趙雲/馬超ルート【共通の16話続き】
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○が一人、鍛錬場の隅で小刀の手入れをしていると、馬超がどっかり隣に座って話しかける。
「……何。私、あなたを許したわけでも、受け入れたわけでもないけど。馴れ馴れしい」
○は視線すら向けず冷たく言う。
しかしそれを気にしない馬超。
「お前は最初、曹操軍に行くつもりだったらしいな」
「……」
「俺を討つならそれが正しい。現にあそこには俺に夫を殺された女がいる。王異と言ってな。奴はしっかり曹操陣営に組み込まれている」
馬超の声は、不思議なほど穏やかだった。
「お前もあちらに行ってしまったら悲しいと思ってな」
「……悲しい?」
○は思わず顔を上げ、馬超を見た。
「俺は、お前に殺される覚悟はできている。だから、ここにいろ。俺の側にいて、飽きるまで俺の首を狙っていればいい」
そう言うと○の短い襟足をそっと指で弄ぶ。
「お前、妻を亡くしただなんだと言うけど……。そうやってすぐ、次の『新しい大事な物』を作るのね。私には……考えられない」
○は馬超の手を払おうともせずに言う。
失ったものへ永遠に固執する自分と、それをやめた馬超。
「一人では生きていけぬからな、俺は。案外、寂しがりなんだ」
馬超は隠すこともなく快活に笑う。
「……お前はどうなんだ? お前の様な人間は、復讐の果てに何を見ている」
問いかけられ、○は咄嗟に馬超から目を逸らした。
(こいつを殺したら……?)
ぼんやりと考えた。
「お前に燃やされた城に戻って、家族の墓を作って…そしたら…」
そこまで言って言葉を失った。
その後の自分に何があるのか。
趙雲は”復讐者に安息は訪れない”と言った。
なら何が訪れるのだろう。
(どこかで野垂れ死ぬ?空っぽになる?…でも、それでいい。ううん、むしろ何も残らない方が良い)
*******
「こんな時間に急に軍議ですか?」
夜の帳が下りた廊下で、○は足早に歩く趙雲に問いかけた。
足音が静かな廊下に響く。
夜中に起こされて軍議室に向かっていた。
「偵察が曹操軍を見かけたようで……。小規模だとは聞いていますが、境界付近にいる様なので用心に越したことはありません」
趙雲は歩みを止めず、顔だけで○を振り返った。
「大丈夫ですか。昼間、馬超殿におかしなことは言われていませんか」
鍛錬場での様子を見ていたらしい。
「問題ありません」
それだけ答える。
勢力の境界線付近に、曹操軍の先鋒と思しき小規模な部隊が姿を現したという。
○達はそこに赴き迎撃することになった。
趙雲と馬超は敵陣に斬りこみ、○は遊撃軍として動くことになった。
馬超は久しぶりの戦場だと喜び、さっさと馬を走らせて行ってしまう。
残された○が馬の手綱を握り直すと、隣に馬を寄せた趙雲が周囲に聞こえないほどの声で話しかける。
「○殿。単身遊撃として動く以上、あなたは戦場の最も不安定な場所に身を置くことになります。……いいですか、何かあれば…あるいは何かを迷うようなことがあれば、私や馬超殿の隊に合流してください」
「ご心配、ありがとうございます」
趙雲はそう言い残すと、少し離れた所に待機させていた×と共に駆けて行った。
戦が始まって数刻。
○が馬を走らせていると、砂塵の向こうから一人の女が静かに歩み寄ってくるのが見えた。
馬も引かず、ただ一人で戦場に立つその女は、返り血を浴びた美しい顔に、凍てつくような笑みを浮かべていた。
「……やっと見つけたわ。馬超の腕の中で、すっかり牙を抜かれた哀れな子」
女…王異の瞳が○を映す。
○は咄嗟に馬の手綱を引き、剣を構える。
「……魏の将か。一人で何をしに来た」
「私、あなたを知っているの」
そう告げた女は、○の父の名を出した。
