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一夜明けて。
成都の宿舎には、どこか奇妙な殺気が立ち込めていた。
朝靄の立ち込める食堂。
馬超が食事をしていると、その背後から○は音もなく忍び寄る。
手にしているのは、手近な材木置き場から拝借した角材。
渾身の力で振り下ろされた一撃。
しかし、馬超は箸を動かす手すら止めずに避けた。
「それで殺気を消したつもりか?」
馬超は振り返りもせず、口に米を放り込みながら鼻で笑った。
馬超が練兵場へ向かう道すがら、彼女は物陰から撒菱をばらまいた。
意外とこういう初歩的のものの方が効果があるかもしれないと思ったのだ。
しかし馬超は呆れたようにため息をつく。
「おい、○。そんな玩具で俺の足を止められると思っているのか?流石に丸見えだ」
これには遠巻きに見ていた将兵たちも、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
○はついに、馬超が厠に入った隙を狙うことにした。
流石に下半身を晒した馬超は、羞恥に思うように動けないはずだ。
(今度こそ…)
扉が開いた瞬間、彼女は全力で剣を振り抜こうと踏み込む。
しかしそこにいたのは、微塵も動じることなく下半身を堂々と晒し、不敵な笑みを浮かべる馬超の姿。
隠すどころか、むしろ○に見せる様に腰を動かした。
「なんだ、そんなに俺の『獲物』が拝みたいのか?」
「…………っ!!」
○は悲鳴すら上げられずに脱兎のごとく逃げ出した。
******
○は一人、鍛錬場の隅に立っていた。
手にした弓を引き絞り、遠くの的に狙いを定める。
近距離での奇襲がことごとく通じないのなら、せめて間合いの外からその首を射抜くしかない。
矢の先に毒でも塗ってやれば…
そう考えた○は、片目を細めて必死に呼吸を整えた。
しかし放たれた矢は的の端をかすめることすらなく、力なく地面に突き刺さる。
「お前、弓が下手だな」
背後から不意に投げかけられた声に、咄嗟に○は矢先を馬超の喉元へと向けた。
「やめろ。危ないだろうが、馬鹿」
馬超は動じる風もなく、大きな手でぐいと矢尻を押し下げた。
「いいか、弓というのはこう引くものだ」
馬超は○の拒絶を無視し、背後から覆いかぶさるようにして彼女の身体を包み込んだ。
矢の構え方を身体を添えて教える。
「やめろ! 離せ、気持ち悪い……っ!」
○は腕の中で激しく暴れたが、馬超はそれを面白がるように鼻で笑い、さらに力を込めて彼女の指を弦に添えさせた。
「暴れるな。狙いがぶれるぞ。教えてやると言っているんだ……ほら、もっと脇を締めろ」
「ふざけるな……ッ!」
○は屈辱に顔を歪め、密着した状態を逆手に取った。
渾身の力を右足に込め、馬超の足の甲を思い切り踏みつける。
しかし馬超は顔色一つ変えず、わずかに眉を動かしただけだった。
その様子を諸葛亮は回廊の影から覗いていた。
西涼の荒々しさをそのまま体現したような馬超が、○の背後から覆いかぶさり、その身体を腕の中に閉じ込めている。
○が必死に抗い足を踏みつける様さえも、馬超にとっては睦み合いであるかのように笑みを浮かべて受け流す。
(不快ですね)
昨日、自分が丹念に整えた髪が、今は馬超の荒い息に乱されている。
馬超といる○は目に光が宿りどこか生き生きしている。
馬超が○に教えているのは弓の引き方ではない。
ああして自分たちの絆を教え込んでいるのだ。
(放っておくと、あなたはそちらに行ってしまうのでしょう)
