本編【16話~30話】
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祭の灯りを背に、城へ続く道を歩く。
人波を抜けた途端、夜気がひやりと肌に触れた。
×はまだ祭の熱を帯びているのか、頬がわずかに赤い。
「楽しい祭でしたね」
×は小さく笑う。
「久しぶりに、ゆっくり城の外を歩いた気がします。こうして一緒に出られて……嬉しかったです」
素直な言葉だ。
重くもなく、押しつけがましくもない。
(落ち着く)
その感覚に、偽りはなかった。
それでも脳裏をよぎる。
帰り際、屋台の裏。
酒壺を囲み、町の者たちと肩を並べて笑う○の姿を見かけた。
大口を開けて笑っていた。
誰の隣に立つでもなく、誰の庇護も求めず、それでいて人の輪の中心にいる。
意識を切り替えようとすると、×が声をかけてきた。
「趙雲様」
「どうした」
「今日は、お時間をいただき、ありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げる。
「とても…とても楽しかったです」
真っ直ぐな言葉と潤んだ瞳。
正しい距離感。
彼女とはこれ以上なく適切な関係を築いていると思う。
そしてこのままこの関係でいれば、いずれは周囲の目もあり、それを形にしなくてはならなくなるだろう。
城門をくぐると、外の喧騒は断ち切られた。
足音が石畳に反響する。
いつもの城の夜だ。
「ここまでで結構です」
×はそう言って足を止めた。
灯りの下で見ると、頬の赤みはすでに引き、いつもの落ち着いた表情に戻っている。
「夜風に当たって、少し酔いも覚めました」
「それは何よりだ」
短く答えると、×は少しだけ間を置いた。
「趙雲様は……お疲れではありませんか」
問いは穏やかだが、どこか探るようでもある。
「問題ない」
それは嘘ではない。
身体ではなく、心の話なら別だが。
×はそれ以上踏み込まず、一礼して去っていった。
一人になると、城の静けさが一層際立つ。
趙雲は一度、自室に戻った。
自室の戸を開けて灯りを入れる。
衝立の向こうは静かだ。
今日、○は戻らないかもしれない。
頭の中が何だかうまくいかない。
このままでは眠れそうになかった。
「……厄介だな」
誰に向けるでもなく呟き、趙雲は鎧を外した。
鎧を外し、簡素な平服に着替える。
髪も束ね直し、武具は帯びない。
ただの城下の男の風貌だ。
城門を抜け、再び祭の灯りが見えた時、胸の奥がわずかに早鐘を打つのを感じた。
(確認するだけだ)
自分にそう言い聞かせ、人波の中へ紛れ込む。
屋台の裏…記憶に残っていた場所へ向かうと、騒がしい声ですぐに○は見つかった。
粗末な酒卓の周囲。
町の男女に囲まれ、笑い声の中心にいる。
卓の上には、串焼き、蒸し菓子、果実、酒壺。
ただ自然にその場に溶け込んでいるその様子は、こうして見るととても自然で平和な姿だった。
違う装い。
違う立場。
それでも、在り方は城の中と同じだ。
男性社会の中にいると際立っているだけのそれ。
しかし同年代の女性とも楽しそうに笑っていた。
ふと、○が何かに気づいたように視線を上げた。
そして趙雲と目が合う。
「あ!」
小さく声を上げたかと思うと、○は不敵に唇を吊り上げる。
少し酔った顔で○は趙雲に手招きをした。
他の町人たちもそちらを見て、趙雲は逃げ場がなくなった。
「なんだ、知り合いか?」
「おーい! こっちこいよ!」
「一人増えたって問題ねえよ!」
無遠慮で悪気のない声に、趙雲は歩みを進める。
自然と○の隣の席をあけられてそこに座る。
「祭に来てたの?…って、私、分かる?髪も服も全然違うけど」
