公安編【全4話】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
公安の澄み渡る空の下、趙雲に呼び止められた○は、彼のいつも以上に険しい表情に首を傾げた。
「……○。急な話だが、近々、呉へ赴くことになった。孫権殿の妹君、孫尚香殿との縁談が持ち上がってな」
「えっ!?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、○の視界は真っ白になる。
「誰がですか!?し、子龍様ですか……!?何故!」
「落ち着け、○。婚姻を結ぶのは私ではない、劉備殿だ」
思わず趙雲の胸倉に飛びつく○の手を抑えて趙雲が言う。
「え…。あら、劉備様ですか…」
眉間のしわが一気になくなり、ストンと力なく手を離す○。
「……そうだ。同盟を確固たるものにするため、殿が自ら呉へ向かわれる。私はその護衛として同行するだけだ。期間はそう長くはあるまい。……往復の道程を考えても一月ほどで戻れるだろうと聞かされている。向こうでは孫氏への挨拶と、婚礼の儀を済ませるだけだからな」
つらつらと一気にそう言った趙雲に、○はウンウン頷く。
「……というわけで、○。お前は公安で留守番だ。今回はあくまで外交の場であり、あちらの警戒心を煽らないためにも少数で行くようにとのお達しだ。お前を連れていく名目がない」
「え!?」
ここまでの話は、自分も同行できるための旅のしおりだと思っていた○。
素っ頓狂な声を上げる。
「留守番……? 私も行って、お二人の身の回りのお世話とか」
「駄目だ。お前は留守番と決まった」
趙雲の言葉は、いつになく断定的だった。
取り付く島もない様子に、○はしょんぼりと俯いた。
*****
公安の港は、呉へと向かう船団の活気と、どこか物々しい緊張感に包まれていた。
「ああ……どうしよう、関平。私、とんでもないことをしてしまった」
○は荷物の積み込みが進む中、がっくりと肩を落として項垂れている。
隣で警備にあたっていた関平が、不思議そうに問いかけた。
「どうしたんだ、○。そんなに青い顔をして」
「赤壁の戦いの後片付けが終わって別れる時、あの……子龍様の周りにいた美人の女官の方に、つい『私は子龍様の妹です』って挨拶しちゃったの。子龍様の前でカッコつけた手前、釘を刺せなくて…子龍様に会ったら……感動の再会になってしまうんじゃ…ああ、胃が痛い」
「ははは! なんだ、そんなことか」
関平は快活に笑い、○の肩を軽く叩いて励ます。
「心配いらないって。趙雲殿は今回、殿の護衛として傍を離れない任務らしい。身辺警護に食事の際は毒見。女官と茶を飲む暇なんてないさ」
そんな○の不安を余所に、出発の準備を整えた趙雲が歩み寄ってくる。
呆れた様な顔で、その手にはパンパンに膨らんだ革袋が握られていた。
「○。……これは一体、何のつもりだ」
そう言って革袋を差し出す。
「あ、それですか? 向こうで気軽に食べ物を頼めないかもしれないでしょう? だからお腹が減った時にすぐ食べられるように、干し肉と、日持ちするお菓子を詰め込んでおいたんです」
「気持ちはありがたいが……これは邪魔になる。限られた荷物しか載せられぬのに…遠乗りにいくのではないんだぞ」
「大丈夫ですよ!隙間に隠しておけばバレません」
「隠しようがないだろう、こんなに膨らんでいては……」
趙雲は溜息をつきながらも、結局その袋を突き返すことができず、自らの荷の隅に無理やり押し込んだ。
やがて、出発を告げるドラの音が響き渡り、趙雲は○に向き直る。
「行ってくる。○、私のいない間、くれぐれも無茶などするなよ。…関平、○を見張っておいてくれ」
○と関平は大きく頷く。
船がゆっくりと岸を離れていくのを、○はずっと見送った。
*****
呉に向かう船上で、ふと劉備が「小腹が減った」と言った。
そこで趙雲は、○が詰め込んだ保存食を思い出す。
○は確か菓子も入れたと言っていた。
趙雲は自身の荷物からあの革袋を引っ張り出す。
革袋には干し肉や揚げ菓子のほかに、○が刺しゅうしたのだろう趙雲の褌やら髪を結ぶ紐等まで詰め込まれていた。
その隙間から、何とも形容しがたい不恰好な布人形が転がり出てきた。
急いで縫い合わせたのか、綿の詰め方が偏っており、手足の長さも左右バラバラ。
なんとも不気味な造形だが、その胴体部分には、歪な形ながらも○の頭文字が丁寧に刺繍されていた。
それを見てから人形を見ると、なんとなく○っぽい。
出発までのわずかな時間でこんなものを作っている○を想像すると、趙雲は思わず笑ってしまう。
確かに準備期間、○は呉に行かないのに何故か「忙しい」と言っていた。
干し肉やら菓子を用意して、褌や人形を作っていて忙しかったのだ。
趙雲はその不格好な人形を誰にも見られぬよう、鎧の下の懐に忍ばせた。
*****
数日後、やっと呉にたどり着いた一行を出迎えた呉の面々。
その中にはやはりあの女官がいた。
以前と変わらぬ艶やかな微笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「お久しぶりです。こんなに早く再会できるだなんて思いませんでした」
