徐庶の婚約者【徐庶×アナタ←趙雲オチ】
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程なくして、諸葛亮は「曹操が近々攻めてくる」と読んだ。
今から戦の準備にかからなくてはならない。
博望坡にて、曹操を迎え撃つのだと言う。
諸葛亮に言われて、○は目下、早朝から兵糧の手配を始めた。
「○。兵糧の手配はどうですか」
「あ、先生……もう少し集めておきたくて」
帳面を見て、諸葛亮もうなずく。
「この辺りの村で、干し肉を多く扱う村があるそうなんです。以前、趙雲殿に聞きました」
「では彼に聞いてみましょう。あなたはすぐに村の者に渡す書簡を作ってください」
しばらくして執務室にやってきた趙雲は、件の村の事を覚えていた。
○が書簡を差し出す。
「ここに、必要な干し肉の数と条件が書いてあります。どなたかに振っていただけますか?」
「分かりました。信頼できる部下に、すぐにでも向かわせます」
そう言って書簡を受け取った趙雲は、早足で部屋を出て行った。
夕方。
趙雲が報告の為に諸葛亮の執務室に向かっていると、○が前を歩いているのが見えた。
声をかけると、○は振り向いてお辞儀をする。
「無事に話はまとまり、もう倉庫に搬入しました。これがその報告書です」
「凄く早いですね。ありがとうございます」
「いつ曹操軍が来るのか分からないので急がせました」
業務の延長である雰囲気で、自然と日常会話に流れる。
「どうですか、諸葛亮殿の副官は」
「大変です。でも、やりがいもあります。余計な事を考えなくて済んで助かります」
「…そうですか」
二人は黙り込む。
すると、少し離れた所から誰かが近づいて来る。
「おーい!○殿!」
場違いに明るい声。
「…周倉殿」
「ああ、そうだ。彼なんです。調達に出てくれたのは。足が速いので」
「物資調達の話ですかい?」
周倉は相変わらず軽い足取りで近づき、○の肩に肘を置く。
その馴れ馴れしさに趙雲が一歩踏み出すが、周倉は気にした風もない。
「俺の足にかかりゃあ、あんな村なんて日帰りだ」
「…ふふ」
不意に、○が声を立てて笑った。
二人の視線が、一斉に向く。
「すみません…なんだか色々と、周倉殿らしくて」
「意味が分からねえが、褒められてる気はしねえ…」
「いえ…周倉殿の明るさには感謝しているんです。本当に」
○は勝手に何かを思って納得し、礼を言った。
そのやり取りを趙雲は静かに見ていたが、やがて低く息を吐く。
「相手を選ばぬその軽口は問題だな」
「趙雲殿…!今は鍛錬の時間じゃありませんぜ!なあ、○殿。こうやって俺は毎日しごかれてるんだ。武将とはなんたるか…どうあるべきかって礼儀作法を…!」
そう言って○に告げ口するような口調の周倉を、趙雲は睨みつけた。
そんな様子に「じゃ、また!」と逃げさった周倉。
「…ああいう男だが」
呆れたように言いながら○を見る。
「悪意はない」
「ええ。分かりますよ」
○は、言葉は周倉に比べて少ないが、趙雲も自分を見守ってくれている事に感謝した。
*****
博望坡の戦いは、諸葛亮の策も働き劉備軍の勝利に終わった。
だが勝利の裏側で、陣中は混乱に包まれている。
火計は成功し、曹操を撃退したものの、戻ってきた兵の多くが火傷を負ったからだ。
仮設の治療所にはうめき声と血の匂いが満ちている。
○も袖をまくり、医務官と混ざって手当てをしていた。
諸葛亮の副官として戦の後片付けもあるが、今はこちらに人手が足りない。
他の文官たちも医務官の手伝いをしていた。
布を裂き、湯を替え、傷口を洗う。
すると背後で、重たい足音がした。
「おっと…こりゃ地獄だな」
聞き覚えのある、場にそぐわぬやけに軽い声。
振り返ると、周倉が立っていた。
鎧は外しているが、背にかけた布は黒く焦げている。
「……周倉殿っ!」
○は思わず声を上げた。
「おいおい、そんな顔すんなよ」
周倉はへらりと笑ってから一歩前に出るが、○がその背中に回り込む。
「ちょっと火傷しちまってよ」
「“ちょっと”で済む状態じゃありません。こちらに」
○は急いで彼を腰掛けに誘導する。
「ほら、座って。動かないでください」