少し酒を飲んでいる○は、自分の顔を指さしながら訪ねた。
「流石に分かる。…祭を見に来たら騒がしい所があったので、覗いたらお前がいた」
まるで説明するようにそう告げると、町人の一人が豪快に笑って酒を差し出す。
趙雲は、静かに杯を受け取る。
「少しだけだからな」
その言葉に、○は満足そうに目を細めた。
「”今日は”酔っちゃ駄目よ?」
*****
今日の趙雲は、ほろ酔いで済んだ。
杯の数は少なかったし、深く飲むつもりもなかった。
それでも、身体の芯がわずかに温かい。
酒のせいか、祭の熱気の名残か、それとも隣を歩く存在のせいか。
城へ向かう道は、夜露に濡れて静まり返っている。
○は歩調を合わせるでもなく、少し前を行ったり、隣に並んだり、気まぐれに位置を変える。
「良かったわね。今日は酔いつぶれなくて」
「……期待していたのか」
「まさか!あなたが潰れると面倒なのよ。運ぶの、重いし」
言葉はいつも通り軽い。
だがその声には、どこか柔らかさがあった。
しばらく足音だけが続く。
夜風が吹き、○の外衣の裾が揺れ、かすかに香が流れる。
「いつからいたの?」
「お前に見つかる少し前だ」
○は少し振り返る。
「そう。見せたいものがあったんだけどね。残念だわ」
「なんだ、それは」
「見た人だけにしか教えない」
笛の演奏の事だとは分かっていたが、趙雲はなぜか”×と祭に行ったこと”は伝えたくなかったので、知らないふりをした。
城門に近づくと、○は正門とは反対の道へと足を向けた。
「戻らないのか?」
趙雲が思わず問いかけると、歩きながら肩越しに振り返る。
「そこから二人で入ったら、変な噂が立つでしょ?今日は祭りだったのよ?酔った男女が一緒に戻った、なんて話、格好の餌じゃない。まだ噂話が足りないの?」
確かに、と思う。
「だから、私はこっち。趙雲は正門で帰って」
城の裏手へ続く、灯りの少ない道。
夜露に濡れた石畳の向こうは暗い。
ほろ酔いの女性をこの暗闇に一人で行かせる選択肢など、趙雲には最初からない。
「私もそちらから行く」
そう告げると○は立ち止まり、振り返ってニヤリと笑う。
「こっちの道は危険よ?どうなっても、知らないからね?」
暗闇の城壁に近づくと、彼女は鉤縄を取り出した。
「またそれか」
「万能なのよ、これ」
軽やかに放り投げ、塀の上に引っかける。
裾の長い平服を着ているのに、一瞬で壁を登る。
趙雲も続いて登った。
「次はあの庭木に飛び移るのよ」
「なに!?」
「簡単よ。いつもやってるし」
初心者で、しかもそういう鍛え方をしていない趙雲に簡単なわけがない。
「無茶だ」
「決めつけは良くないわ。…男は度胸!」
やはり少し酔っているのだろう。
○は趙雲を突き飛ばした。
息を呑む間もなく、枝を掴み、体勢を整える。
幹に腕を回し、なんとか踏みとどまった。
「出来た出来た!流石!」
○は塀の上から笑う。
そうして次に自分が跳ぶ。
しかし今日は衣装が違った。
酒も飲んでいる。
外衣の裾が枝に引っかかり、体勢が崩れた。
「……あ」
趙雲は反射的に腕を伸ばした。
衝撃と共に、柔らかな重みが飛び込んでくる。
「……っ」
趙雲は踏ん張り、二人分の体重を支えたが堪えきれず、そのまま後ろの植え込みに倒れこんだ。
倒れた趙雲の顔の横に、○の顔がある。
○が上に乗りかかり、抱き合うような形でしばらく互いに固まった。
「……っ、ふふ」
○がしばらく固まったまま、それから大きく息を吐く。
「流石に…ちょっと怖かった…っ!はははっ」
頭に枝が刺さったまま、怖さを紛らわせるように隣の趙雲の頭を抱きしめて笑った。
あまりに無邪気で、あまりに楽しそうで、叱るよりも思わず趙雲も声を立てて笑ってしまう。