「……なぜ、父を知っている」
「夫が世話になったことがあるの。その時に城であなたを見かけたわ。あなたは綺麗な長い髪をしたお姫様だったけれど……。今の荒削りの刃の様なあなたの方が素敵ね」
女は恍惚とした表情で微笑む。
「私は王異。あなたと同じ、馬超に家族を殺された者」
その名前に○は目を見開いた。
馬超に聞いた名前だ。
「あなたは私と同じでありながら、あいつと同じ陣営にいる。…もう、復讐心は忘れてしまったの?」
王異は冷たい目で続ける。
「あなたのお父上は民に慕われ、家族を愛し、他を脅かさずに善良な人間だったのにね。私の夫もそう。アイツが獣となって邁進する道に巻き込まれたの。ねえ、あなた、今のあいつの姿に絆されてしまったの?」
王異の言葉が、○の耳の奥で義姉の最期の叫びと重なった。
*****
静まり返った陣を抜け出し、○は月明かりも届かぬ深い森へと足を踏み入れた。
そこには先の約束通り、王異が待っている。
王異は魏の工作員が用意したのか、いくつかの奇妙な道具や薬瓶を並べた。
「よく来てくれたわ。…計略はこうよ。明日、あなたは馬超を連れてこの森に来て。敵影が見えたとでも言えば、馬超はきっと付いてくるわ」
王異は足元に地図を広げ、月明りの中で説明した。
「この位置に印をつけておくわ。そしてここに、馬の足を払うための頑丈な紐を張っておく。……あなたは印を見たら飛び越えて。追ってくる馬超の馬は必ず引っかかって落馬する。その隙に、私がこれを」
王異は袖の中から、冷たく光る針のような細剣を取り出した。
「これには、体の自由を奪う毒が塗ってあるの。足の関節にこれを刺してしまえば、あとはどうとでもなる。動けなくなったあいつに、ゆっくりと絶望を教えてあげましょう」
王異の歪んだ笑みが、闇の中で色濃くなる。
「……分かったわ。私が誘い出す」
○の頭には、もはや迷いはなかった。
朝靄が立ち込める中、開戦を告げる銅鑼の音が遠く響いた。
先行隊として誰よりも早く戦場へ向かう趙雲は、既に甲冑を纏い、愛馬の手綱を握っていた。
出陣の直前、彼は本陣の隅に佇む○の元へ歩み寄る。
そこには復讐に燃える刺客でも、軽口をたたく女でもない、静まり返った顔をした○がいた。
出会ったばかりの頃の、誰の干渉も受け付けなかったあの顔をしている。
「○殿?」
趙雲が静かに声をかけると、○は視線を合わせぬまま「はい」とだけ答えた。
近頃は見なくなったその簡潔さに、趙雲は不吉な予感を抱える。
「趙雲殿…!そろそろ時間です」
何か言おうとした趙雲に、離れた所から×がをかけた。
趙雲が踵を返し、数歩歩き出した時だった。
「……いろいろ、ありがとう、趙雲殿」
背中越しに届いたその声はひどく透き通っていて、まるで今この瞬間に消えてしまいそうな儚さを帯びていた。
趙雲はハッとして立ち止まり、振り返った。
「何を言うのです。感謝を伝え合うのは、すべてが終わってからにしましょう。まだまだこれからです」
「……そうですね。これから、ですね」
趙雲の目に映る「これから」と、自分の見つめる「これから」は、決定的に違う場所を指している。
趙雲は満足そうに一度頷くと、戦場へと馬を駆っていった。
その後ろ姿を見送り、○が深く息を吐き出した時、背後から声がかかる。
「おい、○! 趙雲はもう行ったか!奴が敵を切り崩したら俺が追撃だ。お前も来い!」
楽しそうな馬超。
彼は殺戮の心は折れても、やはり血で血を洗う戦場が好きなのだろう。
○は馬超を見上げた。
「……馬超。あっちの森に何か気配がする。伏兵がいては厄介だから様子を見に行くんだけど……馬超はどうする」
「 面白い。なにかいれば俺がまとめて串刺しにしてやる! 行くぞ、○!」
馬超は疑うことすらしない。
