徐庶の婚約者【徐庶×アナタ←趙雲オチ】
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まだ空が白みきらぬうちに、城内を駆ける足音が増え始めた。
伝令の声、馬の嘶き、荷をまとめる兵の怒号。
○は書簡を持って、諸葛亮のいる軍議室へ急いだ。
劉表の死後、跡を継いだ劉琮が無条件降伏したたとのこと。
そして劉備の身柄を引き渡すことに同意したのだと言う。
劉琮が降伏した事は劉備達には知らされておらず、曹操軍が迫るのを斥候が確認してから状況を察知した次第だ。
○が軍議室に入ると諸将軍が軍議をしており、書簡を受け取った諸葛亮が目を細めた。
「曹操軍の先鋒は騎兵。追いつかれるのは時間の問題です」
諸葛亮の声が室内に響く。
「民を置き去りにはできぬ」
きっぱりとそう言った劉備は、同道したい民や兵は全て連れて城を脱出することになった。
すると。
「恐れ入りますが!急ぎの来訪者がありました。徐庶殿、です…『劉備殿に、逃げるよう伝えねばならぬ』と言っておりますが…」
「…通せ」
劉備の声が、低く響く。
○の心臓が強く脈打った。
扉が再び開く。
「……劉備殿」
その声を聞いた瞬間、○は息を呑んだ。
曹操軍を象徴するかのような青い装束に身を包んだ徐庶は、深く一礼し、やはりここから逃げるように言った。
自分が手引きをするとの事だ。
劉備は言葉を失ったまま、彼を見つめる。
諸葛亮もまた、じっと話を聞いていたが、「では、ここから逃げるための策をともに考えていただきましょう」と告げた。
○はその場から一歩も動けなかった。
もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないと信じていた人が。
絶対に戻ってこない様子で現れてしまった。
徐庶は、室内を見回し…一瞬だけ、○の方を見た。
ほんの一瞬。
だが、確かに目が合った。
何かを言おうとしたような仕草をしたが、すぐに諸葛亮に向き直ると、「共に策を練ろう」と返事をした。
城門前。
避難の準備に追われる人々から少し離れた場所で、徐庶は馬の手綱を取ったまま立っている。
「元直」
諸葛亮が声をかける。
「行くのですね」
徐庶は一瞬だけ目を伏せ、やがて静かに頷く。
「状況は理解しているつもりです。ただ…」
近づいて声を落とした。
「○を連れて行くなら、これが最後の機会です」
その言葉に徐庶は固まる。
「…それはできない。君にも分かるだろう」
「お母上はどのように過ごされているのです?」
「…曹操軍の城にいて、触れられる場所にはいさせてもらえていない。保護はされているから、命の心配はなさそうだが…」
「○の存在は知られていますか?」
「母が話してしまったようだ。俺が軍に入る際にも彼女の所在を何度も聞かれて、婚約を解消していると話した」
死んでいるなどと言ってしまえば、嘘だと知られた時に情がある事を悟られてしまう。
徐庶なりの考えだった。
「頼む、孔明…おそらく曹操軍は、○がここにいると予想している。彼女を連行しようとするだろう」
「…」
「彼女と一緒に逃げてほしい」
「そうですね…ただ○は、どう思うのか」
執務室で、徐庶と曹操軍に入り殺されてもいいとまで言った○を思えば、どういう行動に出るのか…諸葛亮は視線を落とす。
しばしの沈黙の後、徐庶はふと視線を上げた。
「…少しだけ、時間をもらえないか」
「?」
「○と、二人で話したい」
諸葛亮は、静かに彼を見つめ、やがて頷いた。
「裏庭に…。あそこは何もないので、この混乱の中ならば誰もいないでしょう。○を呼んでおきます」
「ありがとう」
徐庶は深く頭を下げた。
裏庭は静かだった。
木立の向こうからは、バタバタと走り回る音がするがここからは遠い。
