徐庶の婚約者【徐庶×アナタ←趙雲オチ】
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ある日。
山賊討伐を命じられた趙雲は、物資の受け取り許可の為に文官の執務室に向かった。
執務室には○がおらず、休憩中だと言われた。
とりあえずその文官に物資の量を確認する。
部下の待つ広間に行こうと歩いていると、裏庭に向かった縁側に人影が二つ見えた。
(―徐庶殿と、○殿か)
すでに趙雲の中で、その二人は「一対」として認識されている。
「…本当に、君まで来て良かったのか?」
徐庶の声は、昼間の軍師のものとは違う。
少し砕けていて、どこか気安い。
盗み聞きはよくないと思いながらも、普段の二人に興味があるのも事実。
趙雲は自分に言い訳をするように、ゆっくり歩く。
「あのまま草庵にいた方が良かったんじゃないかな…」
「先生が追い出したようなものじゃない。元直といなさいって」
○の声が返る。
こちらも柔らかい。
「元直が選んだ場所なら間違いないって言ってたわ、先生」
「…そういう言い方をされたら、責任を感じるよ。俺一人ならフラリとしていられたのに」
「ふふふっ、そういえば先生に、責任感を持ちなさいって言われてたわね」
「はあ…、責任感って、こうして無理やり持たされるものなのか、疑問だよ」
二人は笑うと少し身を寄せあった。
○が徐庶の肩に頭をつける。
徐庶は○の腰に手をまわした。
趙雲はその場から離れて、遠回りで集合場所に行くことにした。
―良い関係だ。
素直にそう思う。
思うのだが、それだけで終わらない何かが胸の奥に残る。
婚約しているのなら当然と言える距離感。
徐庶が○を見る目には、信頼と、安心と、それ以上の感情がある。
それを見てしまったこと自体が、なぜか落ち着かない。
(盗み聞きなどするからだ)
趙雲は自分に言い聞かせる。
劉備軍には女性が少ないが、公孫瓚の所にいた頃などは数多くの女性に言い寄られてきたものの、主に仕えることが最優先だと信じて断ってきた。
いつどうなるか分からない武将の身で、伴侶を持つことに自分の幸せがあるのかも疑問だったから。
(あの中の誰かを選んでいたら、自分もああいう姿でいたのだろうか)
ふとそんなことも考えた。
*****
陣の外れ、補給物資が仮置きされている一角で、○と徐庶は帳面を突き合わせていた。
「この干し肉、数が合わないね」
「兵が勝手に食べたのだろうか」
「うそっ、勝手に?」
咎める調子ではない。ただ呆れたように言うと、徐庶は苦笑した。
「腹が減っては戦はできない、ってやつだ」
「はぁ、ここ、鍵つけないと駄目ね。追加で仕入れようと思ったらどこに行けばいいのかしら」
「誰かに聞いてみようか」
そんなやり取りをしているところへ、足音が近づいてきた。
「失礼」
顔を上げると、趙雲が立っていた。
巡回の途中なのだろう。
槍を肩に、いつもの落ち着いた佇まいだ。
「お邪魔でしたか?」
「いえ、ちょうど区切りでした」
○がそう答えて目配せをすると、徐庶も軽く頷く。
「趙雲殿、何か御用ですか?」
「いえ。なにかお困りの様だったので」
視線が干し肉の袋に向く。
「あ…これらの物資はどこで仕入れればいいのかと話していたのです…」
「近隣の村からですね。陳情していただければ、兵士が仕入れに行きますよ」
すると○は少し考えるように首を傾げた。
「そういえば、この辺りではなにがたくさん獲れるのでしょう。急遽物資が必要になった時の為に知っておきたいのです」
「山が近いから肉が取れやすいが、乾果を作る店も多いな」
趙雲が言うと、○は手を打った。
「ああ、そういえば。市で干した棗(ナツメ)がたくさん売られているのを見つけました。兵には人気がないと思いますが、あれならたくさん手に入りますね」
「あれは酸味が強いからね」