○は無言で馬に跨ると、あの場所へと、ゆっくりと馬首を向けた。
※ここから馬超ルートと趙雲ルートに分かれます。R-18表現はありません
「……何。私、あなたを許したわけでも、受け入れたわけでもないけど。馴れ馴れしい」
○は視線すら向けず冷たく言う。
しかしそれを気にしない馬超。
「お前は最初、曹操軍に行くつもりだったらしいな」
「……」
「俺を討つならそれが正しい。現にあそこには俺に夫を殺された女がいる。王異と言ってな。奴はしっかり曹操陣営に組み込まれている」
馬超の声は、不思議なほど穏やかだった。
「お前もあちらに行ってしまったら悲しいと思ってな」
「……悲しい?」
○は思わず顔を上げ、馬超を見た。
「俺は、お前に殺される覚悟はできている。だから、ここにいろ。俺の側にいて、飽きるまで俺の首を狙っていればいい」
そう言うと○の短い襟足をそっと指で弄ぶ。
「お前、妻を亡くしただなんだと言うけど……。そうやってすぐ、次の『新しい大事な物』を作るのね。私には……考えられない」
○は馬超の手を払おうともせずに言う。
失ったものへ永遠に固執する自分と、それをやめた馬超。
「一人では生きていけぬからな、俺は。案外、寂しがりなんだ」
馬超は隠すこともなく快活に笑う。
「……お前はどうなんだ? お前の様な人間は、復讐の果てに何を見ている」
問いかけられ、○は咄嗟に馬超から目を逸らした。
(こいつを殺したら……?)
ぼんやりと考えた。
「お前に燃やされた城に戻って、家族の墓を作って…そしたら…」
そこまで言って言葉を失った。
その後の自分に何があるのか。
趙雲は”復讐者に安息は訪れない”と言った。
なら何が訪れるのだろう。
(どこかで野垂れ死ぬ?空っぽになる?…でも、それでいい。ううん、むしろ何も残らない方が良い)
*******
「こんな時間に急に軍議ですか?」
夜の帳が下りた廊下で、○は足早に歩く趙雲に問いかけた。
足音が静かな廊下に響く。
夜中に起こされて軍議室に向かっていた。
「偵察が曹操軍を見かけたようで……。小規模だとは聞いていますが、境界付近にいる様なので用心に越したことはありません」
趙雲は歩みを止めず、顔だけで○を振り返った。
「大丈夫ですか。昼間、馬超殿におかしなことは言われていませんか」
鍛錬場での様子を見ていたらしい。
「問題ありません」
それだけ答える。
勢力の境界線付近に、曹操軍の先鋒と思しき小規模な部隊が姿を現したという。
○達はそこに赴き迎撃することになった。
趙雲と馬超は敵陣に斬りこみ、○は遊撃軍として動くことになった。
馬超は久しぶりの戦場だと喜び、さっさと馬を走らせて行ってしまう。
残された○が馬の手綱を握り直すと、隣に馬を寄せた趙雲が周囲に聞こえないほどの声で話しかける。
「○殿。単身遊撃として動く以上、あなたは戦場の最も不安定な場所に身を置くことになります。……いいですか、何かあれば…あるいは何かを迷うようなことがあれば、私や馬超殿の隊に合流してください」
「ご心配、ありがとうございます」
趙雲はそう言い残すと、少し離れた所に待機させていた×と共に駆けて行った。
戦が始まって数刻。
○が馬を走らせていると、砂塵の向こうから一人の女が静かに歩み寄ってくるのが見えた。
馬も引かず、ただ一人で戦場に立つその女は、返り血を浴びた美しい顔に、凍てつくような笑みを浮かべていた。
「……やっと見つけたわ。馬超の腕の中で、すっかり牙を抜かれた哀れな子」
女…王異の瞳が○を映す。
○は咄嗟に馬の手綱を引き、剣を構える。
「……魏の将か。一人で何をしに来た」
「私、あなたを知っているの」
そう告げた女は、○の父の名を出した。
「……なぜ、父を知っている」