諸葛亮は何かを思案しながら身をひるがえした。
鍛錬場の喧騒の中、馬超はふと、遠くの回廊に佇む白い影に気づいた。
冷ややかな視線をこちらへ向ける諸葛亮。
(やはり来たな、軍師)
馬超はわざと○の耳元に顔を寄せ、諸葛亮に見せつけるように笑う。
その動きに○は屈辱に顔を真っ赤に染め、馬超の腕に噛み付いた。
「いたたたたっ!」
流石の馬超も予期せぬ激痛に慌てて声を上げた。
どれだけ鍛えても、噛まれたりつねられる痛みには抗えない。
腕を振り払おうとしたその隙を逃さず、○は全体重を後ろに預けて体当たりをした。
不意を突かれた馬超は床に倒れこむ。
○は馬超の腹の上に馬乗りになり、落ちていた矢を掴むとその喉元へと振り下ろした。
だが馬超の動きはさらに速い。
彼は床に背をつけたまま両足で○の身体を絡め取り、強引に体勢を入れ替えた。
勢いよく体勢を変えられて頭を打つ。
「くぅぅ…」と痛みに顔をしかめる間に、今度は○が馬超にのしかかられる。
あまりの乱暴な立ち振る舞いに、周囲の兵士も何も言えない。
馬超は○の両手首を一つの手で纏めると、○をまじまじと見た。
「しかしお前、こんな顔だったか…?」
そう言った馬超に、○は渾身の力を込めて鼻腔を目がけて頭突きを食らわせた。
ゴツ、という生々しい骨の音が響く。
「……ぐっ、お前……っ!」
鼻を押さえ、流石に悶絶した馬超が反射的に拘束を緩める。
膝立ちになった馬超の足の間から這い出すと体勢を崩している馬超の前に座り込み、拳を固く握りしめた。
狙うのは、男としての急所だ。
○は馬超の股間目がけて殴り掛かるが、それも受け止められる。
力も速さも馬超が一回りも二回りも上だ。
「…本当に情け容赦ないな」
そういう馬超はどこか楽しそうに○の腕をひねり上げると、うつ伏せにして上に覆いかぶさる。
腹のあたりに腕を回して固定すると、耳元でわざと挑発をした。
「ほら、ここから抜け出してみろ。俺は何もしないぞ」
「ど…っ、どけ!」
○は掠れた声で毒づいたが、もはや指一本動かす力さえ残っていない。
何度も組み伏せられ、投げ飛ばされ身体はもう限界だった。
馬超がゆっくりと身体を離しても起き上がれず横たわっている。
「……今日はこれくらいにしておいてやる。ああ、疲れた」
馬超は自分の腕に残った○の噛み跡を満足げに眺めると立ち去った。
*****
その日の夕方。
将軍職の者が使う事を許された浴室に馬超はいた。
浴槽に張られた湯につかり、開け放たれた庭を眺めている。
一息ついたその時。
茂みから○が飛び出してきた。
手には真剣が握られている。
迷いなく真っすぐ突き出されたそれは馬超の無防備な喉元へと迫る。
「お前、どんな体力してるんだ!あれだけ動いてまだやるか!」
馬超は流石に目を見開いた。
腰も抜けるほどだった○が、半刻もしない内に元気に動いている。
彼は素っ裸のまま立ち上がると剣を避け、○の足を引っかけた。
服が濡れては不利になる、と瞬時に思った○は必死で足を突っ張る。
足は濡れてしまったので靴を脱いで放り投げた。
馬超も○も、馬超が素っ裸であることなど微塵も気にする様子はない。
突進してくる○の剣を避けると背後に回る。
「あっ……!」
○が声を上げる間もなく背後から羽交い絞めにされた。
「よし!捕まえたぞ」
「離せッ……! くっつくな、気持ち悪い……!!」
必死に抗うが全て流されてしまう。
「俺の裸を拝みに来たのはお前の方だろうが。ゆっくり見て行って構わんぞ」
