それからすぐに電話は切れた。 “楽しみにしてます、デート。”と切り際に言った彼女の言葉が頭の中でこだまして、俺は勢いよくベッドにダイブすると枕を抱え込んだ。
え、どこ行こう。何しよう。どうしたら彼女が喜んでくれるかな。浮き足立って仕方ない心をそのままに、今週唯一のオフを彼女にメッセージで伝えた。…まあ明日なんだけど。
彼女は仕事終わりの18時以降なら、とすぐに返事が来た。何時からでも構わない。彼女と会える、話せる。それだけでいいんだ。
はぁっと幸せが溢れたため息を着くと、俺は眠りについた。

いつもより早く目が覚めた。…なんなら早すぎた。ボヤボヤした目でスマホを開けばまだ朝方4時。こんな時はゲームだ。ささっとシャワーを済ませると、髪を整えて自慢のPCを起動させた。
なんだかんだ生配信をしてのゲームはあっという間に3時間という時を過ごしていた。カーテン越しに差し込む太陽の光に気づいて配信を終わらすと、思いっきり背伸びをした。ゲーミングチェアをくるりと回せば、昨日買った雑誌が目に入った。…よく考えればせっかくのデートだと言うのに行先全く考えてないじゃん。急に焦りだして、藁にもすがる思いで雑誌を読み始めた。
夢の国、水族館、遊園地、映画館…どれも人の目に付いてしまいそうなものばかり。彼女と行きたい所ばかりなのに…と思わずため息がでた。死んだ目で雑誌をペラペラとめくり続けていると、ドライブデートの文字が目に止まった。…これなら出来るかも。
車の中でどんなことを話そうか、そんな妄想をしていればあっという間に16時半。そろそろ準備をしようと、クローゼットを開けた。誰かに会うために服を選ぶ時間がこんなに楽しいものだったなんて。何度も鏡の前で服を合わせて、きっと彼女はこういうのが好きかも。なんて考えながら選んだ。仕上げにお気に入りの香水を纏わせて『よし』なんて独り言。
彼女の仕事が終わる15分前に、こっそりとカフェへと向かった。
「いらっしゃ…いませ」
カフェの自動ドアをくぐれば、びっくりした顔の彼女がレジ前に立っていた。相変わらず綺麗にまとめられたポニーテールがよく似合ってる。
『アイスコーヒーを1つください』
何事もない顔していつもの注文をしてカウンターに座ると、彼女は目の前でコーヒーを作り出した。
「えと…あともう少しで終わるので」
『うん、知ってる。早く会いたくて』
彼女は目を真ん丸にした後、「じゃあ待っててくださいね」と少し微笑んだ。…いつまででも待つよ！もう！