「夫が世話になったことがあるの。その時に城であなたを見かけたわ。あなたは綺麗な長い髪をしたお姫様だったけれど……。今の荒削りの刃の様なあなたの方が素敵ね」
女は恍惚とした表情で微笑む。
「私は王異。あなたと同じ、馬超に家族を殺された者」
その名前に○は目を見開いた。
馬超に聞いた名前だ。
「あなたは私と同じでありながら、あいつと同じ陣営にいる。…もう、復讐心は忘れてしまったの?」
王異は冷たい目で続ける。
「あなたのお父上は民に慕われ、家族を愛し、他を脅かさずに善良な人間だったのにね。私の夫もそう。アイツが獣となって邁進する道に巻き込まれたの。ねえ、あなた、今のあいつの姿に絆されてしまったの?」
王異の言葉が、○の耳の奥で義姉の最期の叫びと重なった。
*****
静まり返った陣を抜け出し、○は月明かりも届かぬ深い森へと足を踏み入れた。
そこには先の約束通り、王異が待っている。
王異は魏の工作員が用意したのか、いくつかの奇妙な道具や薬瓶を並べた。
「よく来てくれたわ。…計略はこうよ。明日、あなたは馬超を連れてこの森に来て。敵影が見えたとでも言えば、馬超はきっと付いてくるわ」
王異は足元に地図を広げ、月明りの中で説明した。
「この位置に印をつけておくわ。そしてここに、馬の足を払うための頑丈な紐を張っておく。……あなたは印を見たら飛び越えて。追ってくる馬超の馬は必ず引っかかって落馬する。その隙に、私がこれを」
王異は袖の中から、冷たく光る針のような細剣を取り出した。
「これには、体の自由を奪う毒が塗ってあるの。足の関節にこれを刺してしまえば、あとはどうとでもなる。動けなくなったあいつに、ゆっくりと絶望を教えてあげましょう」
王異の歪んだ笑みが、闇の中で色濃くなる。
「……分かったわ。私が誘い出す」
○の頭には、もはや迷いはなかった。
朝靄が立ち込める中、開戦を告げる銅鑼の音が遠く響いた。
先行隊として誰よりも早く戦場へ向かう趙雲は、既に甲冑を纏い、愛馬の手綱を握っていた。
出陣の直前、彼は本陣の隅に佇む○の元へ歩み寄る。
そこには復讐に燃える刺客でも、軽口をたたく女でもない、静まり返った顔をした○がいた。
出会ったばかりの頃の、誰の干渉も受け付けなかったあの顔をしている。
「○殿?」
趙雲が静かに声をかけると、○は視線を合わせぬまま「はい」とだけ答えた。
近頃は見なくなったその簡潔さに、趙雲は不吉な予感を抱える。
「趙雲殿…!そろそろ時間です」
何か言おうとした趙雲に、離れた所から×がをかけた。
趙雲が踵を返し、数歩歩き出した時だった。
「……いろいろ、ありがとう、趙雲殿」
背中越しに届いたその声はひどく透き通っていて、まるで今この瞬間に消えてしまいそうな儚さを帯びていた。
趙雲はハッとして立ち止まり、振り返った。
「何を言うのです。感謝を伝え合うのは、すべてが終わってからにしましょう。まだまだこれからです」
「……そうですね。これから、ですね」
趙雲の目に映る「これから」と、自分の見つめる「これから」は、決定的に違う場所を指している。
趙雲は満足そうに一度頷くと、戦場へと馬を駆っていった。
その後ろ姿を見送り、○が深く息を吐き出した時、背後から声がかかる。
「おい、○! 趙雲はもう行ったか!奴が敵を切り崩したら俺が追撃だ。お前も来い!」
楽しそうな馬超。
彼は殺戮の心は折れても、やはり血で血を洗う戦場が好きなのだろう。
○は馬超を見上げた。
「……馬超。あっちの森に何か気配がする。伏兵がいては厄介だから様子を見に行くんだけど……馬超はどうする」
「 面白い。なにかいれば俺がまとめて串刺しにしてやる! 行くぞ、○!」
馬超は疑うことすらしない。
○は無言で馬に跨ると、あの場所へと、ゆっくりと馬首を向けた。
※ここから馬超ルートと趙雲ルートに分かれます。R-18表現はありません