再会編【全5話】
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「町まで夕飯の買い出しに行きませんか?」という○の誘いを、趙雲は「道場に行く約束がある」と無愛想に断った。
○は「残念です」としゅんとした様子で、一人で山を下りて行った。
趙雲は彼女が角を曲がるのを見計らい、気配を殺して追跡を開始した。
麓の町に現れた○は、どこからどう見ても普通の町娘だった。
平服を纏い、掘り出し物の布地を眺めては目を輝かせ、串団子を頬張る。
その細い腰つきや柔らかな足取りのどこを探しても、大男を投げ飛ばすような女性には見えない。
趙雲は村の皆や父親たちの言う、”大男を投げ飛ばす○”というのが気になっていた。
このご時世、女が一人で旅をするなど危険すぎる。
しかし○は自分の村から一人でやってきたという。
つまりそれなりの心得はあるはず。
しかし出会ってからの○は、自分の前ではふにゃふにゃしていてそのような姿が見られない。
だから最近、○が一人で出かけるとこうして尾けていた。
(……今日も何事もないな…しかしあれでは、柄の悪い男に絡まれればひとたまりも……)
そう案じた矢先、野菜を買い込んだ○の前に、酒の抜けていない様子の大男が立ちふさがった。
なにか因縁をつけるように話しかけている。
影に潜んでいた趙雲が、反射的に飛び出そうとしたその時。
○は男のふらつく足を払う。
男が体制を崩して膝をついた瞬間、○は迷いなく、足元に転がっていた空の木桶をひっつかむと、男の側頭部めがけて振りぬいた。
バキャッと凄まじい破壊音と共に木桶が砕ける。
男が倒れると、手元に残った木桶の残骸を男の顔の上にポイッと捨てた。
○は乱れた髪を指先でさっと整えると、何事もなかったかのように買い物袋を抱え直し、軽やかな足取りでその場を立ち去った。
物陰でそれを見ていた趙雲は、石のように固まってしまう。
自分に見せるあの柔らかな笑顔と甘ったるい声は、一体どこへ消えたのか。
(もはやあれは拳法ではない。どこぞの荒くれ者ではないか…?)
尾行を続けながらそんな事を考えていると、後から、不意に柔らかく、聞き覚えのある声が届く。
「……あら。趙雲?」
趙雲が弾かれたように振り向くと、そこには一人の落ち着いた佇まいの女性が立っていました。
「ん……?おお! 小蘭ではないか。久しぶりだな」
十二年前、趙雲がまだ郷で武芸の基礎を学んでいた頃、淡い恋心を抱いていた少女だった。
あの頃、近所の男の子の多くが彼女に恋をしていたように思う。
この町で一番の可愛い女の子だった。
今はすっかり大人の女性となり、その微笑みにはかつての面影が優しく残っている。
趙雲は一点の曇りもない、純粋な「旧友」としての笑顔を見せた。
初恋などというものは、遠い昔の霞のようなもの。
再会を純粋に喜ぶ彼の声は、雑踏の中でもよく響いた。
「ええ。貴方が戦場へ行ったと聞いて、ずっと案じていたのよ。戻ってたのね」
小蘭が嬉しそうに一歩近づき、趙雲の腕に軽く触れようとした。
「子龍様?」
少し離れた場所からかけられた声。
○が趙雲の後ろ姿に気づいて駆け寄ってくる。
そして趙雲の影に隠れていた小蘭を認める。
○の視線は、趙雲の晴れやかな笑顔と、その傍らに立つ見知らぬ美女…そして二人の親密そうな距離感に釘付けになった。
「あ……○殿。これは、その……」
趙雲は自分が尾行していたという気まずさもあり、この説明しがたい状況に戸惑う。
「……そちらは、どなたですか?」
「ああ…彼女は旧友の…小蘭と言って…」
「……『小蘭』さん。……呼び捨てているなんて、随分と親しいのですね」
○は顔を伏せる。
小蘭は事の重大さに気づかず、「あら、妹さんなんていたかしら?」と無邪気に問いかけた。