水に濡れた馬超の胸板が濡れた○の服ごしに密着し、逃れようとするほど肌の質感が伝わってくる。
「○殿!? こんな所にまで……っ」
入ってきたのは趙雲だった。
彼も湯浴みのために手ぬぐい一つでやってきたようだが、目の前の光景にその端正な顔を驚愕に染めた。
「離してください、馬超殿!」
趙雲は慌てて○を救い出そうとその腕を伸ばす。
しかし馬超は○を抱えたまま身を翻し、趙雲の腕をかわしてから面白そうに口角を上げた。
そしてグイッと○を趙雲の前に差し出す。
必死に抵抗しようとした○の動きが、ある一点でピタリと止まった。
「趙雲殿!?」
助けようとしている趙雲もまた、湯浴みのために裸だった。
それを馬超は○の頭を掴んで見せつける。
「あ……○殿、申し訳ない。○殿がいるとは思わず……!」
馬超も趙雲も自分の裸に全く頓着がないらしく、いつも通りの状態でいる事の違和感。
思わず○は目を閉じて身を固くする。
馬超のモノは何とも思わないにしても趙雲のモノは見るわけにはいかないと思った。
その様子に馬超は悪戯っぽく笑う。
「そう怒るな!笑ってみろ!ほら、ここか? それともここか!」
馬超は羽交い締めにしていた腕を緩めるやいなや、○の脇腹や腹の辺りをくすぐり始めた。
「……っ!? ひ、やめ、……っ! 何、して……あははっ! や…っ!」
○はくすぐりに弱いらしい。
必死に身を捩り、馬超の胸板を叩いて抵抗する。
あまりの執拗さに、ついには堪えきれず笑い声を漏らす。
復讐に燃えていたはずの瞳には涙が浮かび、頬を赤らめて悶えるその姿は、端から見れば仇敵同士とは思えぬほど睦まじい戯れにしか見えない。
その内、浴槽に倒れこんだ○に覆いかぶさるとまだくすぐる馬超。
その様子を見ていた趙雲は眉間にしわを寄せている。
○が自分に向ける、礼節を尽くした余所余所しい態度。
それに引き換え馬超に対して向ける、剥き出しの感情。
命を取る為のものとはいえ、趙雲の胸中に、説明のつかない複雑な焦燥感が渦巻く。
「――馬超殿、悪ふざけが過ぎます!」
趙雲は一歩踏み込むと腕を二人の間に割り込ませ、半ば強引に○の体を馬超の腕から引き剥がした。
急に自由になった○は水の中に足をついてよろめいて、それを趙雲が受け止める。
○は真っ赤になって裸の趙雲から飛びのいた。
「……今日はこのくらいにしておいてやる!」
馬超にそう捨て台詞を吐いて、○は庭に飛び出し逃げて行った。
残された趙雲は、馬超の背中を見た。
「……はあ。あーあ、全く、手のかかる女だ。結局ここも散らかしたまま逃げおって」
馬超は大きな溜息を吐きながら、首のあたりをがしがしと掻き手ぬぐいを肩にかける。
やれやれ…と趙雲も一息ついたが、その視線が馬超のある一点に突き刺さる。
「…………。馬超殿。その……」
趙雲が呆れ果て、引きつった声で指し示した先。
そこには、堂々と起き上がった馬超の下半身があった。
「あ? ああ、これか」
「あの状況で、どういう…」
「いやいや、趙雲。あんなじゃじゃ馬でも立派な女だ。あんなに密着して互いの肌を擦り合わせれば、男ならこうなるのが道理ってものだ。濡れた服越しというのがまた興奮した」
「……道理ですか」
あまりに厚顔無恥。
かつ野性味溢れるその物言いに、趙雲は重い溜息を吐く。
「……馬超殿。○殿は、父上の仇を討とうと必死なのです。その純粋な執念を、己の欲望の種にされるのはあまりにも…」
趙雲は一糸纏わぬ姿のまま、まるで戦場での軍議のごとき面持ちで馬超を正面から諌めた。
「お前には分からんだろうな。俺は俺なりに、あいつを愛でてやってるのさ」
