赤壁編【全9話】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後、夏口にたどり着いた劉備軍。
孫権軍と同盟を組んで、赤壁にて曹操軍と戦うことになった。
同盟を前に、宴好きな孫権の趣向で、劉備軍と孫権軍の顔合わせも踏まえた大規模な宴が開かれることとなった。
その直前、○は諸葛亮に呼び出されていた。
「いいですか、○殿。これは遊びではありません」
鋭い眼光で淡々と話す。
「孫権殿は我らの出方を探るために、腕利きの女官や美女を接待役に差し向けてくるでしょう。私も含め、男性陣はあえてその懐に飛び込み、孫権軍の内部事情を探って来なくてはなりません。それを貴女が横から『私の旦那様です』などと趙雲殿に騒ぎ立てては、せっかくの偵察が台無しになります。今日ばかりは、口を慎んでいただけますね?」
○は諸葛亮の有無を言わせぬ圧に言葉を詰まらせたが、月英の様に同じく我慢する側の人間が他にもいるのだと言い聞かせて頷いた。
「それに、趙雲殿のことばかり考えてもいられませんよ。あちらも、こちらの女性陣に同じような考えで接触してくる可能性があります。余計な事を言わない様、気を付けてください」
宴が始まると、そこは○にとって地獄のような光景だった。
豪華な幕舎の中、趙雲の周囲には、呉の選りすぐりの美女たちがひしめき合う。
呉の女官たちは趙雲の佇まいに色めき立ち、次々と杯を勧めては体を寄せている。
少し離れた席では周倉が鼻の下を伸ばし、関平は慣れない接待に顔を真っ赤にして固まっている。
劉備も諸葛亮もとんでもない囲まれようだ。
○は給仕として働いていたが、宴も落ち着いてきたのでやがて柱の陰に隠れてそれを覗き見る。
ヤキモチを妬くどころか、このお互いの思惑ひしめく戦場に若干引いていた。
(…熱気が凄くて吐きそう……、ん?)
なんだか見ているだけで疲れてくるが、やたら趙雲にくっつく女官を見つけて睨みつけた。
趙雲も穏やかに微笑んでいる。
(私にもあんなにニコニコしないくせに!)
そんな事を考えていると、その背後に、ふわりと穏やかで知性的な気配が忍び寄る。
「そんなに恐ろしい顔をしていては、せっかくの宴の料理が凍りついてしまいますよ」
涼やかな声に弾かれたように振り向くと、そこには一人の若者が立っていた。
「宴に疲れて人の少ない柱の陰に入った所、あなたを見つけまして。同年代の方だと思い、声を掛けましたが……ふふっ、…ははは」
声を上げて笑い出す青年に、○は「何がおかしいのですか」と眉をしかめる。
「失礼しました。…獲物を草むらから狙う虎の様な形相でしたので、つい」
「そ、そんなにすごい顔をしていましたか……?」
「ええ。目をこんなに吊り上げて」
そう言って青年は挨拶をした。
「……私の名は陸遜。字は伯言と言います。そんなに怖い顔をしていては、偵察を命じた諸葛亮殿に叱られてしまいますよ。少し、私と話をしませんか? 私も、年上の将軍たちに囲まれて少し退屈していたところなのです」
「いやですわ、偵察だなんて」と愛想笑いをする○。
しかし陸遜はふと微笑む。
「お互い、そうだと分かっていてやりあうなんて滑稽でしょう?…ああ、今のは内緒でお願いします」
