趙雲END
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馬の嘶きが響き渡り、馬超が地面へと叩きつけられる音がした。
仕掛けられた紐が馬の足を払い、馬超は無様に地面へと転がる。
落馬の衝撃で立ち上がれないその隙を、王異は見逃さなかった。
「終わりよ、馬超!!」
闇から躍り出た王異の細剣が、馬超の太腿に深く突き刺さる。
即効性の毒に、馬超は指先から力が抜け地面に這い蹲った。
○が剣を握る。
その時。
森の中から趙雲が現れた。
先鋒の任務を果たした後、そのまま敵軍に食い込もうとした趙雲に×が言ったのだ。
「趙雲殿が背中を向けた後、馬超殿と○殿が何かを話し、森の方を指さしていた」と。
不穏な空気に駆け付けてみれば、動けぬ馬超と、その前に立つ二人の女の姿があった。
趙雲の放った槍は、王異が追撃で振るおうとした刃を弾き飛ばす。
趙雲は馬から飛び降りると、倒れた馬超の前に仁王立ちになる。
「○殿、やめなさい! 何を早まっているのです!」
「趙雲殿、どいてください。……今を逃すと、あいつを殺せない!」
○の声は、震えながらも殺意を帯びていた。
隣では王異が忌々しそうに趙雲を睨みつけ、再び武器を構え直す。
「……馬超殿は殺させないと、あなたに約束をしたでしょう」
趙雲はかつてないほど険しい表情で槍を構えた。
○と王異が同時に趙雲へ斬りかかる。
しかし趙雲は蜀でも指折りの常勝の将。
二人がかりでも届かない。
趙雲の足運びに○は追撃をやめたが、王異が前に出てしまった。
「駄目!」という○の声も空しく、趙雲の力任せの一撃が王異にあたる。
王異は地面に転がり動かなくなった。
「さて。一対一になれば、あなたでは私に勝てない」
そういうと趙雲は槍を少しおろす。
「…どうして邪魔をするの」
鬼気迫るその顔は、相打ち覚悟で飛び込んできそうだ。
趙雲は警戒する。
「○殿…もうやめてください。 ……あなたを愛した私自身を、後悔させないでくれ!」
「止めたいなら私を殺せ!!」
その瞬間、○が弾かれたように動いた。
趙雲の言葉を遮るように、○は死に物狂いの形相で剣を振り下ろす。
趙雲はその一撃を受け止め、空いた左手で○の胸倉を掴み上げた。
至近距離で趙雲が何かを訴えかけようとしたが、○が取り出した小剣が趙雲の喉元を掠める。
趙雲は咄嗟に身を引き、胸倉を掴んでいた手を離した。
○は趙雲を刺す気だ。
「何も残らなくていい!元々私にはあの日から何も残ってない!あなたが勝手に抱える後悔なんて知らない!趙雲殿は、私の事なんて何も知らないくせに!何も理解できないくせに!」
○は絞り出すような悲鳴を上げた。
「それだけの力がある人に……!趙雲殿にこの気持ちが分かるわけがない!あなたにとっては…狂った女の戯言なんでしょ!」
自分が彼ならば、きっとどれかを守れた。
そんな人間にこの執着が理解できるはずがない。
「本当にそう思っているのですか!私が、あなたの言葉を戯言などと…!」
そう言いながら近づいて来る趙雲から逃れるように、○は踵を返して逃げ出そうとした。
しかし趙雲がその背中に飛びつき、折り重なるようにして地面に転がる。
趙雲は馬乗りの体勢で○を押さえつけると、彼女が握りしめていた小剣を力ずくで奪い取り遠くに捨てた。
趙雲の下で必死に逃げ出そうとする○は、兄の懐刀を抜き取ろうとする。
「○……○ッ!!」
呼びかけながら、暴れる○を抱きしめる。
その声はかつてないほど切実で、情けないほどに潤んでいた。
「何も残っていないなんて言わないでくれ。……○自身が、ここに残っているのに」
趙雲の震える声が○の耳元で響く。
「お前すらもない事に、しないでくれ」
○の体から、ふっと力が消えた。
握りしめていた懐刀からそっと手を離す。
途端に堰を切ったように涙が溢れ出した。
震える背中に耳を当てた趙雲は、ホッとした様に息をつく。
「…あなたは、泣いてばかりですね」
気付けば王異はどこかに消えていた。
自分一人では趙雲に勝てないと踏んだのだろう。
○はゆっくり体を起こすと、馬超の傍らへ歩み寄り、「生きてる?」とその肩をそっと揺すった。
「○。……心配するな。俺はただ馬から転がり落ちただけだ。脳震盪でも起こしたかな、情けない」
身体に力が入らず、指一本動かせない惨めな状態であるはずなのに、馬超は虚勢を張るように低く呟いた。
「……それでいいの?」
○が問いかけると、馬超は視線だけを動かして○を見つめ、不敵に笑った。
「俺はお前のやる事に、いちいち目くじらは立てん。今までの強襲で一番手ごたえがあった」
その言葉に○の胸の奥が締め付けられた。
○はそっと手を伸ばし、土に汚れた馬超の頭を自分の膝の上に乗せた。
「……ごめん」
消え入るような声で、一言だけ謝罪を口にする。
