徐庶の婚約者【徐庶×アナタ←趙雲オチ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
劉備軍に入って数か月が過ぎた。
○は今日も執務室で帳簿を整理していた。
外は穏やか。
兵の往来も鍛錬の掛け声も、いつもと変わらない。
扉の向こうで足音が止まる。
「徐庶殿に書簡です」
伝令の声。
徐庶が受け取る声がする。
○は筆を止める。
顔を上げないまま、耳だけで状況を追った。
封を切る音。
紙が広げられる、かすかな擦過音。
それから…長い沈黙。
普段なら、徐庶は書簡を○に持ってくる。
片づけが苦手な徐庶は、書簡の管理を○に頼むからだ。
だが、この時は違った。
「……」
息を呑む音が聞こえた気がして、○はそっと視線を上げる。
徐庶は立ったまま書簡を見つめている。
背筋は伸びているのに、肩だけがわずかに強張っていた。
「元直?」
声をかけると、彼ははっとしたように顔を上げる。
「…ああ」
返事はしたが、目が合わない。
「どうかした?」
徐庶は一度、書簡を折った。
「大したことじゃない」
「…そう?」
嘘だ、と○は思った。
だが、口には出さない。
視線が書簡に落ちる。
ほんの一瞬、文字の端が見えた。
―母
―今なら
なんだろう、と胸がざわつく。
「お母様…から?」
言ってから、しまったと思った。
徐庶の動きが止まって、否定も、肯定もない。
「ご、ごめんなさい。チラッと見えてしまって」
「○…これは、俺の問題だ。君を巻き込む話じゃない」
そう言った徐庶は「外の空気を吸ってくる」と外に出て行った。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
○は、胸元を押さえる。
徐庶の母親は、曹操の治める国に住んでいたはずだ。
病気があって動かせないが、親戚が周りに大勢住んでいて安心だから置いてきた、と聞いている。
そんな母からの手紙。
○はどうにも居心地が悪くなった。
******
夜更け。
○は徐庶の部屋にいた。
椅子に座って書物を読んでいる。
すると、寝台に座っていた徐庶が何かを決意したように○を呼ぶ。
そちらを見ると、徐庶の手にはあの書簡。
「…話して、くれるの?」
徐庶は小さく頷く。
あの書簡が届いてから三日。
心ここにあらずだった徐庶が、やっと口を開いてくれるらしい。
○は座っていた椅子を徐庶の前までもっていくと、向かい合って座った。
「これは、君の言った通り。母からの手紙だ。“持病が悪化していて、曹操が城で診てくれている。曹操の恩に報いるためにも帰ってきてほしい”と書いてあった」
「やっぱり…でも、確か元直のお母様は」
「ああ。字が書けない。だから曹操の罠の可能性もある」
はっきりとした口調だった。
「どうしてそう思うの?」
「実は、前から登用の話があったんだ。でも、俺は劉備殿の元で働きたかったから断ってきた。だけど先の戦で、策を見破ったのが俺だと知られたんだと思う。じゃなきゃこんな手紙がここに届くはずがない。君を守るために、誰にも言わずにここに来たんだから」
「そんな事が…」
「俺の弱点を見つけて揺さぶっているとしたら…母は人質だ」
徐庶は○の手を握る。
ぎゅっと音がしそうなほどに。
「でもお母様が心配だわ。行きましょう」
「君は…だめだ」
徐庶は、即座に首を振る。
「どうして…」
「分かっているだろう」
声は穏やかだったが、揺るぎがない。
「罠だった場合、君までも人質にされる」
「でも…罠じゃないかもしれないし」
「君も俺の弱点なんだ」
○は息を呑む。
声が震える。
「万が一、君が捕まったらと思うと……。曹操がどんな人物かもわからないのに、連れてなんていけない。君はここに残してもらえるよう、明日、劉備殿に頼みに行く。そこには一緒に来てほしい」
「嫌だ…、だって私、元直とずっと一緒にいるって…!」
「分かってくれ…君はここに残るべきなんだ」
「元直っ」
「だから君とは…お別れだ」
○は分かってしまう。
この人は、もう決めてしまったのだ。