そんな小言を物ともせずに馬超は笑った。
成都の宿舎には、どこか奇妙な殺気が立ち込めていた。
朝靄の立ち込める食堂。
馬超が食事をしていると、その背後から○は音もなく忍び寄る。
手にしているのは、手近な材木置き場から拝借した角材。
渾身の力で振り下ろされた一撃。
しかし、馬超は箸を動かす手すら止めずに避けた。
「それで殺気を消したつもりか?」
馬超は振り返りもせず、口に米を放り込みながら鼻で笑った。
馬超が練兵場へ向かう道すがら、彼女は物陰から撒菱をばらまいた。
意外とこういう初歩的のものの方が効果があるかもしれないと思ったのだ。
しかし馬超は呆れたようにため息をつく。
「おい、○。そんな玩具で俺の足を止められると思っているのか?流石に丸見えだ」
これには遠巻きに見ていた将兵たちも、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
○はついに、馬超が厠に入った隙を狙うことにした。
流石に下半身を晒した馬超は、羞恥に思うように動けないはずだ。
(今度こそ…)
扉が開いた瞬間、彼女は全力で剣を振り抜こうと踏み込む。
しかしそこにいたのは、微塵も動じることなく下半身を堂々と晒し、不敵な笑みを浮かべる馬超の姿。
隠すどころか、むしろ○に見せる様に腰を動かした。
「なんだ、そんなに俺の『獲物』が拝みたいのか?」
「…………っ!!」
○は悲鳴すら上げられずに脱兎のごとく逃げ出した。
******
○は一人、鍛錬場の隅に立っていた。
手にした弓を引き絞り、遠くの的に狙いを定める。
近距離での奇襲がことごとく通じないのなら、せめて間合いの外からその首を射抜くしかない。
矢の先に毒でも塗ってやれば…
そう考えた○は、片目を細めて必死に呼吸を整えた。
しかし放たれた矢は的の端をかすめることすらなく、力なく地面に突き刺さる。
「お前、弓が下手だな」
背後から不意に投げかけられた声に、咄嗟に○は矢先を馬超の喉元へと向けた。
「やめろ。危ないだろうが、馬鹿」
馬超は動じる風もなく、大きな手でぐいと矢尻を押し下げた。
「いいか、弓というのはこう引くものだ」
馬超は○の拒絶を無視し、背後から覆いかぶさるようにして彼女の身体を包み込んだ。
矢の構え方を身体を添えて教える。
「やめろ! 離せ、気持ち悪い……っ!」
○は腕の中で激しく暴れたが、馬超はそれを面白がるように鼻で笑い、さらに力を込めて彼女の指を弦に添えさせた。
「暴れるな。狙いがぶれるぞ。教えてやると言っているんだ……ほら、もっと脇を締めろ」
「ふざけるな……ッ!」
○は屈辱に顔を歪め、密着した状態を逆手に取った。
渾身の力を右足に込め、馬超の足の甲を思い切り踏みつける。
しかし馬超は顔色一つ変えず、わずかに眉を動かしただけだった。
その様子を諸葛亮は回廊の影から覗いていた。
西涼の荒々しさをそのまま体現したような馬超が、○の背後から覆いかぶさり、その身体を腕の中に閉じ込めている。
○が必死に抗い足を踏みつける様さえも、馬超にとっては睦み合いであるかのように笑みを浮かべて受け流す。
(不快ですね)
昨日、自分が丹念に整えた髪が、今は馬超の荒い息に乱されている。
馬超といる○は目に光が宿りどこか生き生きしている。
馬超が○に教えているのは弓の引き方ではない。
ああして自分たちの絆を教え込んでいるのだ。
(放っておくと、あなたはそちらに行ってしまうのでしょう)
諸葛亮は何かを思案しながら身をひるがえした。