「へいへい、先生」
わざとらしく従いながら、周倉は肩をすくめた。
「いやあ、火計ってのは便利だけどさ。近づきすぎると危険だな
「ご自身の足を過信しすぎです」
布を外しながら、きっぱりと言う。
背中を目にした瞬間、言葉が詰まった。
広範囲に広がる火傷。
幸い致命傷ではないが、相当痛むはずだ。
「少し、沁みますよ」
布が肌に触れた瞬間、周倉の肩がわずかに跳ねた。
「一気に塗ります」
「げっ!本気か?」
「本気です。身構えてください」
即答だった。
そして火傷全面に軟膏を塗って、清潔な布を上に貼り、治療は終わる。
痛みに息が上がった周倉はゆっくり息を吐いた。
「○殿、結構積極的だな…」
「何言ってるんですか。…はい、終わりました。毎日綺麗な水でゆすいで、綺麗な晒に替えてください」
二人の間に、短い笑いが落ちる。
「今日は、無理に動かないでください。火傷は後から響きます」
「はいはい」
周倉は立ち上がろうとして、またよろめく。
「…おっと」
「あっ」
○はすぐに手を伸ばし、周倉を支えた。
「だから、無理はだめです。ゆっくり動いてください」
「悪い悪い」
周倉は、少しだけ声を落とす。
「アンタも無茶すんなよ」
「戦は武将殿方が無茶してくださったんです。次は私達、裏方が無茶をする番でしょう。徹夜の覚悟です」
その言葉に、周倉は目を細めた。
背中を庇いながら立ち上がる。
「また世話になるかもな」と、冗談めかして言った。
「次はありません」
「善処する!」
そう言って去っていく背中を見送ると、次の患者の元に向かった。
○達は徹夜で看病に明け暮れた。
そんな大混乱もおさまって、やっと城に戻ってきた劉備軍。
博望坡の戦いの片づけにも目途がつき、文官達は通常業務に移りつつあった。
諸葛亮の執務室は、昼下がりの静けさに包まれている。
竹簡と地図が整然と並び、香が淡く焚かれている。
○は書簡の整理をし、諸葛亮は書簡に目を落としていた。
「失礼します!」
場違いなほど張りのある声とともに扉が開き、○はビクッと肩を震わせた。
「周倉殿?」
入ってきたのは、包帯の上からさらに布を羽織った周倉だった。
「おう、元気そうだな」
「…何の用です。騒がしいですね」
諸葛亮がたしなめると、背筋を伸ばした。
「すんません!○殿に礼をしたくて!これっス!」
そう言って○の目の前に差し出された籠には、粗塩に漬けた猪肉の燻製が入っていた。
「わ。いい匂い…」
「俺が作った」
「えっ…すごい。いろんな事ができるんですね。ありがとうございます」
籠を受け取るとお礼を言う。
「先の戦で火傷したんですがね、○殿の処置が良かったらしくて、医者にも直りが早いって言われたんですよ!」
そのやり取りを、室内の隅で静かに聞いていた者がいる。
趙雲だった。
諸葛亮に書簡を届けに来て、彼が目を通すまで部屋の隅で待っていたのだ。
「……火傷の、手当?」
低く、確かめるような声。
「ああ、趙雲殿。いたんですかい!声、かけてくださいよ!…そうそう、○殿が戦のあと、手当てをしてくれて。凄い手際でしたよ!」
「大袈裟です。…昔、元直が広範囲の火傷をしたので、たまたま知っていただけです」
少し気まずそうにそう言った○に、周倉はウンウンと頷く。
「徐庶殿は、今も俺達を助けてくれてるってことだな!」
「…周倉殿…」
「しかし、徐庶殿にもあんなことしたのか?痛いって言っても全然手ぇ止めねぇ」
「止めたら治りませんからね。当然です」
「徐庶殿も大変だったろうなぁ」
二人の間に、軽い笑いが落ちた。
趙雲はその光景を見つめたまま、言葉を失っていた。
周倉はいとも簡単に徐庶の話をする。
徐庶の名前が出た途端、○の表情が明るくなった。
それは私的な場面で、自然にこぼれるもの。
趙雲は、胸の奥に形の定まらない感情を覚える。
不快ではない。
だが、無視できない。
ようやく口を開く。
「礼をするのは、良いことだ。だが、怪我人は安静にすべきだろう」
「はい!肝に銘じます!じゃあ、俺はこれで」
周倉は軽く頭を下げて出て行った。
○は、手元の籠を覗く。
「折角ですし、いただきましょうか。趙雲殿も食べていかれますか?」
「ええ。いただきます」
「切ってきますね」