「よせ。…お前に恨み言を言われこそすれ、お前に謝られるいわれなど、どこにもない」
馬超はそう言って、重い瞼を閉じた。
仕掛けられた紐が馬の足を払い、馬超は無様に地面へと転がる。
落馬の衝撃で立ち上がれないその隙を、王異は見逃さなかった。
「終わりよ、馬超!!」
闇から躍り出た王異の細剣が、馬超の太腿に深く突き刺さる。
即効性の毒に、馬超は指先から力が抜け地面に這い蹲った。
○が剣を握る。
その時。
森の中から趙雲が現れた。
先鋒の任務を果たした後、そのまま敵軍に食い込もうとした趙雲に×が言ったのだ。
「趙雲殿が背中を向けた後、馬超殿と○殿が何かを話し、森の方を指さしていた」と。
不穏な空気に駆け付けてみれば、動けぬ馬超と、その前に立つ二人の女の姿があった。
趙雲の放った槍は、王異が追撃で振るおうとした刃を弾き飛ばす。
趙雲は馬から飛び降りると、倒れた馬超の前に仁王立ちになる。
「○殿、やめなさい! 何を早まっているのです!」
「趙雲殿、どいてください。……今を逃すと、あいつを殺せない!」
○の声は、震えながらも殺意を帯びていた。
隣では王異が忌々しそうに趙雲を睨みつけ、再び武器を構え直す。
「……馬超殿は殺させないと、あなたに約束をしたでしょう」
趙雲はかつてないほど険しい表情で槍を構えた。
○と王異が同時に趙雲へ斬りかかる。
しかし趙雲は蜀でも指折りの常勝の将。
二人がかりでも届かない。
趙雲の足運びに○は追撃をやめたが、王異が前に出てしまった。
「駄目!」という○の声も空しく、趙雲の力任せの一撃が王異にあたる。
王異は地面に転がり動かなくなった。
「さて。一対一になれば、あなたでは私に勝てない」
そういうと趙雲は槍を少しおろす。
「…どうして邪魔をするの」
鬼気迫るその顔は、相打ち覚悟で飛び込んできそうだ。
趙雲は警戒する。
「○殿…もうやめてください。 ……あなたを愛した私自身を、後悔させないでくれ!」
「止めたいなら私を殺せ!!」
その瞬間、○が弾かれたように動いた。
趙雲の言葉を遮るように、○は死に物狂いの形相で剣を振り下ろす。
趙雲はその一撃を受け止め、空いた左手で○の胸倉を掴み上げた。
至近距離で趙雲が何かを訴えかけようとしたが、○が取り出した小剣が趙雲の喉元を掠める。
趙雲は咄嗟に身を引き、胸倉を掴んでいた手を離した。
○は趙雲を刺す気だ。
「何も残らなくていい!元々私にはあの日から何も残ってない!あなたが勝手に抱える後悔なんて知らない!趙雲殿は、私の事なんて何も知らないくせに!何も理解できないくせに!」
○は絞り出すような悲鳴を上げた。
「それだけの力がある人に……!趙雲殿にこの気持ちが分かるわけがない!あなたにとっては…狂った女の戯言なんでしょ!」
自分が彼ならば、きっとどれかを守れた。
そんな人間にこの執着が理解できるはずがない。
「本当にそう思っているのですか!私が、あなたの言葉を戯言などと…!」
そう言いながら近づいて来る趙雲から逃れるように、○は踵を返して逃げ出そうとした。
しかし趙雲がその背中に飛びつき、折り重なるようにして地面に転がる。
趙雲は馬乗りの体勢で○を押さえつけると、彼女が握りしめていた小剣を力ずくで奪い取り遠くに捨てた。
趙雲の下で必死に逃げ出そうとする○は、兄の懐刀を抜き取ろうとする。
「○……○ッ!!」
呼びかけながら、暴れる○を抱きしめる。
その声はかつてないほど切実で、情けないほどに潤んでいた。
「何も残っていないなんて言わないでくれ。……○自身が、ここに残っているのに」
趙雲の震える声が○の耳元で響く。
「お前すらもない事に、しないでくれ」
○の体から、ふっと力が消えた。
握りしめていた懐刀からそっと手を離す。
途端に堰を切ったように涙が溢れ出した。
震える背中に耳を当てた趙雲は、ホッとした様に息をつく。
「…あなたは、泣いてばかりですね」
気付けば王異はどこかに消えていた。
自分一人では趙雲に勝てないと踏んだのだろう。
○はゆっくり体を起こすと、馬超の傍らへ歩み寄り、「生きてる?」とその肩をそっと揺すった。
「○。……心配するな。俺はただ馬から転がり落ちただけだ。脳震盪でも起こしたかな、情けない」
身体に力が入らず、指一本動かせない惨めな状態であるはずなのに、馬超は虚勢を張るように低く呟いた。
「……それでいいの?」
○が問いかけると、馬超は視線だけを動かして○を見つめ、不敵に笑った。
「俺はお前のやる事に、いちいち目くじらは立てん。今までの強襲で一番手ごたえがあった」
その言葉に○の胸の奥が締め付けられた。
○はそっと手を伸ばし、土に汚れた馬超の頭を自分の膝の上に乗せた。
「……ごめん」
消え入るような声で、一言だけ謝罪を口にする。
「よせ。…お前に恨み言を言われこそすれ、お前に謝られるいわれなど、どこにもない」
馬超はそう言って、重い瞼を閉じた。