そう言って美しく微笑む女官に、反射的に周囲を伺う趙雲だったが、今は○がいない事を思い出して少しだけホッとした。
「……○。急な話だが、近々、呉へ赴くことになった。孫権殿の妹君、孫尚香殿との縁談が持ち上がってな」
「えっ!?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、○の視界は真っ白になる。
「誰がですか!?し、子龍様ですか……!?何故!」
「落ち着け、○。婚姻を結ぶのは私ではない、劉備殿だ」
思わず趙雲の胸倉に飛びつく○の手を抑えて趙雲が言う。
「え…。あら、劉備様ですか…」
眉間のしわが一気になくなり、ストンと力なく手を離す○。
「……そうだ。同盟を確固たるものにするため、殿が自ら呉へ向かわれる。私はその護衛として同行するだけだ。期間はそう長くはあるまい。……往復の道程を考えても一月ほどで戻れるだろうと聞かされている。向こうでは孫氏への挨拶と、婚礼の儀を済ませるだけだからな」
つらつらと一気にそう言った趙雲に、○はウンウン頷く。
「……というわけで、○。お前は公安で留守番だ。今回はあくまで外交の場であり、あちらの警戒心を煽らないためにも少数で行くようにとのお達しだ。お前を連れていく名目がない」
「え!?」
ここまでの話は、自分も同行できるための旅のしおりだと思っていた○。
素っ頓狂な声を上げる。
「留守番……? 私も行って、お二人の身の回りのお世話とか」
「駄目だ。お前は留守番と決まった」
趙雲の言葉は、いつになく断定的だった。
取り付く島もない様子に、○はしょんぼりと俯いた。
*****
公安の港は、呉へと向かう船団の活気と、どこか物々しい緊張感に包まれていた。
「ああ……どうしよう、関平。私、とんでもないことをしてしまった」
○は荷物の積み込みが進む中、がっくりと肩を落として項垂れている。
隣で警備にあたっていた関平が、不思議そうに問いかけた。
「どうしたんだ、○。そんなに青い顔をして」
「赤壁の戦いの後片付けが終わって別れる時、あの……子龍様の周りにいた美人の女官の方に、つい『私は子龍様の妹です』って挨拶しちゃったの。子龍様の前でカッコつけた手前、釘を刺せなくて…子龍様に会ったら……感動の再会になってしまうんじゃ…ああ、胃が痛い」
「ははは! なんだ、そんなことか」
関平は快活に笑い、○の肩を軽く叩いて励ます。
「心配いらないって。趙雲殿は今回、殿の護衛として傍を離れない任務らしい。身辺警護に食事の際は毒見。女官と茶を飲む暇なんてないさ」
そんな○の不安を余所に、出発の準備を整えた趙雲が歩み寄ってくる。
呆れた様な顔で、その手にはパンパンに膨らんだ革袋が握られていた。
「○。……これは一体、何のつもりだ」
そう言って革袋を差し出す。
「あ、それですか? 向こうで気軽に食べ物を頼めないかもしれないでしょう? だからお腹が減った時にすぐ食べられるように、干し肉と、日持ちするお菓子を詰め込んでおいたんです」
「気持ちはありがたいが……これは邪魔になる。限られた荷物しか載せられぬのに…遠乗りにいくのではないんだぞ」
「大丈夫ですよ!隙間に隠しておけばバレません」
「隠しようがないだろう、こんなに膨らんでいては……」
趙雲は溜息をつきながらも、結局その袋を突き返すことができず、自らの荷の隅に無理やり押し込んだ。
やがて、出発を告げるドラの音が響き渡り、趙雲は○に向き直る。
「行ってくる。○、私のいない間、くれぐれも無茶などするなよ。…関平、○を見張っておいてくれ」
○と関平は大きく頷く。
船がゆっくりと岸を離れていくのを、○はずっと見送った。
*****
呉に向かう船上で、ふと劉備が「小腹が減った」と言った。
そこで趙雲は、○が詰め込んだ保存食を思い出す。
○は確か菓子も入れたと言っていた。
趙雲は自身の荷物からあの革袋を引っ張り出す。
革袋には干し肉や揚げ菓子のほかに、○が刺しゅうしたのだろう趙雲の褌やら髪を結ぶ紐等まで詰め込まれていた。
その隙間から、何とも形容しがたい不恰好な布人形が転がり出てきた。
急いで縫い合わせたのか、綿の詰め方が偏っており、手足の長さも左右バラバラ。
なんとも不気味な造形だが、その胴体部分には、歪な形ながらも○の頭文字が丁寧に刺繍されていた。
それを見てから人形を見ると、なんとなく○っぽい。
出発までのわずかな時間でこんなものを作っている○を想像すると、趙雲は思わず笑ってしまう。
確かに準備期間、○は呉に行かないのに何故か「忙しい」と言っていた。
干し肉やら菓子を用意して、褌や人形を作っていて忙しかったのだ。
趙雲はその不格好な人形を誰にも見られぬよう、鎧の下の懐に忍ばせた。
*****
数日後、やっと呉にたどり着いた一行を出迎えた呉の面々。
その中にはやはりあの女官がいた。
以前と変わらぬ艶やかな微笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
「お久しぶりです。こんなに早く再会できるだなんて思いませんでした」
そう言って美しく微笑む女官に、反射的に周囲を伺う趙雲だったが、今は○がいない事を思い出して少しだけホッとした。