再会編【全5話】
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西の空が燃えるような朱に染まり、家々の影が長く、濃く地を這い始める頃。
十二歳の趙雲は、父の買い物が終わるのを待つ間、村の外れにある広場で独り、所在なく佇んでいた。
父からは「この村の子供とは遊んではいけない」と固く禁じられていた。
この界隈の郷には独自の古いしきたりがあると、父の横顔は厳しかった。
だが静寂を破ったのは、土を削る微かな音だった。
ふと視線を落とすと、大きな楡の木の根元に、一人の少女がしゃがみ込んでいた。
六歳、あるいはそれより少し下だろうか。
柔らかな髪を揺らし、枝切れで地面に熱心に絵を描いている。
「……何を描いているんだ?」
少女は顔を上げると、純粋な瞳で趙雲を見上げた。
ジッと顔を見た後に、ぱっと花が咲いたような笑みを浮かべる。
「お花と、お馬。……ねえ、お兄ちゃん。独りなの?」
「父上を待ってるんだ」
「へえ。ねえ、一緒に『影踏み遊び』しようよ」
迷いは一瞬だった。
父が戻るまではまだ刻がある。
まだ子供だった趙雲は、父の約束など忘れてしまった。
今、暇なこの時間を潰せるならそれでよかった。
「……少しだけだぞ」
趙雲が微笑んで応じると、少女は歓声を上げて立ち上がった。
「じゃ、私が逃げるから、お兄ちゃんが追いかけて!」
その瞬間、小さな体が弾かれたように駆け出した。
夕暮れの光の中、少女の影は驚くほど長く伸び、地面を軽やかに滑っていく。
見た目より足が速く、趙雲もまた、少年らしい身軽さでそれを追った。
少女の弾むような足取り、楽しげな笑い声。
乱世の足音が忍び寄る時代にあって、そこだけが切り取られたような穏やかな時間。
「はい、つかまえた」
趙雲が鋭く踏み込み、少女の背後から伸びた影の、ちょうど頭のあたりをぴたりと足で押さえた。
少女の動きが止まる。
「あ……あーあ。負けちゃった」
少女は振り返り、頬を赤く染めて息を弾ませた。
負けたというのに、その瞳には悔しさよりも、言いようのない輝きが宿っている。
「お兄ちゃん、早いね。私、村の年の近い子の中では、一番早いんだよ……ねえ、名前はなあに?」
少女は趙雲の元へ歩み寄ると、その衣の袖を指先でぎゅっと掴んだ。
「趙子龍」
「趙子龍、さん……ねえ、大人になったら、私をお嫁さんにしてくれる?」
夕闇に溶けかけの金色の瞳が、真っ直ぐに少年を見つめる。
十二歳の趙雲にとって、それはあまりに唐突で、幼子特有の無邪気な戯れ言に聞こえた。
断って泣かせるのも忍びない。
彼は困ったように眉を下げ、優しく頷いた。
「あぁ、いいよ」
「本当? やったぁ!」
少女が満面の笑みでそう言うと、遠くで「○ー!」と呼ぶ声がした。
「あ、○って、私の名前なの。お兄ちゃんがよんでるから帰らなきゃ。…ねえ、約束、忘れないでね!」
○は満足そうに笑い、何度も振り返りながら村の奥へと走っていく。
趙雲は、なんとなく自らの影を見つめた。
十二歳の趙雲は、父の買い物が終わるのを待つ間、村の外れにある広場で独り、所在なく佇んでいた。
父からは「この村の子供とは遊んではいけない」と固く禁じられていた。
この界隈の郷には独自の古いしきたりがあると、父の横顔は厳しかった。
だが静寂を破ったのは、土を削る微かな音だった。
ふと視線を落とすと、大きな楡の木の根元に、一人の少女がしゃがみ込んでいた。
六歳、あるいはそれより少し下だろうか。
柔らかな髪を揺らし、枝切れで地面に熱心に絵を描いている。
「……何を描いているんだ?」
少女は顔を上げると、純粋な瞳で趙雲を見上げた。
ジッと顔を見た後に、ぱっと花が咲いたような笑みを浮かべる。
「お花と、お馬。……ねえ、お兄ちゃん。独りなの?」
「父上を待ってるんだ」
「へえ。ねえ、一緒に『影踏み遊び』しようよ」
迷いは一瞬だった。
父が戻るまではまだ刻がある。
まだ子供だった趙雲は、父の約束など忘れてしまった。
今、暇なこの時間を潰せるならそれでよかった。
「……少しだけだぞ」
趙雲が微笑んで応じると、少女は歓声を上げて立ち上がった。
「じゃ、私が逃げるから、お兄ちゃんが追いかけて!」
その瞬間、小さな体が弾かれたように駆け出した。
夕暮れの光の中、少女の影は驚くほど長く伸び、地面を軽やかに滑っていく。
見た目より足が速く、趙雲もまた、少年らしい身軽さでそれを追った。
少女の弾むような足取り、楽しげな笑い声。
乱世の足音が忍び寄る時代にあって、そこだけが切り取られたような穏やかな時間。
「はい、つかまえた」
趙雲が鋭く踏み込み、少女の背後から伸びた影の、ちょうど頭のあたりをぴたりと足で押さえた。
少女の動きが止まる。
「あ……あーあ。負けちゃった」
少女は振り返り、頬を赤く染めて息を弾ませた。
負けたというのに、その瞳には悔しさよりも、言いようのない輝きが宿っている。
「お兄ちゃん、早いね。私、村の年の近い子の中では、一番早いんだよ……ねえ、名前はなあに?」
少女は趙雲の元へ歩み寄ると、その衣の袖を指先でぎゅっと掴んだ。
「趙子龍」
「趙子龍、さん……ねえ、大人になったら、私をお嫁さんにしてくれる?」
夕闇に溶けかけの金色の瞳が、真っ直ぐに少年を見つめる。
十二歳の趙雲にとって、それはあまりに唐突で、幼子特有の無邪気な戯れ言に聞こえた。
断って泣かせるのも忍びない。
彼は困ったように眉を下げ、優しく頷いた。
「あぁ、いいよ」
「本当? やったぁ!」
少女が満面の笑みでそう言うと、遠くで「○ー!」と呼ぶ声がした。
「あ、○って、私の名前なの。お兄ちゃんがよんでるから帰らなきゃ。…ねえ、約束、忘れないでね!」
○は満足そうに笑い、何度も振り返りながら村の奥へと走っていく。
趙雲は、なんとなく自らの影を見つめた。