徐庶が待っていると、すぐに○がやってきた。
「…元直っ」
○は顔を見るなり、表情を柔らかくして少し泣きそうな顔をした。
「やあ…元気かな…」
「健康ではあるかな」
少し照れたように、○は髪を触る。
「元直がいなくなって…、先生の副官になったの。それからは忙しくて。毎日やる事だらけ」
「皆とはうまくやれているかい?」
「うん。皆さん、親切で…関羽殿や張飛殿も、最初は怖そうだったけど、今は普通に話せてるわ」
思い出すように、饒舌に些細な日常を語る。
○はうつ向きがちだった顔をあげる。
「ここで、ちゃんとやれてる」
声が震える。
「だから、心配しないで」
「…○」
徐庶の低い声。
○が瞬きをする間もなく、徐庶に強く引き寄せられて、衝動のままに口付ける。
ゆっくりと、惜しむように顔を離した徐庶の額は、○の額に触れたまま。
「元直…?」
小さい○の声。
「…婚約は、ここで完全に解消する」
○は一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「元直?」
徐庶は、ゆっくりと身体を離す。
「今日限りで、俺と君は、他人だ」
○の胸が、遅れて締め付けられる。
「今の口付けは、何だったの…?」
徐庶は、わずかに目を伏せた。
「君とこうしても…、気持ちが揺るがないかどうかを確認したかっただけだ」
「確認…」
「俺は、君の元に戻らない。口づけをしても…心が揺るがなかった…」
「…」
「酷い男だろう。最後には君で…自分を試すんだ」
パタパタと、○の頬から涙がこぼれた。
「俺の婚約者でなくなっても、曹操軍は念の為に君を捕まえようとするだろう。でも俺は、君との関係を認めない。…だから、捕まったら…利用価値のない女性の君はどうなるか分からない。分かるだろう」
「…」
「捕まるな」
「…」
「…それが、他人である俺からの願いだ」
「元直…っ」
「…さようなら」
それだけを言い残し、徐庶は振り返らなかった。
○は、その背中を追うことができず、ただ、その場に立ち尽くす。
大粒の涙は、頬を伝う暇もなく地面に落ちた。
趙雲は城の裏手へ向かっていた。
逃げ遅れた者がいないかを見回っていたのだ。
しかし、視界の端にヒラリとなにかが通り過ぎたのでそちらを見ると、○が裏庭への角を走って曲がる所だった。
あんな何もない所に行くなんて。
何かあったのかと趙雲も角を曲がろうとしたとき。
裏庭に立つ徐庶と、駆け寄る○がいた。
胸の奥で感情が小さく動く。
徐庶は○を迎えに来たのだろうか。
このまま連れて行くのかもしれない。
二人は話し合っているように見えた。
距離は近いが、争っている様子ではない。
趙雲は、無意識に柱の影へ身を寄せる。
盗み見るつもりはなかった。
だが、視線を外すこともできなかった。
○が何かを話している。
焦っているかのように、身振り手振りを交えて。
次の瞬間だった。
徐庶が一歩踏み込み、○を強く抱き寄せ、口づけた。
趙雲の呼吸止まる。
言葉までは聞こえないが、徐庶が何かを○に囁き、○に背を向けた。
空気感だけで分かる。
別れ話だったのだろう。
残された○はうつ向いて、何も言わずに肩を震わせている。
趙雲はその姿から目を離せなかった。
なぜ、あの男なのか。
なぜ、あんな別れ方しかできないのか。
そしてなぜ、自分はこんなにも胸が騒ぐのか。
趙雲は静かにその場を離れた。
足取りは普段と変わらない。
誰にも気づかれず、何事もなかったように任務へ戻った。
「早く準備しろ!」
そんな声が聞こえて、○はハッとする。
遠くで人が呼び合う声。
馬のいななき。
さっきまで聞こえていなかった音が聞こえ始める。
急いで涙をぬぐった。
「…元直」
