本編【16話~30話】
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酒場を出ると、夜の空気は無駄に澄んでいた。
○は両手を腰に当て、ぐったりとした二人を見比べる。
馬超は酔っているくせに、やたらと元気。
「よし!帰るぞ!○、先導してくれ!」と大声。
趙雲はまっすぐ歩けないどころか、立っているのもやっと。
○は顔を覆いながら深くため息をついた。
(酔わせすぎた…)
「馬超、あなたは酔ってても歩けるのね。見直したわ」
「当たり前だ!俺は錦馬超だぞ!西涼の酒と比べたらこんな弱い酒で酔わん!」
「はいはい、分かったから静かにしてね。名前を叫ばないで。お忍びだから…じゃあ、問題はこっちか」
○は趙雲に向かってパン、と犬の気を引く様に手をたたく。
「趙雲、こっちよ。ほら、足元気をつけて。ちょっとは歩ける?」
前には進むが完全に足がもつれ、○の肩に全体重を預けてくる。
「うわっ……ちょっと、趙雲!もう少し自分で立って!重い!腰が砕ける!!」
「………すまん……」
声は素直、動きはぐにゃぐにゃ。
○は酔わせたのを本気で後悔していた。
「馬超、そっち支えてくれる?」
「任せろ!……ん?あれ?俺、なんか目が回ってきたぞ……」
馬超が突然よろけ、道端の石につまずく。
「ちょっと!勘弁してよ!酒強いんじゃなかったの!?」
「いや……急に…ふら……」
○は瞬間、悟った。
(……最後の客がくれた酒……あれ、店出る直前に馬超ががぶ飲みしてたけど、相当強かったのね……!!)
馬超が半分崩れ落ちて、○は慌てて片手で支える。
反対の腕には、ふらふらの趙雲。
二人の巨漢を両脇で支える羽目になり、○の顔が引きつる。
「…なんでこの私が、こんな苦行を……」
この状況には遭遇したことがない。
「馬超、歩ける!?ほら、しっかりして!」
「大丈夫だ……俺は……」
言うだけで足は全然動いていない。
「趙雲は!?歩ける!?」
「……歩く……努力は、する……」
声だけは真面目だが、身体は完全に○へ倒れ込んでくる。
夜道に女ひとり。
その両脇に重い男二人。
試行錯誤の結果、運よく体格の近い馬超と趙雲を互いに支え合わせる形にして、○が真ん中に入り軌道修正しながら歩くことにした。
もうこれでついてこれなきゃ置き去りの覚悟だ。
(もう!なんでこんな筋肉の塊二つを抱えて歩かなきゃいけないのよ!!)
だが、なぜか笑いがこみ上げる。
ふらつく二人の背中を押しながら、○は夜の道を進んだ。
「……趙雲。あなた、覚えてなさいよ」
趙雲は答えず、ただ○の肩に頭を預けたまま。
馬超は、馬超で時折わけのわからない歌を口ずさむ。
城までの道は、途方もなく長かった。
なんとか城に戻って、廊下を歩かせ、ふらふらの趙雲を部屋へ連れ帰る。
馬超は城に戻る頃には元気になって、「大丈夫だ、俺は帰れる!」と言って千鳥足ながら本当に自力で部屋へ戻ったので助かった。
一方趙雲は無理そうだ。
どうせ部屋は同じなのから構わないものの、人に見られない様に歩くのが大変だった。
やっと部屋にたどり着くと、寝台の端に腰かけさせ、その肩をそっと押す。
「はい到着。もう寝て、趙雲。私、肩がバキバキだわ…」
趙雲は、抵抗もせずそのまま後ろへ倒れ込む。
掛け布団をかぶせてやると、肩を回しながらため息をつく。
中腰で歩いたから腰も痛い。
衝立の向こうに戻ろうとすると、寝台に転がった趙雲からかすれた声が漏れた。
「……隣が……空いている……」
「は?」
聞き間違いかと思った。
