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朝靄が幕舎の隙間から白く差し込む頃。
憔悴しきった○は薄い布団に身を包んだまま、死んだように横たわっていた。
昨夜の狂乱と、諸葛亮に抱きしめられた際の得体の知れない温度が、澱のように身体の底に溜まっている。
「……入るわよ」
そう言って×が入ってきた。
彼女の手には、丁寧に布で包まれた小さな束がある。
×は○の枕元に膝をつくと、気恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに言葉を投げかけた。
「これ、傷に効くからあげる。本当は趙雲殿が怪我をした時のために、私が山で集めて大切にしていたものなんだけど。特別に分けてあげるわ」
差し出されたのは、独特な香りを放つ薬草の束だった。
○は布団から出ることなく黙っている。
×はその頑なな背中を見つめ、一瞬だけ唇を噛んだが、努めて冷静な声を出し直した。
「……伝令、聞いた?」
○は微動だにしない。
昨夜遅く、諸葛亮の策が実を結び、馬超がこちらに降ったのだ。
一晩中ろくに眠れなかった○は、勿論それを聞いていた。
「半刻後、陣の中央で拝謁があるの。馬超が正式に我が軍に加わるための儀式よ。……あなたも将の一員なら、来なくちゃいけないわ。分かった?」
×の言葉からはかつての嫉妬に満ちた刺々しさは消え、どこか必死に○の心を繋ぎとめようとする響きがあった。
「……うん」
ようやく漏れた○の声は、今にも消え入りそうなほどに掠れていた。
「そう。なら、外で待ってるから」
一人残された○はゆっくりと布団から身を起こした。
鏡など見なくともわかる。
今の自分は、髪は乱れ、瞳からは光が失われている。
だが、諸葛亮の言った通りだ。
ここで去れば、自分はただの敗北者にしかなれない。
○は幕舎に月英が置いて行った手鏡を取る。
額の傷跡を指でなぞる。
昨夜、馬超の槍が掠めた場所。
彼が急に動揺し、一瞬だけ揺らいだ証。
あれがなければ首が飛んでいた。
○は乱暴に髪を整え、怪我を隠すために軽装の鎧を身に纏う。
幕舎の幕を押し上げ外に出ると、×が「なんて格好なの!」と駆け寄り、無理矢理髪を梳かれた。
陣の中央。
朝日に照らされた練兵場には蜀の将星たちが居並び、空気が張り詰めていた。
その中心で一人の男が重い鎧の音を響かせ、劉備の前で片膝を突いた。
馬超だ。
「西涼の馬孟起、此度、玄徳殿の仁徳に打たれ、この命を預けに参った。これからは蜀の槍となり、大義のために尽力せん」
その堂々たる口上を聞きながら、○は列の後方、他の将達の影に隠れるようにして立っていた。
溢れ出そうになる憎悪を、奥歯を噛み締めて必死に押し殺す。
劉備が穏やかな声で馬超を迎え入れ、諸将が安堵の吐息を漏らしたその時だった。
ふと、馬超が顔を上げた。
自分に向けられた異様なまでの「刺すような視線」を感じ取ったのか。
彼の鋭い眼光が居並ぶ将たちの列をなぞり、ある一点で止まった。
そこには額に薄く新しい傷跡を残した○がいた。
彼女は隠そうともせず凄絶な憎しみを湛えた瞳で馬超を睨みつけている。
(あいつか)
馬超の脳裏に、昨夜の戦いの中で感じた違和感が再び疼き出す。
なぜこの女はこれほどまでに自分を憎んでいるのか。
なぜその剣は西涼の形を成していたのか。
西涼で討ち合った者は女子供関係なく葬ったはずだ。
拝謁の儀が終わり、将たちが三々五々に散り始める中、馬超はその場を去ろうとする○の背中に声をかけた。
