担当の推し
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そこから脅威の1時間半巻をして解散したのは夜10時。まだ小雨が降る中、俺はダメ元でカフェへと向かった。湿気で肌はペタつくし、せっかく綺麗にセットされた髪も毛先がうねり出している。これで彼女がいなかったらテイクアウトでもして帰ろう。そう思いながら自動ドアを開けた。
店内は閑散としていて、カウンター席に1人いるだけ。レジには店長が立っていて、あぁもう帰っちゃったかな。なんて方を落とした。とぼとぼとレジ前まで歩いて、いつものメニューを見る。
「こんばんは」
そんな声がしてハッは顔を上げて隣のカウンター席を見る。
…○○ちゃん。
彼女は仕事終わりなのか、朝と同じ服装で結んでいたであろう髪にはヘアゴムの跡が少し見えた。
『こんばんは』
会えたことが嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうだ。そんな気持ちを必死に抑えて大人しく挨拶をしてみる。いつものアイスコーヒーを注文すると、彼女の隣に座ってみた。
カウンターに座りこちらを見る彼女は、薄暗い店内で流れるゆったりとしたBGMと相まってか、なんだか色っぽく見えて心臓が一気にキュッとなった。
『仕事終わったの?』
そう聞くと彼女は頷く。少し眠いのか、いつもより伏し目がちで、目がとろけてしまうような形をしている。
「今日のお礼がちゃんと言いたくて、待ってました」
『いやいや、別に大したことじゃ…』
律儀な子なんだな。ふふっと笑いながらストローに口をつけていると、彼女ははぁっと大きく息を吐き出してカウンターにうなだれた。何その行動、可愛いんですけど。
「…もう来てくれないんだと思ってました」
小さくつぶやく彼女と同じようにカウンターにうなだれて、顔を覗いてみると目をそらされてしまった。
確かにまた行くと言って2週間。それでいて俺のあの突然の告白だもん。そう思われても仕方ないのかもしれない。
『仕事が忙しくてね』
顔の前で手を合わせてごめんね?と首を傾げてみる。そんな俺に彼女はふわっと笑顔を見せた。
「…それは私があとで沢山推しが見られるってことですね」
ふふ、と笑う彼女に俺も笑って、今この瞬間誰よりも幸せだなと思った。
「じゃあ、私帰ります。今朝はありがとうございました」
スマホの時計を見たあと、彼女はスっと椅子から降りて隣にあったバッグを肩にかけた。時間は夜11時になろうとしている。
『暗いから送っていくよ』
首が取れるんじゃないかってくらいに断る彼女を、女の子一人がこんな夜に危ない、なんて最もらしい理由を並べてやっとの事でうん。と頷いてもらった。
少し強引だったけど、プロのファンの○○ちゃんと一緒にいるためにはここまでしないとダメなんだと思った。
「…雨、まだ降ってますね」
外はまだ小雨が降っていて、アスファルトの濡れた匂いが鼻にツンっと刺さった。空を見上げている彼女の横顔を見て胸がキュッとする。俺は手に持っていた傘をさして彼女に差し出した。
『使って?』
「え、そしたらりょ、…山田さんが濡れちゃうじゃないですか」
今きっと “涼介くん”って呼ぼうとしたんだろうな。いつもSNSでは俺のことを涼介くんか神呼びだから。下の名前じゃないのは残念だけど、初めて呼んでくれたことに心がほわほわした。
『…じゃあ一緒に入って』
そう言うと彼女はギョッと目を見開いて、すぐに両手で顔を隠した。
『え、なに?』
「や!それは!ダメです!推しと同じ傘に入るなんてそんなことできません」
とんでもない早口で言う彼女がたまらなく面白くて、愛しくて。
思わず笑ってしまった俺を、彼女は指の間からチラリと見た。
『いいから入って』
そんな彼女の手を引いて傘に入れると、いつもより歩幅を小さくして歩き始めた。隣で歩く彼女からはなんだかいい匂いがしてドキドキする。夜の街は人通りも車通りも少なく静か。ただ俺たちの歩く音と傘にあたる雨の音が聞こえた。
傘の取っ手を持つ手がもどかしく感じるのは初めてだ。傘さえなければきっと俺は彼女の手を握っていたと思うのに。
『いつから俺のこと好きなの?』
突拍子もなくそんな質問をすれば、彼女の肩がピクりと反応した。
「えっと…デビューの時から」
『そんなに?』
「ずっと大好きで、これからも大好きです」
彼女がアイドル山田涼介に対する思いをあまりにもストレートに言うもんだから、勝手に今ここにいる俺に言ってるんじゃないかってドキドキする。…いや、まあ、アイドル山田涼介も俺なんだけどさ。
そんなことを思いながらしばらく歩いて、彼女はピタリと足を止めた。
「あ、家ここなんで」
そう言って目の前のマンションを指さす彼女。…あぁ、せっかくの相合傘もこれでおしまいか。なんて少ししょんぼりする。まだもう少し話していたかったのに。
『そか。じゃあ…』
次はいつ会えるんだろう。隣に立つ彼女を見ながらそう思っていると、彼女はスっと息を吐き出した。
「あの…良かったらお茶でも、どうですか?」
『……え?』
思いがけない彼女の言葉に頭がフリーズする。それって、家に上がっていい、ってこと?
「あ、えと…送ってくれたお礼に…。迷惑ならごめんなさい」
『迷惑じゃない!』
焦る彼女に咄嗟にそういった俺もだんだん焦ってくる。
え、…いいの?俺、彼女の家行っていいの?さっきまで一緒の傘に入って歩けたのに、まだ一緒にいていいの?
