共通ルート
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
○は陣の片隅、打ち捨てられた荷台の端に力なく腰掛けていた。
自害や無謀な突撃を案じた趙雲の手によって、父の遺した剣も、肌身離さず持っていた懐刀も、今はすべて取り上げられている。
武器を失ったその手は、手持ち無沙汰に膝の上で震えていた。
視線もどこか定まらず、茫然としている。
すると諸葛亮がやってきた。
「……落ち着きましたか。先ほどは、あのような物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」
諸葛亮は○の前に歩み寄るとその場に静かにしゃがみ込んだ。
伏せられた○の顔を下から覗き込む。
○は言葉を発せず、ただ目だけで諸葛亮を見つめた。
そこにいたのは、先ほどの復讐鬼ではない。
魂の芯を抜き取られ、ただ絶望に打ちひしがれた女だった。
額の傷は乾き、血の跡が痛々しく残っている。
光を失った瞳、青白い肌、傷だらけの顔、そして震える唇。
その痛々しいほどに静謐な姿は、諸葛亮の目には不謹慎ながらも、形容しがたいほどに美しく映った。
遠くからは、未だに張飛と馬超がぶつかり合う、地に響くような雄叫びと金属音が聞こえてくる。
この戦いは夜を徹し…あるいは夜が明けても続くのかもしれない。
「……○」
諸葛亮は自らの内に湧き上がった衝動に抗うことができなかった。
彼はその細い肩を引き寄せ、○を強く抱きしめていた。
軍師と、月英の夫としての立場も、戦も、今はすべてが遠い世界の出来事のように思えた。
○は抵抗することも受け入れることもせず、ただの人形のように静まり返っていた。
拒絶する気力も、ましてやその温もりに縋る甘えも、今の彼女には残っていない。
冷え切った身体に諸葛亮の纏う衣の温度だけが伝わっていた。
諸葛亮は、彼女の強張った背中に回した手に力を込め、空いた手で、短く切り揃えられた○の襟足をそっと撫でた。
戦場の塵と乾いた血に汚れたそれに触れた瞬間、諸葛亮の瞳にひどく人間染みた憂いが宿る。
だが、その指先が下に降りて○の耳に触れようとした刹那、背後から硬い靴音が響いた。
「……諸葛亮殿」
そこには趙雲が立っていた。
彼は二人の数歩手前で足を止め、その端正な顔を夜の闇に半分沈ませていて表情が読めない。
「そろそろ彼女を幕舎へ。……夜風は毒です」
趙雲の言葉は、事務的な進言の形を取ってはいたが、その奥底には「この様な女性に何をしているのか」という無言の拒絶が込められていた。
趙雲は、諸葛亮が○に抱いている感情が単なる憐憫以上の何物かであることに気づいている。
諸葛亮はゆっくりと腕を解き、○を解放した。
立ち上がり趙雲と視線を交わす。
「そうですね。趙雲殿の仰る通りです」
諸葛亮はいつもの穏やかな軍師の顔を取り戻していた。
だがその瞳はいつもとは違う。
「さあ、○殿……私が送ります」
趙雲の声に、○は二人の間に流れる不穏な空気に気づく様子もなく、ただ虚空を見つめたまま立ち上がった。
ふらふらとついて来る○を案じて、趙雲は自分が○の後ろに着いた。
幕舎へ向かって歩き出す二人の背中を、諸葛亮はただ一人、月明かりの下で立ち尽くして見送った。
「……執着は、目を曇らせる。……それは私とて、例外ではないということですか」
幕舎に送り届けた後、趙雲が○に「……諸葛亮殿に、何を言われたのですか」と、彼らしくない問いを投げかけてしまう。
しかしすぐに。
「……いえ、忘れてください。出過ぎた真似をいたしました」
自らの言葉を打ち消すように首を振った。
諸葛亮が○を抱きしめていた光景が、目に焼き付いて離れない。
軍師としての計略のひとつなのか、それとも一人の男としての情念なのか。
それを問い質したい衝動を抑え込んでいた。
○は力なく首を振り、短くなった髪の毛先を指でなぞった。
「何も。ただ、私が馬超に勝てないという事実を、突きつけられただけです。……そんな事、私が誰よりも身をもって知っていることなのに」
「……○殿」
趙雲は、彼女の瞳に宿る深い絶望に胸を締め付けられた。
諸葛亮の言葉は常に正しい。
でも正しさだけでは人は救えない。
「今夜はもうお休みください。私が幕舎の外で見張っております」
「……趙雲殿まで、私を甘やかさないでください」
○が弱々しく笑うと、趙雲は一瞬だけ言葉に詰まり、それから断固とした口調で返した。
「甘やかしているわけではありません。どのみち今夜は張飛殿の決着がつくまで寝られませんから。ついでです」
そう言い残し、趙雲は幕舎を出た。
趙雲は長槍を傍らに立て、暗闇の向こうで未だに続く張飛と馬超の激闘の音に耳を澄ませた。
自分が助けに入った時、目を閉じ倒れた○に容赦なく槍を突き立てようとしていた馬超。
彼は本来誉れ高い人物だと聞く。
仁君の娘だったというが鬼の様な形相の○と、あの時の馬超。
趙雲は二人の境遇に想いを馳せた。
その時、幕舎の影から、×が近づいてきた。
「趙雲殿。○殿は……大丈夫なのですか」
「×か。……今は、静かにしておいてやりなさい。…彼女の戦いはこれから始まるようだ」
