憶が蘇っている。
趙雲が優しい=隠し事があると思うのか、顔色を伺う。
一方の趙雲は、そう言われて内心ドキッとした。
(言葉にしてしまうと態度に出るな。…駄目だ。○とどうこうなるわけにはいかないのだから、気を引き締めねば)
昨夜、馬超達に○への気持ちを吐露してしまった事で、無意識にタガが緩くなっている。
一つ咳ばらいをした。
「そんな事はない。さあ、行くぞ」
いつもの生真面目な空気に○は首をかしげながら趙雲について行った。
街を歩いていると、何やら大掛かりな足場を組んでいるのを見かける。
「なんでしょうか」
○が足を止めて見上げる。
「劉備殿の漢中王即位の祝いとして、祭壇を作るらしい」
足場の周りには人が大勢行き来している。
「そういえば…今朝の軍議で聞いたのだが、近々皆に褒賞が出るそうだ。お前も将として働き、総大将を打ち取る補佐をしたのだから、きっと何か頂けるだろう」
今回の漢中平定という大金星に、主君である劉備はあれからというもの、連日連夜の宴会続きでとにかく機嫌が良い。
家臣たちの労をねぎらうためなら、どんな褒賞も惜しまないといった様子なのだ。
歩いていると、露店を設営している民も見えた。
○が近くに行って尋ねると、明日、この界隈の町人たちで、劉備の漢中王即位をお祝いするささやかな祭りを催す予定なのだと聞いた。
「そうか。町でも祭を」
「明日、お祭りかぁ」
祝い事でもなければ行われない、数少ない娯楽だ。
○は「来たいですけど…」と、チラチラと趙雲を見る。
連日の宴会に少しだけでも顔を出している趙雲は、忙しいかもしれない。
しかし趙雲は咳払いをすると、考えるそぶりをして、「まぁ…構わない」とそっぽを向いて言った。
「えっ?」
「城の宴席には、初めの挨拶だけで中座させてもらうよう、事前に劉備殿へ話を通しておけば済むことだ。連日の大戦で町のものたちも疲弊している中、こうして自発的に祝いの場を設けるのだから……その活気を、この目で見ておくのも務めだからな」
もっともらしい理由を並べる。
「ふふっ、本当は私が行きたいって言ったから、都合をつけてくださるんでしょ?やっぱり子龍様は私の事を大事に想ってくださっているんですねっ」
「……やはり、行くのはやめだ」
顔を背けて歩きだした趙雲を気にすることなく、「楽しみです」と浮かれる○だった。
「……それにしても、兄さん、結局夕餉の時間になっても帰ってきませんでしたね。小蘭さんと外で済まされたのでしょうか」
夕餉も終えて茶を飲みながら、○は呟いた。
そろそろ寝る準備をしてもいい頃だと言うのに戻らない兄。
「何かあったのだろうか。彼の様な人が、時間を忘れて街に留まるなど…よほどの理由がなければ考えにくいが……」
「よほどって…まさか、あの、男女のあれこれ的な意味でですか?」
趙雲は一瞬だけ気まずそうに視線を泳がせ、黙って茶を飲む。
「ないですよー!ないない!もう本当に親族一同が頭を抱えたくらいに奥手なんですから」
すると入り口の戸が開き、廊下をドカドカと激しい足音が響いてきた。
兄は居間にいた趙雲を認めると睨みつける。
「俺の頼みを聞いてくれ……っ!」
そう言って趙雲の肩を掴んだ。
「一体どうされたのですか、そんな血相を変えて……」
聞くところによると、小蘭に一日中引っ張りまわされた挙句に明日の祭の約束を取り付けられたらしい。
断ろうとしたものの彼女の眩しい笑顔に断り切れず、曖昧な返事で帰ってきてしまい、なんとまだ城門前にいるという。
どこかの誰かさんに似た執念に、趙雲は黙り込む。
「頼む。俺の代わりに、明日の誘いを断ってきてはくれまいか……!」
「兄さん、そんなの自分で言わないと」
「無理だ。しかしあのような場所に放っておくのも危険だ」
趙雲は困惑した。