ぐるぐると脳みそがフル回転し出す。ふと彼女を見てみれば、顔を真っ赤にしていて。そんな彼女を見て俺も顔が熱くなった。
店内は閑散としていて、カウンター席に1人いるだけ。レジには店長が立っていて、あぁもう帰っちゃったかな。なんて方を落とした。とぼとぼとレジ前まで歩いて、いつものメニューを見る。
「こんばんは」
そんな声がしてハッは顔を上げて隣のカウンター席を見る。
…○○ちゃん。
彼女は仕事終わりなのか、朝と同じ服装で結んでいたであろう髪にはヘアゴムの跡が少し見えた。
『こんばんは』
会えたことが嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうだ。そんな気持ちを必死に抑えて大人しく挨拶をしてみる。いつものアイスコーヒーを注文すると、彼女の隣に座ってみた。
カウンターに座りこちらを見る彼女は、薄暗い店内で流れるゆったりとしたBGMと相まってか、なんだか色っぽく見えて心臓が一気にキュッとなった。
『仕事終わったの?』
そう聞くと彼女は頷く。少し眠いのか、いつもより伏し目がちで、目がとろけてしまうような形をしている。
「今日のお礼がちゃんと言いたくて、待ってました」
『いやいや、別に大したことじゃ…』
律儀な子なんだな。ふふっと笑いながらストローに口をつけていると、彼女ははぁっと大きく息を吐き出してカウンターにうなだれた。何その行動、可愛いんですけど。
「…もう来てくれないんだと思ってました」
小さくつぶやく彼女と同じようにカウンターにうなだれて、顔を覗いてみると目をそらされてしまった。
確かにまた行くと言って2週間。それでいて俺のあの突然の告白だもん。そう思われても仕方ないのかもしれない。
『仕事が忙しくてね』
顔の前で手を合わせてごめんね?と首を傾げてみる。そんな俺に彼女はふわっと笑顔を見せた。
「…それは私があとで沢山推しが見られるってことですね」
ふふ、と笑う彼女に俺も笑って、今この瞬間誰よりも幸せだなと思った。
「じゃあ、私帰ります。今朝はありがとうございました」
スマホの時計を見たあと、彼女はスっと椅子から降りて隣にあったバッグを肩にかけた。時間は夜11時になろうとしている。
『暗いから送っていくよ』
首が取れるんじゃないかってくらいに断る彼女を、女の子一人がこんな夜に危ない、なんて最もらしい理由を並べてやっとの事でうん。と頷いてもらった。
少し強引だったけど、プロのファンの○○ちゃんと一緒にいるためにはここまでしないとダメなんだと思った。
「…雨、まだ降ってますね」
外はまだ小雨が降っていて、アスファルトの濡れた匂いが鼻にツンっと刺さった。空を見上げている彼女の横顔を見て胸がキュッとする。俺は手に持っていた傘をさして彼女に差し出した。
『使って?』
「え、そしたらりょ、…山田さんが濡れちゃうじゃないですか」
今きっと “涼介くん”って呼ぼうとしたんだろうな。いつもSNSでは俺のことを涼介くんか神呼びだから。下の名前じゃないのは残念だけど、初めて呼んでくれたことに心がほわほわした。
『…じゃあ一緒に入って』
そう言うと彼女はギョッと目を見開いて、すぐに両手で顔を隠した。
『え、なに?』
「や!それは!ダメです!推しと同じ傘に入るなんてそんなことできません」
とんでもない早口で言う彼女がたまらなく面白くて、愛しくて。
思わず笑ってしまった俺を、彼女は指の間からチラリと見た。
『いいから入って』
そんな彼女の手を引いて傘に入れると、いつもより歩幅を小さくして歩き始めた。隣で歩く彼女からはなんだかいい匂いがしてドキドキする。夜の街は人通りも車通りも少なく静か。ただ俺たちの歩く音と傘にあたる雨の音が聞こえた。
傘の取っ手を持つ手がもどかしく感じるのは初めてだ。傘さえなければきっと俺は彼女の手を握っていたと思うのに。
『いつから俺のこと好きなの?』
突拍子もなくそんな質問をすれば、彼女の肩がピクりと反応した。
「えっと…デビューの時から」
『そんなに?』
「ずっと大好きで、これからも大好きです」
彼女がアイドル山田涼介に対する思いをあまりにもストレートに言うもんだから、勝手に今ここにいる俺に言ってるんじゃないかってドキドキする。…いや、まあ、アイドル山田涼介も俺なんだけどさ。
そんなことを思いながらしばらく歩いて、彼女はピタリと足を止めた。
「あ、家ここなんで」
そう言って目の前のマンションを指さす彼女。…あぁ、せっかくの相合傘もこれでおしまいか。なんて少ししょんぼりする。まだもう少し話していたかったのに。
『そか。じゃあ…』
次はいつ会えるんだろう。隣に立つ彼女を見ながらそう思っていると、彼女はスっと息を吐き出した。
「あの…良かったらお茶でも、どうですか?」
『……え?』
思いがけない彼女の言葉に頭がフリーズする。それって、家に上がっていい、ってこと?
「あ、えと…送ってくれたお礼に…。迷惑ならごめんなさい」
『迷惑じゃない!』
焦る彼女に咄嗟にそういった俺もだんだん焦ってくる。
え、…いいの?俺、彼女の家行っていいの?さっきまで一緒の傘に入って歩けたのに、まだ一緒にいていいの?
ぐるぐると脳みそがフル回転し出す。ふと彼女を見てみれば、顔を真っ赤にしていて。そんな彼女を見て俺も顔が熱くなった。