人の通らない裏庭に、二人分の笑い声が溶けて行った。
「はぁ~…やれやれ」
しばらく笑って、○は抱きしめていた趙雲の頭を開放した。
気づいたら笑っている内に抱き寄せる形になっていた○の腰を、趙雲も解放する。
○が植え込みから立ち上がろうとした時によろめく。
それを趙雲がまた抱き留めた。
「ごめん、ごめん」
○はそれ以上の反応はせずに立ち上がった。
コソコソと部屋に戻ると、○は早速衝立の向こうで着替える。
「あの肉料理、美味しかったわねえ。知ってる?あの香草、呉の商人から買ったらしくて、お茶にもなるらしいわよ。城で出してくれないかしらね。趙雲、ずっとあれ食べてたでしょ」
「美味かったからな」
短く返すと、向こうで小さく笑う気配がした。
「あと、あのお酒。部屋に欲しいわぁ。甘いのに後味がすっきりしてて」
「酒は控えめにしろ」
「はいはい、隊長殿」
からかうような調子のあとに、ギシッと寝台に飛び込む音。
衝立の向こうで、○が寝返りを打つ気配がする。
「鎧も肩書もない趙雲、ちょっと新鮮だったわ。オジサマ達の良い玩具になって」
「……騒がしかっただけだ。疲れた」
そう返すと、すぐに小さな笑い声が返ってきた。
「ふふ。じゃあ、城壁から飛び降りた感想は?」
「……あれは」
言いかけて、言葉を探すのが面倒になる。
「流石に怖かったわね!受け止めてもらえて助かったけど」
軽く伸びをするような音。
あの時の○の感触が今更になって蘇った趙雲は、なんだか胸がうずいた。
耳元で響いた楽しそうな声と、笑う時に揺れた身体。
身体から伝わった○の声。
それを打ち消すように咳払いをする。
「もう、休め」
「はいはい。おやすみ」
「…おやすみ」
珍しく”おやすみ”と返事をした自分の口が、自分のものではない様だった。
胸の奥に残るのは、酒の温かさと夜風と、誰かが近くにいるという理由のない安心感。
思考が静かにほどけていく。
趙雲は心地よく眠りに落ちた。
人波を抜けた途端、夜気がひやりと肌に触れた。
×はまだ祭の熱を帯びているのか、頬がわずかに赤い。
「楽しい祭でしたね」
×は小さく笑う。
「久しぶりに、ゆっくり城の外を歩いた気がします。こうして一緒に出られて……嬉しかったです」
素直な言葉だ。
重くもなく、押しつけがましくもない。
(落ち着く)
その感覚に、偽りはなかった。
それでも脳裏をよぎる。
帰り際、屋台の裏。
酒壺を囲み、町の者たちと肩を並べて笑う○の姿を見かけた。
大口を開けて笑っていた。
誰の隣に立つでもなく、誰の庇護も求めず、それでいて人の輪の中心にいる。
意識を切り替えようとすると、×が声をかけてきた。
「趙雲様」
「どうした」
「今日は、お時間をいただき、ありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げる。
「とても…とても楽しかったです」
真っ直ぐな言葉と潤んだ瞳。
正しい距離感。
彼女とはこれ以上なく適切な関係を築いていると思う。
そしてこのままこの関係でいれば、いずれは周囲の目もあり、それを形にしなくてはならなくなるだろう。
城門をくぐると、外の喧騒は断ち切られた。
足音が石畳に反響する。
いつもの城の夜だ。
「ここまでで結構です」
×はそう言って足を止めた。
灯りの下で見ると、頬の赤みはすでに引き、いつもの落ち着いた表情に戻っている。
「夜風に当たって、少し酔いも覚めました」
「それは何よりだ」
短く答えると、×は少しだけ間を置いた。
「趙雲様は……お疲れではありませんか」
問いは穏やかだが、どこか探るようでもある。
「問題ない」
それは嘘ではない。
身体ではなく、心の話なら別だが。