しかし、自分事なら出来ないが、他人事なら女性の誘いも断れると思い了承した。
自分と同じような性質で困っている○の兄を放ってもおけない。
「……分かりました。そこまで仰るなら、私が代わりに事情を説明し、お断りしてまいりましょう」
趙雲が凛とした表情で首を縦に振ると、荘はその手を握りしめた。
そうして、夜の城門前。
小蘭は何刻待つつもりだったのか、危険のないように迎えの店の者を連れて立っていた。
少し離れた物陰から様子を伺う○とその兄。
趙雲はいつも通りの毅然とした足取りで、真っ直ぐに小蘭の前へと進み出た。
やってきたのが趙雲だったので驚いた顔をした小蘭だが、一瞬で何かを悟ったのか極上の笑みを浮かべた。
あろうことか趙雲の両手を包み込み、身を寄せ、至近距離でなにやら話し込んでいる。
そして手を振って帰っていった。
その様子に怒り心頭の○だったが、程なくして趙雲が帰ってくる。
腕を組んで首を傾げている。
やがてがっくりと肩を落とした。
「……申し訳ない。断り切れなかった…諦めてほしい」
眉間に深い皺を寄せ、本気で落ち込む趙雲。
あれほど「任せてくれ」と言わんばかりの堂々たる後ろ姿だった男が、無惨な敗北を喫して帰ってきたのだ。
荘はしばらく沈黙し、横でまだ怒っている○を見た。
「○。お前も明日、ついてこい」
「は!?なんで?私は明日、子龍様と二人きりで…」
「なら趙子龍もつれて四人だ」
不満げに抗議する○だったが、その横で、趙雲は密かに胸を撫で下ろしていた。
実は昼間も「○とどうこうなるわけにはいかない」と心に誓ったものの、自分の気持ちを口にしてしまって以来、○と二人でいると胸の奥がモゾモゾとして落ち着かないのだ。
約束はしたものの、甚だ不安だった。
「……そうだな。荘殿も困っておられる事だし、○にとっても貴重な家族団らんだ。明日、四人で行こう」
趙雲が少しホッとしたような、妙に優しい声で調子を合わせる。
納得のいかない○は「えええええ…」と顔を歪ませた。
あと数日で帰る兄は、ここでいくつか薬の類を買って帰りたいらしい。
「う~ん…こんなの、あるかなぁ。結構この辺りでも珍しいって聞いたけど……」
○は荘の隣を歩きながら、きょろきょろと店を覗き込んでいた。
すると突然腕を掴まれた。
驚いてそちらを見ると、荘が通りの向こうを睨みつけている。
「あれを見ろ」
と言われてそちらを見ると、人混みの中で一際目立つ二人がいた。
平服姿の趙雲と、○の記憶にあったよりもさらに美しくなった小蘭だった。
小蘭が尋常でなく目立っている。
「あの女だ、俺が見たのは」
「私が兄さんと買い物に出てる間に、子龍様ったら何やってるのよ!」
○は小声ながらも激しく動揺し声を荒げる。
小蘭は親しげに趙雲の腕に触れ、花が咲くような美しさで微笑みかけていた。
二人の周囲だけ浮いている様にすら見える。
対する趙雲は、困ったような…それでいて無下にもできないような様子で、いつもの優柔不断な顔を見せている。
「―――子龍様!」
怒りが収まらんと言わんばかりに○が近づくと、趙雲がビクッと肩を震わせた。
小蘭は「まあっ」と目を見開く。
○は恨みがましく睨みながら趙雲の前に立つ。
「……子龍様。こんなところで、また懲りもせず逢瀬ですか…」
「お、落ち着いてくれ。誤解だ。実は兄君を呼びに行こうとしていた所で…」
「兄さんを?」
○が不思議そうに首を傾げたその時、小蘭が○の後ろの大男を見つめた。
聞くところによると、以前、荘に助けられてからと言うもの、彼の事が忘れられないのだという。
巡回をしている趙雲なら、彼を見かけていないだろうかと相談していたのだそうだ。
事実を知った荘は固まった。
大きな体を縮こまらせて視線を泳がせている。
「……なんだ。あんなにタジタジになって」