小さく声に出しても、なんだか現実感がない。
徐庶は、置いていったのではない。
切り離したのだ。
自分の弱さも、情も、そしてその根源たる○自身も。
触れられた感触も、息がかかった距離も、まだ傍にある。
『気持ちが揺るがないかどうかを確認したかっただけ』
○はゆっくり息を吐いた。
徐庶に対するすべてを許されなくなった。
『捕まるな』
そう言っていた徐庶の声が、今になって、はっきりと思い出される。
涙をグイっと拭う。
これ以上、何も縋れない。
ただ徐庶を信じて時を消費してきただけだったが、もうそれも出来ない。
(先生と行こう)
今の自分には、徐庶と諸葛亮が作ってくれた仕事と役目がある。
このままここにいても、曹操軍に捕まってしまう。
泣いている暇はない。
(落ち着いたら、また先生の所でいっぱい泣こう)
○は裏庭を後にした。
戻った城内は大混乱状態だ。
避難民を誘導する兵、荷をまとめる侍女、怒号と指示が交錯する。
○は自室に駆け込んだ。
最低限の衣と、必要そうな帳面を数冊。
それを布にまとめて、ふと手が止まった。
視線の先。
棚に置かれた小さな木箱。
婚約した時に徐庶がくれた櫛が入っている。
一瞬迷ったが、中から櫛を取り出して布に包んで懐に入れた。
部屋を出ると諸葛亮の執務室へ急ぐ。
諸葛亮はすでに旅支度を整えていた。
扇を手に、〇を探るように見る。
「準備はできましたか」
「…はい!」
「共に逃げるのですね、あなたも」
「逃げます。それで、落ち着いたら泣くのに付き合ってください」
諸葛亮は小さく笑った。
「裏手から出ます。趙雲殿が、殿を務めています」
「分かりました」
城の裏門へ向かうと、趙雲の姿があった。
「こちらへ」と、馬の手綱を渡すと、周囲を警戒しながら指示を出しに向かった。
○は馬に乗ると諸葛亮と駆け出す。
程なく石畳の感触が途切れた。
○は、衣の内に忍ばせた重みを確かめ、小さく息を吸った。
伝令の声、馬の嘶き、荷をまとめる兵の怒号。
○は書簡を持って、諸葛亮のいる軍議室へ急いだ。
劉表の死後、跡を継いだ劉琮が無条件降伏したたとのこと。
そして劉備の身柄を引き渡すことに同意したのだと言う。
劉琮が降伏した事は劉備達には知らされておらず、曹操軍が迫るのを斥候が確認してから状況を察知した次第だ。
○が軍議室に入ると諸将軍が軍議をしており、書簡を受け取った諸葛亮が目を細めた。
「曹操軍の先鋒は騎兵。追いつかれるのは時間の問題です」
諸葛亮の声が室内に響く。
「民を置き去りにはできぬ」
きっぱりとそう言った劉備は、同道したい民や兵は全て連れて城を脱出することになった。
すると。
「恐れ入りますが!急ぎの来訪者がありました。徐庶殿、です…『劉備殿に、逃げるよう伝えねばならぬ』と言っておりますが…」
「…通せ」
劉備の声が、低く響く。
○の心臓が強く脈打った。
扉が再び開く。
「……劉備殿」
その声を聞いた瞬間、○は息を呑んだ。
曹操軍を象徴するかのような青い装束に身を包んだ徐庶は、深く一礼し、やはりここから逃げるように言った。
自分が手引きをするとの事だ。
劉備は言葉を失ったまま、彼を見つめる。
諸葛亮もまた、じっと話を聞いていたが、「では、ここから逃げるための策をともに考えていただきましょう」と告げた。
○はその場から一歩も動けなかった。
もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないと信じていた人が。
絶対に戻ってこない様子で現れてしまった。
徐庶は、室内を見回し…一瞬だけ、○の方を見た。
ほんの一瞬。
だが、確かに目が合った。
何かを言おうとしたような仕草をしたが、すぐに諸葛亮に向き直ると、「共に策を練ろう」と返事をした。