×はそれ以上踏み込まず、一礼して去っていった。
一人になると、城の静けさが一層際立つ。
趙雲は一度、自室に戻った。
自室の戸を開けて灯りを入れる。
衝立の向こうは静かだ。
今日、○は戻らないかもしれない。
頭の中が何だかうまくいかない。
このままでは眠れそうになかった。
「……厄介だな」
誰に向けるでもなく呟き、趙雲は鎧を外した。
鎧を外し、簡素な平服に着替える。
髪も束ね直し、武具は帯びない。
ただの城下の男の風貌だ。
城門を抜け、再び祭の灯りが見えた時、胸の奥がわずかに早鐘を打つのを感じた。
(確認するだけだ)
自分にそう言い聞かせ、人波の中へ紛れ込む。
屋台の裏…記憶に残っていた場所へ向かうと、騒がしい声ですぐに○は見つかった。
粗末な酒卓の周囲。
町の男女に囲まれ、笑い声の中心にいる。
卓の上には、串焼き、蒸し菓子、果実、酒壺。
ただ自然にその場に溶け込んでいるその様子は、こうして見るととても自然で平和な姿だった。
違う装い。
違う立場。
それでも、在り方は城の中と同じだ。
男性社会の中にいると際立っているだけのそれ。
しかし同年代の女性とも楽しそうに笑っていた。
ふと、○が何かに気づいたように視線を上げた。
そして趙雲と目が合う。
「あ!」
小さく声を上げたかと思うと、○は不敵に唇を吊り上げる。
少し酔った顔で○は趙雲に手招きをした。
他の町人たちもそちらを見て、趙雲は逃げ場がなくなった。
「なんだ、知り合いか?」
「おーい! こっちこいよ!」
「一人増えたって問題ねえよ!」
無遠慮で悪気のない声に、趙雲は歩みを進める。
自然と○の隣の席をあけられてそこに座る。
「祭に来てたの?…って、私、分かる?髪も服も全然違うけど」
少し酒を飲んでいる○は、自分の顔を指さしながら訪ねた。
「流石に分かる。…祭を見に来たら騒がしい所があったので、覗いたらお前がいた」
まるで説明するようにそう告げると、町人の一人が豪快に笑って酒を差し出す。
趙雲は、静かに杯を受け取る。
「少しだけだからな」
その言葉に、○は満足そうに目を細めた。
「”今日は”酔っちゃ駄目よ?」
*****
今日の趙雲は、ほろ酔いで済んだ。
杯の数は少なかったし、深く飲むつもりもなかった。
それでも、身体の芯がわずかに温かい。
酒のせいか、祭の熱気の名残か、それとも隣を歩く存在のせいか。
城へ向かう道は、夜露に濡れて静まり返っている。
○は歩調を合わせるでもなく、少し前を行ったり、隣に並んだり、気まぐれに位置を変える。
「良かったわね。今日は酔いつぶれなくて」
「……期待していたのか」
「まさか!あなたが潰れると面倒なのよ。運ぶの、重いし」
言葉はいつも通り軽い。
だがその声には、どこか柔らかさがあった。
しばらく足音だけが続く。
夜風が吹き、○の外衣の裾が揺れ、かすかに香が流れる。
「いつからいたの?」
「お前に見つかる少し前だ」
○は少し振り返る。
「そう。見せたいものがあったんだけどね。残念だわ」
「なんだ、それは」
「見た人だけにしか教えない」
笛の演奏の事だとは分かっていたが、趙雲はなぜか”×と祭に行ったこと”は伝えたくなかったので、知らないふりをした。
城門に近づくと、○は正門とは反対の道へと足を向けた。
「戻らないのか?」
趙雲が思わず問いかけると、歩きながら肩越しに振り返る。
「そこから二人で入ったら、変な噂が立つでしょ?今日は祭りだったのよ?酔った男女が一緒に戻った、なんて話、格好の餌じゃない。まだ噂話が足りないの?」
確かに、と思う。
「だから、私はこっち。趙雲は正門で帰って」
城の裏手へ続く、灯りの少ない道。
夜露に濡れた石畳の向こうは暗い。