歳が近く、真っ直ぐなその態度に○は気が抜けたように微笑んだ。
「私は○と申します。…長坂で劉備様の軍に入れて頂きました。新参者ですし、御覧の通り、給仕にされるくらいの者で…何も情報は持っていませんよ」
「偵察が目的なら、こんな風に話しかけませんよ。暇なので付き合って頂きたいのです…ところで、趙雲殿がご心配なのですか?」
視線の先を辿られた。
確か諸葛亮には”趙雲殿との関係は兄妹と言いなさい”と言われていた事を思い出す。
「あ、兄、です」
そう言うと陸遜は特にそれ以上何も聞いてこなかった。
陸遜は楽しげに頷き、○の隣で身を乗り出す。
「お兄様はあちらで大変な人気ですね。妹として、心配ではないのですか? あのままでは呉の佳人たちに連れ去られてしまうかもしれません」
「ホホホ、あ、兄の幸せを願うのが妹の務めですわ。ただ、ちょっっっとフシダラな様子には見えますけれど」
○は必死に「妹」を演じようとする。
そんな○に陸遜はこの男特有の、さわやかな笑顔を向けた。
「どうでしょう。あちらの少し離れたところで静かにお話ししませんか?」
陸遜が示したのは喧騒から離れ、ちょうど趙雲に背を向ける位置にある静かな席だ。
○はチラリと、依然として女官たちに囲まれている「兄」の背中を見やる。
「でも…」
「ここから出るわけでもなし、大丈夫ですよ。これも”お仕事”でしょう」
確かに宴会場から出る訳でもないし、孫権軍の男性に声をかけられたら対話をするようには言われている。
陸遜と○は隅の席に座った。
陸遜は手際よく、○の前の杯に琥珀色の酒を注ぐ。
「呉の地酒です。口当たりは甘いですが、案外酔うので気をつけて下さい」
「あの…本当に私、学もない山育ちの田舎者で…軍師様からも、ただ食事を運んでいろとしか言われていない様な人間なので…」
「それを言うのなら私もです」
陸遜は少し酒を口にして言う。
「私も何者でもないんです。孫家に仕えるようになってしばらくですが、戦に関して何かをした事もありません。勉強中の身です」
「そうですか…」
そうは言うが、一目見た時から只者ではなさそうな雰囲気を纏っていた陸遜に、(嘘をつかれているかもしれない)と少し疑う○。
「それに最初に手の内を明かしたではありませんか。貴女が柱の影から趙雲殿を睨みつけていた時……あれは到底、密偵や偵察に来ている者の反応ではありませんでしたから」
「あ、あれは…」
「愛する”兄”を盗られまいと必死な…とても、可愛らしい鬼でしたね」
○は顔を真っ赤にした。
六歳で結婚相手を決めてしまった○は、村の男性に女性として扱われてこなかった。
稽古漬けの日々だったのもあり、男性との距離は近かったが恋愛ごとはサッパリ。
加えて趙雲はあんな感じで、真っ直ぐに褒められることの耐性がない。
そんな事情を知らないはずの陸遜だが、「失礼」と言いつつも、○の反応を楽しんでいた。
宴は深夜まで続き、趙雲は最後まで呉の女官たちの相手を完璧に務め上げた。
酒に溺れることも、甘言に絆されることもなく、軍師から命じられた「情報収集」という任務を、鉄の意志で完遂した。
孫権軍が拠点とする柴桑の町の宿に滞在する趙雲は、酔っぱらった関平に手を貸してやっと戻ってきた。
(……○は、もう休んだのか?)