趙雲の言葉に×は黙って頷き、○の幕舎の入り口をじっと見つめた。
自害や無謀な突撃を案じた趙雲の手によって、父の遺した剣も、肌身離さず持っていた懐刀も、今はすべて取り上げられている。
武器を失ったその手は、手持ち無沙汰に膝の上で震えていた。
視線もどこか定まらず、茫然としている。
すると諸葛亮がやってきた。
「……落ち着きましたか。先ほどは、あのような物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」
諸葛亮は○の前に歩み寄るとその場に静かにしゃがみ込んだ。
伏せられた○の顔を下から覗き込む。
○は言葉を発せず、ただ目だけで諸葛亮を見つめた。
そこにいたのは、先ほどの復讐鬼ではない。
魂の芯を抜き取られ、ただ絶望に打ちひしがれた女だった。
額の傷は乾き、血の跡が痛々しく残っている。
光を失った瞳、青白い肌、傷だらけの顔、そして震える唇。
その痛々しいほどに静謐な姿は、諸葛亮の目には不謹慎ながらも、形容しがたいほどに美しく映った。
遠くからは、未だに張飛と馬超がぶつかり合う、地に響くような雄叫びと金属音が聞こえてくる。
この戦いは夜を徹し…あるいは夜が明けても続くのかもしれない。
「……○」
諸葛亮は自らの内に湧き上がった衝動に抗うことができなかった。
彼はその細い肩を引き寄せ、○を強く抱きしめていた。
軍師と、月英の夫としての立場も、戦も、今はすべてが遠い世界の出来事のように思えた。
○は抵抗することも受け入れることもせず、ただの人形のように静まり返っていた。
拒絶する気力も、ましてやその温もりに縋る甘えも、今の彼女には残っていない。
冷え切った身体に諸葛亮の纏う衣の温度だけが伝わっていた。
諸葛亮は、彼女の強張った背中に回した手に力を込め、空いた手で、短く切り揃えられた○の襟足をそっと撫でた。
戦場の塵と乾いた血に汚れたそれに触れた瞬間、諸葛亮の瞳にひどく人間染みた憂いが宿る。
だが、その指先が下に降りて○の耳に触れようとした刹那、背後から硬い靴音が響いた。
「……諸葛亮殿」
そこには趙雲が立っていた。
彼は二人の数歩手前で足を止め、その端正な顔を夜の闇に半分沈ませていて表情が読めない。
「そろそろ彼女を幕舎へ。……夜風は毒です」
趙雲の言葉は、事務的な進言の形を取ってはいたが、その奥底には「この様な女性に何をしているのか」という無言の拒絶が込められていた。
趙雲は、諸葛亮が○に抱いている感情が単なる憐憫以上の何物かであることに気づいている。
諸葛亮はゆっくりと腕を解き、○を解放した。
立ち上がり趙雲と視線を交わす。
「そうですね。趙雲殿の仰る通りです」
諸葛亮はいつもの穏やかな軍師の顔を取り戻していた。
だがその瞳はいつもとは違う。
「さあ、○殿……私が送ります」
趙雲の声に、○は二人の間に流れる不穏な空気に気づく様子もなく、ただ虚空を見つめたまま立ち上がった。
ふらふらとついて来る○を案じて、趙雲は自分が○の後ろに着いた。
幕舎へ向かって歩き出す二人の背中を、諸葛亮はただ一人、月明かりの下で立ち尽くして見送った。
「……執着は、目を曇らせる。……それは私とて、例外ではないということですか」
幕舎に送り届けた後、趙雲が○に「……諸葛亮殿に、何を言われたのですか」と、彼らしくない問いを投げかけてしまう。
しかしすぐに。
「……いえ、忘れてください。出過ぎた真似をいたしました」
自らの言葉を打ち消すように首を振った。
諸葛亮が○を抱きしめていた光景が、目に焼き付いて離れない。
軍師としての計略のひとつなのか、それとも一人の男としての情念なのか。
それを問い質したい衝動を抑え込んでいた。
○は力なく首を振り、短くなった髪の毛先を指でなぞった。
「何も。ただ、私が馬超に勝てないという事実を、突きつけられただけです。……そんな事、私が誰よりも身をもって知っていることなのに」
「……○殿」
趙雲は、彼女の瞳に宿る深い絶望に胸を締め付けられた。
諸葛亮の言葉は常に正しい。
でも正しさだけでは人は救えない。
「今夜はもうお休みください。私が幕舎の外で見張っております」
「……趙雲殿まで、私を甘やかさないでください」
○が弱々しく笑うと、趙雲は一瞬だけ言葉に詰まり、それから断固とした口調で返した。
「甘やかしているわけではありません。どのみち今夜は張飛殿の決着がつくまで寝られませんから。ついでです」
そう言い残し、趙雲は幕舎を出た。
趙雲は長槍を傍らに立て、暗闇の向こうで未だに続く張飛と馬超の激闘の音に耳を澄ませた。
自分が助けに入った時、目を閉じ倒れた○に容赦なく槍を突き立てようとしていた馬超。
彼は本来誉れ高い人物だと聞く。
仁君の娘だったというが鬼の様な形相の○と、あの時の馬超。
趙雲は二人の境遇に想いを馳せた。
その時、幕舎の影から、×が近づいてきた。
「趙雲殿。○殿は……大丈夫なのですか」
「×か。……今は、静かにしておいてやりなさい。…彼女の戦いはこれから始まるようだ」
趙雲の言葉に×は黙って頷き、○の幕舎の入り口をじっと見つめた。