そして雰囲気を察しているのかどうなのか、懐かしそうに目を細めて趙雲の肩に触れた。
「でも本当に、昔よりずっと逞しくなったのね。背も伸びて、これじゃあ女の人たちが放っておかないんじゃない?昔は私の方が背が高かったのに」
「やめてくれ。私はずっと従軍していて、そのような浮ついた話には縁が……」
趙雲は照れ隠しに頬を掻くが、その言葉が○の耳には「今は特定の女性がいない」と、小蘭に遠回しに教えているように見えた。
自分がいるというのに。
○は趙雲に近づくと、服の裾を引っ張った。
「……子龍様。浮気はいけません」
「浮気!?」
素っ頓狂な声をあげる趙雲。
小蘭が驚いたように目を丸くして尋ねる。
「あら、趙雲。お相手がいるの?もしかしてこのお嬢さんが…?」
「いや、これはその、事情があって…本当に困っていて…」
言い淀んだ趙雲を○は耳まで赤くして睨んだ。
小蘭に「誤解だ」と言っていることに腹を立てる。
踵を返して家に向かって歩きだしてしまった。
小蘭も不思議そうな顔をして、「じゃ、私もこれで」と手を振って去ってしまい、趙雲は急いで○を追った。
「○殿!」
趙雲が背後に追いつくと、○は大きくため息をついた。
「…子龍様は、あのお綺麗な方と会うために、嘘をついてまで町にいらしたのですね」
○の足取りが目に見えて重くなる。
「あんなに鼻の下を伸ばして…。子龍様は浮気者ですっ」
趙雲は若干の気まずさを感じつつも、ここでもう一度はっきり言わなくてはと心に決めた。
「○殿……まず、浮気だなんだというが、私と○殿はそもそもそういう関係ではないだろう。私が誰とどう話そうが”浮気”には当たらない。あと、家の中でならともかく、外でも大きな声でそのような事を言うのは控えてくれ」
何日も尾行していた罪悪感と、人生初の”修羅場”と言われる場面に遭遇して焦った趙雲は、そのままつい口を滑らせてしまう。
○は歩みを止めない。
「確かに、幼い頃は彼女に淡い恋心を抱いていたこともあった。だが、それは本当にもう遠い昔の話で、今は何とも思っていない。今も偶然そこで会って声をかけられただけで……その点で言えば、○殿もそう変わらない認識だ」
「…変わらなくありません。…流石、”好きだった”だけありますね。私にはあんな風に笑って下さらないのに。いつも怒ってばかりで」
振り向かずにそう言った○は、肩でため息をついて「…先に帰ります」と言い捨てると、脱兎のごとき速さで山道へと駆け出していった。
彼女の足は速く、趙雲が「待て!」と叫ぶ間もなく、その背中は夕闇に溶けていった。
一人残された道で、趙雲は立ち尽くす。
(……言い過ぎたかもしない…あんな変わった娘だが、私がいない間、家族を見守ってくれていたというのに…)
胸の奥が、ちくりと痛む。
○の気持ちには答えられないし、ああして”妻”として付き纏われるのも困る。
それでも献身的なのは間違いないし、どう断っても離れない。
趙雲は、もうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
ふと見ると、走った○の買い物籠から零れた野菜がいくつか落ちていた。
趙雲はそれを拾いながら家路につく。
村の近くについたものの、気まずくて家に入れない趙雲。
家の灯りが消えてからそっと帰宅することにした。
台所に拾って帰ってきた野菜を置きに行くと、食卓には趙雲の分だけよけられた料理が置いてあった。
それを覗き込んでいると、「あの」と小さい声。
台所の入り口に○が立っていた。
「……先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
先程とは打って変わって、落ち着いた様子でうつ向いている。
「私、しばらく実家に戻る事にいたします」
「え?」
