本編【31話~最終話】
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趙雲は執務室で一人唸っていた。
どうにかして○を外に出せないか…
なにか方法はないか…
考えれば考えるほど、答えは出ない。
規律、軍紀、政治。
どれもが、彼女を牢に縛りつけている。
「……趙雲様」
×がいつの間にか戸口に立っていた。
「×殿……。すまない、今は……」
「趙雲様は……あの方を、助けたいのですね」
「……ああ」
それだけで、十分だったらしい。
×は小さく息を吸い、胸元で手を組む。
「私はあの方が苦手ですが…このままあの方が死ぬようなことがあれば、一生、趙雲様が戻ってこられない様な気がして…」
「…」
「ですから、正当な軍事的要請だったことを、文官の耳を貸して下さる方にお伝えしてみようと思うのです」
「×殿…」
「○殿はあんな方でしたから。男性からの支持も高いので何か変わるかもしれません」
そう、少し冗談っぽく言ってから、小さく「あの」と付け加える。
「私、趙雲様の事を…お慕いしています」
予想していなかったわけではない。
だが、この場、この時だとは思っていなかった趙雲は固まる。
「申し訳ないが…×殿の気持ちにこたえることはできない」
その返事に、×はスッキリしたような顔でいた。
「分かっています」
それだけ言って微笑む。
「実は私、趙雲様と長く一緒にいたのでちょっと自信があったんです。気持ちをゆっくり温められる方だと思っていたので。でもそうじゃなかったんですね…。趙雲様は、ご自身が慕ったなら真っ直ぐに駆け寄る方だった様です」
「…」
「○殿が助かる方法、探しましょう」
×は執務室を出て行った。
それだけではなかった。
その後、馬超や親衛隊も押しかけてきては、それぞれが何かしらの策を考えてきていた。
兵たちにおいては嘆願書や署名をすでに集めている。
○がかつて、くだらないと言って切り捨てようとしていた者たちが、○の為に立場を失うかもしれないのに奔走している姿を見て、趙雲は全てを話す決意をした。
趙雲は諸葛亮に呼び出された。
隣には城が攻撃されていることを知り、急遽帰還した劉備もいる。
「元盗賊…しかも裏社会で通り名まで持つほどの腕利きとは。むしろ合点がいきました」
彼は机に、○のあの小刀を置いた。
「あなたが預かっていたという小刀は…こちらですね」
「…はい」
諸葛亮はその彫刻部分に触れた。
「実はこの紋章…これは西涼の豪族で、古くからあの一帯を治めていた名家の印です。その家に代々受け継がれる極めて貴重なもので、彼女はその家の……生き残りの令嬢だったのですね。ここに分かりにくいですが、名が刻印されています」
「なんと…」
趙雲は目を見張る。
「ご両親も評判の美しさで、彼女も生まれながらに大変美しいと噂が流れる程には有名でした。かつて私も耳にしたことがありますが…まさか、それが彼女だったとは。恐らく彼女が幼い頃に家は潰れ、更にあの一帯は戦乱に呑まれています」
諸葛亮は小刀を置くと俯いた。
「戦の中、女性は手柄の如く乱取りされます。もしそこに彼女がいたのだとしたら、地獄を見たのかもしれません」
「…似たような話は、彼女の口から聞いております」
「その上であの様に振舞えるのは、とてつもない精神力ですね」
趙雲はその場で膝をついた。
「実は…お話があります。彼女は…○は嘘をついています。彼女の話した筋書きはでたらめです。○を士官させたのは私の独断です。○の才を惜しみ、私が小刀を奪いこの城に留め置きました。裁くのであれば、まずは私を…」
劉備は一歩前に出て、趙雲の肩を掴んだ。
「顔を上げてくれ。その事で呼んだのだ」
「…」
「身分を失い、泥にまみれて生きながらも、最後に彼女が選んだのは己の利ではなく、この国とそなただったのだ。……趙雲のためにその首を差し出そうとする者を、これ以上牢に繋いでおく理由など我らにはない。そう諸葛亮と結論付けたのだ」
趙雲は固まるが諸葛亮もゆったりと微笑んだ。
「偵察の成果…阿斗様の救出…結果的に戦局を覆したこの戦。いずれも、功績として看過できるものではありません」
「罪がなかったとは言えぬが、あれも趙雲の下でなら大人しくしているのだろう。もう一度、副官として迎えに行ってやれ」
劉備は傍の兵士に合図をして、地下牢の鍵を趙雲に握らせた。
「……感謝いたします」
趙雲はしばらく顔を上げることが出来なかった。
牢の奥で、○は相変わらず退屈そうに格の外の月を見つめていた。
そこへ、荒い足音が近づいてきて、息を切らせた趙雲が立つ。
「あら。こんな夜更けに処刑をするの?」
「……話がある」
「逃げろって話は却下よ。…ねえ、最後なんだから、もっと色っぽい話をしましょうよ」
立ち上がり、柵に数歩近づく。
柵越しに向き合う形になる。
「迎えに来た」
その言葉に彼女の表情がわずかに歪んだ。
趙雲は鍵を開け、無造作に鉄格子を押し開ける。
「……お前の負けだ、○。劉備殿がお前のすべてを許された。お前は死ねない」
「は? 嘘でしょ。あなた、勝手に鍵を開けてるんじゃないでしょうね」
「西涼の令嬢。それがお前の正体だったのだな。この小刀から諸葛亮殿が調べられた」
「うっそ。あれだけでよく分かったわね。博識過ぎない?」
感心するが牢から出てこない○。
趙雲はその手を取って牢から出した。
牢から出た○は、所在なさげに、自身の両手を包み込むように握る趙雲を手を見る。