宴の席で陸遜と座っていた彼女の姿が浮かぶ。
自分に背を向けてはいたが、陸遜の様子からして楽しく話をしていたのだろう。
○は、諸葛亮達と先に帰っていったので宿屋にいるはずだ。
宿の入り口に入り関平を床に転がすと、階段の手すりから諸葛亮がこちらを見ていた。
「遅かったですね」
「ええ…最後まで付き合いましたから。とはいえ、張飛殿はまだ外の酒場で飲んでいらっしゃいますが」
「明日、女官の方に町を案内してもらう約束をされてるそうですね。成果は上々ですね。…周倉殿が言い回っていましたよ」
その言葉に趙雲は無言で肯定する。
「……○殿は…随分怒っていましたから。言い訳を考えておいてください」
そう言って部屋に戻った諸葛亮に、趙雲はゾッとした。
孫権軍と同盟を組んで、赤壁にて曹操軍と戦うことになった。
同盟を前に、宴好きな孫権の趣向で、劉備軍と孫権軍の顔合わせも踏まえた大規模な宴が開かれることとなった。
その直前、○は諸葛亮に呼び出されていた。
「いいですか、○殿。これは遊びではありません」
鋭い眼光で淡々と話す。
「孫権殿は我らの出方を探るために、腕利きの女官や美女を接待役に差し向けてくるでしょう。私も含め、男性陣はあえてその懐に飛び込み、孫権軍の内部事情を探って来なくてはなりません。それを貴女が横から『私の旦那様です』などと趙雲殿に騒ぎ立てては、せっかくの偵察が台無しになります。今日ばかりは、口を慎んでいただけますね?」
○は諸葛亮の有無を言わせぬ圧に言葉を詰まらせたが、月英の様に同じく我慢する側の人間が他にもいるのだと言い聞かせて頷いた。
「それに、趙雲殿のことばかり考えてもいられませんよ。あちらも、こちらの女性陣に同じような考えで接触してくる可能性があります。余計な事を言わない様、気を付けてください」
宴が始まると、そこは○にとって地獄のような光景だった。
豪華な幕舎の中、趙雲の周囲には、呉の選りすぐりの美女たちがひしめき合う。
呉の女官たちは趙雲の佇まいに色めき立ち、次々と杯を勧めては体を寄せている。
少し離れた席では周倉が鼻の下を伸ばし、関平は慣れない接待に顔を真っ赤にして固まっている。
劉備も諸葛亮もとんでもない囲まれようだ。
○は給仕として働いていたが、宴も落ち着いてきたのでやがて柱の陰に隠れてそれを覗き見る。
ヤキモチを妬くどころか、このお互いの思惑ひしめく戦場に若干引いていた。
(…熱気が凄くて吐きそう……、ん?)
なんだか見ているだけで疲れてくるが、やたら趙雲にくっつく女官を見つけて睨みつけた。
趙雲も穏やかに微笑んでいる。
(私にもあんなにニコニコしないくせに!)
そんな事を考えていると、その背後に、ふわりと穏やかで知性的な気配が忍び寄る。
「そんなに恐ろしい顔をしていては、せっかくの宴の料理が凍りついてしまいますよ」
涼やかな声に弾かれたように振り向くと、そこには一人の若者が立っていた。
「宴に疲れて人の少ない柱の陰に入った所、あなたを見つけまして。同年代の方だと思い、声を掛けましたが……ふふっ、…ははは」
声を上げて笑い出す青年に、○は「何がおかしいのですか」と眉をしかめる。
「失礼しました。…獲物を草むらから狙う虎の様な形相でしたので、つい」
「そ、そんなにすごい顔をしていましたか……?」
「ええ。目をこんなに吊り上げて」
そう言って青年は挨拶をした。
「……私の名は陸遜。字は伯言と言います。そんなに怖い顔をしていては、偵察を命じた諸葛亮殿に叱られてしまいますよ。少し、私と話をしませんか? 私も、年上の将軍たちに囲まれて少し退屈していたところなのです」
「いやですわ、偵察だなんて」と愛想笑いをする○。
しかし陸遜はふと微笑む。
「お互い、そうだと分かっていてやりあうなんて滑稽でしょう?…ああ、今のは内緒でお願いします」
歳が近く、真っ直ぐなその態度に○は気が抜けたように微笑んだ。