「待て。……お前、昨夜のあの剣筋、どこで学んだ。それにその顔つき…西涼の者か」
○は足を止めゆっくりと振り返った。
彼女の唇が、微かに戦慄いたその瞬間。
「馬超殿。昨夜のことは、もはや過去の話。今は同じ主君に仕える身…水に流すが肝要かと」
音もなく二人の間に割って入ったのは諸葛亮だ。
柔和ながらも一切の追及を許さぬ拒絶の微笑を馬超に向ける。
「……軍師殿。いや、俺はただ、あの剣を……」
「過ぎた日の残火を追うよりも、これからの成都攻略にその武を振るってください。それが、劉備殿の望みでもあります」
諸葛亮の言葉は、馬超の問いを鮮やかに封じ込めた。
馬超はなおも○の顔を凝視していたが、軍師の有無を言わさぬ気迫に押され、苦渋の表情を浮かべてその場を立ち去った。
○は助け舟を出したはずの諸葛亮に一瞥もくれず、ただ背を向けて歩き出す。
その様子を遠巻きに見ていた×は、不安げに隣の趙雲を見上げた。
「諸葛亮殿は一体どうされたのでしょう。昨夜は○殿をあんなに厳しく突き放したかと思えば、今朝はあのように庇い立てして。なにお考えがあるのでしょうか」
趙雲の脳裏には、昨夜、闇の中で○を強く抱きしめていた諸葛亮の姿が焼き付いていた。
「×。今、見たこと聞いたことはすべて他言無用だ。諸葛亮殿の真意がどこにあれ、我らがすべきは陣を乱さぬことだ」
「……はい」
趙雲の重い釘付けに、×は小さく頷いた。
陣の隅、人影のまばらな荷台の陰で、○は一人で座っていた。
その目はただ地面を見つめているだけ。
趙雲が静かに歩み寄り、彼女の隣に腰を下ろした。
「……馬超は、なんだか人が変わっていました」
○の声は、カサカサに乾いた木の葉のように頼りなかった。
「私の父を串刺しにし、私の首をはねようとした時のあの男は……もっと、血に飢えた獣のようだった。なのに、今はまるで、何事もなかったかのように正義を語っている……」
○は首筋に触れたまま、その感触を確かめるように力を込めた。
「アイツだけが、すべてを過去のことにしているのが許せない。……でも、分かっているのです。これも乱世なのだと。明日は我が身……私だって、昨日斬り伏せた敵兵の家族に、明日、喉元を掻き切られるかもしれない」
そう言って遠くを見つめた。
「……何故、あの城で逃げ出してしまったのか。何故あの時、死ぬまで戦えなかったのか。あの日、あの場所で刺し違えてでも立ち向かっていれば……父上や兄上と一緒に、灰になれていれば……」
○は顔を覆い、言葉にならない嗚咽とともに肩を震わせた。
生き残ってしまったという罪悪感。
それが彼女の魂を縛り付けている。
趙雲はその震える背中にそっと触れる。
「○殿。生き残ったことを罪だと思ってはなりません。あなたが前を向ける日まで私が隣にいます」
○は顔を覆っていた手をゆっくりと離した。
自嘲気味に口角を歪め、趙雲の手をすり抜けるようにして立ち上がった。
「結構です。私には陰でしんみりしているのがお似合いです。趙雲殿は×殿の側に…」
「○殿、待ちなさい。……今のあなたは、一人で気持ちを抱え込めない」
しかし○は立ち止まらない。
「……構わないでください、趙雲殿」
趙雲は遠ざかっていく彼女の細い背中を、ただ黙って見送るしかなかった。
馬超の名は、それだけで成都に立て籠もる者たちの肝を冷やし、震え上がらせるに十分な威力を持っていた。
”西涼の錦馬超”が劉備側についたという報は、戦わずして敵の戦意を削ぎ落としていく。
○はその光景を、あの日……故郷の城が包囲された時と重ねていた。