眉間にしわを寄せて聞き返す○に、趙雲は続ける。
「今日は……お前が……いないと……眠れぬ……」
「え。どうしちゃったの?そんな事言うなんて、珍しいじゃない」
かがみ込みながら、からかうように言ってみる。
「じゃあ、隣で寝ちゃおうかしら?」
いつもの冗談のつもりだった。
しかし、趙雲が無言で身体をずらし布団をめくり、自分の隣を開けた。
「……うそでしょ」
当然のように隣に空間を作る。
その横顔は、目も開けられない程に酔っているくせに妙に静かで素直だった。
(どんだけ酔ってんのよ…)
○は枕元に座ってしばらく様子を見る。
趙雲は寝台の片側に横向きで倒れ込んだまま、呼吸は深く落ち着いている。
動かずにいると、ポン、と開いている空間を手で叩く趙雲。
「ほんとに寝ていいの?」
「…ん、」
返事なのか寝言なのか分からない返事をされる。
「じゃあ、遠慮なく。お邪魔します」
○はそっと彼の隣に横になる。
酒で体温が上がっている趙雲からは、この距離でも温かさを感じた。
どこも触れてはいない。
「冷える…」とだけ言って、趙雲は○に捲っていた布団をかける。
(ほんとに寝るだけのつもり?)
酒のせいで少しだらしない趙雲の寝顔は、それでも端正だった。
その後、聞き取れない事を言いながら寝返りを打ったが○の方には向かず、逆の壁側へ。
(触れもしないのに、”お前がいないと寝れない”なんて…意味不明だわ。ま、これだけ酔ってたらどのみち無理か。にしても、いい機会だわ…)
○は背後から手を伸ばし、趙雲の腹回りを探る。
そこにはきっちり晒を巻いて○の小刀がきつく巻き付けられている。
グイッと引っ張ってみたがビクともしない。
随分しっかりと固定されている様だ。
(これだけは肌身離さずか…)
小さく舌打ちをすると、小刀を探った手を上から握られた。
盗られないように抑え込むような握り方だ。
「いたたたっ!ちょっと!離して!」
酔っているせいで凄い力で握られる。
何度引き抜こうとしても手が振りほどけない。
「離してって言ってんのよ!このっ、酔っ払い!」
つい、イラッとしてそう言い、軽く肩を叩くと手が外れる。
(酔わせても盗めない、か…今なら酔って落としたって事にできるかと思ったけど)
小刀を諦めた○は苦笑し、目を閉じる。
気づけばそのまま眠りに落ちていた。
*****
薄い光が部屋に差し込んだ頃。
○は目を覚ました。
最初に視界に入ったのは、すぐ横で静かに眠る趙雲の寝顔。
右腕だけが掛け布団越しに○の上に乗せられているが、身体はどこも触れていない。
完全に距離を保ったまま眠っている男に、○は小さく肩をすくめて笑った。
(ここまで来ると、敵ながら天晴だわ)
起こさないようにそっと寝台を降り、身なりを整える。
部屋を出る前に、チラリと振り返った。
「……案外、可愛いのね」
そうして静かに扉を閉めた。
○が部屋を出てしばらく。
趙雲はゆっくりと意識を浮上させた。
頭が重い。
それでも、深い眠りだった。
(……よく眠れた……しかし、いつ帰ってきたんだ)
まぶたを上げる。
見慣れた天井が揺れ、すぐに焦点が合う。
いつもと変わらない朝のはずだった。
しかしすぐに、趙雲の眉がわずかに寄った。
(……?まだ温かい……)
寝台の左側、自分のすぐ横に人一人分の隙間があって、そこがまだなんとなく温かい。
人が寝ていたように、ほのかに温もりが残っている。
それに残り香も。
昨夜の出来事を何とか思い出す。
(……○だな)
自分が酔って倒れ込んだ夜の記憶は断片的だが、一晩中彼女の香りがしていた。
(一晩中……ここにいたのか?)