ほろ酔いの女性をこの暗闇に一人で行かせる選択肢など、趙雲には最初からない。
「私もそちらから行く」
そう告げると○は立ち止まり、振り返ってニヤリと笑う。
「こっちの道は危険よ?どうなっても、知らないからね?」
暗闇の城壁に近づくと、彼女は鉤縄を取り出した。
「またそれか」
「万能なのよ、これ」
軽やかに放り投げ、塀の上に引っかける。
裾の長い平服を着ているのに、一瞬で壁を登る。
趙雲も続いて登った。
「次はあの庭木に飛び移るのよ」
「なに!?」
「簡単よ。いつもやってるし」
初心者で、しかもそういう鍛え方をしていない趙雲に簡単なわけがない。
「無茶だ」
「決めつけは良くないわ。…男は度胸!」
やはり少し酔っているのだろう。
○は趙雲を突き飛ばした。
息を呑む間もなく、枝を掴み、体勢を整える。
幹に腕を回し、なんとか踏みとどまった。
「出来た出来た!流石!」
○は塀の上から笑う。
そうして次に自分が跳ぶ。
しかし今日は衣装が違った。
酒も飲んでいる。
外衣の裾が枝に引っかかり、体勢が崩れた。
「……あ」
趙雲は反射的に腕を伸ばした。
衝撃と共に、柔らかな重みが飛び込んでくる。
「……っ」
趙雲は踏ん張り、二人分の体重を支えたが堪えきれず、そのまま後ろの植え込みに倒れこんだ。
倒れた趙雲の顔の横に、○の顔がある。
○が上に乗りかかり、抱き合うような形でしばらく互いに固まった。
「……っ、ふふ」
○がしばらく固まったまま、それから大きく息を吐く。
「流石に…ちょっと怖かった…っ!はははっ」
頭に枝が刺さったまま、怖さを紛らわせるように隣の趙雲の頭を抱きしめて笑った。
あまりに無邪気で、あまりに楽しそうで、叱るよりも思わず趙雲も声を立てて笑ってしまう。
人の通らない裏庭に、二人分の笑い声が溶けて行った。
「はぁ~…やれやれ」
しばらく笑って、○は抱きしめていた趙雲の頭を開放した。
気づいたら笑っている内に抱き寄せる形になっていた○の腰を、趙雲も解放する。
○が植え込みから立ち上がろうとした時によろめく。
それを趙雲がまた抱き留めた。
「ごめん、ごめん」
○はそれ以上の反応はせずに立ち上がった。
コソコソと部屋に戻ると、○は早速衝立の向こうで着替える。
「あの肉料理、美味しかったわねえ。知ってる?あの香草、呉の商人から買ったらしくて、お茶にもなるらしいわよ。城で出してくれないかしらね。趙雲、ずっとあれ食べてたでしょ」
「美味かったからな」
短く返すと、向こうで小さく笑う気配がした。
「あと、あのお酒。部屋に欲しいわぁ。甘いのに後味がすっきりしてて」
「酒は控えめにしろ」
「はいはい、隊長殿」
からかうような調子のあとに、ギシッと寝台に飛び込む音。
衝立の向こうで、○が寝返りを打つ気配がする。
「鎧も肩書もない趙雲、ちょっと新鮮だったわ。オジサマ達の良い玩具になって」
「……騒がしかっただけだ。疲れた」
そう返すと、すぐに小さな笑い声が返ってきた。
「ふふ。じゃあ、城壁から飛び降りた感想は?」
「……あれは」
言いかけて、言葉を探すのが面倒になる。
「流石に怖かったわね!受け止めてもらえて助かったけど」
軽く伸びをするような音。
あの時の○の感触が今更になって蘇った趙雲は、なんだか胸がうずいた。
耳元で響いた楽しそうな声と、笑う時に揺れた身体。
身体から伝わった○の声。
それを打ち消すように咳払いをする。
「もう、休め」
「はいはい。おやすみ」
「…おやすみ」
珍しく”おやすみ”と返事をした自分の口が、自分のものではない様だった。
胸の奥に残るのは、酒の温かさと夜風と、誰かが近くにいるという理由のない安心感。
思考が静かにほどけていく。
趙雲は心地よく眠りに落ちた。