○の父もまた、馬超が攻めてきたという知らせを受けただけでその武勇を恐れ、抗う術を失っていた。
だからこそ早々に城門を開き、降伏を選んだのだ。
それなのにあの男は父を串刺しにし、すべてを焼き払った。
名前だけで一国を威圧できるような男の喉元に、果たして今の自分が届くはずもない。
○は自らの無力さを痛感していた。
陣の中央では、新参の馬超を囲んで、張飛たちが豪快な笑い声を上げ、歓迎の意を示している。
その喧騒から離れた場所で、○がぼんやりと立ち尽くしていると、視線の先を月英と連れ立って歩く諸葛亮の姿が横切った。
(……あの時は、疲れ果てて何も考えられなかったけれど)
○は、昨夜の出来事をふと思い出す。
自分を不意に抱きしめた諸葛亮。
乱れた髪をそっとなで、背に腕を回した彼の温もり。
あの時、彼はただの軍師ではなかった気がした。
しかし今、彼は妻である月英と穏やかに語らい、仲睦まじい様子で歩いている。
月英の優しい眼差しが諸葛亮に向けられ、彼はそれに応えるように柔らかく微笑んでいた。
(……あの方は、何を考えていらっしゃるのかしら)
軍師としての計略なのか。
それとも行き場のない絶望に沈んでいた自分への、ただの慈悲だったのか。
彼が自分の髪に触れた指先の感覚が今さらになって違和感となって蘇る。
復讐に燃える己の身は、もはや女性としての平穏な幸せなど望むべくもない。
月英のような、夫を支え共に歩む光り輝く女性の姿を眩しく感じる一方で、諸葛亮が自分に触れたあの瞬間の不純さが、○の胸に泥の様に沈んでいた。
その時、諸葛亮がふと立ち止まり、こちらを振り返った。
隣にいる月英も○に気づいて優しく手を振る。
諸葛亮の瞳には昨夜の情熱など微塵も残っていない。
ただいつも通り、こちらを見通すような色だけだ。
○は慌てて視線を逸らし、その場を立ち去った。
憔悴しきった○は薄い布団に身を包んだまま、死んだように横たわっていた。
昨夜の狂乱と、諸葛亮に抱きしめられた際の得体の知れない温度が、澱のように身体の底に溜まっている。
「……入るわよ」
そう言って×が入ってきた。
彼女の手には、丁寧に布で包まれた小さな束がある。
×は○の枕元に膝をつくと、気恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに言葉を投げかけた。
「これ、傷に効くからあげる。本当は趙雲殿が怪我をした時のために、私が山で集めて大切にしていたものなんだけど。特別に分けてあげるわ」
差し出されたのは、独特な香りを放つ薬草の束だった。
○は布団から出ることなく黙っている。
×はその頑なな背中を見つめ、一瞬だけ唇を噛んだが、努めて冷静な声を出し直した。
「……伝令、聞いた?」
○は微動だにしない。
昨夜遅く、諸葛亮の策が実を結び、馬超がこちらに降ったのだ。
一晩中ろくに眠れなかった○は、勿論それを聞いていた。
「半刻後、陣の中央で拝謁があるの。馬超が正式に我が軍に加わるための儀式よ。……あなたも将の一員なら、来なくちゃいけないわ。分かった?」
×の言葉からはかつての嫉妬に満ちた刺々しさは消え、どこか必死に○の心を繋ぎとめようとする響きがあった。
「……うん」
ようやく漏れた○の声は、今にも消え入りそうなほどに掠れていた。
「そう。なら、外で待ってるから」
一人残された○はゆっくりと布団から身を起こした。
鏡など見なくともわかる。
今の自分は、髪は乱れ、瞳からは光が失われている。
だが、諸葛亮の言った通りだ。