「私は○と申します。…長坂で劉備様の軍に入れて頂きました。新参者ですし、御覧の通り、給仕にされるくらいの者で…何も情報は持っていませんよ」
「偵察が目的なら、こんな風に話しかけませんよ。暇なので付き合って頂きたいのです…ところで、趙雲殿がご心配なのですか?」
視線の先を辿られた。
確か諸葛亮には”趙雲殿との関係は兄妹と言いなさい”と言われていた事を思い出す。
「あ、兄、です」
そう言うと陸遜は特にそれ以上何も聞いてこなかった。
陸遜は楽しげに頷き、○の隣で身を乗り出す。
「お兄様はあちらで大変な人気ですね。妹として、心配ではないのですか? あのままでは呉の佳人たちに連れ去られてしまうかもしれません」
「ホホホ、あ、兄の幸せを願うのが妹の務めですわ。ただ、ちょっっっとフシダラな様子には見えますけれど」
○は必死に「妹」を演じようとする。
そんな○に陸遜はこの男特有の、さわやかな笑顔を向けた。
「どうでしょう。あちらの少し離れたところで静かにお話ししませんか?」
陸遜が示したのは喧騒から離れ、ちょうど趙雲に背を向ける位置にある静かな席だ。
○はチラリと、依然として女官たちに囲まれている「兄」の背中を見やる。
「でも…」
「ここから出るわけでもなし、大丈夫ですよ。これも”お仕事”でしょう」
確かに宴会場から出る訳でもないし、孫権軍の男性に声をかけられたら対話をするようには言われている。
陸遜と○は隅の席に座った。
陸遜は手際よく、○の前の杯に琥珀色の酒を注ぐ。
「呉の地酒です。口当たりは甘いですが、案外酔うので気をつけて下さい」
「あの…本当に私、学もない山育ちの田舎者で…軍師様からも、ただ食事を運んでいろとしか言われていない様な人間なので…」
「それを言うのなら私もです」
陸遜は少し酒を口にして言う。
「私も何者でもないんです。孫家に仕えるようになってしばらくですが、戦に関して何かをした事もありません。勉強中の身です」
「そうですか…」
そうは言うが、一目見た時から只者ではなさそうな雰囲気を纏っていた陸遜に、(嘘をつかれているかもしれない)と少し疑う○。
「それに最初に手の内を明かしたではありませんか。貴女が柱の影から趙雲殿を睨みつけていた時……あれは到底、密偵や偵察に来ている者の反応ではありませんでしたから」
「あ、あれは…」
「愛する”兄”を盗られまいと必死な…とても、可愛らしい鬼でしたね」
○は顔を真っ赤にした。
六歳で結婚相手を決めてしまった○は、村の男性に女性として扱われてこなかった。
稽古漬けの日々だったのもあり、男性との距離は近かったが恋愛ごとはサッパリ。
加えて趙雲はあんな感じで、真っ直ぐに褒められることの耐性がない。
そんな事情を知らないはずの陸遜だが、「失礼」と言いつつも、○の反応を楽しんでいた。
宴は深夜まで続き、趙雲は最後まで呉の女官たちの相手を完璧に務め上げた。
酒に溺れることも、甘言に絆されることもなく、軍師から命じられた「情報収集」という任務を、鉄の意志で完遂した。
孫権軍が拠点とする柴桑の町の宿に滞在する趙雲は、酔っぱらった関平に手を貸してやっと戻ってきた。
(……○は、もう休んだのか?)
宴の席で陸遜と座っていた彼女の姿が浮かぶ。
自分に背を向けてはいたが、陸遜の様子からして楽しく話をしていたのだろう。
○は、諸葛亮達と先に帰っていったので宿屋にいるはずだ。
宿の入り口に入り関平を床に転がすと、階段の手すりから諸葛亮がこちらを見ていた。
「遅かったですね」
「ええ…最後まで付き合いましたから。とはいえ、張飛殿はまだ外の酒場で飲んでいらっしゃいますが」
「明日、女官の方に町を案内してもらう約束をされてるそうですね。成果は上々ですね。…周倉殿が言い回っていましたよ」
その言葉に趙雲は無言で肯定する。
「……○殿は…随分怒っていましたから。言い訳を考えておいてください」
そう言って部屋に戻った諸葛亮に、趙雲はゾッとした。