そう言って○が出ていく。
諸葛亮は扇を軽く打ち合わせ、面白そうに周倉が出て行った扉を見ていた。
今から戦の準備にかからなくてはならない。
博望坡にて、曹操を迎え撃つのだと言う。
諸葛亮に言われて、○は目下、早朝から兵糧の手配を始めた。
「○。兵糧の手配はどうですか」
「あ、先生……もう少し集めておきたくて」
帳面を見て、諸葛亮もうなずく。
「この辺りの村で、干し肉を多く扱う村があるそうなんです。以前、趙雲殿に聞きました」
「では彼に聞いてみましょう。あなたはすぐに村の者に渡す書簡を作ってください」
しばらくして執務室にやってきた趙雲は、件の村の事を覚えていた。
○が書簡を差し出す。
「ここに、必要な干し肉の数と条件が書いてあります。どなたかに振っていただけますか?」
「分かりました。信頼できる部下に、すぐにでも向かわせます」
そう言って書簡を受け取った趙雲は、早足で部屋を出て行った。
夕方。
趙雲が報告の為に諸葛亮の執務室に向かっていると、○が前を歩いているのが見えた。
声をかけると、○は振り向いてお辞儀をする。
「無事に話はまとまり、もう倉庫に搬入しました。これがその報告書です」
「凄く早いですね。ありがとうございます」
「いつ曹操軍が来るのか分からないので急がせました」
業務の延長である雰囲気で、自然と日常会話に流れる。
「どうですか、諸葛亮殿の副官は」
「大変です。でも、やりがいもあります。余計な事を考えなくて済んで助かります」
「…そうですか」
二人は黙り込む。
すると、少し離れた所から誰かが近づいて来る。
「おーい!○殿!」
場違いに明るい声。
「…周倉殿」
「ああ、そうだ。彼なんです。調達に出てくれたのは。足が速いので」
「物資調達の話ですかい?」
周倉は相変わらず軽い足取りで近づき、○の肩に肘を置く。
その馴れ馴れしさに趙雲が一歩踏み出すが、周倉は気にした風もない。
「俺の足にかかりゃあ、あんな村なんて日帰りだ」
「…ふふ」
不意に、○が声を立てて笑った。
二人の視線が、一斉に向く。
「すみません…なんだか色々と、周倉殿らしくて」
「意味が分からねえが、褒められてる気はしねえ…」
「いえ…周倉殿の明るさには感謝しているんです。本当に」
○は勝手に何かを思って納得し、礼を言った。
そのやり取りを趙雲は静かに見ていたが、やがて低く息を吐く。
「相手を選ばぬその軽口は問題だな」
「趙雲殿…!今は鍛錬の時間じゃありませんぜ!なあ、○殿。こうやって俺は毎日しごかれてるんだ。武将とはなんたるか…どうあるべきかって礼儀作法を…!」
そう言って○に告げ口するような口調の周倉を、趙雲は睨みつけた。
そんな様子に「じゃ、また!」と逃げさった周倉。
「…ああいう男だが」
呆れたように言いながら○を見る。
「悪意はない」
「ええ。分かりますよ」
○は、言葉は周倉に比べて少ないが、趙雲も自分を見守ってくれている事に感謝した。
*****
博望坡の戦いは、諸葛亮の策も働き劉備軍の勝利に終わった。
だが勝利の裏側で、陣中は混乱に包まれている。
火計は成功し、曹操を撃退したものの、戻ってきた兵の多くが火傷を負ったからだ。
仮設の治療所にはうめき声と血の匂いが満ちている。
○も袖をまくり、医務官と混ざって手当てをしていた。
諸葛亮の副官として戦の後片付けもあるが、今はこちらに人手が足りない。
他の文官たちも医務官の手伝いをしていた。
布を裂き、湯を替え、傷口を洗う。
すると背後で、重たい足音がした。
「おっと…こりゃ地獄だな」
聞き覚えのある、場にそぐわぬやけに軽い声。
振り返ると、周倉が立っていた。
鎧は外しているが、背にかけた布は黒く焦げている。
「……周倉殿っ!」
○は思わず声を上げた。
「おいおい、そんな顔すんなよ」
周倉はへらりと笑ってから一歩前に出るが、○がその背中に回り込む。
「ちょっと火傷しちまってよ」
「“ちょっと”で済む状態じゃありません。こちらに」
○は急いで彼を腰掛けに誘導する。
「ほら、座って。動かないでください」
「へいへい、先生」
わざとらしく従いながら、周倉は肩をすくめた。
「いやあ、火計ってのは便利だけどさ。近づきすぎると危険だな