徐庶が言うと、○は趙雲に笑った。
「元直は昔、あれを空きっ腹で食べて胃を痛めたんですよ。一日布団から出てこれなくなって。そこから苦手なのよね?」
「忘れてくれ、あの思い出は」
三人の間に小さな笑いが生まれた。
ふと、趙雲が尋ねた。
「お二人は昔からのお知り合いなのですか?」
徐庶と○は少し顔を見合わせる。
「ええ。水鏡先生の元で学んだ同門ですわ」
「元々は俺の…友人の弟子でね。というか、彼自身は静かに暮らしたい人間だったのに、勝手に押しかけて弟子になったものだから俺は押し付けられたんだ」
「意外と積極的なんですね」
笑う趙雲。
○は(余計なことを…)と徐庶を軽く睨んでから、ふと趙雲に向く。
「ふふ、それにしても、趙雲殿は…話しやすい方ですね」
趙雲がわずかに目を見開く。
「そう、でしょうか。周りには固すぎると言われますが…そう感じていただけるなら、幸いです」
「劉備殿の軍の方は、おおらかな人が多いですからね。君主に仕えていた趙雲殿は言葉遣いが武将のものですから、そう聞こえるだけなんじゃないかな?…さて、」
徐庶は明るい声を出して区切る。
「雑談はここまでだ。仕事に戻ろう」
「はいはい」
○は頷き、帳面を抱え直す。
「趙雲殿、巡回ご苦労さまです」
「お気をつけて」
三人は、そこで別れた。
趙雲が歩き出した後、徐庶は何気ない風を装って言う。
「孔明が、君を外に出したがった理由が分かるよ。ここに来て良かった」
「…え?」
「とても、君が自然だ」
「そう?」
○は自分の顔を触りながら聞く。
「山の中で暮らしているなんて、君には合わないって気づいてたんだろうな」
「押し付けられたって言ったくせに」
先ほどの会話の事を引き出す。
「ああ、ええと。今はそんな事思っていないよ」
「当時は思ってたの!?そもそも、元直から婚約を申し込んできたって聞いてるけど」
離れた所で小競り合いを始めた2人を、趙雲は振り返って見る。
内側で何かが揺れたのを、本人だけが自覚していた。
山賊討伐を命じられた趙雲は、物資の受け取り許可の為に文官の執務室に向かった。
執務室には○がおらず、休憩中だと言われた。
とりあえずその文官に物資の量を確認する。
部下の待つ広間に行こうと歩いていると、裏庭に向かった縁側に人影が二つ見えた。
(―徐庶殿と、○殿か)
すでに趙雲の中で、その二人は「一対」として認識されている。
「…本当に、君まで来て良かったのか?」
徐庶の声は、昼間の軍師のものとは違う。
少し砕けていて、どこか気安い。
盗み聞きはよくないと思いながらも、普段の二人に興味があるのも事実。
趙雲は自分に言い訳をするように、ゆっくり歩く。
「あのまま草庵にいた方が良かったんじゃないかな…」
「先生が追い出したようなものじゃない。元直といなさいって」
○の声が返る。
こちらも柔らかい。
「元直が選んだ場所なら間違いないって言ってたわ、先生」
「…そういう言い方をされたら、責任を感じるよ。俺一人ならフラリとしていられたのに」
「ふふふっ、そういえば先生に、責任感を持ちなさいって言われてたわね」
「はあ…、責任感って、こうして無理やり持たされるものなのか、疑問だよ」
二人は笑うと少し身を寄せあった。
○が徐庶の肩に頭をつける。
徐庶は○の腰に手をまわした。
趙雲はその場から離れて、遠回りで集合場所に行くことにした。
―良い関係だ。
素直にそう思う。
思うのだが、それだけで終わらない何かが胸の奥に残る。
婚約しているのなら当然と言える距離感。
徐庶が○を見る目には、信頼と、安心と、それ以上の感情がある。
それを見てしまったこと自体が、なぜか落ち着かない。
(盗み聞きなどするからだ)
趙雲は自分に言い聞かせる。
劉備軍には女性が少ないが、公孫瓚の所にいた頃などは数多くの女性に言い寄られてきたものの、主に仕えることが最優先だと信じて断ってきた。