ここで去れば、自分はただの敗北者にしかなれない。
○は幕舎に月英が置いて行った手鏡を取る。
額の傷跡を指でなぞる。
昨夜、馬超の槍が掠めた場所。
彼が急に動揺し、一瞬だけ揺らいだ証。
あれがなければ首が飛んでいた。
○は乱暴に髪を整え、怪我を隠すために軽装の鎧を身に纏う。
幕舎の幕を押し上げ外に出ると、×が「なんて格好なの!」と駆け寄り、無理矢理髪を梳かれた。
陣の中央。
朝日に照らされた練兵場には蜀の将星たちが居並び、空気が張り詰めていた。
その中心で一人の男が重い鎧の音を響かせ、劉備の前で片膝を突いた。
馬超だ。
「西涼の馬孟起、此度、玄徳殿の仁徳に打たれ、この命を預けに参った。これからは蜀の槍となり、大義のために尽力せん」
その堂々たる口上を聞きながら、○は列の後方、他の将達の影に隠れるようにして立っていた。
溢れ出そうになる憎悪を、奥歯を噛み締めて必死に押し殺す。
劉備が穏やかな声で馬超を迎え入れ、諸将が安堵の吐息を漏らしたその時だった。
ふと、馬超が顔を上げた。
自分に向けられた異様なまでの「刺すような視線」を感じ取ったのか。
彼の鋭い眼光が居並ぶ将たちの列をなぞり、ある一点で止まった。
そこには額に薄く新しい傷跡を残した○がいた。
彼女は隠そうともせず凄絶な憎しみを湛えた瞳で馬超を睨みつけている。
(あいつか)
馬超の脳裏に、昨夜の戦いの中で感じた違和感が再び疼き出す。
なぜこの女はこれほどまでに自分を憎んでいるのか。
なぜその剣は西涼の形を成していたのか。
西涼で討ち合った者は女子供関係なく葬ったはずだ。
拝謁の儀が終わり、将たちが三々五々に散り始める中、馬超はその場を去ろうとする○の背中に声をかけた。
「待て。……お前、昨夜のあの剣筋、どこで学んだ。それにその顔つき…西涼の者か」
○は足を止めゆっくりと振り返った。
彼女の唇が、微かに戦慄いたその瞬間。
「馬超殿。昨夜のことは、もはや過去の話。今は同じ主君に仕える身…水に流すが肝要かと」
音もなく二人の間に割って入ったのは諸葛亮だ。
柔和ながらも一切の追及を許さぬ拒絶の微笑を馬超に向ける。
「……軍師殿。いや、俺はただ、あの剣を……」
「過ぎた日の残火を追うよりも、これからの成都攻略にその武を振るってください。それが、劉備殿の望みでもあります」
諸葛亮の言葉は、馬超の問いを鮮やかに封じ込めた。
馬超はなおも○の顔を凝視していたが、軍師の有無を言わさぬ気迫に押され、苦渋の表情を浮かべてその場を立ち去った。
○は助け舟を出したはずの諸葛亮に一瞥もくれず、ただ背を向けて歩き出す。
その様子を遠巻きに見ていた×は、不安げに隣の趙雲を見上げた。
「諸葛亮殿は一体どうされたのでしょう。昨夜は○殿をあんなに厳しく突き放したかと思えば、今朝はあのように庇い立てして。なにお考えがあるのでしょうか」
趙雲の脳裏には、昨夜、闇の中で○を強く抱きしめていた諸葛亮の姿が焼き付いていた。
「×。今、見たこと聞いたことはすべて他言無用だ。諸葛亮殿の真意がどこにあれ、我らがすべきは陣を乱さぬことだ」
「……はい」
趙雲の重い釘付けに、×は小さく頷いた。
陣の隅、人影のまばらな荷台の陰で、○は一人で座っていた。
その目はただ地面を見つめているだけ。
趙雲が静かに歩み寄り、彼女の隣に腰を下ろした。
「……馬超は、なんだか人が変わっていました」
○の声は、カサカサに乾いた木の葉のように頼りなかった。
「私の父を串刺しにし、私の首をはねようとした時のあの男は……もっと、血に飢えた獣のようだった。なのに、今はまるで、何事もなかったかのように正義を語っている……」