昨日までの趙雲なら、“はしたない”と強く断じていただろう。
だが今日は違った。
なぜか、その温もりを責める気持ちが湧いてこない。
ただ温もりに触れた指先が、言葉にならない感情を呼び起こす。
小さく息を整え、ゆっくりと体を起こすと、頭はまだ少しぼんやりしているが、意識は妙に冴えていた。
布団の温もりはもう消えかけている。
なのに、胸の奥だけは静かにざわめいたままだった。
目覚めてしばらく、趙雲は動けずにいた。
頭の奥に残るのは、酒の重さと不思議なほど深かった眠りの余韻。
帰路の記憶は途切れ途切れだ。
馬超が騒いでいたこと。
○に肩を貸されて歩いたこと。
部屋へ戻ったこと。
全体的に霧がかかったように曖昧だった。
でもひとつだけ。
ひとつだけ、異様なほど鮮明に残っている感触があった。
自分の左手を見る。
酒場の机の下。
人目につかない場所で○の指が、そっと自分の手の甲に触れた感触。
強くもなく、絡めるでもなく、ただ包むように置かれたあの手。
ひんやりと冷たかった。
自分は握り返しもしなかった。
だが離れもしなかった。
胸の奥が、わずかに締めつけられる。
あの夜の喧騒。
酒場のざわめき。
馬超の笑い声。
話した内容。
そのすべてが曖昧なのに、机の下で触れた体温だけがはっきりとそこにある。
趙雲は眉を寄せ、静かに呼吸を整える。
(酔っていたからだ)
そう言い聞かせる。
それでも、嫌ではなかったことまでは否定できなかった。
(……いや、酒の席でのことだ。深く考えるのはよそう……)
立ち上がり、髪を結んだ。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ支度。
なのに、左手だけが妙に落ち着かない。
そしてこれこそ格好のからかいのネタだというのに、○は何も言わずに先に部屋を出て行った。
それも趙雲を落ち着きなくさせていた。
○は両手を腰に当て、ぐったりとした二人を見比べる。
馬超は酔っているくせに、やたらと元気。
「よし!帰るぞ!○、先導してくれ!」と大声。
趙雲はまっすぐ歩けないどころか、立っているのもやっと。
○は顔を覆いながら深くため息をついた。
(酔わせすぎた…)
「馬超、あなたは酔ってても歩けるのね。見直したわ」
「当たり前だ!俺は錦馬超だぞ!西涼の酒と比べたらこんな弱い酒で酔わん!」
「はいはい、分かったから静かにしてね。名前を叫ばないで。お忍びだから…じゃあ、問題はこっちか」
○は趙雲に向かってパン、と犬の気を引く様に手をたたく。
「趙雲、こっちよ。ほら、足元気をつけて。ちょっとは歩ける?」
前には進むが完全に足がもつれ、○の肩に全体重を預けてくる。
「うわっ……ちょっと、趙雲!もう少し自分で立って!重い!腰が砕ける!!」
「………すまん……」
声は素直、動きはぐにゃぐにゃ。
○は酔わせたのを本気で後悔していた。
「馬超、そっち支えてくれる?」
「任せろ!……ん?あれ?俺、なんか目が回ってきたぞ……」
馬超が突然よろけ、道端の石につまずく。
「ちょっと!勘弁してよ!酒強いんじゃなかったの!?」
「いや……急に…ふら……」
○は瞬間、悟った。
(……最後の客がくれた酒……あれ、店出る直前に馬超ががぶ飲みしてたけど、相当強かったのね……!!)