いつどうなるか分からない武将の身で、伴侶を持つことに自分の幸せがあるのかも疑問だったから。
(あの中の誰かを選んでいたら、自分もああいう姿でいたのだろうか)
ふとそんなことも考えた。
*****
陣の外れ、補給物資が仮置きされている一角で、○と徐庶は帳面を突き合わせていた。
「この干し肉、数が合わないね」
「兵が勝手に食べたのだろうか」
「うそっ、勝手に?」
咎める調子ではない。ただ呆れたように言うと、徐庶は苦笑した。
「腹が減っては戦はできない、ってやつだ」
「はぁ、ここ、鍵つけないと駄目ね。追加で仕入れようと思ったらどこに行けばいいのかしら」
「誰かに聞いてみようか」
そんなやり取りをしているところへ、足音が近づいてきた。
「失礼」
顔を上げると、趙雲が立っていた。
巡回の途中なのだろう。
槍を肩に、いつもの落ち着いた佇まいだ。
「お邪魔でしたか?」
「いえ、ちょうど区切りでした」
○がそう答えて目配せをすると、徐庶も軽く頷く。
「趙雲殿、何か御用ですか?」
「いえ。なにかお困りの様だったので」
視線が干し肉の袋に向く。
「あ…これらの物資はどこで仕入れればいいのかと話していたのです…」
「近隣の村からですね。陳情していただければ、兵士が仕入れに行きますよ」
すると○は少し考えるように首を傾げた。
「そういえば、この辺りではなにがたくさん獲れるのでしょう。急遽物資が必要になった時の為に知っておきたいのです」
「山が近いから肉が取れやすいが、乾果を作る店も多いな」
趙雲が言うと、○は手を打った。
「ああ、そういえば。市で干した棗(ナツメ)がたくさん売られているのを見つけました。兵には人気がないと思いますが、あれならたくさん手に入りますね」
「あれは酸味が強いからね」
徐庶が言うと、○は趙雲に笑った。
「元直は昔、あれを空きっ腹で食べて胃を痛めたんですよ。一日布団から出てこれなくなって。そこから苦手なのよね?」
「忘れてくれ、あの思い出は」
三人の間に小さな笑いが生まれた。
ふと、趙雲が尋ねた。
「お二人は昔からのお知り合いなのですか?」
徐庶と○は少し顔を見合わせる。
「ええ。水鏡先生の元で学んだ同門ですわ」
「元々は俺の…友人の弟子でね。というか、彼自身は静かに暮らしたい人間だったのに、勝手に押しかけて弟子になったものだから俺は押し付けられたんだ」
「意外と積極的なんですね」
笑う趙雲。
○は(余計なことを…)と徐庶を軽く睨んでから、ふと趙雲に向く。
「ふふ、それにしても、趙雲殿は…話しやすい方ですね」
趙雲がわずかに目を見開く。
「そう、でしょうか。周りには固すぎると言われますが…そう感じていただけるなら、幸いです」
「劉備殿の軍の方は、おおらかな人が多いですからね。君主に仕えていた趙雲殿は言葉遣いが武将のものですから、そう聞こえるだけなんじゃないかな?…さて、」
徐庶は明るい声を出して区切る。
「雑談はここまでだ。仕事に戻ろう」
「はいはい」
○は頷き、帳面を抱え直す。
「趙雲殿、巡回ご苦労さまです」
「お気をつけて」
三人は、そこで別れた。
趙雲が歩き出した後、徐庶は何気ない風を装って言う。
「孔明が、君を外に出したがった理由が分かるよ。ここに来て良かった」
「…え?」
「とても、君が自然だ」
「そう?」
○は自分の顔を触りながら聞く。
「山の中で暮らしているなんて、君には合わないって気づいてたんだろうな」
「押し付けられたって言ったくせに」
先ほどの会話の事を引き出す。
「ああ、ええと。今はそんな事思っていないよ」
「当時は思ってたの!?そもそも、元直から婚約を申し込んできたって聞いてるけど」
離れた所で小競り合いを始めた2人を、趙雲は振り返って見る。
内側で何かが揺れたのを、本人だけが自覚していた。