○は首筋に触れたまま、その感触を確かめるように力を込めた。
「アイツだけが、すべてを過去のことにしているのが許せない。……でも、分かっているのです。これも乱世なのだと。明日は我が身……私だって、昨日斬り伏せた敵兵の家族に、明日、喉元を掻き切られるかもしれない」
そう言って遠くを見つめた。
「……何故、あの城で逃げ出してしまったのか。何故あの時、死ぬまで戦えなかったのか。あの日、あの場所で刺し違えてでも立ち向かっていれば……父上や兄上と一緒に、灰になれていれば……」
○は顔を覆い、言葉にならない嗚咽とともに肩を震わせた。
生き残ってしまったという罪悪感。
それが彼女の魂を縛り付けている。
趙雲はその震える背中にそっと触れる。
「○殿。生き残ったことを罪だと思ってはなりません。あなたが前を向ける日まで私が隣にいます」
○は顔を覆っていた手をゆっくりと離した。
自嘲気味に口角を歪め、趙雲の手をすり抜けるようにして立ち上がった。
「結構です。私には陰でしんみりしているのがお似合いです。趙雲殿は×殿の側に…」
「○殿、待ちなさい。……今のあなたは、一人で気持ちを抱え込めない」
しかし○は立ち止まらない。
「……構わないでください、趙雲殿」
趙雲は遠ざかっていく彼女の細い背中を、ただ黙って見送るしかなかった。
馬超の名は、それだけで成都に立て籠もる者たちの肝を冷やし、震え上がらせるに十分な威力を持っていた。
”西涼の錦馬超”が劉備側についたという報は、戦わずして敵の戦意を削ぎ落としていく。
○はその光景を、あの日……故郷の城が包囲された時と重ねていた。
○の父もまた、馬超が攻めてきたという知らせを受けただけでその武勇を恐れ、抗う術を失っていた。
だからこそ早々に城門を開き、降伏を選んだのだ。
それなのにあの男は父を串刺しにし、すべてを焼き払った。
名前だけで一国を威圧できるような男の喉元に、果たして今の自分が届くはずもない。
○は自らの無力さを痛感していた。
陣の中央では、新参の馬超を囲んで、張飛たちが豪快な笑い声を上げ、歓迎の意を示している。
その喧騒から離れた場所で、○がぼんやりと立ち尽くしていると、視線の先を月英と連れ立って歩く諸葛亮の姿が横切った。
(……あの時は、疲れ果てて何も考えられなかったけれど)
○は、昨夜の出来事をふと思い出す。
自分を不意に抱きしめた諸葛亮。
乱れた髪をそっとなで、背に腕を回した彼の温もり。
あの時、彼はただの軍師ではなかった気がした。
しかし今、彼は妻である月英と穏やかに語らい、仲睦まじい様子で歩いている。
月英の優しい眼差しが諸葛亮に向けられ、彼はそれに応えるように柔らかく微笑んでいた。
(……あの方は、何を考えていらっしゃるのかしら)
軍師としての計略なのか。
それとも行き場のない絶望に沈んでいた自分への、ただの慈悲だったのか。
彼が自分の髪に触れた指先の感覚が今さらになって違和感となって蘇る。
復讐に燃える己の身は、もはや女性としての平穏な幸せなど望むべくもない。
月英のような、夫を支え共に歩む光り輝く女性の姿を眩しく感じる一方で、諸葛亮が自分に触れたあの瞬間の不純さが、○の胸に泥の様に沈んでいた。
その時、諸葛亮がふと立ち止まり、こちらを振り返った。
隣にいる月英も○に気づいて優しく手を振る。
諸葛亮の瞳には昨夜の情熱など微塵も残っていない。
ただいつも通り、こちらを見通すような色だけだ。
○は慌てて視線を逸らし、その場を立ち去った。