城門前。
避難の準備に追われる人々から少し離れた場所で、徐庶は馬の手綱を取ったまま立っている。
「元直」
諸葛亮が声をかける。
「行くのですね」
徐庶は一瞬だけ目を伏せ、やがて静かに頷く。
「状況は理解しているつもりです。ただ…」
近づいて声を落とした。
「○を連れて行くなら、これが最後の機会です」
その言葉に徐庶は固まる。
「…それはできない。君にも分かるだろう」
「お母上はどのように過ごされているのです?」
「…曹操軍の城にいて、触れられる場所にはいさせてもらえていない。保護はされているから、命の心配はなさそうだが…」
「○の存在は知られていますか?」
「母が話してしまったようだ。俺が軍に入る際にも彼女の所在を何度も聞かれて、婚約を解消していると話した」
死んでいるなどと言ってしまえば、嘘だと知られた時に情がある事を悟られてしまう。
徐庶なりの考えだった。
「頼む、孔明…おそらく曹操軍は、○がここにいると予想している。彼女を連行しようとするだろう」
「…」
「彼女と一緒に逃げてほしい」
「そうですね…ただ○は、どう思うのか」
執務室で、徐庶と曹操軍に入り殺されてもいいとまで言った○を思えば、どういう行動に出るのか…諸葛亮は視線を落とす。
しばしの沈黙の後、徐庶はふと視線を上げた。
「…少しだけ、時間をもらえないか」
「?」
「○と、二人で話したい」
諸葛亮は、静かに彼を見つめ、やがて頷いた。
「裏庭に…。あそこは何もないので、この混乱の中ならば誰もいないでしょう。○を呼んでおきます」
「ありがとう」
徐庶は深く頭を下げた。
裏庭は静かだった。
木立の向こうからは、バタバタと走り回る音がするがここからは遠い。
徐庶が待っていると、すぐに○がやってきた。
「…元直っ」
○は顔を見るなり、表情を柔らかくして少し泣きそうな顔をした。
「やあ…元気かな…」
「健康ではあるかな」
少し照れたように、○は髪を触る。
「元直がいなくなって…、先生の副官になったの。それからは忙しくて。毎日やる事だらけ」
「皆とはうまくやれているかい?」
「うん。皆さん、親切で…関羽殿や張飛殿も、最初は怖そうだったけど、今は普通に話せてるわ」
思い出すように、饒舌に些細な日常を語る。
○はうつ向きがちだった顔をあげる。
「ここで、ちゃんとやれてる」
声が震える。
「だから、心配しないで」
「…○」
徐庶の低い声。
○が瞬きをする間もなく、徐庶に強く引き寄せられて、衝動のままに口付ける。
ゆっくりと、惜しむように顔を離した徐庶の額は、○の額に触れたまま。
「元直…?」
小さい○の声。
「…婚約は、ここで完全に解消する」
○は一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「元直?」
徐庶は、ゆっくりと身体を離す。
「今日限りで、俺と君は、他人だ」
○の胸が、遅れて締め付けられる。
「今の口付けは、何だったの…?」
徐庶は、わずかに目を伏せた。
「君とこうしても…、気持ちが揺るがないかどうかを確認したかっただけだ」
「確認…」
「俺は、君の元に戻らない。口づけをしても…心が揺るがなかった…」
「…」
「酷い男だろう。最後には君で…自分を試すんだ」
パタパタと、○の頬から涙がこぼれた。
「俺の婚約者でなくなっても、曹操軍は念の為に君を捕まえようとするだろう。でも俺は、君との関係を認めない。…だから、捕まったら…利用価値のない女性の君はどうなるか分からない。分かるだろう」
「…」
「捕まるな」
「…」
「…それが、他人である俺からの願いだ」
「元直…っ」
「…さようなら」
それだけを言い残し、徐庶は振り返らなかった。
○は、その背中を追うことができず、ただ、その場に立ち尽くす。