「子龍様の仰る通りです。よくよく考えたら…子龍様のような方を、世の女性が放っておくはずもありませんよね…。子龍様に、既に心に決めた方がいるかどうかも確かめずに押し掛けてしまって」
「あんなお綺麗な方がいらっしゃっただなんて……少し…一年ほど、実家に戻って頭を冷やしてまいります」
俯く○の肩が、微かに震えている。
「それでその後、また会ってくださるかどうか、教えてください…お世話になりました」
彼女のその引き際の良さが、かえって趙雲を激しく狼狽させた。
○は頭を下げると足元の荷物を持って、戸口の方に歩いて行く。
「待ってくれ! 誤解だ、○殿!」
趙雲は慌てて立ち上がり、彼女の前に回る。
「小蘭は本当に、幼い頃に一度だけ恋心を抱いただけに過ぎない! 今は本当に何でもないのだ!あの時は○殿を傷つけるような言い方になってしまって申し訳ない! それに……心に決めた女性など、私にはいない! 断じてだ!」
言葉を尽くして潔白を証明しようとする趙雲。
そのあまりの必死さに、○はゆっくりと顔を上げた。
「……本当に、お心に決めた方はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ、誓ってそうだ。今は武芸と、この村の安寧のことしか頭にない。……だから、帰るなどとそんな悲しいことを言わないでくれ」
「私、ここにいてもいいのですか?」
「そ、そうだな…」
○はふっと、先ほどまでの悲壮感を霧散させ、いたずらっぽく微笑む。
「……ふふっ。そこまで必死に言い訳してくださるなら、私、ここに残ることにいたします」
「え……」
「こんなに引き止めてくださるなんて。……私、とっても幸せです」
○は趙雲に歩み寄ると、彼の胸元にそっと寄り添う。
そんな○に趙雲は脱力した。
「さ、では夕飯、食べちゃってください。私、片づけをしてから寝ますから」
食事をする趙雲を、向かいに座ってニコニコと笑いながら見つめる○に、
(これで良かったんだろうか…距離を置くなら今だったな…)
と思う趙雲。
しかし、その心は不思議と軽くもあった。
○は「残念です」としゅんとした様子で、一人で山を下りて行った。
趙雲は彼女が角を曲がるのを見計らい、気配を殺して追跡を開始した。
麓の町に現れた○は、どこからどう見ても普通の町娘だった。
平服を纏い、掘り出し物の布地を眺めては目を輝かせ、串団子を頬張る。
その細い腰つきや柔らかな足取りのどこを探しても、大男を投げ飛ばすような女性には見えない。
趙雲は村の皆や父親たちの言う、”大男を投げ飛ばす○”というのが気になっていた。
このご時世、女が一人で旅をするなど危険すぎる。
しかし○は自分の村から一人でやってきたという。
つまりそれなりの心得はあるはず。
しかし出会ってからの○は、自分の前ではふにゃふにゃしていてそのような姿が見られない。
だから最近、○が一人で出かけるとこうして尾けていた。
(……今日も何事もないな…しかしあれでは、柄の悪い男に絡まれればひとたまりも……)
そう案じた矢先、野菜を買い込んだ○の前に、酒の抜けていない様子の大男が立ちふさがった。
なにか因縁をつけるように話しかけている。
影に潜んでいた趙雲が、反射的に飛び出そうとしたその時。
○は男のふらつく足を払う。
男が体制を崩して膝をついた瞬間、○は迷いなく、足元に転がっていた空の木桶をひっつかむと、男の側頭部めがけて振りぬいた。
バキャッと凄まじい破壊音と共に木桶が砕ける。
男が倒れると、手元に残った木桶の残骸を男の顔の上にポイッと捨てた。
○は乱れた髪を指先でさっと整えると、何事もなかったかのように買い物袋を抱え直し、軽やかな足取りでその場を立ち去った。
物陰でそれを見ていた趙雲は、石のように固まってしまう。
自分に見せるあの柔らかな笑顔と甘ったるい声は、一体どこへ消えたのか。
(もはやあれは拳法ではない。どこぞの荒くれ者ではないか…?)