「ご自身の足を過信しすぎです」
布を外しながら、きっぱりと言う。
背中を目にした瞬間、言葉が詰まった。
広範囲に広がる火傷。
幸い致命傷ではないが、相当痛むはずだ。
「少し、沁みますよ」
布が肌に触れた瞬間、周倉の肩がわずかに跳ねた。
「一気に塗ります」
「げっ!本気か?」
「本気です。身構えてください」
即答だった。
そして火傷全面に軟膏を塗って、清潔な布を上に貼り、治療は終わる。
痛みに息が上がった周倉はゆっくり息を吐いた。
「○殿、結構積極的だな…」
「何言ってるんですか。…はい、終わりました。毎日綺麗な水でゆすいで、綺麗な晒に替えてください」
二人の間に、短い笑いが落ちる。
「今日は、無理に動かないでください。火傷は後から響きます」
「はいはい」
周倉は立ち上がろうとして、またよろめく。
「…おっと」
「あっ」
○はすぐに手を伸ばし、周倉を支えた。
「だから、無理はだめです。ゆっくり動いてください」
「悪い悪い」
周倉は、少しだけ声を落とす。
「アンタも無茶すんなよ」
「戦は武将殿方が無茶してくださったんです。次は私達、裏方が無茶をする番でしょう。徹夜の覚悟です」
その言葉に、周倉は目を細めた。
背中を庇いながら立ち上がる。
「また世話になるかもな」と、冗談めかして言った。
「次はありません」
「善処する!」
そう言って去っていく背中を見送ると、次の患者の元に向かった。
○達は徹夜で看病に明け暮れた。
そんな大混乱もおさまって、やっと城に戻ってきた劉備軍。
博望坡の戦いの片づけにも目途がつき、文官達は通常業務に移りつつあった。
諸葛亮の執務室は、昼下がりの静けさに包まれている。
竹簡と地図が整然と並び、香が淡く焚かれている。
○は書簡の整理をし、諸葛亮は書簡に目を落としていた。
「失礼します!」
場違いなほど張りのある声とともに扉が開き、○はビクッと肩を震わせた。
「周倉殿?」
入ってきたのは、包帯の上からさらに布を羽織った周倉だった。
「おう、元気そうだな」
「…何の用です。騒がしいですね」
諸葛亮がたしなめると、背筋を伸ばした。
「すんません!○殿に礼をしたくて!これっス!」
そう言って○の目の前に差し出された籠には、粗塩に漬けた猪肉の燻製が入っていた。
「わ。いい匂い…」
「俺が作った」
「えっ…すごい。いろんな事ができるんですね。ありがとうございます」
籠を受け取るとお礼を言う。
「先の戦で火傷したんですがね、○殿の処置が良かったらしくて、医者にも直りが早いって言われたんですよ!」
そのやり取りを、室内の隅で静かに聞いていた者がいる。
趙雲だった。
諸葛亮に書簡を届けに来て、彼が目を通すまで部屋の隅で待っていたのだ。
「……火傷の、手当?」
低く、確かめるような声。
「ああ、趙雲殿。いたんですかい!声、かけてくださいよ!…そうそう、○殿が戦のあと、手当てをしてくれて。凄い手際でしたよ!」
「大袈裟です。…昔、元直が広範囲の火傷をしたので、たまたま知っていただけです」
少し気まずそうにそう言った○に、周倉はウンウンと頷く。
「徐庶殿は、今も俺達を助けてくれてるってことだな!」
「…周倉殿…」
「しかし、徐庶殿にもあんなことしたのか?痛いって言っても全然手ぇ止めねぇ」
「止めたら治りませんからね。当然です」
「徐庶殿も大変だったろうなぁ」
二人の間に、軽い笑いが落ちた。
趙雲はその光景を見つめたまま、言葉を失っていた。
周倉はいとも簡単に徐庶の話をする。
徐庶の名前が出た途端、○の表情が明るくなった。
それは私的な場面で、自然にこぼれるもの。
趙雲は、胸の奥に形の定まらない感情を覚える。
不快ではない。
だが、無視できない。
ようやく口を開く。
「礼をするのは、良いことだ。だが、怪我人は安静にすべきだろう」
「はい!肝に銘じます!じゃあ、俺はこれで」
周倉は軽く頭を下げて出て行った。
○は、手元の籠を覗く。
「折角ですし、いただきましょうか。趙雲殿も食べていかれますか?」
「ええ。いただきます」
「切ってきますね」
そう言って○が出ていく。
諸葛亮は扇を軽く打ち合わせ、面白そうに周倉が出て行った扉を見ていた。