そしていつものように…けれど少しだけ諦めた顔で微笑んだ。
どうにかして○を外に出せないか…
なにか方法はないか…
考えれば考えるほど、答えは出ない。
規律、軍紀、政治。
どれもが、彼女を牢に縛りつけている。
「……趙雲様」
×がいつの間にか戸口に立っていた。
「×殿……。すまない、今は……」
「趙雲様は……あの方を、助けたいのですね」
「……ああ」
それだけで、十分だったらしい。
×は小さく息を吸い、胸元で手を組む。
「私はあの方が苦手ですが…このままあの方が死ぬようなことがあれば、一生、趙雲様が戻ってこられない様な気がして…」
「…」
「ですから、正当な軍事的要請だったことを、文官の耳を貸して下さる方にお伝えしてみようと思うのです」
「×殿…」
「○殿はあんな方でしたから。男性からの支持も高いので何か変わるかもしれません」
そう、少し冗談っぽく言ってから、小さく「あの」と付け加える。
「私、趙雲様の事を…お慕いしています」
予想していなかったわけではない。
だが、この場、この時だとは思っていなかった趙雲は固まる。
「申し訳ないが…×殿の気持ちにこたえることはできない」
その返事に、×はスッキリしたような顔でいた。
「分かっています」
それだけ言って微笑む。
「実は私、趙雲様と長く一緒にいたのでちょっと自信があったんです。気持ちをゆっくり温められる方だと思っていたので。でもそうじゃなかったんですね…。趙雲様は、ご自身が慕ったなら真っ直ぐに駆け寄る方だった様です」
「…」
「○殿が助かる方法、探しましょう」
×は執務室を出て行った。
それだけではなかった。
その後、馬超や親衛隊も押しかけてきては、それぞれが何かしらの策を考えてきていた。
兵たちにおいては嘆願書や署名をすでに集めている。
○がかつて、くだらないと言って切り捨てようとしていた者たちが、○の為に立場を失うかもしれないのに奔走している姿を見て、趙雲は全てを話す決意をした。
趙雲は諸葛亮に呼び出された。
隣には城が攻撃されていることを知り、急遽帰還した劉備もいる。
「元盗賊…しかも裏社会で通り名まで持つほどの腕利きとは。むしろ合点がいきました」
彼は机に、○のあの小刀を置いた。
「あなたが預かっていたという小刀は…こちらですね」
「…はい」
諸葛亮はその彫刻部分に触れた。
「実はこの紋章…これは西涼の豪族で、古くからあの一帯を治めていた名家の印です。その家に代々受け継がれる極めて貴重なもので、彼女はその家の……生き残りの令嬢だったのですね。ここに分かりにくいですが、名が刻印されています」
「なんと…」
趙雲は目を見張る。
「ご両親も評判の美しさで、彼女も生まれながらに大変美しいと噂が流れる程には有名でした。かつて私も耳にしたことがありますが…まさか、それが彼女だったとは。恐らく彼女が幼い頃に家は潰れ、更にあの一帯は戦乱に呑まれています」
諸葛亮は小刀を置くと俯いた。
「戦の中、女性は手柄の如く乱取りされます。もしそこに彼女がいたのだとしたら、地獄を見たのかもしれません」
「…似たような話は、彼女の口から聞いております」
「その上であの様に振舞えるのは、とてつもない精神力ですね」
趙雲はその場で膝をついた。
「実は…お話があります。彼女は…○は嘘をついています。彼女の話した筋書きはでたらめです。○を士官させたのは私の独断です。○の才を惜しみ、私が小刀を奪いこの城に留め置きました。裁くのであれば、まずは私を…」
劉備は一歩前に出て、趙雲の肩を掴んだ。
「顔を上げてくれ。その事で呼んだのだ」
「…」
「身分を失い、泥にまみれて生きながらも、最後に彼女が選んだのは己の利ではなく、この国とそなただったのだ。……趙雲のためにその首を差し出そうとする者を、これ以上牢に繋いでおく理由など我らにはない。そう諸葛亮と結論付けたのだ」
趙雲は固まるが諸葛亮もゆったりと微笑んだ。
「偵察の成果…阿斗様の救出…結果的に戦局を覆したこの戦。いずれも、功績として看過できるものではありません」
「罪がなかったとは言えぬが、あれも趙雲の下でなら大人しくしているのだろう。もう一度、副官として迎えに行ってやれ」
劉備は傍の兵士に合図をして、地下牢の鍵を趙雲に握らせた。
「……感謝いたします」
趙雲はしばらく顔を上げることが出来なかった。
牢の奥で、○は相変わらず退屈そうに格の外の月を見つめていた。
そこへ、荒い足音が近づいてきて、息を切らせた趙雲が立つ。
「あら。こんな夜更けに処刑をするの?」
「……話がある」
「逃げろって話は却下よ。…ねえ、最後なんだから、もっと色っぽい話をしましょうよ」
立ち上がり、柵に数歩近づく。
柵越しに向き合う形になる。
「迎えに来た」
その言葉に彼女の表情がわずかに歪んだ。
趙雲は鍵を開け、無造作に鉄格子を押し開ける。
「……お前の負けだ、○。劉備殿がお前のすべてを許された。お前は死ねない」
「は? 嘘でしょ。あなた、勝手に鍵を開けてるんじゃないでしょうね」
「西涼の令嬢。それがお前の正体だったのだな。この小刀から諸葛亮殿が調べられた」
「うっそ。あれだけでよく分かったわね。博識過ぎない?」
感心するが牢から出てこない○。
趙雲はその手を取って牢から出した。
牢から出た○は、所在なさげに、自身の両手を包み込むように握る趙雲を手を見る。
そしていつものように…けれど少しだけ諦めた顔で微笑んだ。