馬超が半分崩れ落ちて、○は慌てて片手で支える。
反対の腕には、ふらふらの趙雲。
二人の巨漢を両脇で支える羽目になり、○の顔が引きつる。
「…なんでこの私が、こんな苦行を……」
この状況には遭遇したことがない。
「馬超、歩ける!?ほら、しっかりして!」
「大丈夫だ……俺は……」
言うだけで足は全然動いていない。
「趙雲は!?歩ける!?」
「……歩く……努力は、する……」
声だけは真面目だが、身体は完全に○へ倒れ込んでくる。
夜道に女ひとり。
その両脇に重い男二人。
試行錯誤の結果、運よく体格の近い馬超と趙雲を互いに支え合わせる形にして、○が真ん中に入り軌道修正しながら歩くことにした。
もうこれでついてこれなきゃ置き去りの覚悟だ。
(もう!なんでこんな筋肉の塊二つを抱えて歩かなきゃいけないのよ!!)
だが、なぜか笑いがこみ上げる。
ふらつく二人の背中を押しながら、○は夜の道を進んだ。
「……趙雲。あなた、覚えてなさいよ」
趙雲は答えず、ただ○の肩に頭を預けたまま。
馬超は、馬超で時折わけのわからない歌を口ずさむ。
城までの道は、途方もなく長かった。
なんとか城に戻って、廊下を歩かせ、ふらふらの趙雲を部屋へ連れ帰る。
馬超は城に戻る頃には元気になって、「大丈夫だ、俺は帰れる!」と言って千鳥足ながら本当に自力で部屋へ戻ったので助かった。
一方趙雲は無理そうだ。
どうせ部屋は同じなのから構わないものの、人に見られない様に歩くのが大変だった。
やっと部屋にたどり着くと、寝台の端に腰かけさせ、その肩をそっと押す。
「はい到着。もう寝て、趙雲。私、肩がバキバキだわ…」
趙雲は、抵抗もせずそのまま後ろへ倒れ込む。
掛け布団をかぶせてやると、肩を回しながらため息をつく。
中腰で歩いたから腰も痛い。
衝立の向こうに戻ろうとすると、寝台に転がった趙雲からかすれた声が漏れた。
「……隣が……空いている……」
「は?」
聞き間違いかと思った。
眉間にしわを寄せて聞き返す○に、趙雲は続ける。
「今日は……お前が……いないと……眠れぬ……」
「え。どうしちゃったの?そんな事言うなんて、珍しいじゃない」
かがみ込みながら、からかうように言ってみる。
「じゃあ、隣で寝ちゃおうかしら?」
いつもの冗談のつもりだった。
しかし、趙雲が無言で身体をずらし布団をめくり、自分の隣を開けた。
「……うそでしょ」
当然のように隣に空間を作る。
その横顔は、目も開けられない程に酔っているくせに妙に静かで素直だった。
(どんだけ酔ってんのよ…)
○は枕元に座ってしばらく様子を見る。
趙雲は寝台の片側に横向きで倒れ込んだまま、呼吸は深く落ち着いている。
動かずにいると、ポン、と開いている空間を手で叩く趙雲。
「ほんとに寝ていいの?」
「…ん、」
返事なのか寝言なのか分からない返事をされる。
「じゃあ、遠慮なく。お邪魔します」
○はそっと彼の隣に横になる。
酒で体温が上がっている趙雲からは、この距離でも温かさを感じた。
どこも触れてはいない。
「冷える…」とだけ言って、趙雲は○に捲っていた布団をかける。
(ほんとに寝るだけのつもり?)