説得では揺らがない。
とても強く握られる手。
「ひとつだけ、お願い…」
「…」
「元直の婚約者ではいさせて」
「…君はそれでいいのか?」
「だって。だってもしかしたら本当にお母様の具合が悪くて、誰かが代筆しただけかもしれないわ」
「…そんな事…」
「だってこんな。心の準備も出来ていないのに…それに可能性を信じたいの」
その後、頭を抱えて何度も謝る徐庶を○が抱きしめると、徐庶は力強く抱きよせた。
二人は一晩中抱き合って過ごした。
翌朝。
劉備のもとへ向かう二人。
○は徐庶の一歩後ろを歩く。
劉備の待つ部屋に通されると劉備はすぐに二人に気づき、柔らかく微笑んだ。
「どうした、徐庶。珍しく深刻な顔だな」
徐庶は一礼し、迷いなく口を開く。
「劉備殿。お願いがあり参りました」
徐庶は真っすぐに劉備を見る。
「俺は、もうここにいることが出来なくなりました」
徐庶は、包み隠さず話した。
母から届いた手紙のこと。
それが罠である可能性。
それでも、行かねばならぬ理由。
「もうここへは、戻れぬかもしれません」
最後のその言葉に、○の胸がきしむ。
劉備はしばらく黙って徐庶を見つめていた。
やがて深く頷く。
「親を想う心は、人として当然だ。そなたがそれを選ぶなら、止めはせぬ」
責める気配は、微塵もない。
「…ありがとうございます」
徐庶は、頭を下げた。
だが、すぐに顔を上げ、続ける。
「厚かましい事とは存じますが…お願いがあります。…○は、ここに残して頂きたいのです」
劉備の視線が○へ移る。
「もし罠であった場合、彼女まで同道すれば必ず人質にされます。あちらで彼女がどの様な扱いをされるのか分からない中、連れてはいけません…」
劉備はすぐに答えた。
「もちろんだ。そなたの大切な者を、危険に晒す理由はない」
そして、○へ向き直る。
「○殿。そなたは我が陣に必要だ。ここに残り、これまで通り務めてほしい」
その言葉は、命令ではなく約束だった。
「徐庶の帰る場所を、守ってやってくれ」
その一言に○は頭を下げた。
「ありがとうございます」
そう答えるしかなかった。
「そして、私の代わりに、軍を導ける人物をお教えします」
劉備の目が、僅かに見開かれる。
「名は諸葛亮。臥龍と呼ばれる男です。私など及びもつかぬ才を持っています」
噂には聞いており、劉備としても会ってみたいと思っていた人物の名前に驚きを隠せない。
「彼は人を避けて山奥に暮らしています。出てきてもらえるかは…劉備殿次第ではありますが」
「…居場所はどこだろうか?」
「○が知っています」
「…○殿が?」
不思議そうな顔をする劉備に、徐庶は続けた。
「実は…彼女は臥龍の弟子なのです。外の世界に触れさせるためにと、俺と出てきました。ただ偏屈なので、彼女の名前は出さない方がいいかと」
「分かった。必ず会いに行こう」
その言葉を聞き、徐庶は、ようやく安堵したように息を吐いた。
帳を出た後、二人はしばらく言葉を交わさなかった。
「良かった」
小さくそう言った徐庶に、○の中の何かが切れる。
「よくない…本当は断ってくれても良かった。劉備殿が「一緒にいなさい」と言ってくれたら私もついて行けたわ」
「○…」
徐庶は○を抱きよせる。
「君が生きていてくれるだけで、俺は幸せなんだ」
徐庶について行ってその先で殺されても構わない。
だけど劉備の器がそうさせなかった。
「…ねえ」
○は徐庶に身体を預けながら言う。
「最初に出会った時の事、覚えてる?」
「ああ…孔明が珍しく庵から出てきた、麓の祭だろう」
「そうそう。先生が急に祭に行くって言いだして、私を連れだした、あれ」
祭で引き合わせられたのが徐庶だった。
徐庶とは同門で、元々知り合いではあった。
でも○が、諸葛亮の弟子になる!と、水鏡先生の元を飛び出して、諸葛亮の押しかけ弟子を始めたことは知らなかった。
だから、こんな所で再会するとは…というのが、当時の徐庶の感想だ。
それから何度か諸葛亮の草庵で会い、打ち解け、愛し合うようになり、諸葛亮の勧めもあって婚約した。