大粒の涙は、頬を伝う暇もなく地面に落ちた。
趙雲は城の裏手へ向かっていた。
逃げ遅れた者がいないかを見回っていたのだ。
しかし、視界の端にヒラリとなにかが通り過ぎたのでそちらを見ると、○が裏庭への角を走って曲がる所だった。
あんな何もない所に行くなんて。
何かあったのかと趙雲も角を曲がろうとしたとき。
裏庭に立つ徐庶と、駆け寄る○がいた。
胸の奥で感情が小さく動く。
徐庶は○を迎えに来たのだろうか。
このまま連れて行くのかもしれない。
二人は話し合っているように見えた。
距離は近いが、争っている様子ではない。
趙雲は、無意識に柱の影へ身を寄せる。
盗み見るつもりはなかった。
だが、視線を外すこともできなかった。
○が何かを話している。
焦っているかのように、身振り手振りを交えて。
次の瞬間だった。
徐庶が一歩踏み込み、○を強く抱き寄せ、口づけた。
趙雲の呼吸止まる。
言葉までは聞こえないが、徐庶が何かを○に囁き、○に背を向けた。
空気感だけで分かる。
別れ話だったのだろう。
残された○はうつ向いて、何も言わずに肩を震わせている。
趙雲はその姿から目を離せなかった。
なぜ、あの男なのか。
なぜ、あんな別れ方しかできないのか。
そしてなぜ、自分はこんなにも胸が騒ぐのか。
趙雲は静かにその場を離れた。
足取りは普段と変わらない。
誰にも気づかれず、何事もなかったように任務へ戻った。
「早く準備しろ!」
そんな声が聞こえて、○はハッとする。
遠くで人が呼び合う声。
馬のいななき。
さっきまで聞こえていなかった音が聞こえ始める。
急いで涙をぬぐった。
「…元直」
小さく声に出しても、なんだか現実感がない。
徐庶は、置いていったのではない。
切り離したのだ。
自分の弱さも、情も、そしてその根源たる○自身も。
触れられた感触も、息がかかった距離も、まだ傍にある。
『気持ちが揺るがないかどうかを確認したかっただけ』
○はゆっくり息を吐いた。
徐庶に対するすべてを許されなくなった。
『捕まるな』
そう言っていた徐庶の声が、今になって、はっきりと思い出される。
涙をグイっと拭う。
これ以上、何も縋れない。
ただ徐庶を信じて時を消費してきただけだったが、もうそれも出来ない。
(先生と行こう)
今の自分には、徐庶と諸葛亮が作ってくれた仕事と役目がある。
このままここにいても、曹操軍に捕まってしまう。
泣いている暇はない。
(落ち着いたら、また先生の所でいっぱい泣こう)
○は裏庭を後にした。
戻った城内は大混乱状態だ。
避難民を誘導する兵、荷をまとめる侍女、怒号と指示が交錯する。
○は自室に駆け込んだ。
最低限の衣と、必要そうな帳面を数冊。
それを布にまとめて、ふと手が止まった。
視線の先。
棚に置かれた小さな木箱。
婚約した時に徐庶がくれた櫛が入っている。
一瞬迷ったが、中から櫛を取り出して布に包んで懐に入れた。
部屋を出ると諸葛亮の執務室へ急ぐ。
諸葛亮はすでに旅支度を整えていた。
扇を手に、〇を探るように見る。
「準備はできましたか」
「…はい!」
「共に逃げるのですね、あなたも」
「逃げます。それで、落ち着いたら泣くのに付き合ってください」
諸葛亮は小さく笑った。
「裏手から出ます。趙雲殿が、殿を務めています」
「分かりました」
城の裏門へ向かうと、趙雲の姿があった。
「こちらへ」と、馬の手綱を渡すと、周囲を警戒しながら指示を出しに向かった。
○は馬に乗ると諸葛亮と駆け出す。
程なく石畳の感触が途切れた。
○は、衣の内に忍ばせた重みを確かめ、小さく息を吸った。
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