尾行を続けながらそんな事を考えていると、後から、不意に柔らかく、聞き覚えのある声が届く。
「……あら。趙雲?」
趙雲が弾かれたように振り向くと、そこには一人の落ち着いた佇まいの女性が立っていました。
「ん……?おお! 小蘭ではないか。久しぶりだな」
十二年前、趙雲がまだ郷で武芸の基礎を学んでいた頃、淡い恋心を抱いていた少女だった。
あの頃、近所の男の子の多くが彼女に恋をしていたように思う。
この町で一番の可愛い女の子だった。
今はすっかり大人の女性となり、その微笑みにはかつての面影が優しく残っている。
趙雲は一点の曇りもない、純粋な「旧友」としての笑顔を見せた。
初恋などというものは、遠い昔の霞のようなもの。
再会を純粋に喜ぶ彼の声は、雑踏の中でもよく響いた。
「ええ。貴方が戦場へ行ったと聞いて、ずっと案じていたのよ。戻ってたのね」
小蘭が嬉しそうに一歩近づき、趙雲の腕に軽く触れようとした。
「子龍様?」
少し離れた場所からかけられた声。
○が趙雲の後ろ姿に気づいて駆け寄ってくる。
そして趙雲の影に隠れていた小蘭を認める。
○の視線は、趙雲の晴れやかな笑顔と、その傍らに立つ見知らぬ美女…そして二人の親密そうな距離感に釘付けになった。
「あ……○殿。これは、その……」
趙雲は自分が尾行していたという気まずさもあり、この説明しがたい状況に戸惑う。
「……そちらは、どなたですか?」
「ああ…彼女は旧友の…小蘭と言って…」
「……『小蘭』さん。……呼び捨てているなんて、随分と親しいのですね」
○は顔を伏せる。
小蘭は事の重大さに気づかず、「あら、妹さんなんていたかしら?」と無邪気に問いかけた。
そして雰囲気を察しているのかどうなのか、懐かしそうに目を細めて趙雲の肩に触れた。
「でも本当に、昔よりずっと逞しくなったのね。背も伸びて、これじゃあ女の人たちが放っておかないんじゃない?昔は私の方が背が高かったのに」
「やめてくれ。私はずっと従軍していて、そのような浮ついた話には縁が……」
趙雲は照れ隠しに頬を掻くが、その言葉が○の耳には「今は特定の女性がいない」と、小蘭に遠回しに教えているように見えた。
自分がいるというのに。
○は趙雲に近づくと、服の裾を引っ張った。
「……子龍様。浮気はいけません」
「浮気!?」
素っ頓狂な声をあげる趙雲。
小蘭が驚いたように目を丸くして尋ねる。
「あら、趙雲。お相手がいるの?もしかしてこのお嬢さんが…?」
「いや、これはその、事情があって…本当に困っていて…」
言い淀んだ趙雲を○は耳まで赤くして睨んだ。
小蘭に「誤解だ」と言っていることに腹を立てる。
踵を返して家に向かって歩きだしてしまった。
小蘭も不思議そうな顔をして、「じゃ、私もこれで」と手を振って去ってしまい、趙雲は急いで○を追った。
「○殿!」
趙雲が背後に追いつくと、○は大きくため息をついた。
「…子龍様は、あのお綺麗な方と会うために、嘘をついてまで町にいらしたのですね」
○の足取りが目に見えて重くなる。
「あんなに鼻の下を伸ばして…。子龍様は浮気者ですっ」
趙雲は若干の気まずさを感じつつも、ここでもう一度はっきり言わなくてはと心に決めた。
「○殿……まず、浮気だなんだというが、私と○殿はそもそもそういう関係ではないだろう。私が誰とどう話そうが”浮気”には当たらない。あと、家の中でならともかく、外でも大きな声でそのような事を言うのは控えてくれ」
何日も尾行していた罪悪感と、人生初の”修羅場”と言われる場面に遭遇して焦った趙雲は、そのままつい口を滑らせてしまう。
○は歩みを止めない。
「確かに、幼い頃は彼女に淡い恋心を抱いていたこともあった。だが、それは本当にもう遠い昔の話で、今は何とも思っていない。今も偶然そこで会って声をかけられただけで……その点で言えば、○殿もそう変わらない認識だ」