「戦は嫌い…こんなものがなければ、元直とずっと一緒に居られたのに」
小さくそう言った○に、徐庶はなにも応えなかった。
○は今日も執務室で帳簿を整理していた。
外は穏やか。
兵の往来も鍛錬の掛け声も、いつもと変わらない。
扉の向こうで足音が止まる。
「徐庶殿に書簡です」
伝令の声。
徐庶が受け取る声がする。
○は筆を止める。
顔を上げないまま、耳だけで状況を追った。
封を切る音。
紙が広げられる、かすかな擦過音。
それから…長い沈黙。
普段なら、徐庶は書簡を○に持ってくる。
片づけが苦手な徐庶は、書簡の管理を○に頼むからだ。
だが、この時は違った。
「……」
息を呑む音が聞こえた気がして、○はそっと視線を上げる。
徐庶は立ったまま書簡を見つめている。
背筋は伸びているのに、肩だけがわずかに強張っていた。
「元直?」
声をかけると、彼ははっとしたように顔を上げる。
「…ああ」
返事はしたが、目が合わない。
「どうかした?」
徐庶は一度、書簡を折った。
「大したことじゃない」
「…そう?」
嘘だ、と○は思った。
だが、口には出さない。
視線が書簡に落ちる。
ほんの一瞬、文字の端が見えた。
―母
―今なら
なんだろう、と胸がざわつく。
「お母様…から?」
言ってから、しまったと思った。
徐庶の動きが止まって、否定も、肯定もない。
「ご、ごめんなさい。チラッと見えてしまって」
「○…これは、俺の問題だ。君を巻き込む話じゃない」
そう言った徐庶は「外の空気を吸ってくる」と外に出て行った。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
○は、胸元を押さえる。
徐庶の母親は、曹操の治める国に住んでいたはずだ。
病気があって動かせないが、親戚が周りに大勢住んでいて安心だから置いてきた、と聞いている。
そんな母からの手紙。
○はどうにも居心地が悪くなった。
******
夜更け。
○は徐庶の部屋にいた。
椅子に座って書物を読んでいる。
すると、寝台に座っていた徐庶が何かを決意したように○を呼ぶ。
そちらを見ると、徐庶の手にはあの書簡。
「…話して、くれるの?」
徐庶は小さく頷く。
あの書簡が届いてから三日。
心ここにあらずだった徐庶が、やっと口を開いてくれるらしい。
○は座っていた椅子を徐庶の前までもっていくと、向かい合って座った。
「これは、君の言った通り。母からの手紙だ。“持病が悪化していて、曹操が城で診てくれている。曹操の恩に報いるためにも帰ってきてほしい”と書いてあった」
「やっぱり…でも、確か元直のお母様は」
「ああ。字が書けない。だから曹操の罠の可能性もある」
はっきりとした口調だった。
「どうしてそう思うの?」
「実は、前から登用の話があったんだ。でも、俺は劉備殿の元で働きたかったから断ってきた。だけど先の戦で、策を見破ったのが俺だと知られたんだと思う。じゃなきゃこんな手紙がここに届くはずがない。君を守るために、誰にも言わずにここに来たんだから」
「そんな事が…」
「俺の弱点を見つけて揺さぶっているとしたら…母は人質だ」
徐庶は○の手を握る。
ぎゅっと音がしそうなほどに。
「でもお母様が心配だわ。行きましょう」
「君は…だめだ」
徐庶は、即座に首を振る。
「どうして…」
「分かっているだろう」
声は穏やかだったが、揺るぎがない。
「罠だった場合、君までも人質にされる」
「でも…罠じゃないかもしれないし」
「君も俺の弱点なんだ」
○は息を呑む。
声が震える。
「万が一、君が捕まったらと思うと……。曹操がどんな人物かもわからないのに、連れてなんていけない。君はここに残してもらえるよう、明日、劉備殿に頼みに行く。そこには一緒に来てほしい」
「嫌だ…、だって私、元直とずっと一緒にいるって…!」
「分かってくれ…君はここに残るべきなんだ」
「元直っ」
「だから君とは…お別れだ」
○は分かってしまう。
この人は、もう決めてしまったのだ。
説得では揺らがない。
とても強く握られる手。
「ひとつだけ、お願い…」
「…」