鍛錬場の喧騒の中、馬超はふと、遠くの回廊に佇む白い影に気づいた。
冷ややかな視線をこちらへ向ける諸葛亮。
(やはり来たな、軍師)
馬超はわざと○の耳元に顔を寄せ、諸葛亮に見せつけるように笑う。
その動きに○は屈辱に顔を真っ赤に染め、馬超の腕に噛み付いた。
「いたたたたっ!」
流石の馬超も予期せぬ激痛に慌てて声を上げた。
どれだけ鍛えても、噛まれたりつねられる痛みには抗えない。
腕を振り払おうとしたその隙を逃さず、○は全体重を後ろに預けて体当たりをした。
不意を突かれた馬超は床に倒れこむ。
○は馬超の腹の上に馬乗りになり、落ちていた矢を掴むとその喉元へと振り下ろした。
だが馬超の動きはさらに速い。
彼は床に背をつけたまま両足で○の身体を絡め取り、強引に体勢を入れ替えた。
勢いよく体勢を変えられて頭を打つ。
「くぅぅ…」と痛みに顔をしかめる間に、今度は○が馬超にのしかかられる。
あまりの乱暴な立ち振る舞いに、周囲の兵士も何も言えない。
馬超は○の両手首を一つの手で纏めると、○をまじまじと見た。
「しかしお前、こんな顔だったか…?」
そう言った馬超に、○は渾身の力を込めて鼻腔を目がけて頭突きを食らわせた。
ゴツ、という生々しい骨の音が響く。
「……ぐっ、お前……っ!」
鼻を押さえ、流石に悶絶した馬超が反射的に拘束を緩める。
膝立ちになった馬超の足の間から這い出すと体勢を崩している馬超の前に座り込み、拳を固く握りしめた。
狙うのは、男としての急所だ。
○は馬超の股間目がけて殴り掛かるが、それも受け止められる。
力も速さも馬超が一回りも二回りも上だ。
「…本当に情け容赦ないな」
そういう馬超はどこか楽しそうに○の腕をひねり上げると、うつ伏せにして上に覆いかぶさる。
腹のあたりに腕を回して固定すると、耳元でわざと挑発をした。
「ほら、ここから抜け出してみろ。俺は何もしないぞ」
「ど…っ、どけ!」
○は掠れた声で毒づいたが、もはや指一本動かす力さえ残っていない。
何度も組み伏せられ、投げ飛ばされ身体はもう限界だった。
馬超がゆっくりと身体を離しても起き上がれず横たわっている。
「……今日はこれくらいにしておいてやる。ああ、疲れた」
馬超は自分の腕に残った○の噛み跡を満足げに眺めると立ち去った。
*****
その日の夕方。
将軍職の者が使う事を許された浴室に馬超はいた。
浴槽に張られた湯につかり、開け放たれた庭を眺めている。
一息ついたその時。
茂みから○が飛び出してきた。
手には真剣が握られている。
迷いなく真っすぐ突き出されたそれは馬超の無防備な喉元へと迫る。
「お前、どんな体力してるんだ!あれだけ動いてまだやるか!」
馬超は流石に目を見開いた。
腰も抜けるほどだった○が、半刻もしない内に元気に動いている。
彼は素っ裸のまま立ち上がると剣を避け、○の足を引っかけた。
服が濡れては不利になる、と瞬時に思った○は必死で足を突っ張る。
足は濡れてしまったので靴を脱いで放り投げた。
馬超も○も、馬超が素っ裸であることなど微塵も気にする様子はない。
突進してくる○の剣を避けると背後に回る。
「あっ……!」
○が声を上げる間もなく背後から羽交い絞めにされた。
「よし!捕まえたぞ」
「離せッ……! くっつくな、気持ち悪い……!!」
必死に抗うが全て流されてしまう。
「俺の裸を拝みに来たのはお前の方だろうが。ゆっくり見て行って構わんぞ」
水に濡れた馬超の胸板が濡れた○の服ごしに密着し、逃れようとするほど肌の質感が伝わってくる。