「…変わらなくありません。…流石、”好きだった”だけありますね。私にはあんな風に笑って下さらないのに。いつも怒ってばかりで」
振り向かずにそう言った○は、肩でため息をついて「…先に帰ります」と言い捨てると、脱兎のごとき速さで山道へと駆け出していった。
彼女の足は速く、趙雲が「待て!」と叫ぶ間もなく、その背中は夕闇に溶けていった。
一人残された道で、趙雲は立ち尽くす。
(……言い過ぎたかもしない…あんな変わった娘だが、私がいない間、家族を見守ってくれていたというのに…)
胸の奥が、ちくりと痛む。
○の気持ちには答えられないし、ああして”妻”として付き纏われるのも困る。
それでも献身的なのは間違いないし、どう断っても離れない。
趙雲は、もうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
ふと見ると、走った○の買い物籠から零れた野菜がいくつか落ちていた。
趙雲はそれを拾いながら家路につく。
村の近くについたものの、気まずくて家に入れない趙雲。
家の灯りが消えてからそっと帰宅することにした。
台所に拾って帰ってきた野菜を置きに行くと、食卓には趙雲の分だけよけられた料理が置いてあった。
それを覗き込んでいると、「あの」と小さい声。
台所の入り口に○が立っていた。
「……先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
先程とは打って変わって、落ち着いた様子でうつ向いている。
「私、しばらく実家に戻る事にいたします」
「え?」
「子龍様の仰る通りです。よくよく考えたら…子龍様のような方を、世の女性が放っておくはずもありませんよね…。子龍様に、既に心に決めた方がいるかどうかも確かめずに押し掛けてしまって」
「あんなお綺麗な方がいらっしゃっただなんて……少し…一年ほど、実家に戻って頭を冷やしてまいります」
俯く○の肩が、微かに震えている。
「それでその後、また会ってくださるかどうか、教えてください…お世話になりました」
彼女のその引き際の良さが、かえって趙雲を激しく狼狽させた。
○は頭を下げると足元の荷物を持って、戸口の方に歩いて行く。
「待ってくれ! 誤解だ、○殿!」
趙雲は慌てて立ち上がり、彼女の前に回る。
「小蘭は本当に、幼い頃に一度だけ恋心を抱いただけに過ぎない! 今は本当に何でもないのだ!あの時は○殿を傷つけるような言い方になってしまって申し訳ない! それに……心に決めた女性など、私にはいない! 断じてだ!」
言葉を尽くして潔白を証明しようとする趙雲。
そのあまりの必死さに、○はゆっくりと顔を上げた。
「……本当に、お心に決めた方はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ、誓ってそうだ。今は武芸と、この村の安寧のことしか頭にない。……だから、帰るなどとそんな悲しいことを言わないでくれ」
「私、ここにいてもいいのですか?」
「そ、そうだな…」
○はふっと、先ほどまでの悲壮感を霧散させ、いたずらっぽく微笑む。
「……ふふっ。そこまで必死に言い訳してくださるなら、私、ここに残ることにいたします」
「え……」
「こんなに引き止めてくださるなんて。……私、とっても幸せです」
○は趙雲に歩み寄ると、彼の胸元にそっと寄り添う。
そんな○に趙雲は脱力した。
「さ、では夕飯、食べちゃってください。私、片づけをしてから寝ますから」
食事をする趙雲を、向かいに座ってニコニコと笑いながら見つめる○に、
(これで良かったんだろうか…距離を置くなら今だったな…)
と思う趙雲。
しかし、その心は不思議と軽くもあった。