「元直の婚約者ではいさせて」
「…君はそれでいいのか?」
「だって。だってもしかしたら本当にお母様の具合が悪くて、誰かが代筆しただけかもしれないわ」
「…そんな事…」
「だってこんな。心の準備も出来ていないのに…それに可能性を信じたいの」
その後、頭を抱えて何度も謝る徐庶を○が抱きしめると、徐庶は力強く抱きよせた。
二人は一晩中抱き合って過ごした。
翌朝。
劉備のもとへ向かう二人。
○は徐庶の一歩後ろを歩く。
劉備の待つ部屋に通されると劉備はすぐに二人に気づき、柔らかく微笑んだ。
「どうした、徐庶。珍しく深刻な顔だな」
徐庶は一礼し、迷いなく口を開く。
「劉備殿。お願いがあり参りました」
徐庶は真っすぐに劉備を見る。
「俺は、もうここにいることが出来なくなりました」
徐庶は、包み隠さず話した。
母から届いた手紙のこと。
それが罠である可能性。
それでも、行かねばならぬ理由。
「もうここへは、戻れぬかもしれません」
最後のその言葉に、○の胸がきしむ。
劉備はしばらく黙って徐庶を見つめていた。
やがて深く頷く。
「親を想う心は、人として当然だ。そなたがそれを選ぶなら、止めはせぬ」
責める気配は、微塵もない。
「…ありがとうございます」
徐庶は、頭を下げた。
だが、すぐに顔を上げ、続ける。
「厚かましい事とは存じますが…お願いがあります。…○は、ここに残して頂きたいのです」
劉備の視線が○へ移る。
「もし罠であった場合、彼女まで同道すれば必ず人質にされます。あちらで彼女がどの様な扱いをされるのか分からない中、連れてはいけません…」
劉備はすぐに答えた。
「もちろんだ。そなたの大切な者を、危険に晒す理由はない」
そして、○へ向き直る。
「○殿。そなたは我が陣に必要だ。ここに残り、これまで通り務めてほしい」
その言葉は、命令ではなく約束だった。
「徐庶の帰る場所を、守ってやってくれ」
その一言に○は頭を下げた。
「ありがとうございます」
そう答えるしかなかった。
「そして、私の代わりに、軍を導ける人物をお教えします」
劉備の目が、僅かに見開かれる。
「名は諸葛亮。臥龍と呼ばれる男です。私など及びもつかぬ才を持っています」
噂には聞いており、劉備としても会ってみたいと思っていた人物の名前に驚きを隠せない。
「彼は人を避けて山奥に暮らしています。出てきてもらえるかは…劉備殿次第ではありますが」
「…居場所はどこだろうか?」
「○が知っています」
「…○殿が?」
不思議そうな顔をする劉備に、徐庶は続けた。
「実は…彼女は臥龍の弟子なのです。外の世界に触れさせるためにと、俺と出てきました。ただ偏屈なので、彼女の名前は出さない方がいいかと」
「分かった。必ず会いに行こう」
その言葉を聞き、徐庶は、ようやく安堵したように息を吐いた。
帳を出た後、二人はしばらく言葉を交わさなかった。
「良かった」
小さくそう言った徐庶に、○の中の何かが切れる。
「よくない…本当は断ってくれても良かった。劉備殿が「一緒にいなさい」と言ってくれたら私もついて行けたわ」
「○…」
徐庶は○を抱きよせる。
「君が生きていてくれるだけで、俺は幸せなんだ」
徐庶について行ってその先で殺されても構わない。
だけど劉備の器がそうさせなかった。
「…ねえ」
○は徐庶に身体を預けながら言う。
「最初に出会った時の事、覚えてる?」
「ああ…孔明が珍しく庵から出てきた、麓の祭だろう」
「そうそう。先生が急に祭に行くって言いだして、私を連れだした、あれ」
祭で引き合わせられたのが徐庶だった。
徐庶とは同門で、元々知り合いではあった。
でも○が、諸葛亮の弟子になる!と、水鏡先生の元を飛び出して、諸葛亮の押しかけ弟子を始めたことは知らなかった。
だから、こんな所で再会するとは…というのが、当時の徐庶の感想だ。
それから何度か諸葛亮の草庵で会い、打ち解け、愛し合うようになり、諸葛亮の勧めもあって婚約した。
「戦は嫌い…こんなものがなければ、元直とずっと一緒に居られたのに」
小さくそう言った○に、徐庶はなにも応えなかった。