若者との出会い
その日は雨だった。
ぐちゃぐちゃに濡れた紙袋を抱えながら帰路につく彼─ファルフ・クルールは、自分の店の前で丸く縮こまりながらしゃがんでいる若者を見つけた。若者はこの重く暗い曇り空の中でも翡翠色の短髪をきらきらと輝かせ、紺と金の目を行く宛のない絶望に濡らして、ただじっと雨が上がるのを待っていた。お人好しなファルフはそんな若者の様子を見て、たまらず声をかけた。
「ねぇ、君。大丈夫?道に迷ったのかい?」
「………迷って、ないです。」
若者はぶっきらぼうに、力無く答えた。
迷子ではないなら家出か、と思いながら、それでも雨の中傘も差さずにじっとしているのは危険だ、家に帰ったほうがいいと伝えた。
「ないんです。もう、ボクの家はないんです。」
「家が無い?じゃあ、今日泊まる家はあるのかい?」
「だからそれを今探しているんですよ。貴方もそんな事を聞くのならボクを泊める気なんてないんでしょう?時間の無駄なので行きますね。」
心配していたとはいえ、若者にとって言われたくないことを言ってしまったようだった。
「待ってくれ。僕はそんなに心無い人間じゃないよ。ごめんね、どうしても心配で気になって。泊まる場所やご飯を用意するから、詳しく話を聞かせてくれないかな。」
「…面白い話じゃありませんよ。」
吐き捨てるように言いながら、若者とファルフは店に入った。
ファルフは若者をお風呂に入るよう促し、買ってきた食材で温かいクリームシチューとグリーンサラダ、鮭のカルパッチョを作った。料理と食器ををテーブルに並べて、飲み物にコーヒーの準備をしたところで、若者がダイニングへ戻ってきた。
「わあ…」
「外は寒かったでしょう。沢山作ったから、お腹いっぱい食べて温まって。」
外ではぶっきらぼうな口を利いた若者も、ファルフの毒気の無い顔と美味しそうな料理を見て、大人しく席に着き食事を始めた。
若者は恐る恐る料理を口に運ぶ。
「………美味しい。」
一口、また一口シチューを頬張るたびに、ファルフの優しさが味覚から身体全体に広がって若者の心の氷を溶かしていく。ふかふかのパンをつまむ手が止まらない。グリーンサラダも、ただ野菜をちぎって和えてあるだけのはずなのに、オリジナルのドレッシングを使っているのか格別な味わいだった。
─なんて優しい料理なんだろう。
「大丈夫?涙が出ているけれど…もしかして鮭が塩辛かったかな?サラダに入れてたものが不味かった?」
「えっ、…あっ。」
若者は気づかないうちに涙を溢しながら料理を食べていた。
「ごめんなさい。美味しいですよ、とても。本当に……あの、ごめんなさい、やだな…僕そんな、泣くつもりなんて。」
「若いうちに家を失ったんだ、無理もないよ。沢山泣いて構わないさ、話をするのはその後でもできるしね。」
勿論デザートもつけるよ、とファルフは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。あの、ボクは…ボクはセナ。セナ・ターコイズと言います。」
「ファルフ・クルールだよ。ほら、シチューのおかわりをよそってあげよう。」
ぐちゃぐちゃに濡れた紙袋を抱えながら帰路につく彼─ファルフ・クルールは、自分の店の前で丸く縮こまりながらしゃがんでいる若者を見つけた。若者はこの重く暗い曇り空の中でも翡翠色の短髪をきらきらと輝かせ、紺と金の目を行く宛のない絶望に濡らして、ただじっと雨が上がるのを待っていた。お人好しなファルフはそんな若者の様子を見て、たまらず声をかけた。
「ねぇ、君。大丈夫?道に迷ったのかい?」
「………迷って、ないです。」
若者はぶっきらぼうに、力無く答えた。
迷子ではないなら家出か、と思いながら、それでも雨の中傘も差さずにじっとしているのは危険だ、家に帰ったほうがいいと伝えた。
「ないんです。もう、ボクの家はないんです。」
「家が無い?じゃあ、今日泊まる家はあるのかい?」
「だからそれを今探しているんですよ。貴方もそんな事を聞くのならボクを泊める気なんてないんでしょう?時間の無駄なので行きますね。」
心配していたとはいえ、若者にとって言われたくないことを言ってしまったようだった。
「待ってくれ。僕はそんなに心無い人間じゃないよ。ごめんね、どうしても心配で気になって。泊まる場所やご飯を用意するから、詳しく話を聞かせてくれないかな。」
「…面白い話じゃありませんよ。」
吐き捨てるように言いながら、若者とファルフは店に入った。
ファルフは若者をお風呂に入るよう促し、買ってきた食材で温かいクリームシチューとグリーンサラダ、鮭のカルパッチョを作った。料理と食器ををテーブルに並べて、飲み物にコーヒーの準備をしたところで、若者がダイニングへ戻ってきた。
「わあ…」
「外は寒かったでしょう。沢山作ったから、お腹いっぱい食べて温まって。」
外ではぶっきらぼうな口を利いた若者も、ファルフの毒気の無い顔と美味しそうな料理を見て、大人しく席に着き食事を始めた。
若者は恐る恐る料理を口に運ぶ。
「………美味しい。」
一口、また一口シチューを頬張るたびに、ファルフの優しさが味覚から身体全体に広がって若者の心の氷を溶かしていく。ふかふかのパンをつまむ手が止まらない。グリーンサラダも、ただ野菜をちぎって和えてあるだけのはずなのに、オリジナルのドレッシングを使っているのか格別な味わいだった。
─なんて優しい料理なんだろう。
「大丈夫?涙が出ているけれど…もしかして鮭が塩辛かったかな?サラダに入れてたものが不味かった?」
「えっ、…あっ。」
若者は気づかないうちに涙を溢しながら料理を食べていた。
「ごめんなさい。美味しいですよ、とても。本当に……あの、ごめんなさい、やだな…僕そんな、泣くつもりなんて。」
「若いうちに家を失ったんだ、無理もないよ。沢山泣いて構わないさ、話をするのはその後でもできるしね。」
勿論デザートもつけるよ、とファルフは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。あの、ボクは…ボクはセナ。セナ・ターコイズと言います。」
「ファルフ・クルールだよ。ほら、シチューのおかわりをよそってあげよう。」
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