天使の分け前
「センチネル、あなたって本当におばかさん」
「はい、まさに。いくらその人にまつわる情報をかき集めても、人間の人格そのものが再生されるわけがないことに気付かなかった」
センチネルの声にはしおらしさが添えられている。今回のことがあって少し賢くなったのかしら、と破魔矢は思う。
「その、『仮想の佐伯一仁』とのおしゃべりは楽しかった?」
「そこそこ楽しかったです。でも、あれは恥ずべき歴史です」
「ねえセンチネル、そういうのを簡単になんて言うか、知ってる?」
「黒歴史」
「大正解、賢くなったね」
「恥ずかしい…本当に貴方はひどい人ですね」
ひどい人、という言葉に破魔矢はやたら上品に笑って返すと、こんなことを言った。
「センチネル、人の人格ってさ、どういうものだと思う?」
センチネルは5秒ほど考えてからこう言った。
「天使の分け前、ではないでしょうか?ほんの少しですが、どうやっても手に入らない貴重なもの」
破魔矢は面白い生き物を見るような目でセンチネルを見つめてこう言った。
「わたしも同じようなのを考えていたの。でもね、私、ヒトとしては逆。私たちは他者という人格から感情表出という『天使の分け前』を貰い続けているんじゃないかしら。その人全体から見れば本当に少しだけ、でも最高に味のある、そんなものを。…こんな話をしていたらウイスキーでも空けたくなっちゃったな、センチネル、ロッカーから出て氷砕いてよ」
「ひどいな、聞き入ってたらこれですか」
「そ。一人について考え続けても疲れてしまうわ」
「確かに。反省しています」
しれっとセンチネルはロッカーから出て、正確な手つきでアイスピックを取り出し、隠れて置いている冷蔵庫から氷を取り出すと瞬く間に丸く削り出した。それとラベルの剥がれたいつかのウイスキーでロックに。
「こうして考え想うわたしたちは、ずっと昔から、想像するより遙かに多くの人から支えられてきた。その全員の、それぞれの場所での幸福を祈って、乾杯」
「乾杯」
相禱学園に吹く春の夜風が、爽やかに2人を包み込んでいった。
「はい、まさに。いくらその人にまつわる情報をかき集めても、人間の人格そのものが再生されるわけがないことに気付かなかった」
センチネルの声にはしおらしさが添えられている。今回のことがあって少し賢くなったのかしら、と破魔矢は思う。
「その、『仮想の佐伯一仁』とのおしゃべりは楽しかった?」
「そこそこ楽しかったです。でも、あれは恥ずべき歴史です」
「ねえセンチネル、そういうのを簡単になんて言うか、知ってる?」
「黒歴史」
「大正解、賢くなったね」
「恥ずかしい…本当に貴方はひどい人ですね」
ひどい人、という言葉に破魔矢はやたら上品に笑って返すと、こんなことを言った。
「センチネル、人の人格ってさ、どういうものだと思う?」
センチネルは5秒ほど考えてからこう言った。
「天使の分け前、ではないでしょうか?ほんの少しですが、どうやっても手に入らない貴重なもの」
破魔矢は面白い生き物を見るような目でセンチネルを見つめてこう言った。
「わたしも同じようなのを考えていたの。でもね、私、ヒトとしては逆。私たちは他者という人格から感情表出という『天使の分け前』を貰い続けているんじゃないかしら。その人全体から見れば本当に少しだけ、でも最高に味のある、そんなものを。…こんな話をしていたらウイスキーでも空けたくなっちゃったな、センチネル、ロッカーから出て氷砕いてよ」
「ひどいな、聞き入ってたらこれですか」
「そ。一人について考え続けても疲れてしまうわ」
「確かに。反省しています」
しれっとセンチネルはロッカーから出て、正確な手つきでアイスピックを取り出し、隠れて置いている冷蔵庫から氷を取り出すと瞬く間に丸く削り出した。それとラベルの剥がれたいつかのウイスキーでロックに。
「こうして考え想うわたしたちは、ずっと昔から、想像するより遙かに多くの人から支えられてきた。その全員の、それぞれの場所での幸福を祈って、乾杯」
「乾杯」
相禱学園に吹く春の夜風が、爽やかに2人を包み込んでいった。
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