「兄さんは女性が苦手なんです。嫌いじゃないんですけど、慣れてなさ過ぎて耐性がないんです。だからいつまで経っても浮いた話がなくて」
「なるほど、それは……意外な弱点だな」
自分にはあんなに厳格な態度を崩さない男が、一人の女性を前にして蛇に睨まれた蛙のように硬直している姿を見て、なんだか親近感が沸いた。
「あ、そうだ。小蘭さんは商隊を率いていらっしゃるんですよね」
○は名案を思いついたように、瞳を輝かせて声をかけた。
「実は兄が、ずっと欲しがっているものがあるらしくて。ただ、成都でもなかなかお目にかかれない珍しいものなので、ずっと見つけられずにいたんです……。小蘭さん、お心当たりはありませんか?」
そう言って走り書きの木札を見せた。
小蘭はそれを確認すると、「私が探し出して見せます!」と意気込んで、兄の腕を取ると雑踏に消えて行った。
「おぉ…これはもしかすると、恋の予感!」
楽しそうにそう言った○だが、女性に押しきられがちの趙雲は去り際の荘の困った顔が気になる。
「あんなに助けを求めていたが、連れていかれても本当によかったのか?」
「いいんですよ!それにどうせ私だと、兄さんが探していたものは見つけられそうになかったので。…それにしても、兄さんの見た目を気に入った方なんて初めて見ました。あんなに強面なのに」
そう言った○はニコニコしながら趙雲にくっつく。
「それより子龍様、折角ですから一緒に歩きませんか?」
趙雲は「こんな所でくっつくな」と注意する事を忘れないが、軽く息をついた。
「まあ…たまには悪くない。どうせ今日も非番だ」
その言葉に、○は自分から言い出したくせにポカンとする。
「なんか…子龍様が優しい…アヤシイ」
○はジッと趙雲を見た。
小蘭とコソコソ会っていた時、○を気遣う振りをして部屋に押し込まれていた記憶が蘇っている。
趙雲が優しい=隠し事があると思うのか、顔色を伺う。
一方の趙雲は、そう言われて内心ドキッとした。
(言葉にしてしまうと態度に出るな。…駄目だ。○とどうこうなるわけにはいかないのだから、気を引き締めねば)
昨夜、馬超達に○への気持ちを吐露してしまった事で、無意識にタガが緩くなっている。
一つ咳ばらいをした。
「そんな事はない。さあ、行くぞ」
いつもの生真面目な空気に○は首をかしげながら趙雲について行った。
街を歩いていると、何やら大掛かりな足場を組んでいるのを見かける。
「なんでしょうか」
○が足を止めて見上げる。
「劉備殿の漢中王即位の祝いとして、祭壇を作るらしい」
足場の周りには人が大勢行き来している。
「そういえば…今朝の軍議で聞いたのだが、近々皆に褒賞が出るそうだ。お前も将として働き、総大将を打ち取る補佐をしたのだから、きっと何か頂けるだろう」
今回の漢中平定という大金星に、主君である劉備はあれからというもの、連日連夜の宴会続きでとにかく機嫌が良い。
家臣たちの労をねぎらうためなら、どんな褒賞も惜しまないといった様子なのだ。
歩いていると、露店を設営している民も見えた。
○が近くに行って尋ねると、明日、この界隈の町人たちで、劉備の漢中王即位をお祝いするささやかな祭りを催す予定なのだと聞いた。
「そうか。町でも祭を」
「明日、お祭りかぁ」
祝い事でもなければ行われない、数少ない娯楽だ。
○は「来たいですけど…」と、チラチラと趙雲を見る。
連日の宴会に少しだけでも顔を出している趙雲は、忙しいかもしれない。
しかし趙雲は咳払いをすると、考えるそぶりをして、「まぁ…構わない」とそっぽを向いて言った。
「えっ?」
「城の宴席には、初めの挨拶だけで中座させてもらうよう、事前に劉備殿へ話を通しておけば済むことだ。連日の大戦で町のものたちも疲弊している中、こうして自発的に祝いの場を設けるのだから……その活気を、この目で見ておくのも務めだからな」