酒のせいで少しだらしない趙雲の寝顔は、それでも端正だった。
その後、聞き取れない事を言いながら寝返りを打ったが○の方には向かず、逆の壁側へ。
(触れもしないのに、”お前がいないと寝れない”なんて…意味不明だわ。ま、これだけ酔ってたらどのみち無理か。にしても、いい機会だわ…)
○は背後から手を伸ばし、趙雲の腹回りを探る。
そこにはきっちり晒を巻いて○の小刀がきつく巻き付けられている。
グイッと引っ張ってみたがビクともしない。
随分しっかりと固定されている様だ。
(これだけは肌身離さずか…)
小さく舌打ちをすると、小刀を探った手を上から握られた。
盗られないように抑え込むような握り方だ。
「いたたたっ!ちょっと!離して!」
酔っているせいで凄い力で握られる。
何度引き抜こうとしても手が振りほどけない。
「離してって言ってんのよ!このっ、酔っ払い!」
つい、イラッとしてそう言い、軽く肩を叩くと手が外れる。
(酔わせても盗めない、か…今なら酔って落としたって事にできるかと思ったけど)
小刀を諦めた○は苦笑し、目を閉じる。
気づけばそのまま眠りに落ちていた。
*****
薄い光が部屋に差し込んだ頃。
○は目を覚ました。
最初に視界に入ったのは、すぐ横で静かに眠る趙雲の寝顔。
右腕だけが掛け布団越しに○の上に乗せられているが、身体はどこも触れていない。
完全に距離を保ったまま眠っている男に、○は小さく肩をすくめて笑った。
(ここまで来ると、敵ながら天晴だわ)
起こさないようにそっと寝台を降り、身なりを整える。
部屋を出る前に、チラリと振り返った。
「……案外、可愛いのね」
そうして静かに扉を閉めた。
○が部屋を出てしばらく。
趙雲はゆっくりと意識を浮上させた。
頭が重い。
それでも、深い眠りだった。
(……よく眠れた……しかし、いつ帰ってきたんだ)
まぶたを上げる。
見慣れた天井が揺れ、すぐに焦点が合う。
いつもと変わらない朝のはずだった。
しかしすぐに、趙雲の眉がわずかに寄った。
(……?まだ温かい……)
寝台の左側、自分のすぐ横に人一人分の隙間があって、そこがまだなんとなく温かい。
人が寝ていたように、ほのかに温もりが残っている。
それに残り香も。
昨夜の出来事を何とか思い出す。
(……○だな)
自分が酔って倒れ込んだ夜の記憶は断片的だが、一晩中彼女の香りがしていた。
(一晩中……ここにいたのか?)
昨日までの趙雲なら、“はしたない”と強く断じていただろう。
だが今日は違った。
なぜか、その温もりを責める気持ちが湧いてこない。
ただ温もりに触れた指先が、言葉にならない感情を呼び起こす。
小さく息を整え、ゆっくりと体を起こすと、頭はまだ少しぼんやりしているが、意識は妙に冴えていた。
布団の温もりはもう消えかけている。
なのに、胸の奥だけは静かにざわめいたままだった。
目覚めてしばらく、趙雲は動けずにいた。
頭の奥に残るのは、酒の重さと不思議なほど深かった眠りの余韻。
帰路の記憶は途切れ途切れだ。
馬超が騒いでいたこと。
○に肩を貸されて歩いたこと。
部屋へ戻ったこと。
全体的に霧がかかったように曖昧だった。
でもひとつだけ。
ひとつだけ、異様なほど鮮明に残っている感触があった。
自分の左手を見る。
酒場の机の下。
人目につかない場所で○の指が、そっと自分の手の甲に触れた感触。
強くもなく、絡めるでもなく、ただ包むように置かれたあの手。
ひんやりと冷たかった。
自分は握り返しもしなかった。
だが離れもしなかった。
胸の奥が、わずかに締めつけられる。
あの夜の喧騒。
酒場のざわめき。
馬超の笑い声。
話した内容。
そのすべてが曖昧なのに、机の下で触れた体温だけがはっきりとそこにある。
趙雲は眉を寄せ、静かに呼吸を整える。
(酔っていたからだ)
そう言い聞かせる。
それでも、嫌ではなかったことまでは否定できなかった。
(……いや、酒の席でのことだ。深く考えるのはよそう……)
立ち上がり、髪を結んだ。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ支度。
なのに、左手だけが妙に落ち着かない。
そしてこれこそ格好のからかいのネタだというのに、○は何も言わずに先に部屋を出て行った。
それも趙雲を落ち着きなくさせていた。