「○殿!? こんな所にまで……っ」
入ってきたのは趙雲だった。
彼も湯浴みのために手ぬぐい一つでやってきたようだが、目の前の光景にその端正な顔を驚愕に染めた。
「離してください、馬超殿!」
趙雲は慌てて○を救い出そうとその腕を伸ばす。
しかし馬超は○を抱えたまま身を翻し、趙雲の腕をかわしてから面白そうに口角を上げた。
そしてグイッと○を趙雲の前に差し出す。
必死に抵抗しようとした○の動きが、ある一点でピタリと止まった。
「趙雲殿!?」
助けようとしている趙雲もまた、湯浴みのために裸だった。
それを馬超は○の頭を掴んで見せつける。
「あ……○殿、申し訳ない。○殿がいるとは思わず……!」
馬超も趙雲も自分の裸に全く頓着がないらしく、いつも通りの状態でいる事の違和感。
思わず○は目を閉じて身を固くする。
馬超のモノは何とも思わないにしても趙雲のモノは見るわけにはいかないと思った。
その様子に馬超は悪戯っぽく笑う。
「そう怒るな!笑ってみろ!ほら、ここか? それともここか!」
馬超は羽交い締めにしていた腕を緩めるやいなや、○の脇腹や腹の辺りをくすぐり始めた。
「……っ!? ひ、やめ、……っ! 何、して……あははっ! や…っ!」
○はくすぐりに弱いらしい。
必死に身を捩り、馬超の胸板を叩いて抵抗する。
あまりの執拗さに、ついには堪えきれず笑い声を漏らす。
復讐に燃えていたはずの瞳には涙が浮かび、頬を赤らめて悶えるその姿は、端から見れば仇敵同士とは思えぬほど睦まじい戯れにしか見えない。
その内、浴槽に倒れこんだ○に覆いかぶさるとまだくすぐる馬超。
その様子を見ていた趙雲は眉間にしわを寄せている。
○が自分に向ける、礼節を尽くした余所余所しい態度。
それに引き換え馬超に対して向ける、剥き出しの感情。
命を取る為のものとはいえ、趙雲の胸中に、説明のつかない複雑な焦燥感が渦巻く。
「――馬超殿、悪ふざけが過ぎます!」
趙雲は一歩踏み込むと腕を二人の間に割り込ませ、半ば強引に○の体を馬超の腕から引き剥がした。
急に自由になった○は水の中に足をついてよろめいて、それを趙雲が受け止める。
○は真っ赤になって裸の趙雲から飛びのいた。
「……今日はこのくらいにしておいてやる!」
馬超にそう捨て台詞を吐いて、○は庭に飛び出し逃げて行った。
残された趙雲は、馬超の背中を見た。
「……はあ。あーあ、全く、手のかかる女だ。結局ここも散らかしたまま逃げおって」
馬超は大きな溜息を吐きながら、首のあたりをがしがしと掻き手ぬぐいを肩にかける。
やれやれ…と趙雲も一息ついたが、その視線が馬超のある一点に突き刺さる。
「…………。馬超殿。その……」
趙雲が呆れ果て、引きつった声で指し示した先。
そこには、堂々と起き上がった馬超の下半身があった。
「あ? ああ、これか」
「あの状況で、どういう…」
「いやいや、趙雲。あんなじゃじゃ馬でも立派な女だ。あんなに密着して互いの肌を擦り合わせれば、男ならこうなるのが道理ってものだ。濡れた服越しというのがまた興奮した」
「……道理ですか」
あまりに厚顔無恥。
かつ野性味溢れるその物言いに、趙雲は重い溜息を吐く。
「……馬超殿。○殿は、父上の仇を討とうと必死なのです。その純粋な執念を、己の欲望の種にされるのはあまりにも…」
趙雲は一糸纏わぬ姿のまま、まるで戦場での軍議のごとき面持ちで馬超を正面から諌めた。
「お前には分からんだろうな。俺は俺なりに、あいつを愛でてやってるのさ」
そんな小言を物ともせずに馬超は笑った。