もっともらしい理由を並べる。
「ふふっ、本当は私が行きたいって言ったから、都合をつけてくださるんでしょ?やっぱり子龍様は私の事を大事に想ってくださっているんですねっ」
「……やはり、行くのはやめだ」
顔を背けて歩きだした趙雲を気にすることなく、「楽しみです」と浮かれる○だった。
「……それにしても、兄さん、結局夕餉の時間になっても帰ってきませんでしたね。小蘭さんと外で済まされたのでしょうか」
夕餉も終えて茶を飲みながら、○は呟いた。
そろそろ寝る準備をしてもいい頃だと言うのに戻らない兄。
「何かあったのだろうか。彼の様な人が、時間を忘れて街に留まるなど…よほどの理由がなければ考えにくいが……」
「よほどって…まさか、あの、男女のあれこれ的な意味でですか?」
趙雲は一瞬だけ気まずそうに視線を泳がせ、黙って茶を飲む。
「ないですよー!ないない!もう本当に親族一同が頭を抱えたくらいに奥手なんですから」
すると入り口の戸が開き、廊下をドカドカと激しい足音が響いてきた。
兄は居間にいた趙雲を認めると睨みつける。
「俺の頼みを聞いてくれ……っ!」
そう言って趙雲の肩を掴んだ。
「一体どうされたのですか、そんな血相を変えて……」
聞くところによると、小蘭に一日中引っ張りまわされた挙句に明日の祭の約束を取り付けられたらしい。
断ろうとしたものの彼女の眩しい笑顔に断り切れず、曖昧な返事で帰ってきてしまい、なんとまだ城門前にいるという。
どこかの誰かさんに似た執念に、趙雲は黙り込む。
「頼む。俺の代わりに、明日の誘いを断ってきてはくれまいか……!」
「兄さん、そんなの自分で言わないと」
「無理だ。しかしあのような場所に放っておくのも危険だ」
趙雲は困惑した。
しかし、自分事なら出来ないが、他人事なら女性の誘いも断れると思い了承した。
自分と同じような性質で困っている○の兄を放ってもおけない。
「……分かりました。そこまで仰るなら、私が代わりに事情を説明し、お断りしてまいりましょう」
趙雲が凛とした表情で首を縦に振ると、荘はその手を握りしめた。
そうして、夜の城門前。
小蘭は何刻待つつもりだったのか、危険のないように迎えの店の者を連れて立っていた。
少し離れた物陰から様子を伺う○とその兄。
趙雲はいつも通りの毅然とした足取りで、真っ直ぐに小蘭の前へと進み出た。
やってきたのが趙雲だったので驚いた顔をした小蘭だが、一瞬で何かを悟ったのか極上の笑みを浮かべた。
あろうことか趙雲の両手を包み込み、身を寄せ、至近距離でなにやら話し込んでいる。
そして手を振って帰っていった。
その様子に怒り心頭の○だったが、程なくして趙雲が帰ってくる。
腕を組んで首を傾げている。
やがてがっくりと肩を落とした。
「……申し訳ない。断り切れなかった…諦めてほしい」
眉間に深い皺を寄せ、本気で落ち込む趙雲。
あれほど「任せてくれ」と言わんばかりの堂々たる後ろ姿だった男が、無惨な敗北を喫して帰ってきたのだ。
荘はしばらく沈黙し、横でまだ怒っている○を見た。
「○。お前も明日、ついてこい」
「は!?なんで?私は明日、子龍様と二人きりで…」
「なら趙子龍もつれて四人だ」
不満げに抗議する○だったが、その横で、趙雲は密かに胸を撫で下ろしていた。
実は昼間も「○とどうこうなるわけにはいかない」と心に誓ったものの、自分の気持ちを口にしてしまって以来、○と二人でいると胸の奥がモゾモゾとして落ち着かないのだ。
約束はしたものの、甚だ不安だった。
「……そうだな。荘殿も困っておられる事だし、○にとっても貴重な家族団らんだ。明日、四人で行こう」
趙雲が少しホッとしたような、妙に優しい声で調子を合わせる。
納得のいかない○は「えええええ…」と顔を歪ませた。